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祖父の頼み

 こんな時でも思い出す。


 こんな時だって目に浮かぶ。


 ホルダーになった爺ちゃんの【鑑定】結果を見た、その直後に交わした、ほんの短いやりとりを。



『剣太郎の考えてることは分かるよ。本当にそのステータス(・・・・・)で大丈夫なのかって言いたいんだろ? 』


『……』


『爺ちゃんに向かって気を使う必要は全くない。正直に思ったことを言ってくれ』


『……うん。ちょっとね。いや……かなり心配だよ。爺ちゃん』


『まあ見ての通り、俺の【能力】はなかなかに扱いづらいシロモノでな。使い方を間違えると梨沙と剣太郎の役に立つどころか、二人の足を引っ張ってしまいかねない。先に言っておくが使い時はかなり注意が必要だ』


『……俺が分かってるのは【鑑定】スキルで把握できる範囲だけ。使用者である爺ちゃん程にはその【スキル】を理解出来てはないと思うよ? 』


『そうか……なら一つだけ孫に……図々しいお願いをしてもいいか? 』


『なに? 』


『この【スキル】を使うタイミングは全部、爺ちゃんに任せてほしいんだ』


『……』


『隠しごとばっかりの俺が人に”信じてくれ”なんて言うのは間違ってるよな? でも――』


『――分かった。任せた』


『――――』


『記憶を封じたり、嘘をついたり、催眠をかけてたり、妙なこと教えこんでたり、爺ちゃんは昔、俺に色んなことをしてたみたいだけどさ……』


『……』


『それでも俺は信じたいんだよ。今でも大好きな、爺ちゃんのこと』


『……――!! 』


『だから……よろしく。まあ、くれぐれも……無理しない程度に……ね』


『そんなに心配そうな顔をするな! 大丈夫! いざとなった時は、爺ちゃんに任せとけ! 』



 ああ。


 心が空っぽになった今でも俺は持っている。


 さっき見た、太陽のように朗らかな笑みが俺に抱かせた、安心感と強い郷愁(・・)を。


 子供の頃に憧れたヒーローたちの背中――その雄姿を。






 戦っていた者達の”意識の間隙”をつくように、するりと現れた男のことを『少年の姿をした――ナニカ』は当初、まともに認識することが出来なかった。


 あまりにも存在感が微かだったから。殺意が微塵も感じられなかったから。闘志が伝わってこなかったから。『魔の王』に戦い抗う者としては老い過ぎていたから。視界に入っても気にも止まらないほど小さな[魔力]を纏っていたから。


 ゆえに『ナニカ』は意識を男へと向けなかった。老いた人間一人への警戒をわざわざしようとはしなかった。眼前に現れ自分に話しかけた矮小なる人間を脅威とは感じもしなかった。


 この場で唯一絶対の脅威であった『物言わぬ少年』にトドメを刺そうとする手を止めようとはしなかった。



「おいおい……本気か? モノマネ芸人(・・・・・・)



 だから『ナニカ』にとって、そこからの展開は”まさか”を優に通り越して”あり得ない”話だった。



「この距離で……剣太郎の見た目で……俺の事を無視するつもりなのか!! 」


「ッッ!!!??? 」

 


 一発。


 たったの一撃でも。


 固く握りしめられた拳を老人からお見舞いされることになるなんて。



「痛いか? 【魔王】よ。剣太郎は……もっと痛かったぞ!! 」


「ぐはぁ! 」



 もしかしたら――。


 数兆分の一の幸運に見舞われて――。


 天文学的確率を引いたことによって――。


 偶然にも老いた人間の放った殴打が『ナニカ』の頬に一度だけ触れてしまう(・・・・・・)ような事はあるのかもしれない。


 でもそれが二度目となると……それはもう”たまたま”じゃなく、れっきとした『実力』だ。


 笑みを深めた老人は、間合いを詰めつつ一撃、一撃を孫の姿に向かって叩き込んでいった。



「!? ……!!?? 」



 一方の『ナニカ』はひたすらに困惑した。


 それもそのはずだ。


 “なぜか”人間の放った何の変哲もない打撃を避けることも出来ずに、食らい続けるハメになっているのだから。



「【鑑定】! 」



 よって『ナニカ』はその【スキル】を使うことを躊躇わなかった。


 得体の知れない老人の正体を見ることを恐れなかった。



「ッ! 」



 その結果――『ナニカ』は知ることになった。



「お? もう、バレちまったのか? 」


「【疾走――」


「遅い! 『無効化(・・・)』! 」



 今、自分が相手にしているのは世にも珍しい固有能力(ユニーク・スキル)――【技能消去】(スキル・キャンセラー)を持っているということを。


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