↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/184

第六十三話 交流x格闘技大会(激闘準々決勝)

 発表直後から波乱不可避な準々決勝の幕が切って落とされた。


 第一試合はケリィVSジョセフのエルフ同士の対戦。


 拳と蹴り、どちらも打撃系同士の一戦がどのような事になるのか。リーチの差でケリィが勝つのかあの血気盛んな猛打でジョセフが押しまくって勝つのか見当がつかないものとなるだろう。


 と、思われたのだが。


 試合開始直後からジョセフの動きは精彩を欠いていた。パンチのキレは前の試合よりもないし蹴りも避けられそうなやつにもあっけなく被弾してる。


 ポーション飲んで傷回復してるので外見は普通に見えるがやはり疲労回復は傷程にはなかったようだ。


 先程の泥試合は予選含めて今大会最長の試合時間だった。おまけに全力で至近からの殴り合いと罵り合いとくればそりゃ体力削れてるわな。


 そんな有様だったので前と比べたら甚だあっけないぐらいにダウンした。血の気の多さもキィとの死闘でひとまず燃え尽きてしまってたようだ。


「お、おい起きろ!!いいから立て!!エルフ同士が結託して不正働いてると思われそうだからあっさり終わるなよ!?私個人も嫌だぞこんな形で勝ち上がっても!?」


 あまりにも早々と相手が倒れてしまったので倒した側の方が血相変えて相手の胸倉掴んで揺さぶり出して喚いてる。ジョセフの方は意識がないのか不明瞭な呻きを挙げる以外の反応を見せない。


 レフリー含めて周囲もどう反応していいか分からずにざわついてる。中には変な勘繰りされるの心配して狼狽するケリィ選手への同情を込めた視線を送る者らもいた。


 10カウント過ぎても起き上がるどころか動く気配も見せなかったのでこの試合の勝ちはケリィのものとなった。


 大丈夫だ。もし万が一誰かがそんな疑惑あげようものなら俺や運営は全力で庇うから。それぐらいそこで倒れてるエルフのしょっぱさに呆れてるから。


 心の中で合掌しつつ俺は治療室へ担ぎ込まれるジョセフと喜びよりも周囲への申し訳なさで顔色悪くしてるケリィを見送るのであった。


 ある意味波乱を感じさせる予兆となった試合が終わり第二試合のリッチVSジャガーネル。


 他所からの流れ者の傭兵ということで大して注目されてなかったが、本選での余裕すら見えるような淡々とした戦いぶりであっという間に注目されてきた初老の男。


 この試合でも年齢も種族的なハンデも物ともせずにジャガーネルの攻撃を受け流しては前の試合で見せたような関節技を決めようとする。察知してなんとか凌ぐ獣人医者も流石といえよう。


 だがやはり戦いが本業でない事がここにきて差となってきたのも否めない。


 魔物との戦いで培ってきた進退の読みも相手の技にかからないように引っ込めるので精一杯。しかも関節技を気にするので攻撃も今一歩踏み込みが足りずにいた。


 勇気や覚悟が足りない云々と評するのは酷であろう。繰り返すが彼の本業は戦士でも兵士でもないただの医者である。


 攻めあぐねてるジャガーネルに対してリッチは進んで踏み込む真似はせず、相手から攻撃させてはそれに対応するという形をとっていた。


 ロビン選手の時のように年齢からくるスタミナ切れとかではなさそうだ。現に彼の顔には疲労の色はあまりない上にここまでの試合でも派手に動き回ってたわけではないのだ。


 ここまでのやり口見てると逆に踏み込んで一気に決める事も不可能ではない。しないのはそれほどまでに力の差があるのを把握してる故に焦りがないのだろう。


 やろうと思えばいつでもやれる。


 そんな無言のプレッシャーに当てられてるのかジャガーネルの表情に疲れ以外にも焦りや怯みらしきものが浮かんでくる。


 リングに近い実況解説席だからこそ把握できるんだが、観客席からでも恐らくジャガーネルの動きが少しづつ鈍ってる事で彼が窮地であることを悟るやもしれん。


 動きが少なくなってるとはいえ漂う緊張感に客席も固唾を飲んでいる。


 このままでは埒が開かないと判断したのか焦りからの軽挙なのか、動きを見せたのはジャガーネルであった。


 先程まで相手も出方を気にして踏み込み切れなかった一歩を踏み出そうとするのかダッシュと同時にボディブローを決めようと右手が振り上げられた。


 恐らくだがポーションでの回復を見越して相手に腕を決めさせてその隙に肘か膝をどこか急所に叩き込む。という肉を切らせて骨を断つ手段なのだろう。


 振り上げた腕を誘われて手に取れば思惑通り。取らなかったり避ける為に後ろへ退くならそれはそれで拳を叩き込んでこちらのペースに引っ張って攻勢を畳みかけるだけ。


 どちらに転んでも少なくとも大きな損はないと判断した上での行動であったが、初老の傭兵は別の選択をした。


 向かってくる拳を手に取るまでは合ってたがそこからが違った。


 腕を取り更にもう片方の手が素早く相手の服の首筋部分を掴んだ。両方強く引っ張られたジャガーネルが前のめりに崩れかける。


 抗おうとして踏ん張りをきかそうとするが時すでに遅し。リッチは真後ろに身を捨てつつ片足をあげて足裏を相手の腹部に押し付けると同時に押し上げるように後ろへ投げ飛ばした。


 現代地球風に評するなら巴投げに近いだろうか。綺麗に投げ飛ばされたジャガーネルはマットに叩きつけられて息を呑む。


 すかさずリッチが倒れ込んだ相手の右腕を全身で掴んで固め技を決めた。


 ガーゼルぐらいの巨体とそれが持つパワーがあれば掴まれたまま起き上がれる可能性もあっただろうが、いかに体格に恵まれた獣人とてそれは無理な相談。


 かくしてしばらく藻掻いていたジャガーネルも根を挙げてギブアップをレフリーに申し込むに至った。


 見事準決勝にコマを進めたリッチは相変わらずニコリともせずジャガーネルや観客に目礼して静かにリングを後にする。


 底知れないというか、あくまで目的は別にあって余興で一々騒がない性格なのか分からないな。


 真意が見えないのが少し引っ掛かりつつも俺は意識をすぐさま次の試合へと向けた。


 ここからの二試合は正直解説者としてもなんとも言えなくなる。


 フージVSファンユー。


 この戦い、極端な話ドラゴニュートの防御力を超えれるか否かで勝敗の九割決したようなものだ。ドワーフも魔族も砕けず或いは砕く前に倒されてしまってるのだからな。


 魔物の分厚い皮膚や硬い骨も物ともせずに殴り倒すフージの剛腕。しかし噂以上に硬いドラゴニュートの鱗にどこまで通用することやら。


 グローブに包んだ拳を打ち合わせながらリング中央へ歩んでいくヤンキーと爬虫類特有の表情の乏しい顔つきを維持したまま無言で同じく向かうファンユー。


 優勝候補と目される幾人かのうちの二人がここで激突するだけあって観客から両者を応援する声が飛び交う。


 レフリーとゴングの合図で火ぶたが切られる準々決勝第二試合。


 互いに構えをとって睨み合う。フージに関して言えば後先考えず叫んで動き回るイメージが俺の中で強いのだが、戦いの場では流石にある程度空気読もうとするのは伊達にBランク冒険者ではないということか。


 喧嘩殺法とはいえそれなりに形になってるフージと違いファンユーは本職鍛冶師なので構えも素人目からしても大雑把なものだ。心得ある者なら隙だらけとも判断するだろう。


 それでもここまで勝ち上がれたのは今大会一の防御力を誇る肉体のお陰。場合によっては身体の硬さだけで大会制するというのもあり得るのだ。


 なのでファンユーは基本的に受け身な戦い方をする。相手の方が闘い慣れしてると分かる以上迂闊に動かない方がいいと自覚している。


 しびれを切らして攻め込んできて数発殴らせてから硬さに怯んだ相手へ力任せに反撃加える。これが彼のやり方であった。硬さばかりが目に行くがドラゴニュートも一般人でさえ人間より力が強いのだから当たり前だ。


 だがフージも戦いをまったく見てないわけではなからそれぐらい分かってるのだろう。そしてそれを承知して動くしかないということも。


 それが証拠に二度三度ジャブを繰り返して様子見をした直後に突進を開始したのだ。


「おっらぁ!!!」


 怒声を一吠えすると同時に拳が唸る。


 左右の拳がファンユーの胴体に立て続けに直撃した。パンチの衝撃を受けて一、二歩脚が後退するファンユーだったが、それ以外にリアクションらしいものが浮かぶことはない。


 フージも追撃を避けて同じく数歩後退して距離をとる。構えを取りつつも片方の手を軽く振っているのはやはり硬さが効いたのだろう。


「ちっ、流石に硬ぇや。石の塊殴ったみてーな感じしてら」


「……魔族の拳より痛いとか出鱈目すぎるだろうお前さん」


 忌々しげに呟くフージに無口気味なファンユーが珍しく驚きと呆れ交じりなコメントを返す。やはり反則気味な皮膚の硬さ持つとはいえ殴られたら痛いか流石に。


 まず初手はどちらかというとフージの負けであろう。この辺りの流れはほぼ今までの試合と同じだ。


 魔族用心棒やドワーフ鍛冶師はここからムキになって力任せに殴るだけ殴って焦りを出してきた。フージも同じ轍を踏むというなら勝ち目は薄いだろう。


 再び睨み合う両者。


 いつも通りにいかないと分かった異世界ヤンキーはいつもの騒がしさもどこへやら鋭い目つきで左右を動き回りつつ次の一手を思索している風に見えた。


 一方のファンユーも今までの相手より攻撃力が高い事を肌で感じたからかガードの構えを維持しつつも目はフージの動きを追っている。


 一時間とか経過しない限りは時間制限設けてないからこのまま持久戦でもやり出すのかと思われた矢先、フージが再び動いた。


 先程のように正面から向かっていく。相手の動きを追っていたファンユーが心なしか顔と胴体守るように顔と腰を低くして両腕でガードを強化する。


 また真っ向勝負と思われたがそうではなかった。


 あと一歩で互いの拳の届く距離にまで到達した瞬間、ファンユーの視界からフージが消えた。


 彼の視点では突然消えたように見えたが俺や観客からは丸見えなのでどうなったか分かった。


 フージは拳での攻撃と思わせておいてスライティングする勢いで前かがみになるとすぐさまファンユーの足首付近に組み付いたのだ。


 タイミングバッチリな奇襲成功とはいえ相手が顔を深くガードしてなければ通用しない。屈んだと同時にキックが入ってるところだ。


 まったくモモといいコイツラ一か八かの戦い好きすぎだろ。


 ヤンキーの胆力に軽く感心してる最中でも動きは続く。


 組み付くと同時に前のめりの前進を行うフージ。突然バランス崩されたファンユーが短い叫び声を上げて仰向けに倒れ込む。


 リッチ辺りならここから寝技に持ち込むであろうが、フージはそういう小手先のものではなく単純明快な方法を選んだ。


 起き上がる隙を与えずに馬乗りになったフージ。いわゆるマウンティングポジションを得た彼は容赦なくファンユーに拳を叩きつけた。


 固いものがぶつかり合う音がリングに小さく響いた。


 有利な体勢をとったとはいえ天然の鱗の鎧をどうにか出来たわけではない。結局貫通させなければ致命的にはならんのだ。


 それでもフージは殴る。何発でも殴り続けている。


 通用するまで殴る気でいるらしいなアイツ。幾らポーション治療あるからって拳砕けるぞおい。


 効果はともかくとして絵面的には思わぬ一方的な展開に持ち込んできてる。大番狂わせという程ではないがファンユー有利と観てた人らから悲鳴に近い呻きが漏れ出した。


 このまま続くかと思われたフージのターンが終わったのはその直後だ。


 鞭がしなる様な音とそれで何かを叩くような音が場内に響く。それに続くようにフージから苦痛の呻きが漏れた。


 リング端まで飛ばされたフージがそれでも起き上がりつつ先程まで自分が居た場所を見据えると、そこには身体中を痛そうに摩りながら起き上がるファンユーの姿があった。


 その腰付近には、人間の脚ぐらいの太さをした鱗に覆われた尻尾がうねっている。


「これだけ痛み感じたの久々だよ。つーか幾ら硬いからって素人相手に少しは遠慮してくれや冒険者さんよ」


 無表情気味な顔が苦痛と困惑に歪んでいる。よくよく見ると鱗と思わしき砂粒ぐらいの破片が顔や体からパラパラ落ちていた。


 効いてはいたとはいえあそこからの思わぬ反撃にフージも観客も二の句が繋げなかった。


 いやまぁそりゃドラゴニュートだからね。爬虫類なんだから尻尾はあるよね。今まで使わなかっただけで飾りじゃないんだからそら使うわ。


 なお規定でいうならギリOKなやつだ。空飛んだり火を吹いたりとかは駄目だが尻尾は人間でいう腕感覚だろうから使う使わないは本人の自由。


 実際隠してたわけでもないし使わないと俺らが勝手に思い込んでただけな話。これを反則と言うのは種族に関して無知な奴だけだろう。


 フージも心得てるからか「畜生尻尾すっかり忘れてたぜぇ!!」と歯噛みしつつも納得してる様子で立ち上がっていた。


 しかしこれで有利が無くなったところか勝機を逸してしまったかもしれないのは痛いな。あのまま尻尾喰らう前に殴るのではなく締め上げてたらまだ勝ち目あっただろうに。


 互いに「痛ぇ痛ぇ」と愚痴りながら三度睨み合う。


 フージは尻尾の直撃を喰らった右腕を庇いつつも距離を詰めようとしている。


 まだ闘志衰えてないのは結構だが右腕大丈夫かね?折れてはなさそうだがドラゴニュートの力任せの一撃マトモに受けたから確実にヒビは入ってそうなもんだが。


 庇うとはいっても折れておらず尚且つ動くなら問題ないのかフージは攻勢に出た時には右の方も躊躇いなく相手に振り上げていた。


 打撃戦に持ち込もうとしてるのだがマウントとってるときですら「痛い」と言う程度で済んでるのにどうするのやら。


 闇雲に殴ってるわけではなく、先程まで殴りつけてた胸や顔部分を狙って当ててはいる。欠片らしきものがこぼれたのを見てそこから突破口開く魂胆なのだろう。


 間違ってはないがその前に自身の拳が砕けるのではなかろうか。


 実際滴り落ちる程ではないがグローブに赤黒いものが染み出してきてるのが見えた。魔物殴り倒す拳も限度が出てきたわけだ。


 負担を軽減する為に蹴りや関節技など他を駆使するやり口もあるだろうが一点賭けを選んだようだあのヤンキーは。


 受けてるファンユーも相手が根競べで埒を開けようとしてる事に気づいた。あえて受ける体勢からガードの回数を増やしたり先程から解禁した尻尾で牽制したりと打撃を避けるようになってきた。


 これを効いてる故なのか反撃の地ならしなのか判断し難いところ。しかしフージは前者と解釈したようでもう一歩踏み込んで打撃を叩き込む。


 うーんこれはフージに負けフラグ建ったんじゃなかろうか。


 シャー・ベリンに場の説明を任せて俺は腕を組んで考え込んだ。


 確かに押してるが単に押してるだけだ。最後に立ってる奴が勝者な四角いジャングルにおいてそれは勝ちとイコールではないだろう。


 右腕の負傷に加えてこのまま時間を要さず拳も砕けかねない。足が無事とはいえ両手使えないとなれば幾ら素人でも攻めやすくなるだろうし、ファンユーはそれを狙ってひたすら耐えてる。


 あいつらしいといえばらしいがもう少し捻りを加えて観客沸かせて欲しい。と思ってしまうのは戦わない側の我儘だろうか?


 などと考えてた時だった。


 誰か俺の思考を読んだわけではないが絶妙なタイミングといえることが起きた。


 通算何十発目のパンチを叩きつけようとしてみせたフージ。痛みに渋面作りつつも防御の姿勢をとるファンユー。


 振り上げると見せかけてフージは再び腰を低くしてタックルに切り替えたのだ。


 また足元から落としてマウント取る気なのか?しかし同じ手が二度通用するとは思えないぞ。


 ファンユーもそう考えたのか今度は一歩後退すると同時に尻尾を唸らせてフージへと強く叩きつけようとした。


 叩きつける高い音がリングに鳴り響く。誰もが再び尻尾の猛打にぶっ飛ばされる光景を想像した。


 しかしフージは想像通りとはならなかった。


「この瞬間を待ってたんだよぉぉぉぉぉ!!」


 脚部分にしがみ付くかと思われてた身体は向かって来た尻尾にしがみ付いていたのだ。


 少なくとも想定してた中で可能性が低いと思われてた事をされて咄嗟の反応が遅れるファンユー。そこを逃さずにフージは地面から作物を引き抜くような体勢で尻尾を掴んだまま相手を投げ飛ばした。


 太いものをガッチリ全身でホールドしてるとはいえ、魔族よりも身長体重低いとはいえ、なんとこいつは見事ドラゴニュートを投げ飛ばしてみせたのだ。馬鹿力にも程があるだろうおい。


 振り上げられるように投げられたファンユーが頭からリングの上へ落ちる。衝撃にリング全体が軽く揺れる。


 それに構わずフージは再び尻尾を持ち上げて投げ飛ばして相手の頭をリングへ叩きつける。


 いやなるほどな。


 俺は苦笑を浮かべてフージの意図を察した。


 殴り続けるには手も右腕もそろそろ限界でありそれらが使えないと今更締め技で落とすという手段も出来なくなる。かといってやはり今更蹴りに切り替えた所で手と同じ運命辿る。


 となれば破れかぶれだろうが掴んで振り回し続けるしかなかろうな。


 無論手や腕の負担がゼロになるわけではない。現に上半身全て使って尻尾にしがみ付いてるという、投げる時には最適解なフォームをしてるわけでないのも手や右腕の骨が悲鳴上げだしてる故の苦肉の策。


 相手の尻尾が鱗で覆われてるのを知ったからこそ行えたのもあるだろうな。ツルツルとかなら一、二回投げたら滑ってしまいそうだし。


 結局ドラゴニュートの鱗を完全に砕くという点では負けた。だが皮膚の下まで鱗並みに頑丈ではないだろう。ならば衝撃を与え続けて音を挙げさせよう。


 フージは恐らく瞬時にそういう考えをして即実行に移した。そしてそれが功を奏してると言えよう。


 防御力を誇るとはいえ痛みを感じてないわけではないのだ。しかも頭から固めのマットに遠慮なく高いとこから叩きつけられるとなれば脳震盪も半端ではなかろう。


 振りほどこうにも背後の尻尾の位置に居る相手には手や足が届かない。唯一届く部位の尻尾は相手が渾身の力を込めて身体を使って固めてるので動きようがない。


 耐久力から持久力の根競べとなってしまった。


 疲労と痛みからくる大汗を全身から流しつつも振り回し続けるフージと頭上ばかりを殴られてるよう状態に歯を食いしばり耐えるファンユー。


 どちらが先に音を上げるのか固唾を飲んで見守る事数分後。


「ま、まいった……!」


 落ちた位置にちょうどレフリーの足元が見えたファンユーが反射的に叫んだ。その叫びを聞いたレフリーが幾度目かの投げを敢行しようとするフージを慌てて止める。


 尻尾を握る全身の力を抜かないまま止まるフージを横目にレフリーが確認の為に今一度ファンユーに問いかけると、ドラゴニュートの鍛冶師は両手を広げて降参のポーズを示した。


「……勝者フージ選手!!」


 勝敗の決する声が発された瞬間、観客が歓声を上げて沸き上がる。と同時にフージが尻尾から離れてその場に尻もちをついて呆然と空を見上げる。


「か、勝ったぁ……!でも手が痛ぇよぉ……腕も痛いしよぉ」


「馬鹿野郎。俺が丈夫なドラゴニュートだからって頭ばかり叩かれたら脳みそどうにかなっちまいそうだろうが」


 手を動かそうとして痛みに顔を顰めるフージに倒れたままのファンユーが大きな舌打ちを建てつつ苦情を述べる。


 係の者やセコントポジションの付き人らが救護にくるまで二人はその場から動けずにただただ勝敗の余韻よりも痛みに唸っているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。