何が真実か?
口を大きく開き、息を思いっきり吸って吐く
そんな当たり前のことが当たり前に出来るのが今はとても嬉しかった。十分な量の酸素が隅々まで供給された身体は今にも溢れかえりそうな[魔力]を創り出し、身体の内側を熱しながら荒ぶり始めていた。
「どうだ? 剣太郎? 今すぐにでも戦えそうか? 」
「もちろん。そのための準備はもうしてる」
爺ちゃんのおかげで全てが元通りになるまで。俺は息を押し殺し――というか言葉を発する口そのものが無かったので黙ったまま、爺ちゃんと俺の姿をした何かの戦いを観察していた。
そして分かったのは俺の姿をしていたそのモンスターについては――『何も分からない』ということだけ。
どうやって俺の姿をしてるのか、どうやって俺の戦い方をそのままトレース出来ているのか、どんな手段で俺そのものを乗っ取ることが出来たのか……【スキル】や『技』の名から推測できる範囲から外れてしまうと見当すらつかなかった。
だから準備をしていたのは俺の全力の一撃をどうやって直撃させるのか。
その方法を考え続けて、脳のリソースを自分自身の手札を把握に裂いて、思考を煮詰めさせて――今に至る。
「爺ちゃん……今、大丈夫? 」
「なんだ? 」
「もう一度、アイツらに俺の全力をぶつけたいんだ」
「なるほどな……今度は乗っ取られない算段は付いてるのか? 」
「正直言ってわからない……。でも、これなら……爺ちゃんと一緒ならやれるかも……? 」
「そうか……その言葉、信じるぞ」
「やるしかない。ここからは……俺達2人で……! 」
……ん?
「タイミングはそっちに合わせる。合図はいらない。言われなくても分かる」
「マジか……頼もしいな」
……あれ?
「そんなことよりも残りの[魔力]は大丈夫なのか? 連携よりも、そっちの方が心配だ」
「そっちの心配しなくていいよ。爺ちゃんと違ってステータスにも経験値たくさん入れてるから」
……なんか……おかしくないか……?
「そういえば、そのバット。今も使ってくれているんだな? 」
「当たり前じゃん。こんな強力な武器使わない手は無いからね」
……確実に……何かがおかしい。
そのはずなのに、もどかしいほどに気付けない……。
「おいおい……もう少し、そんな世界で一本だけの素敵なプレゼントをした本人にも感謝の気持ちがあってもいいんじゃないか? 」
「それは無理だな。“そっちの事情”を一から十まで聞くまでは爺ちゃんに礼を言うのは保留だ」
……おかしいのは分かっているのに……しゃべる口が止まらない。
「でもこれだけは先に爺ちゃんに聞きたいなぁ。どうやってこんなのを用意できたのか」
「ああ……それはな……――」
止められない。
止めたくない。
止めようが無い。
止めるという発想が無い。
止める……と、める……。
「『止める』ってなんだ? 」
「剣太郎? 」
「ん? 何? 」
「いや急にどうしたんだ? 」
「何のこと? 」
「えぇ? 」
「は? 」
「いや……すまん。……なんでもない」
「……そういえばさ……奴等はどこいった? 」
「奴等って……なんのことだ? 」
「おいおい頼むぜー、爺ちゃん。流石にそれは無いだろ……奴等って言うのは……――」
「言うのは? 」
「言うのは……――――」
――――そうだ。
奴等は俺と同じ。
俺と同じ身体。
俺と同じ顔。
俺と同じ【スキル】。
俺と同じ【魔法】。
俺と同じステータス。
そして俺と同じ――……金属……バット……。
「なんで……もう一本……あるんだ……? 」
「おーい? さっきからどうした? 」
「なんで俺達は……こんな風に呑気に会話ができてるんだ? 」
「こっちの声が聞こえてないのか? おーい? 」
「なんで……俺たちは……――――」
「剣太郎? お前……剣太郎……だよな? 」
「――――今……―――二人だけなんだ? 」
胸の中心から沸き上がった――
言いようが無い”気持ち悪さ”を――
膝から崩れ落ちてしまうような”絶望”を――
自分自身をぶん殴りたくなるような原因不明の”怒り”を――
全て覆い尽くすような冷気が”心臓”を凍えさせた、その瞬間。
「『RE:START』――『解除』」
――揺るぎなき『真実』は今――明らかになろうとしていた。




