SSー7 セシル、冒険者ギルドへ依頼を出す!
エレンシア大陸の中央南部に位置するナルフムーン王国。
王都スーファの郊外に、この国の冒険者ギルドはあった。
モノをぶつけたような傷の多い扉を少し開け、場違いに見える可愛らしい少女が中をうかがっている。
そしてその少女は扉を大きく開けると意を決したように、まっすぐに受付カウンターを目指していった。
「お嬢さん、なにか御用ですか?」
受付嬢はよくある子供のいたずらに慣れているのだろうか、愛想よく対応する。
「エ~ッと、ギルド長に会いたいの!」
受付カウンターから頭だけを出しながら少女は、元気よく要件を伝えた。
「どのようなご用件でしょうか?」
「いらいを出したいの。だからギルド長に会わせて!」
いつものいたずらとは少々違うパターンに受付嬢は戸惑いをみせる。
「お嬢さん。一般の方が紹介状も無しにギルド長に面会することはできませんよ。依頼ならこちらで受けたまります」
「わたしのいらいはむずかしいから、ギルド長にじかにたのまなくてはいけないの!」
少女はつま先立ちになり、少しでも受付嬢との距離を詰めようとする。
「それでは、まず、ちゃんとした人から紹介状を書いてきてもらってね」
それだけ言うと受付嬢は書類に視線を戻し、あからさまに拒絶の態度をとった。
少女は頬っぺたを膨らませむくれる。
「じゃあ、お願いだから、しょうかいじょうの代わりに『たそがれのふくろう』が来たって伝えて」
「ハイハイ、あとで伝えておきますね」
受付嬢は少女とは視線を合わせない。
「お姉さんの意地悪! もういい! お姉さんが悪いんだからね!」
少女は下を向くとしばらく沈黙する。
『フェリーネお姉ちゃん、お願い!』
『任せなさい、セシルちゃん』
幽体のフェリーネはセシルから滲み出ると、すぐに受付嬢に憑依した。
受付嬢の瞳は虚ろな色に変化し精気を失う。
そして席を立つと、事務所の中に消えていった。
しばらくすると受付嬢はカウンターを出て、セシルの前に戻ってきた。
ここで幽体のフェリーネはセシルの中へと帰っていく。
「え、えっ、私なんでこんなところに立っているの!」
「シシリー~、なに訳が分からない事いっているんだ、おまえが俺をここに連れてきたんだろうが!」
「やだ、私どうしちゃったの…………⁈」
受付嬢のシシリーはしばし飛んだ記憶にたいそう困惑しているようだ。
ギルド長はマジマジと目の前に立つ、小さなセシルを観察する。
「俺がここのギルド長だが、お嬢ちゃんが『黄昏のふくろう』かい⁈」
ウン、ウンと二回大きく頷くセシル。
「お嬢ちゃん、『黄昏の梟』のリーダーの名前は?」
「ジル。ジルザーク・ブローク!」
「じゃあ、フォレストゲートのギルド長の名前は?」
「フォルマー!」
「……なるほど、そういう事か!」
ギルド長は一つ柏手を叩き、大きく頷いた。
「よし、お嬢ちゃん。ここから先は奥の事務室で話そうか!」
「ちょっと、ギルド長!」
シシリーは思わぬ展開に困惑した。
「ギルド長、ありがと!」
セシルは満面の笑顔をみせる。
「さあ、お嬢さん。そこに座って」
セシルはよじ登るようにソファーに腰かけた。
「ほれ、シシリー。そんなところにボケっと突っ立てないで、お嬢さんに冷たい飲み物でも容易しろ! この娘は俺の客人だぞ!」
「は~い、かしこまりました~」
シシリーは未だ納得がいかない様子である。
「さて、お嬢ちゃんのお名前を聞かせてもらえるかな?」
「セシル……セシル・サークルレーン」
「んん? サークルレーン? 西のサークルレーン子爵家のお嬢さんかい?」
セシルは首を二回縦に振って肯定する。
「今日はどうやってここまで来たの?」
「おじさまが外の馬車で待ってる」
「はて……。俺はてっきり『大樹海の支配者』の妹だと思ったんだがな……」
「ギルド長! なんでそのことを知っているの! わたしの兄さまは『だいかいじゅうのしはいしゃ』で、ノア・アルヴェーンっていうの!」
「やはりそうだったか! 実は俺は、セシルちゃんがまだ小さかった頃に一度会ったことがあるんだよ」
「ホントに!」
セシルは満面の笑みを浮かべる。
「ああ、五年前だな。俺がこのギルドの長になるので、フォレストゲートのフォルマーさんとこへ挨拶に行ったんだ」
「その時に酒場で『黄昏のふくろう』の連中と酒を飲む機会があったんだ。まだ小さかったセシルちゃんはお兄さんに抱かれてスヤスヤ寝ていたよ」
「ギルド長、その『大怪獣の支配者』ってなんなのですか?」
傍で話を聞いている男性の職員が尋ねた。
「大樹海の支配者な。最近の若者は彼の偉業もしらんのか……」
「まだ俺がギルド長になる前の話だ。この国の北部に傭兵崩れの大盗賊団、『闇の狩人』って言う、それはやばい連中がのさばっていたんだ。馬車を襲い、村を襲うなんでもありの殺人鬼集団だったよ」
「たしか王家の依頼だったか、身分の高い貴族がそいつらに誘拐されたんだ。その救出の時に当時八歳だったセシルちゃんの兄さんが一人で『闇の狩人』を殲滅したんだよ」
「八才の子供がですか~!」
「ああそうだ。そしてその功績を称えられ、『黄昏のふくろう』はSランクに昇格したんだよ」
「Sランク冒険者ですか? それじゃあ、その少年はギルド長よりも強いんですか?」
「まあ俺が百人いても敵わないだろうなあ~~」
「またまた~~冗談を」
ギルド長はゆっくりと首を振る。
「俺達みたいな戦士系は個別の戦闘しかできない。だが絶大な魔術士は軍隊を殲滅できる力を持っているんだよ。酒場で会ったとき俺は直勘で感じたぞ、彼は普通の人間じゃないと……」
そしてギルド長は対面に座るセシルに視線を戻した。
「それでセシルちゃん、『大樹海の支配者』の妹とサークルレーン子爵家のお嬢様がいまいち結びつかんのだが……まあその辺りが今回の依頼に関係しているのだろうが……」
セシルは話した。
フォレストゲートの冒険者ギルドで兄と過ごした日々を。
「それでね、セシルは五歳の時に兄さまに今のおうちに置いていかれたの」
「なるほど……。兄さんも苦渋の決断だったのだろうな」
「セシルちゃんはお兄さんを恨んでいるのかい?」
セシルはブンブンと首を左右に振る。
「セシルは早く兄さまに会いに行きたいの。そして兄さまを助けてあげなくちゃいけないの! だから兄さまが今どこにいるのか知りたいの!」
「それがセシルちゃんの依頼内容というわけだ……」
セシルはクセのように二回うなずく。
「セシルちゃんの兄さんが忽然と姿を消したのは、俺たち冒険者の間でも結構噂になったんだよ。それでなにか手掛かりでもあるのかい?」
「え~っとね。セシルたちは週に二回、教会で神父さまからお勉強を習っているの。そしたらね、このあいだ、せいと(聖都)というところに新しい聖女さまを守る、子供の姿をした『せいれいのせいきしさまが現れた』って教えてくれたの」
「セシルはね、そのせいきしさまは兄さまの事だと思うの!」
周囲の職員たちはやれやれと首を振る。
「なるほど……。ありえない話ではないな……」
「ギルド長~。こんなおとぎ話みたいな話、信じるんですか?」
ギルド長は周囲の事務員たちを見渡した。
「よし、お前ら! 賭けをしようじゃないか! 一晩の飲み代でどうだ。俺が負ければお前ら全員面倒みてやるよ」
「いいんですか~。知りませんからね」
「よし、賭けは成立だな」
ギルド長はニヤリとほくそ笑む。
「聖都といえば神聖シャール国のセントレイシアだな……。セシルちゃん、そこはここからだと北に向かって遠い所にあるんだ。かなり時間が掛かると思うがそれでもいいかい」
「それでもいい! セシルはまだ自分じゃ行けないからギルド長にお願いしにきたんだから!」
「よしセシルちゃん、このギルドで依頼を受けよう。それで依頼料はいくら出せるんだい?」
セシルはポシェットに入れていた革袋を取り出し、その小さな手でギルド長に手渡した。
ギルド長は中身の貨幣をテーブルの上に並べた。
「これはセシルが今まで貯めたお金全部なの。これでお願いします。すこし足りない?」
「大丈夫だよ、セシルちゃん。これで十分だ。あとはこの俺に任せておきなさい」
「ありがと、やっぱりギルド長におねがいしにきてよかった!」
「よし、外で待っている叔父さんに挨拶しなくちゃな。行こうかセシルちゃん」
「うん!」
ギルド長とセシルは手を繋ぎ、外へ出て行った。
* *
ギルド長は事務所に戻ると早速指示を出す。
「よしシシリー、依頼票を作れ。案件名は『Sランク冒険者ノア・アルヴェーンの捜索』
ランク指定は、そうだな~~、Dランク以上、依頼者は俺とセシルちゃんの連名、成功報酬は金貨20枚だそう」
「ギ、ギルド長! 金貨20枚って二百万リアラですよ! あの子から預かった額と二桁違うじゃないですか! 足りない分はどうするんですか?」
「不足分は俺が出す」
「あ~~~~っ」
「ギルド長って、実は度を越したお人好しだったんですか?」
「あの子は俺を頼ってくれた。俺もあの子が気に入った。それでいいだろう……ダメか?」
職員達はそろってあきれた顔を見せる。
「俺は、先行投資をするんだよ。決して恩に着せるわけではないが、あの『大樹海の支配者』に貸が作れる訳だ。将来この見返りはとてつもなくデカいと俺は踏むね」
「そんなモノでしょうかね……」
「あのセシルちゃんは本物の冒険者と冒険者ギルドをよく知っている。だからこの俺を直接頼ってここに来たんだ。俺は冒険者の端くれとして、あの娘の期待を裏切れない」
そしてギルド長は若い職員達を諭すように言った。
「あの娘は紛れもなくSランクパーティー『黄昏のふくろう』のメンバーだよ」




