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絶望の合図/救いの声

 集中する。

 

 呼吸を整えて、息を止める。


 筋肉と骨格の動きを完璧に連動させる。


 彼我に流れる二種類の[魔力]の流れを完璧に掌握する。


 右目と左目の両方で『敵』の相対速度と距離を正確に把握する。


 そして――黒い炎を纏わせた金属バットを――――



「『フルスイング』! 」


 

  ――――無心で振りぬく! 



「ぐきィ……――ッッ!!! 」



 インパクトの瞬間。バットが巨体の芯を捉えた、直後。


 俺は確かな“手ごたえ”を……『イケる』という感覚をつかみ取っていた。バットの先端(ヘッド)は狙い通り首筋にめり込み、【龍王の炎】は俺もろとも剥き出しの血肉を焼く。


 言うまでもなく熱い。熱すぎる。痛すぎて、乾ききった眼球から涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。


 だけどギリギリで、【自動回復】の速度が間に合っている。【魔力掌握(オーバーロード)】のコントロール下にどうにか置けてはいる。


 一方の【四方の魔王】の加護を受けている筈の【獣の戦士】はというと、恐怖と混乱と火傷で目を白黒させて、声にならない悲鳴を繰り返し、何度も上げ続けている。


 その時、俺は確信を得た。


 勝てる。


 この一撃は首元へと確実に届く。


 モンスターの死後発生する『黒い灰』を、経験値(ポイント)だって焼き尽くしてしまう『炎』をもってして、復活も変身も許さずに永遠の終わり(・・・・・・)をコイツに与えてやれる。



「あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ“あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“! 」



 だから俺は吼えた。変身を果たした怪物の、鼓膜をひび割れさせる大絶叫を塗りつぶすように。これで全部、ここで戦いを終わらせるという意思を押し通すように。


 押し込んだ。出し得る全力を込めた。グリップが壊れるほど、皮膚がやぶれるぐらい握りしめた。


 今は、この瞬間だけは目の前の敵の撃滅だけに自分の精神を没入させた。



「潰れろおおおおおお! 」



――――後から思い出すと、この時の俺は周りが良く見えていなかった。



「ぃぃ……い、今だ! ――――やれッッッッ!! 」



 ゆえに一瞬、その震えた合図(・・)がどこから発せられたものだったか分からなかった。


 でもすぐに気づく。それが対峙している怪物の口から発せられたものであるということを。


 そして、その怯えきった視線の先――――俺の背後へと意識を向けた時。



「!? 」



 俺の中でゆっくりと流れていた時間は完全に静止した。


 驚愕で。


 頭の中が真っ白になって。


 グツグツと煮えたぎった地面から、フラフラと起き上がる【劇毒の魔女(ヴェネタナ・フェミナ)】の変化した姿を目撃して。



「――――」



 脳内に沸き上がった『なぜ? 』という疑問は、瞬時に『当たり前だ』という解答へと置き換わる。


 そうか。少し考えてみればそうじゃないか。


『魔王』の力を得た【魔女】(こっち)も死ねば変身を経て復活する。【戦士】(コイツ)と同じように。ソレが自然の流れ。



「『瞬――……」


  

 反応は致命的なまでに遅れていた。渾身の回避行動は間に合ってなかった。


 もちろんレベル11のデバフを宿した手刀は情け容赦なく、俺の背中へ突き刺さろうとしていた。



「……間……」



 ヤバイ……。


 まずい……。


 どうする? 


 どうする!? 



「……移……」



 語彙力が消し飛ぶ。


 思考が散り散りになる。


 無意識のうちに防御態勢を取る。


 デバフの直撃を正面から受け切る覚悟を決める。


 そんな中。





「『緊急退避空間(インスタントルーム)』! 」






『技』の名を叫ぶその声は、どこからともなく聞こえてきた。

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