第八十二話 ダンジョンどうでしょう~対決(?)ダンジョン魔物狩り物語~
無事翌朝を迎えた。
あくまで屋内でしかも地下でのことなので時計と体感ではあるがな。
実を言うと昨晩はあまり寝れなかった。野営は幾度となく経験してはいるが、今回はなにせ何が出てくるか不明な未知の場所での初日なので嫌でも緊張感が眠気を追い払う。
メンタル的にも立場的にも普通ならマシロとクロエのテントにでも入れて貰えたらありがたかったが即拒否された。
男女同衾云々とか微笑ましい貞操観念とかでなく、何度か言われたことのある「アンタ現地人なんだから現地人に合わせてあげなさい」というやつだ。
「悪いなリュガ。このテントは二人用で」
「もういいわ!お約束のやりとりにさせようとしてるけど面白くねえからねそれ!?」
「ちぇー。国民的人気作品の鉄板ネタかと思ってたのにガッカリだわー」
「お前ら偏見にも程があるだろそれ」
「くくく、俗世のプロミスを興じるアイアンの掟。効かぬ陳腐のスピード」」
「うるせー馬鹿!いやでも万が一襲われたらどうするんだよ。お前らが近くに居る居ないでも俺の安眠保証の格差というものがだな」
「大丈夫よー。心配ならあの子らの傍で寝たらどうよー」
マシロはそう言って親指をグイッと向けたのは二人が乗るバイク。
車種でいうならサイドカーとシャドウファントムだが、色んな機能を搭載してますと言わんばかりの、十代の女の子が乗るには不釣り合いなようなゴツイやつである。
いやまぁ分かるよ言いたい事。自衛システムとかいうの作動させてるから確かに傍に居れば安全かもしれんよ。
けどお前らは熟知してるんだろうが俺にはまだ謎の多いバイクに全幅の信用置けないんだけど。
つーか建前とか形式とか持ち出せば俺は君らの主なんだけど?贅沢言わないからその軽く四、五人は収容出来てなお余裕ありそうなテントの片隅で安眠させなさいよ。
俺はそう抗議したものの「男は度胸何でも試してみるのさー」「くくく、デンジャラスゾーンの路上スリープのチャレンジテクニック」とか一笑に付されて終わった。
結局俺が現代文明の恩恵受けたのは食事の時にぐらいだ。それもコンロ使ったりとかで食べ物そのものは現地調達、つまり魔物の肉だったしな。
朝からの事もあってメンタル的に赤信号だったから俺は食べるもの食べて、キィらが怪訝な顔して見てるの無視してバイクの間に挟まる形で毛布に包まったのであった。
結果からいえば自衛システム発動機会はなかった。
喜ばしいことに魔物の襲撃はなかったわけだが、冒険者らから言わせればそういう日もあるだけで来るときは来るという。
うわーい聞きたくないけど気を引き締める的には聞かなきゃいけない情報だぁい。
こんなギャンブルみたいな夜をあと何日過ごす羽目になるんだよ。
頼むから夜襲だけは勘弁してくれよと内心嘆きつつ俺は簡単な朝食を手早く済ませてバイクに乗り込んだ。
ダンジョン二日目。果たして何が起こる事やら。
出発から数時間後、俺らは十階層目へと至っていた。
ここまでは魔物の襲撃以外はひたすら道を歩く部屋を見つけて探索という単調なものであった。
まだ結論を出すには早いが現時点では単純に魔物蔓延る系ダンジョンという認識になるな。
余計な罠やギミックなどが無い分シンプルに魔物の質量で押しつぶそうとする。シンプル故に力尽きたら即ゲームオーバーな怖さは分かりやすい。
そして分かりやすいからこそ冒険者にとってある意味で難易度が高く感じるものであろう。
階層も二桁に突入してから強さが露骨に上がってきている。
流石にまだAやBでも上位と目されるような魔物は出てきてないが、割合的にBクラスが中心になってきてたまにCが混じる感じになっているのだ。
本来なら探索続けるか撤退するか話し合う局面になるだろう区切りもいいし。
けれども魔物と対峙してるのは規格外コンビなので「ランク?なにそれ美味しいの?」状態で次々と瞬殺して歩き続けている。
俺というか俺を護衛するのが仕事なキィらは素材回収がメインになってる上に戦ってるマシロとクロエよりもひぃひぃ言いながら回収してるぐらいだ。
とにかく出てくる頻度高いのに勝負は一瞬でつくからほぼわんこそば状態。捌けども尽きない、命だったものが辺り一面に転がる光景。
しかもこのぐらいの魔物になれば捨てるところもなくなり出すので逆に捨てる部位の選別に迷うという謎事態が発生したりする。
「いやもういいからさー。倒したやつをアイテムボックスに捨てていけばいいじゃないー。解体とか素材選別なんて戻ってからギルドの人らにそーいうのやらせてさー」
「くくく、スロウリィな足手まとい。タイムイズマネーは天下の周り物な志向なる言霊」
割と最初の時点から大声でそう言ってたマシロとクロエは「そらみたことか」と言わんばかりの嘲笑をキィ達に向けているが、それでも汗水垂らしながらキィらは「すみませんもう少しだけ頑張らせてください」と食い下がる。
彼らの言い分としては、護衛としても案山子なのに素材回収ですら役に立たないのは流石にBランク冒険者以前に働く人として居た堪れない気持ちになる。
二人の言いたい事も気持ちも十分分かるがギリギリまでは仕事らしい仕事をさせてもらいたい。との事だ。
未知なる領域へ足を踏み入れる恐怖を除けば同行するだけで経験値とお金貰える楽な仕事。
これがフージみたいな良くも悪くも脳みそがウルトラハッピーしてる奴なら不満言うのは最初だけで「まっそう言うなら俺らそうしますわ!姐さん方ゴチになりやす!!」と割り切ることだろう。この場合彼ら自身の生真面目さが仇となったわけだ。
俺も実の所さっさと済ませて帰りたいから余計な事せず付いてくるだけでいいと言ってやりたいが、そういうので気が済むならもう少しだけやらせてやろうと思い直した。
いやどうせ音を上げる時も遠くはないだろうからな難易度跳ね上がり的に考えて。
とまぁこんな感じでやや低速度でダンジョン攻略は進んでいる。
ちょっとしたハイキング感覚で進んでいくマシロとクロエと俺含めたその他。
同行者の体力以外だと余裕も余裕すぎる。なにせクロエに至ってはまだ変身すらしていないからなぁ。
しかしアイツがあの異形の姿になる基準はイマイチよくわからない。去年のグラスワームより厄介な魔物ゴロゴロ居るだろうに何故なんだ?
似たような事が今までにもあったので以前訊ねてはみたんだ。けど返答はマシロの通訳と俺の解釈をすり合わせると「単なるその時の気分次第」となるのだ。
実際そうなんだろうが、ダンジョン探索でも変身する気分ではないのだろうか?
でまぁ少し好奇心が動いたので移動中に訊ねてはみたが。
「くくく、エターナルな持続を我がボディの気分マインドが揺れし乙女のポリシー」
「変身状態で二十四時間三百六十五日で活動とか暑くてやってられんわボケぇ。ってクロエは言ってるわー」
「思った以上にありきたりだが納得してしまう答えだなおい」
一応今の人間の姿の方が素ではあるのね。そしてアレは自分自身の変化した姿とはいえ生活するには不便とは思ったわけだね。
結果的に愚問になってしまったが、一応納得したので俺はちゃんと変身して欲しい局面には変身してもらいたいと祈るのであった。
俺が一人で信じてもない神様にお祈りしてる最中でも魔物は襲ってくる。
十階層目からは今まで出てきたBランクの他に新顔もチラホラとお目見えしているな。
RPGでお約束なリザードマン。ドラゴニュートら文明化した竜種系統から言わせたら野生化したリザードマンというのは人間と猿ぐらいの違いがあるというが、人間からすれば服着てるか否かと身ぎれいにしてるか否かぐらいしか違いがわからん。
アイアンゴーレム。今までの土のやつとは違い鉱物も取り込んでるタイプという。とはいうが見た感じだと土や石で半分であとは砂鉄の塊みたいなので半分といったところだ。
ダブルヘッドドック。言ってしまえば二つの頭を持つ大型犬モンスターだ。ただケルベロスの亜種の従兄弟ぐらいの繋がりがあるらしく、百万に一匹出るか出ないかの確率でケルベロスにもなるという。
ダンジョンオーク。オークの一種でダンジョンでを生息地としており地下で生まれ育つ為肌が通常のオークと比べて青白い以外は違いはない。
レッドウルフ。全身が真っ赤な体毛に覆われた狼で牙は瞬間的に高熱を帯びさせることが出来るらしく革や薄い鉄の盾ぐらいなら一撃で砕く程だとか。
などなど資料や話で訊いたBランク相当の魔物が多い時は十数匹、少なくとも二、三匹は一斉に襲い掛かってくる光景は中々怖いものがある。
最強のセコムどもはふざけてるようでちゃんと俺を守ってくれているが、轟く雄たけびと敵意剥き出しに駆け寄ってくる姿は反射的にビビるわ普通。
リーチのあるとこはマシロが魔法で蹴散らして近接範囲内だとクロエがワンパンウーマン状態で一撃で殴り倒していく。
神にお祈りレベルな奇跡が起きてそれらを潜り抜けたところでバイク二台から火器をお見舞いされるとなれば魔物側したら糞ゲーにも程があるだろうな。
モグラ系魔物みたいな地面から飛び出すやつも出ないわけではなかった。しかしどうなってるのかマシロとクロエとバイク二台のいずれかが出てくる数瞬前には感知しておりリアルもぐらたたきな結果となってる。
地面でそうだから天井からの襲撃も同様だ。いつもの調子で歩いてるだけの癖に全方位に隙がないとか驚嘆通り越して呆れかえるわ。
対決にもなってない一方的な狩りを続ける事更に十数分後。
そうこうするうちに下へ降りる道を発見したのでここで昼食がてらの小休止をとることとなった。
疲労困憊気味なキィらは革袋の水を空になるまで飲み、干し肉を一切れ二切れ齧った後は座り込んだまま無言となる。疲労と緊張で胃が食べ物受け付けないのだろうからご愁傷様と言いたくなる。
基本的に座って観戦状態な俺と疲労の影すらもなく平常運転なマシロとクロエはそんな彼らをチラ見しつつ硬パン齧りつつ携帯コンロで肉を炙り出していた。
「いよいよ十一階層目か。確かヴァイト州で把握されてるダンジョンで一番深いとこでも十三というから、同じぐらいなら終わりが見えてくるわけだが」
「それはないんじゃないかなー。この流れは絶対更なる深淵に続いてるわよー。アンタが居るのに簡単に終わらされるわけないじゃないー」
「くくく、運命に抗いしリベリオンの宿縁。抗えぬ不可抗力は引き寄せられて深淵へ誘う破滅への輪舞」
「決めつけるな。お願いだから俺の存在そのものがフラグとか発作的に首を括りたくなるような定義をすんなや」
僅かでもそういう気持ちがないわけでないから余計に腹が立つので、俺は吐き捨てるように言いつつ肉の焼けた部分へ齧りついた。
何の魔物の肉だったかこれ。クロエがアイテムボックスから適当に取り出した肉片を塩ふりかけて雑に焼いただけだからな。美味いっちゃ美味いが詳細知ったらリバースするやつとかやだよ俺。
「大丈夫だってー。クロエが取り出す寸前に即座に鑑定してるから少なくとも有害物質混じってはないわよー」
「くくく、贅沢はエネミーな過酷なるダンジョンロード。ポイズン無き肉を喰らいし本能のサーガ」
「いやビジュアル大事だろ。カップラーメンの謎肉だって別に謎な肉ってわけじゃねーんだからガチに何の肉か分からないとか嫌だぞ普通」
「でも文句多いけどちゃんと食べるよねアンタさー。言動不一致すぎてメンタルカウンセリング受けたほうがいいんじゃないのー?」
「そんな文明的なもんがこんなとこにあるか!よしんば存在してたとしてこんなダンジョン深くに居るわきゃねーやろがい!!」
メンタルやられまくってる原因の一つの分際で何という言い草だ。この世界のリアル常識内なら手打ちもんやぞ。
ぼやきつつも俺はこれ以上肉の詳細に関しては考えず食べる事のみに専念することにした。
既に食べていて今更な話だしな。
というのもあるが、冒険者らから幾度となく聞いたダンジョンあるあるの一つ「ダンジョン内で温かい飯をたらふく食べれる事は幸せなことだ」を思い出したからだ。
アイテムボックス持ちがメンバーに居たとしても魔物からのドロップ品や宝箱の中身回収を優先する為に行く前に積み込みはあまりしないという。詰め込んでも予備の武具や薬草や毒消しの薬がメインになる。
居てそれだから居ないパーティーともなれば猶更荷物削るのは免れられないだろう。
この時代の保存食なぞ堅いパンや塩味効き過ぎた干し肉、余裕があれば乾燥させた穀物を籾や干し飯みたいな食べ方する為に持ち歩いたりしてる。
保存や携帯性ばかり重視してるので味は食べられるだけマシレベルなのは想像に難くない。俺も去年の出来事含めて幾度も口にしてるから凄く分かるんだ。
場所によって異なるがダンジョンというのは並みの冒険者なら最短でも一週間前後はかけて攻略するようなとこだ。一週間もああいうのを口にするとなれば些か気力も削がれるのも頷ける。
諸々分かってはいるんだが、それでもこんな危険極まりないとこで何の肉かも分からないものを口にしてる俺は少しぐらい怒っても許されると思うんだよね?
「そこまで言うなら今度の食事はリュガが作りなよー。器具貸すからさー、去年みたいにビストロリュガでもやりゃいいじゃないー」
「くくく、フランぺ乱舞に空虚に沸き上がり噴き出すパスタ。阿鼻叫喚の誘う甲殻類ファイヤー」
「誰がやるか!何が楽しくて節令使がダンジョンでにわかシェフみたいなことおっぱじめないといけないんだ。いやダンジョンじゃなくてもやらんけど」
失敗したら爆笑されるが成功したらノーリアクションで普通に食べられておしまいとか、芸人でもないのにそんなどちらに転んでも嫌なもんやってたまるかい。
相変わらずああいえばこういう的なやりとりに歎息しつつ俺は串に刺してた残りの肉を無理矢理口に詰め込んで咀嚼する。
食べるもの食べて水を飲んで人此処ついた俺は思い切りよく立ち上がった。
駄弁りながら食事する余裕見せたものの、ここから先は改めて気を引き締めないといけないな。
マシロとクロエにはフラグやめろよと言ったが多分十三より更に下があるだろうからね。勘のみを根拠に発言や行動するのは愚かしい事だがこの場合は勘が告げてるとしか言いようがない。
なにせダンジョンには最低でも一つ二つは存在するという宝箱が出てきてない。
現時点でのドロップ品だけでも十分稼ぎにはなるがやはり最低限宝箱の一つでも見つけ出して、尚且つ中身が価値ある物引き当てでもしないとただの無理ゲーエリアだからな此処。
仮に十三到達までに発見すればそれはそれで一区切りと見なして一旦帰る口実にはなりそうだから良い。
昨日からしつこいぐらい繰り返して言ってるけど俺だけでも帰してくれんかね。
ここまで同行すりゃ義理は果たしてやっただろうし許されるだろうよ。
最後まで付き合うにしても果たしてここはどこまで続くのか。せめてもう少し手心を加えてくださいよダンジョンさんよぉ。
内心ぼやきつつ俺はサイドカーの座席に座りなおした。
それを確認したマシロとクロエがキィらを促して移動を再開する。
俺の切実なるぼやきは決して届くことはなかった。
ダンジョン二日目の終わりを俺らは十三階層目にて迎えることとなる。
眼前にこれでもかと飛び込んでくる降り道。
ヴァイト州にあるダンジョンの記録更新となったのだが、無関心二名と素直に喜べず暗澹とした表情を見合わせる六名とで構成されてたので明るい空気とはならなかった。
行くしかないけどさぁ、こんなとこに挑戦する物好きというか命知らずが地元から出てくるのかよ今後。
塩漬け案件な匂いがしてきたことで、いよいよ「何やってんだ俺は」感が否めなくなってきたぞどうするんだこれ。




