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怪物は語る

 まずは自分のホルダーとしての感覚を疑ってかかった。


 いきなり背後に出現して襲い掛かって来た“存在”は俺が【獣の戦士】として認識していたモンスターと[魔力]の波長や気配ともどもに間違いなく同一個体であるはずだった。


 だけど実際に目で見た結果はどうだろう? そこに居たのは記憶の中のモンスターとは似ても似つかない、文字化け(・・・・)した【鑑定】結果を表示させる”得体の知れないバケモノ”だったんだ。



「初めまして。城本剣太郎さん。私はこの島と城を預かっている者です」



 激しくぶつかり合っていた【白騎士】と同じように、人間と近かった肉体は大きく変形して不自然なほどに膨張し、鋭敏な爪は全て剥がれ落ち、全身を覆い尽くすほど豊かに生えていた体毛は抜け落ちていた。



「……人間が紛れ込んでいると彼女(・・)から聞いた時はそれなりに驚きましたが、先ほどとは比べ物にならないほど驚きましたよ。まさか『アナタ』にこんなところで会えるなんてね……」



 露わになった皮膚は炭化したように黒変し、そこに幾つも入ったひび割れの間からは痛々しい血肉の赤色が覗いていた。



「だけど、この瞬間に理解もしました。どうしてアナタがこの【魔境】に飛び込んで来たのか……」



 そして獣のような荒々しかった雰囲気は鳴りを潜め、[魔力]を一かけらも漏らさずに不気味さと静けさを周囲に漂わせる姿はまさに“死神”や“暗殺者”のソレだった。



「……せっかく会えたんです。どうでしょう? 少しお話しませんか? もちろん――アナタにとっての『大切な存在(・・・・・)』にはその間、手は出さないでおきますよ? 」


「……ッ! 」



 その丁寧な口調の裏に巧妙に隠された殺意と害意を感じ取った瞬間、息を飲んだ。緊迫した状況から鑑みて主導権はどちらが握っているのかは誰の目から見ても明白だった。


 でも俺には分かっていた。


 今、すぐ後ろを振り返ったらずっと心の中で求め続けていた人たちと再会できるんだろうってことを。どうにか合流さえしてしまえば【疾走】スキルによる『瞬間移動』は十分に使用可能であるってことを。


 だけどその直後、この不気味なモンスターが何をしでかすのか、何をしようとしているのか、何ができるのかは俺にも全く分からなかった。


 もしかしたら、こんな口先だけの発言なんて無視して今すぐにも二人を連れて逃げ出してしまった方がいいのかもしれなかった。


 だけどやはりと言うべきか、俺には確信が無かった。


 半径1メートル以内にまで距離を詰められたのにも関わらず一切気づくことが出来なかった俺が、この漆黒の筋肉の鎧をまとった全てが謎のモンスター……【魔女】と同様に見違えるような“変身”を果たした【鑑定】スキルが通じない怪物から、父さんから託された『最も大切なモノ』を抱えて“逃げ切れる”――もしくは“守り切れる(・・・・・)”という確たる自信が無かった。


 だから今はこちらから動くのは我慢するしかない。言うとおりにするしかない。相手の"出方"と"目的"を伺うんだ。どこかに必ずある付け入るスキを探すんだ。



「……話って何だ?」



 そんな判断の下、重い口を開いて返答した俺に対して、怪物は筋肉が盛り上がった肩を揺らして喜びを表す。



「流石! 話しが早いですね! ああいえね……そんな大した話じゃないんですよ? アナタにぜひ聞いていただきたいのは、私達(・・)の身の上話と言いますか……自己紹介と言いますか……」



 しかし飄々とした態度の怪物の口から語られる物語は俺の想像とは大きくかけ離れた、どこか詩的で――



「……」


「ああ……どうか、そんな呆れたような目で見ないでください。分かりました、出だし(・・・)はここから始めることにしましょう。城本剣太郎さん。あなたは私の言葉が信じられますか? 私の足下に横たわっているこの"醜く薄汚れたモンスター"――――【劇毒の魔女】(ヴェネナタ・フェミナ)が数百年も昔『モンスターでも随一の美しさ、人間でいうところの”絶世の美女”と称される容姿を持っていた』なんて」



 ――『悲劇的な響き』を備えていた。


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