第57話 商人ギルド連合会
先日の王宮一日戦争でレ―ヴァン王国に楔を打ち込む事に成功したノアは、次なる一手を打つべく行動を開始する。
その日はリーフェを通して、商人ギルド連合会参審員主席と面会の約束を取り付けていた。
正式役職名は小難しいが、簡単に言えば各業界ギルド連合会の会長である。
その人こそ、リーフェの父親だった。
そもそもギルドとは、業界ごとの既得権益を守る為の組織である。
各ギルドとも非常に閉鎖的な体質を持っているのは当然であろう。
そんなギルド間の軋轢の緩和や調整のために、商人ギルド連合会が設立されていたのだ。
ちなみにリーフェの父親は貿易商を営んでおり、レ―ヴァン王国内で五指に入ると目される大商人だった。
商業ギルド連合会の建物は、王都一の目貫通り沿いの一等地にあるという。
学院からは比較的近い位置にあるため、ノアはエジェリーとリーフェを伴って歩いて出かけた。
王宮前広場を起点とする目貫通りは、広い歩道が整備され石畳が敷かれていて、とても歩きやすい。
このあたりに軒を連ねる商店はどこも貴族相手なのだろう、上品な店構えを見せている。
市街を歩く事が少なかったノアには、とても新鮮に映った。
しばらく市中見物を楽しみながら歩いていると、リーフェが白い石造りの立派な建物に案内してくれた。
大きなガラス張りの扉を開けて中に入るとロビーは広く、意外と商人らしき者の数は多かった。
そして正面奥の受付に声をかけた。
「いらっしゃいませ。ご用件を承ります」
綺麗な受付嬢が、愛想よく迎えてくれた。
「すみません、会長と面会の約束があるのですが」
受付嬢はノアの斜め後ろに控えるリーフェを見て、すべてを理解してくれたようだ。
「あら、リーフェお嬢様」
「ごきげんよう、カレンさん」
いつものメイド服では無く、深緑色の清楚な外出着を着たリーフェが可愛らしく挨拶した。
すぐに机の上の書類を確認すると返答がある。
「ノア・アルヴェーン様ですね。お待ちしておりました。それではご案内致します」
吹き抜けの幅の広い階段を登り終えると、すぐ左にある応接室へ通された。
「お座りになって少々お待ち下さいませ」
ノアとエジェリーがソファーに腰かけ、リーファが後ろへまわる。
ほどなく恰幅が良く、身なりが上等な紳士が現れた。
「これはこれは、ノア・アルヴェーン様。ようこそおこし下さいました」
ノアは立ち上がるといきなり両手を取られ、握手された。
「当連合会の会長を務めております、レオナルド・ライマーと申します。どうぞお見知りおきを」
胸に手を添え礼儀正しい挨拶をしてくれたのは、リーフェの父親だった。
「お初にお目に掛かります、ノア・アルヴェーンと申します」
ノアも深々とお辞儀を返しす。
「おお! お隣のフロイラインは、バイエフェルト伯爵家様のご令嬢でいらっしゃいますな。この度は我娘をとりたてて頂き、たいへん感謝致しております」
ライマー会長はエジェリーに対しても真摯に挨拶をした。
「ごきげんよう。エジェリー・バイエフェルトと申します」
毎度ながらエジェリーが魅せる、貴族令嬢ならではの挨拶は美しい。
「ささ、どうぞお掛けになって下さい」
ライマー会長は豪華な革張りのソファーへの着席を促した。
「どうですかな、娘はご迷惑をかけていませんでしょうか。なにしろ甘やかして育てた末娘なもので」
「とんでもない、リーフェさんはとてもしっかりしていますよ。細かいところまでよく気が付き、ぼくを助けてくれています。何より彼女がいるだけで場が明るくなります」
「いやー、お恥ずかしい限りです」
会長は頗る機嫌が良さそうだ。
「それより、アルヴェーン様。このたびは国王陛下より賢者の称号を賜ったとか。誠におめでとうございます」
顔を見合わせるノアとエジェリー。
「このような役職をしておりますと、王宮内の出来事などは筒抜けでして」
ライマー会長が含み笑いを見せた。
「聞きましたぞ~、正門を爆破して供の者と乗り込み、国王陛下に宣戦布告したとか」
まあ、間違ってはいない……。
ノアとエジェリーは下を向いてしまった。
ちょうどお茶を入れてくれた秘書さんが、口を両手で覆って目を丸くしている。
「あの近衛騎士団が事実上壊滅したらしいですな。近衛騎士団長の喉元に剣を突き付けたって言うじゃありませんか」
「それ、僕じゃありません……」
ノアは俯きながら、横目でエジェリーを見た。
「それ……わたし……です」
エジェリーが下を向いたまま、顔を真っ赤にして答えた。
会長は一瞬ぽかんとした顔でエジェリーをまじまじと見たが、こんどは豪快に笑いはじめた。
「いや~、愉快、愉快。お姿に似合わず豪胆な。おっと失礼!」
テーブルに身を乗り出して小声で続けた。
「そもそも近衛なんて王族の飾りでしょう。王族しか守りません。我ら平民なんて租税を納める家畜ぐらいにしか思ってないでしょうからね。我々商人から言わせれば近衛なんぞ無駄の極み、金をドブに捨てているようなモノですぞ!」
会長は一方的に自分だけが話している事に気がついた様だ。
「これは失礼。話が横道にそれましたな。それでは本日のご用件を承りましょう」
「一つ目は、リーフェさんのお父様にご挨拶を……」
ノアとエジェリーは深々と頭を下げた。
「これは、これは。お心遣い感謝致します」
「二つ目は、冒険者ギルドにお知り合いがいましたら紹介状を頂けたらと思いまして」
「ウム、あそこのギルド長とは個人的にも付き合いもあります。この後お出かけになりますか?」
「はい、可能であれば助かります」
「フローラ君、早速用意しなさい」
会長は横に控える秘書さんに声をかけた。
「かしこまりました」秘書さんが一礼し、壁際のおしゃれな机で書類作成にかかる。
「三つ目は今後、各業界のギルドとのお付き合いを望んでいますが、その際にご紹介頂ければ幸いです」
「お安いご用です。当方と致しましても、願ったり叶ったりでございます」
「四つ目は、マスケット銃と大砲を数種類、調達して頂きたいのですが……」
わざと平然と言ってのけたが、ここで会長の顔色が変わった。
ノアは会長の変化に気づいていたが、さらに直球で攻め込む。
「出来れば、腕の良い鍛冶職人も紹介して下さると助かります」
そこまで言い終わってからノアは、ライマー会長に鋭い眼差しを向け、視線を合わせた。
この件に関しては、すでにザナック工房で着手しているが、ノアはさらなる人材と技術を求めていたのだ。
「……うむ、外見からは想像出来ない、怖い注文をなさるお方だ」
ライマー会長は顎を撫でながら考え込んでいる。
「どうやら私の想像以上のお方のようだ。さすがは賢者様と言うべきか……」
「今は使い道について問いますまい……。よろしい、ご用意致しましょう。それと鍛冶ギルド長と相談して腕の良い職人を見繕っておきます」
「あなたに相談してよかった……」
ノアは期待通りの成果に、率直な感想を述べた。
「ありがとうございます。私も今後の賢者様とのお付き合いが非常に楽しみですぞ」
ライマー会長もニヤリと不敵に笑った。
話が一段落した頃合いを見計らって、秘書さんが完成した紹介状を持ってきた。
「ご確認の上、サインをお願い致します」
会長は軽く目を通すと、サラサラっとサインした。
秘書さんは机に戻ると封筒にいれ、封蝋をたらし印を押した。
この一連の秘書さんの動作を、エジェリーとリーフェは興味深く眺めていた。
ノアは紹介状をうけとると、エジェリーに手渡した。
「それでは本日はこれで、失礼いたします。」
ノアは立ち上がと、今一度会長と握手を交わした。
「そうそう、ぼくはリーフェさんに少し算術を教えまして。今度その成果を見てやって頂けませんか。正直、彼女の算術の才能には、ぼくも驚いているのですよ」
ノアはチラッとリーフェの顔をみた。
リーフェは自身たっぷりに頷いてみせた。
「ほう、それは楽しみな事ですな!」
ライマー会長に建物の外まで見送られ、ノア達は次の目的地、冒険者ギルドへと向かった。




