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導きの賢者と七人の乙女  作者: 古城貴文
四章 王都躍動編

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第78話 王子殿下と王女殿下<後編>



「さて、今日はみんなで遊ぶためにボードゲームを用意してきたんだ」

 そう言ってノアは部屋の中央辺りで、赤い絨毯敷きの床の上に胡坐あぐらをかいて座った。

 壁際に控える侍従やメイド達は一様に表情を曇らせた。

 ノアは持参した袋の中から平たい木箱を取り出す。

「これは『リバーシ』というゲームだよ!」

 もちろんザナック工房に製作を依頼していたモノである。

 一同が興味深そうにノアを囲んで座った。


「先手のプレイヤーが黒の石を、後手のプレイヤーが白の石を、ひとつずつ交互に置いていき、挟んだ石をひっくり返すことで自分の色を増やしていくよ」

 ノアは手早く石を置き、簡単な例を見せる。

「これを盤面が埋まるまで繰り返し、最終的に数が多かった色のプレイヤーが勝利となるんだ」

 ルールは簡単なので、皆は納得したように頷いた。

「試しにローランド殿下、一緒にやってみよう。さあ、ぼくの前に座って」

 ローランドは困惑した表情を浮かべながらもノアの正面に座る。


「もう一組あるから、みんなもやってみて!」

 ノアはエジェリーに手渡すと、隣でさっそく準備を始める。

 どうやら初戦はエジェリー対レベッカの様だ。


 ノアもローランドとゲームを始める。

「ほう、ローランド殿下。覚えが早いね。大したものだ」

 しかし結果は当然ノアの圧勝に終わる。

 早速第二戦を開始する。

「あなたはまだ子供なのに賢者と呼ばれて、いったい何歳いくつなのだ?」

 ローランドはゲームを理解し、会話する余裕が出て来たようだ。

「ぼくは今、十三歳だよ。殿下はもうすぐ九歳になるんだよね」


「それではあなたは余と同じ年の頃、なにをしていたのだ?」

「そうだね~。その頃ぼくはシャレーク王国で冒険者をしていたな」

「冒険者⁈ あの魔物を退治してお金を稼ぐという冒険者か!」

 王子は驚きと好奇心に満ちた表情をノアに向ける。


「ぼくはね、五歳の時に両親を盗賊団に殺されたんだ。だから自分で生きて行くために冒険者になったんだよ。まだ赤ん坊だった妹もいたしね」

 勝負に盛り上がり賑やかだった隣のグループがピタリと静かになった。

 そして一斉にノアに視線を向ける。


「そんな小さな子供が冒険者になれるのか?」

「運よく強くて優しい人達に拾われたんだよ。そして魔術が使えたから冒険者になれたよ」


「その妹はどこにいるのだ」

「今はナルフムーン王国のサークルレーンという街にいるよ。そうか……ちょうど殿下と同い年なんだな」

 ノアは王子を少し寂しそうな眼差しで見た。


「冒険者って、楽しかった? 大変だった?」

「もちろん楽しかったよ。ぼくはフォレストゲートの冒険者ギルドに住み込んで暮らしていたんだ。毎日がとても賑やかだったよ」


「子供だから、こき使われていたの?」

 ノアは微笑みながらゆっくりと首を振った。

「もちろん掃除とか古い建物の修理とかしていたよ。でもそれは命令されてやっていなのではない。感謝の気持ちを込めて、自分からやっていたんだよ」


「それにこう見えてぼくは、世界で一番有名なSランク冒険者なんだぜ」

「Sランク冒険者って、強いの?」

「ああ強いとも。世界中でたった五人しかいない最高の冒険者さ」

 ローランドはノアを見つめながら大きくため息をついた。


「あなたは変わっている。ここに来る先生たちはみんな言うのだ。『しっかりと勉強しないと良い王様になれませんぞ』……と」

「殿下は勉強が嫌いなのかな?」

 ノアは盤面から目を離し、上目遣いで王子を覗き込んだ。

「嫌いではないが、つまらん」

「それは解るなあ。興味の無い勉強はつまらないからね」

 こんな時同意してみせるのが話術のテクニックである。


「ぼくが十歳の時、賢者リフェンサー様が迎えに来たんだ。それから二年間、リフェンサー様とエレンシア大陸中を旅してきたんだよ」

 ローランドはノアの話に引き込まれているようだ。


「ぼくはこれから君に、世界のいろいろな話を聞かせ、外の壮大な世界を見せてあげようと考えているんだ。それを活かすも殺すも君次第だけどね」

 そしてノアの最後の一手が決まる。

「ああ、もう、また負けた~! 賢者殿は強すぎるぞ」

 ローランドは両手を後ろに突き、天井を見上げた。


「よし、だいぶ慣れて来たみたいだから、君に勝ち方のヒントをあげよう」

 チョイチョイとノアは手招きしてローランドを盤面に寄せる。

「角と呼ばれる盤面上の四隅が非常に重要なんだ。この角を取れるかどうかが、ゲームの勝敗を決めるといっていい。だから積極的に角を狙うこと、あるいは角を取られないように気を付けることが必要なんだよ」


「と言う事は、自分の石を置いてはいけない場所があるということだね。ここと、ここと、ここには、なるべく自分の石を置かない方がいい」

 ローランドは納得したように大きく頷いてみせた。


「それからゲームの序盤や中盤では、なるべく多く取らない方がいいんだ。なぜだか解るかな?」

「解かった! 最後に勝つためだ」

「御名答! さすがはローランド殿下だ」

 ノアは対面のローランドの金色の髪を『クシャクシャ』となでた。

 瞬間驚いた表情を見せたローランドだったが、まんざらでもない様である。


「これはきっと君が王様になった時、役立つ考え方だ。覚えておくといい」

 ローランドはノアを見つめた。不思議そうな表情をして。


「よし、みんな。メンバーチェンジだ。ローランド殿下は強くなったぞ。だれか挑戦してみないか!」

「ワタシやる――!」

 こんな時にいつも最初に食いつくのはレベッカだ。

 ノアが立ち上がり座を開けると、レベッカがスカートを広げながら『ドサッ』と座った。

「王子殿下、レベッカ・スピルカです。お手柔らかにお願いします!」

 かなり身を乗り出して挨拶をした後、右目でウインクするレベッカ。

「あ、あなたは魔術師団長の娘だな」

「左様にございます、殿下!」

 さっそくローランド先手でゲームを始める。


「あれ~、王子殿下は調子でも悪いのかな⁈」

 中盤までの優勢にレベッカは余裕を見せている。

 終盤に入ると、盤面は一気に黒く塗りつぶされていった。

「あれ、あれ、あれ~! どうして~、負けちゃった~!」

 数えるまでもない盤面の結果に、大袈裟に凹んでみせるレベッカ。

 王子は直ぐに満面の笑顔でノアを見上げた。

「王子殿下、お見事! コツを掴みましたね」

 グッと握りしめた拳を見せ、ノアはローランドを褒めたたえた。


「次はこのタイラーが一戦交えましょうか!」

「おお、アールステッド家のタイラーか。久しいな」

「しばらく会わぬうちに立派になられましたな、殿下」

 そう挨拶を交わしながら二人はゲームをスタートさせる。


「ねえタイラー。おまえ程の男がなぜ賢者殿の供をしているのだ?」

「実は勝負を挑んで、ケチョンケチョンに負けまして」

「賢者殿はおまえより強いのか?」

「ええ、彼は魔術師ですが、剣でも子供の様にあしらわれました」

「そうなのか……」

 そんな会話をしながらゲームを進めて行くが、結果はローランドの圧勝に終わる。

 タイラーは子供の様に悔しがって見せた。


 その後フーガとエジェリーも勝負を挑むも、あえなく返り討ちに逢った。

「ローランド殿下は、お強いのですね!」

 そんなエジェリーの一言に、ローランドは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


 すでにノアの意図を理解した四人は努めて場を盛り上げ、王子と王女に親睦を深めた。

 いつの間にかマーガレット王女は、フーガのかいたあぐらの上にチョコンと座っている。

 彼女はイケメンより座り心地の良いマッチョを選んだようだ。

 当のフーガも腫れ物を扱う様に緊張しているが、時折髪を優しく撫でまんざらでもない様子である。


 賑やかで楽しい時間の進みは早い。

 大きな窓の外の空気の色で、夕暮れが近づきつつある事がよく解る。

 部屋のメイド達も燭台の蝋燭に火をつけ始めた。


「よし、今日はこの辺でお開きにしましょうか」

 ノアはそう言って、リバーシを片付け始める。

「これはローランド殿下とマーガレット殿下に差し上げましょう」

 二人供、子供らしい嬉しそうな表情を見せた。


「賢者殿……。次はいつ来て下さいますか」

 マーガレットも兄にしがみついてとても寂しそうな表情をしている。

「また来週の月曜日に参りましょう」

「みんなも連れて来て下さいますか」

「もちろんですとも。特にタイラーさんとフーガさんは学院を卒業して時間に余裕があるので、出来るだけお二人の傍に仕えられる様、取り計らいましょう」

「本当ですか!」

 ローランドはたいそう喜んだ。

 タイラーとフーガは面食らった表情を浮かべたが、二人供すぐにその意図を理解したようだ。

「それじゃあ、またね!」

 ノアは特にマーガレットに向けて、優しく手を振った。

 マーガレットもノアに向かって一生懸命両手を動かして答えた。

 タイラーら供の四人は一度整列し、深く一礼してからノアの後に続いて行く。

 壁際に控えていた教育係達も納得顔で頭を下げ、ノア達の退室を見送っていた。



  *  *



 帰り際、厨房で待っているアイリを拾って帰る。

 アイリは壁際の椅子に座り、焦点の定まらない目で天井を見上げながら、真っ白に燃え尽きていた。

「どうしたのアイリ?」

 ノアが心配して声をかけると、アイリはすぐに大粒の涙をこぼし始めた。

「ノア様~。あの後大変だったのですよ~」


「わたしが片付けをしていると……宰相様に『少し話をしよう』と座らされたのです。しばらくすると王様と王妃様も戻って来られて……」

『エッ、エッ、エッ』とアイリは泣きじゃくりながらノアにしがみついた。

「それからしばらく……王様と王妃様と宰相様のお相手をしたのです。わたし……緊張しすぎて、何をしゃべったのか……全く覚えていません」

 一同はとても憐れんだ表情でアイリを眺めた。

「それは……大変だったね」

 ノアは申し訳なさそうにアイリの髪をなでた。



  *  *



 帰りの馬車の中、エジェリーはやはり聞かずにはいられなかったのだろう。

「ねえ、ノアには妹がいるの……?」

 その問いに、ノアは車窓から視線を外す事はなかった。


「ごめん。その話は、今はまだ……したくないんだ……」

 





次回、彼女がやって来ます。荒れます!


最後までお読みくださり、ありがとうございます m(_ _"m)


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