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第七十一話 祭りの後

 こうして交流と地域振興を目的とした格闘技大会は何事もなく終わった。


 相棒戦の後は今年最後の祭りだといわんばかりに会場に詰め掛けていた観客らも外へと繰り出しドンチャン騒ぎしていたと報告を受けている。


 屋台で買い物したりダンスをはじめとして各所でやってる催し物を堪能したりと満喫しているようだったらしいので、聞いた俺は安堵したものであった。


 直に見て確かめてみたい気もしたけど、大会運営責任者が第一回目から職務ほっぽって出歩くわけにはいかない。大会終わった後も後片付け的なお仕事はあるのだから。


 そういうのは何度かやっていって軌道に乗って、俺みたいな立場のやつが目を光らせなくても滞りなく運営出来るようになってからだな。


 ……それが出来上がった時点での自分の置かれてる状況想像しそうになったから深くは考えないが。つーか不吉な予感するから考えたくねぇななんか。


 セルフ憂鬱になりかけたのでそれを振り切ろうと、俺は大会終了の翌日から通常業務と並行してこの企画の収益に関する事や問題点を洗い出す事などの仕事も行うことにした。


 何分最初の事なので手探り気味。どうしても慎重になって規模を小さくしたりと数字を低く見積もって立ち上げてしまう。


 交通量調査みたいに複数人を出入口付近に立たせて来場者数カウントしてはもらったが、この世界にカチカチと鳴らすカウンターなぞあるわけではないので現代地球以上に正確な数字は求められなかった。


 片手で気軽に押せるの無理でも数字数える系の絡繰とか作らせようかな次回開催までに。それ以外でも人数調査の際に重宝するかもだし頼むだけ頼んでみるか。


 というわけで大雑把なものであるが来場者数はほぼ予想通りの数字となった。人口少なかろうが州の各地から一か所に集うとなれば混雑と評せる規模にはなるだろうからな。


 しかもそういう人らも折角州都に来たのだからと祭り会場以外でもお金を使ってくれてたようでちょっとした恩恵を街中の店は受けている。


 それでも今回は開催規模などから計算してその上スポンサーになってくれた地元貴族組への配分も差し引くと、俺の手元には利益は残らない。賭場開いてもこれとはいえマイナスとか赤字じゃないだけマシというやつだな。


 まぁこの辺は予想通りと言うか予定通りというか、発案段階で幾度も頭の中で描いてたからショックはないな。来年以降もこうなら少しは動揺するがそうならんよう善処するつもりだし。


 部族のイメージアピールも問題はなかったらしい。


 モモの奮戦ぶりや屋台での地元特産品売り込みなので見直しや当面様子見な空気が生じつつあるとか。つい数か月前まで蛮族とか賊みたいな扱いだったの考えたら好発進と思いたい。


 情報伝達技術が貧弱どころの話ではないこの時代だから風聞も馬鹿には出来ないからな。今後も機会があれば部族部隊の顔見世させていって、良い意味で百聞は一見に如かずとなっていって欲しいものだよ


 問題点の方はといえば小さい事は幾つかあるが特に次回までにキッチリ直しておきたいのも二つ三つあった。


 まず大会会場含む収容数が想定よりもキャパが持たなかった。


 思ったより来客多かったということだから嬉しい悲鳴ではあるが、開催期間中に現地係員のその場の判断で入場制限設けた区域もあったぐらいだから改善はせんとな。独断即応しなきゃいけないぐらいに押し寄せた事実軽んじてはならん。


 良いのか悪いのか未だ判断つかないけど国有地(あくまで俺の脳内定義であり現実はそういう概念希薄だが)だけは有り余ってるからな。今の開催場所を維持しつつ少しずつ拡張していこう。


 ゆくゆくは某ネズミの国とまではいかないがヒーローと握手出来る遊園地ぐらいの規模のイベント会場にしたいね。


 次に治安関係。単純に防犯のことだけではない。


 スリや引ったくり、或いは暴行事件などは目につき次第取り締まりさせてるが、警備員の人数が足りなさ過ぎたので取りこぼしが発生。後になって役所に駆け込み訴えしてきた人らがチラホラ出てきた。


 気を利かせたつもりで迷子保護や道案内サービスしたんだが当のやる側は思った以上に巡回してる時の負担になってしまっていたらしい。


 現場をロクに観ずに良かれと思った思い付きを安易に実行させる。という糞上司ムーヴかましてしまったな俺。率直に申し訳ないと謝りたいよ。それで来客者に被害生じてるんだから猶更だ。


 あとはモラルや常識の違いからのアウト判定か。


 現代地球感覚だと速攻でアウトでも中世だと「まぁそれぐらいなら」で流して終わりとか多々ある。取り締まりに当たっては厳しく当たるよう念を押していても、後から来る報告書に目を通すと割とガバガバ判定連発してたり。


 こちらの方は次回までには無理だが将来的に教育していく方針かねぇ。目に見える物以外でも文明向上させていくなら少しばかり窮屈になってでもアウトラインの線引き妥協はいかんよ。


 上のようなガチ犯罪もの以外だと違法露店の報告も見受けられる。


 あらかじめ許可されたとこ以外は断固として認めてないのだが、曖昧で流せるとタカを括ってるのかお上を甘く見てるのかチラホラとゴザなど敷いて堂々と物売りしてる奴とか居たという。


 一回目は警告して立ち去らせ、二回目には祭り会場から殴り倒してでも叩き出すようにと命じていた。


 更には会場の至る所に注意書きとして立て札してた筈だがそれでも報告にあるだけで二十件あった。発見ではなく叩き出した件数だ。


 叩き出しでこれだから一回目の警告で終わったのや未発見含めたら更にそういうの居たんだろうな。


 関連して賄賂渡して済ませようとした案件も上がった。いずれも未遂で終わったとはいえいつの時代も袖の下に渡すもの渡せばどうにかなるという悪しき風潮はあるものだ。


 応じなかったのは素直に褒めたたえたいし今後より一層厳しく訓示していきたいとこだ。


 概ね成功とはいえ気は抜けないなこうして終わった後の報告読んでると。


 こういった問題改善含め次回は個人戦以外の部門も負けず劣らずのメインにしていくつもりだから今のうちから構造練らないといかんな。


 書類の束を処理しつつ俺の脳みそはいついかなる時も忙しなく動かざるえないのであった。





 大会が終わり十一月となると一気に寒くなってきた。


 季節が空気読んでてくれたのか実にタイミングよく冬の到来を告げる寒気が州全土を駆け抜け始める。


 俺らが祭りの準備をしてる間にも他の役人連中は通常業務に精励している。特にこの時期は税と農業関係が血相変えて右往左往していた。


 定められた収穫量どおり回収出来てるか。それをいかにして各所に換金や配分していくか。それらを王都からの要求どおりに国庫に納めるまでの段取りに誤りはないか。などなど多忙なのだ。


 収穫してそれらを渡せば終わりでなく、残ったものを如何にして冬の備蓄に回してくかという仕事も待っている。


 ヴァイト州は大山脈が寒気をある程度防いでくれてるからかケーニヒ州以北にある各州と比較すれば過ごしやすい。


 雪は山に登れば積もっているが、平野部で雪が積もることは冬季では二、三度。それも一㎝かそこらなので降ったその日には泥混じりの末にただの水溜まりと成り下がる。


 それでも気温は下がるし寒気も完全に遮断されてるわけではないので寒風が動植物を萎縮させる。


 現代地球みたいな科学の力である程度のものは冬場でも作れたり、他所の国から気軽に輸入したりなどは出来ないのでこの時期の備蓄は割と重要な死活問題なのだ。


 故にこの部門に携わる役人らの重責は半端ないし俺のような上司は不備があれば色んな意味で死に繋がりかねないので普段以上にチェックに余念がないわけだ。


 じゃあそこ以外は落ち着いてるかと言われるとそうでもない。


 建設関係は相変わらず忙しい。矢とか槍の雨でも降らない限りは雪が降ろうが寒風吹きさそうが工事の手は止まらない。


 実は銭湯の更なる増設を求められて許可をしたばかりだ。


 理由は至極簡単。寒くなってきたからか暖かいお湯に浸かりたいと思う住民が増えてきてる。


 金銭や家のスペースに余裕ある人は大きなタライに湯を満たしてちょっとした湯あみで凌ごうとするが、そういうのが無い人々らからしたら公営銭湯の誕生を今ほどありがたいと思っただろう。


 要塞建設は緩めさせるわけにはいかないので他の事業から人員派遣することで対応。


 通信施設は先日ちょうど二基目が完成したが今年はもうこれで終わりだろう。下手したら冬終わるまで停止しかねないわ。


 俺の予想以上に大きい建設事業を同時に行うのは難しいと実感。いやもう認めるしかない俺の感覚が現代寄りすぎて見通し甘すぎ故の失敗であることを!


 ただ折角作り上げたので州都庁にあるやつも使って練習を行うことにした。


 今のうちから通信員育成しとけばいつか情報網完成したときに即座に稼働できるからな。ひとまず施設建設開始時から人集めと選考だけはしてたのですぐにでも始められる。


 てなわけで州都庁に来た人々は庭先内にある奇妙な建物が訳の分からない動きを延々としてる光景を目を丸くして見物することになっていた。


 法関係だとこの時期は金銭絡んだ訴訟の処理が多い。言うまでもないが借金関係だ。


 出来すぎなぐらい区切りがいいんだがこの国では12月31日がその年の決算の最終期日なのだ。なので様々な金銭関係の整理が冬場において忙しい仕事の一つになるわけで。


 特に借金はどの時代においても割と深刻な話になる。


 年内にカタをつけようとする金貸しと今年逃げ切ればまたもう少し猶予が伸びる債務者の必死な攻防が街の至る所で観られたりするこの季節。


 州都庁にはこの時期に金を貸してる側が表情強張らせてやってくる。中にはその筋の者そうな人を数人引き連れて受付を脅す勢いなギリギリライン攻めてるイッパイイッパイな人も居る。


 法的手続きをとって差し押さえられる物を合法的に没収してやろうとか、金を借りてる相手がいかに人間の屑かを語って手配書や官憲の手配を歎願してやろうとかとかそれはもう必死である。


 現代地球なら地下で強制労働か希望の船に乗せてデスゲームでもさせそうなぐらいに必死な金貸し連中を宥めたり法律と正論で根気強く諭したりする法務関係の役人達。


 まぁ性質の悪そうな債務者相手は何かしら助力はするけどね。治安維持要員貸すわけにはいかないが情報提供呼びかけの告知を街中に貼る程度は融通してやるよ。


 そういう奴は自棄になって自殺するだけならまだしも目先のお金欲しさに違法行為働く恐れもあるから確保して把握しとかんといけないしね。


 政務系は概ねこのように何かしら忙しい。では軍務は暇なのかと言われたら否である。あちらよりかマシ程度の差だ。


 日々訓練や演習時折警護任務を行っておりそれは冬場も変わらない。更に寒くなって雪が降った日などは往来の多い道などの雪処理作業や冬場半ば閉ざされ孤立気味の村々を巡回して治安維持を行ったりしている。


 特に巡回は大山脈寄りの地域を中心に五〇〇〇人中九割近く動員して行う一大作戦だ。この時代にしてはよく出来てる軍隊行動と思ってる。


 行動範囲が狭まる季節なのでこちらから声掛けマメにしていかないと春になって死人出てたとか深刻な事件が村内で発生してたとか頻発して無駄に忙しくなるからな。やることやってあとは暖かくなるのを待つ季節中だからこそともいえる。


 それら全ての責任者である俺はひたすら執務室で書類に目を通してはサイン書いたり判子を押したり、時には担当呼びつけて質疑応答やったりしてと地味ながらも大事なお仕事をしてるわけですよ。


 他の州と比べたら民衆蜂起や賊討伐の事を考えないだけマシとはいえ、俺がなんでもかんでも考えて判断して責任持たないといけないのはどうかと思うわ。もうちょい中級クラスで処理出来ないものか。


 いやまぁこの地における最高権力者なんだから責任諸々残当だろとツッコミされたらそれまでだが。


 しかも俺が考えて判断した方が確実で早いと思ってやってるうちは自縄自縛な自業自得なので単なる思い付きの愚痴ですわ。


 溜息漏らしつつもそう結論づけた俺は目の前で暇そうにボードゲームで遊ぶド畜生二人を疎まし気に見据えながらペンを走らせてるのであった。


 





 そんな風に十一月があっという間に過ぎ去っていき十二月に入ったある日の事だった。


 十一月は厚着などして我慢してみせたがもういいだろう。ということで執務室の一隅にあった暖炉に火が灯り室内は暖気が充満しつつあった。


 トイレとかで室外出た時の凍えるような寒さの落差は避けようがない。館内全てに暖房とか千年近く早いわと思い知らされる。


 相変わらず決済処理しつつ「師走かもう」と二十年以上前の前世の感覚と記憶引きずりまわしたような呟きをしてたとき、執務室のドアがノックされた。


 警護として控えてたターロンが相手が都庁勤めの役人の一人であると確認をとった上で共々入室してきた。


「節令使様公務中失礼致します。急報でございまして」


「どうしたのだ?」


「それが、先程伝令の兵士がこちらへ駆け込んできまして……」


 曰く、その駆け込み兵士は州都と関所の中間にある町に駐留してる守備兵であるという。知らせをするべく朝一で町を出てきたらしい。


 彼が持ち込んだ急報と言うのは言ってしまえば俺に用事がある集団がこちらへ来つつあるということだった。数はおよそ数百人。荷物を載せた馬車を何台も引き連れてのことだとか。


 それだけなら別に驚くこともない。不人気州勤めとはいえ節令使は節令使だ。お偉いさんに面会の為にどこから誰がやってきても珍しくはあるが不思議ではない。


 無感動に相槌打ってた俺が驚いたのはその続きの報告であった。


 その集団の掲げる旗や馬車の紋様がレーワン伯爵家のものであったというのだ。


 はて俺は一体何か頼んだ覚えはないのだがな?


 思いもよらぬ報告に俺はしばし言葉も出ずに指先で眉間を抑えて俯くのであった。

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