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第二十八話 八百長の準備

 族長の家の居間部分は二十人前後が入れる程の広さがあり、そこは話し合いの際は椅子や机を置いて即席の会議室となるようだった。


 家に通された直後、族長は部下に指示させて居間を片付けさせすぐにそのような場にした。


「ささ、むさ苦しいとこで恐縮ではありますが、どうぞこちらへ」


 族長に促されて俺ら三人は会議室と化した居間へ上がり込み、案内された席へ腰を下ろした。


 続いて族長が奥さんと娘のモモを左右に従えて向かい側へ腰を下ろす。その後ろにようやく立ち直った平成が後ろに手を組んで立った。


 更に俺らの左右以外の空席にも後から入室してきた人らが座っていくが、よく見ればゲンブ族とは感じの違う衣装や装飾品を身に着けた人らが何名か居た。


「彼らは近隣に住まう他部族の族長であります。最近の事でワシに相談しにやってきたところに今回の件に遭遇しまして。なのでこのまま加わってもらおうと」


「まぁこちらとしてもゲンブ族以外にも話聞いて貰えたらと考えてたので好都合ではありますが」


 俺が視線を向けると、族長の方々は引き攣った笑みを浮かべて会釈してくる。俺というより俺の左右に居るマシロとクロエにビビッてる感じだ。


 席に座りきれなかった者は壁際に寄って佇んだりしており、外では話が気になるのか多くの者が窓際に集まって室内の様子を伺っている。


 まだ涼しいからいいものの、今の季節に平地でやられたら暑いよな絶対。


 そんな緊張感のない事を考えつつ、俺は目の前に座る族長一家の方へ視線を戻す。


「では、これより話し合いを始める。我らの今後に関わる事なので忌憚なき意見を求む。ただし、節令使殿らに失礼のない範囲でだ」


 主なものが入室したのを確認したゲンブ族長が重々しく開始の宣言をする。


 とは言うものの、議題に関しては大雑把に言えば俺と手を組んで迷惑な二大部族をどうにかする。その代わりこちら側の都合に配慮した振る舞いを今後してもらう。というものだ。それに加えて戦をする際の八百長の打ち合わせも。


 俺はそれぐらいだが、モモが更に先の事を述べるだろう。それに関して他部族が納得してくれるかどうかが問題になるわけで。


 ともかくまずは俺がここへやってきた経緯を簡単に説明した。と同時にモモの考えである相互扶助を目的とした部族の統合についても語ることとなった。


 族長はある程度娘の考えてる事を把握してはいたので冷静に受け止めてるが、他の年配者らは自分ら以外の勢力と手を結ぶだけでなく、自分達が一つの勢力として纏まるという提案に当然ながら戸惑いをみせた。


「確かにコッワ族とフエールサ族のようなのの巻き添えくらうのは御免被りたい。余計な事せずに一族の糧が得られるならそれに越したことはないが、しかしゲンブ族の下風に立つというのも一族の長としては抵抗あるぞい」


 族長の一人が皺の多い顔を撫でながら怒るよりか突拍子のない事への困惑も露わな声でそう言うと、他の者らも無言で小さく頷いた。


 それを見たゲンブ族の長であるターオは厳つい顔を崩さぬまま傍らに居る娘へ視線を転じる。無言の促しに答えてモモは背筋を伸ばして族長らの方へ身体を振り向かせた。


「皆様方がそう思われるのも無理はない。私はゲンブ族なので自分の所を贔屓する魂胆が一欠片でもあるというなら否定はしない。しかし私はあくまであなたがたとの合力によってこの地を今よりもより良くしたいのです」


「合力ねぇ。どうしたいのかね族長の娘殿や」


「まず合議制を敷く。族長らは今の立場のままで部族の数に関係なく対等に話し合いの参加や意見の可否への発言権を得ていく。差を失くしていきそうやって知恵や力を出し合ってこの一帯を発展させていきたいのだ」


「数で軽重決めねぇってのは、小さいとこはありがたいが、そちらのゲンブ族みたいにそこそこデカいとこはどうする?損するのでは?」


 別の族長がもっともな意見を上げる。


 モモは眉間を寄せて沈黙していたが、意を決したかのように申し訳なさそうに話し出した。


「……正直に言えば、私も最良の案が未だ浮かばない。当面は取り纏め役任命の際の優先や分配に関して少し多めに貰い受けるなどで納得してもらい、後々名案が出ればそれに替えていく」


「ふーん、あんまピンとこねぇけど、正直に話した覚悟に免じて当面はそれでええじゃろ。どうよ他のもんは?」


「特に代わりにどうしろって上手い考え浮かばねぇからそれでええわい」


「同じく同じく」


 他部族の族長や同じゲンブ族の面々がそう言い合いながら頷き、モモの意見を割とあっさり受け入れてく光景を見て俺は内心苦笑した。


 普通こういうのはもっと日数かけて激しく議論をすべきだと思うし、モモのこの程度の意見で一応とはいえその場で納得して一族の今後を決めるというのはあまりにも軽すぎる。


 素朴というか緩すぎではなかろうか。と思う反面、時代と地理的条件による文明度合いを考えたらこんなものかもしれないとも考えてしまう。俺が思うような議論の交わし合いするようなレベルならとっくに誰かがここに国の一つでも建ててるだろう。


 俺はあくまで支援者でしかも現時点では「予定」の二文字がつく立場なので流石に口出しは出来ないしね。


 しかしまぁ争いごとが減り糧の安定供給が確立したら彼らにも教育の場を設けてみてもよさそうだ。モモのような行動力ある若者に知識を与えていけばもっと何かやれるかもしれない。


 それが何十年後何百年後かに争いの元となるかもしれなくても、俺は彼らが己を磨く気あるならば何かしてやりたい。


 とか思うのはこれも俺の慢心や驕りになるのだろうか。俺のスキル駆使すればなんとか捌けると無意識に高を括ってしまってはいないだろうか。となれば少し自省せんといかんな。


「さてとなると問題はコッワ族とフエールサ族だな」


 俺がやや思惟に片足突っ込んでいると、ターオ族長の声が耳に流れてきた。


「あやつらは数が多いのを頼んで暴れておるし、我らが一つに纏まろうとしても拒絶するだろう。よしんば応じたとしてもやはり数を背景に自分らの利のみ押し通しかねんしな」


「それに関して節令使殿にお考えがある」


 おおっといきなり話こっちに振ってこられたよ。


 モモの発言に今度は俺の方へ全員の視線が集中する。中には「あの二人に集落焼かせるとかか?」と呟く奴も居たが、そんな安直な事はしませんので。


 俺は咳払いを一つして、ターオ族長らに語る前に確認事を訊ねる。


「この場に居ない他部族の事はひとまず賛同側という前提として、コッワ族とフエールサ族さえどうにかすれば相互扶助を目的とした部族統合の問題はないと見てよろしいか?」


「うむ。この問題抜きにしてもこの辺りで頭一つ抜きんでて数の多いあ奴らをどうにかすれば、大概の事は時間をかけてワシらでどうにか出来んわけではないですな」


「コッワ族とフエールサ族の数は如何ほどか?」


「細かな数字はワシらも把握しとりませぬが、コッワ族が一六〇〇行くか行かないかでフエールサ族が一七〇〇前後だったかと」


 なるほど、ゲンブ族で比べてみても三倍もあるなら、ここより規模の小さい部族からしたら脅威以外の何物ないし安心して糧を得ることも叶わないか。


 顎に手を添えてしばし考えこむ。が、それも差ほど時間は要さなかった。


「……まず誤解される事を承知で結論だけ述べますと、あなた方とこちら側とで戦をしてもらいます」


「戦ですか」


 ターオ族長は目を見開き、周囲の者は俺の意図を図りかねて顔を見合わせてざわつきだす。


 その間に腰から革袋を取り出して残ってた水を飲み干す。口の中と喉を潤し終えて再び口を開いた。


「と言っても形式的なもの。そちらもただ単に一方的に恵んでもらうような形は不本意かつ抵抗があると思われますが?」


「まぁ確かに」


「なので形だけでも戦をして、負けたから仕方がない甘んじるしかないなという事にすれば物資の提供やこちらからのお願い事を聞き入れる際の抵抗感も少しは和らぐというもの。名より実利を取ると決断されたのならば悪い話ではないかと」


「で、そちらは我らを戦で負かして従わせる事が出来るようになった。という事実を得ることになると」


「そうなりますね。そちらには物や金こちらは面子を手にする事で、双方納得さえすれば損ではない取引。そしてそれを機会に今後とも末永くお付き合いしていきたいものです」


「……どうだモモ。そもそも発案はお前だろう。そのお前やお前を支持する若いもんらはそれでいいのか?」


 父であり族長でもある相手から念を押すようにそう言われたモモは俺らを凝視したまま口をへの字に曲げて沈黙した。だんまり決め込んでるというよりかは改めて自分達の考えを反芻してるかのようだ。


 短くも重い沈黙の後、モモは横に居る長の方へ向き直った。


「それでいい。私も私の考えを是としてくれた者らも、目先のことではなく長い目で見れば我らの今以上の繁栄に繋がると思ったから行動した。後は伯爵殿が悪逆な御仁でないのもある」


「ほう?」


「だって族長そうであろう?彼が左右に従えてるあの二人がその気になればコッワ族とフエールサ族どころか我ら周辺部族悉く消すことも不可能ではない。それをせずこうして話し合いの席に応じてくれただけでも、彼の者は少なくとも悪ではないであろう」


「それを言われるとワシも納得せざる得ないな。……まぁそれに拒否した瞬間に殺戮命じられたらたまらんしな」


 最後の部分のつぶやきは明瞭に聞こえなかったがなんとなく言ってる事は分かった。あんな存在が反則なの傍に置いてたらそういうことやりそうという誤解も仕方ないよなぁ。


 危険物扱いされてる二人はといえば傷ついた風もなく「なんか一目置かれてて来ちゃったかなぁアタシらの時代ー」「くくく、可能性の獣の大いなる面目躍如!」とかのたもうてるし。


「あー、それでですね。この形式的な戦のときにコッワ族とフエールサ族を潰すないし弱体化させます」


 俺の発言に周囲は何事か悟ったかのように「あー」とか言いながら頷きだした。特に戦士であるゲンブ族の人らは謎ときを自力で解いた時のように笑みを浮かべてる。


「なるほど。形式とはいえ戦をやる以上は犠牲は避けられないですからな。これは是非とも彼らに矢面に立ってもらうしかないですなぁ!なにせ血の気の多い連中だからさぞ勇んできましょうぞ」


「そういうわけです。そちらの主力をその二つに担ってもらい、他の方は数名ずつ出て頂いて混成部隊として距離を置いてもらいます。その指揮官をモモ殿にやって頂きたい」


「私がか?」


「この戦でコッワ族とフエールサ族を派手に打ち負かした後に、誰ぞ部族の有力者が生け捕りになってしまうという筋書き。ここまでやれば誰が見ても勝敗なぞ分かる事でしょう。モモ殿とは僅か一日半とはいえ他より面識あるから私も他の者に捕まえる際指示しやすいので」


「ふむ、私は構わない。言い出した者としてその芝居に付き合う義務もあるからな」


 力強く断じるモモに俺は軽く頷き返す。


「となるとまずあなた方にやってもらいたいのは、本日この場に居ない部族の方々への根回しと、コッワ族とフエールサ族に戦の事を告げて尚且つおだてあげて一人でも多く参加させる事です」


「ならばワシがコッワ族とフエールサ族の族長に話をつけてこよう。なにまだ力を溜めてる時期だからワシの事は粗略にはせんだろ。根回しは他の族長に任せてよいかな?」


「うーん、上手く説明できるか自信ないのう。今日の話を書いて纏めたのくれんかい節令使殿よぅ」


 族長の一人が自信なさげにそう言ってきた。


「それは良いのですが、字はお読みになられるので?」


「ワシは読めんが、まぁ探せば誰か読める奴おるだろうからそいつに読ませる」


 いい加減すぎるだろう常識的に考えて。


 ふと心配になったので俺はこの場で読み書き出来る奴を挙手させた。声を受けてあげたのは、モモと平成含めて十一名。その中にはターオ族長と奥方のスゥさんも含まれる。


 平成もこの世界の文字読み書き出来るのは、どうやら異世界召喚の際のおまけ特典みたいなものらしい。マシロもクロエもだがラーニングされてたらしく不自由せずやれてこれたのという。


 俺は一から覚えたのは転生者だからということで納得しておこう。自称神様の手抜きではないと信じておこうか。


 しかし族長一家もカウントしてこれだけか。この場には家の外でこっち見てるの含めて百人以上居るというのに。


 うん、識字率は俺らんとこも褒められたものでないから寧ろ部族という単位で暮らしてる人らで文字読み書き出来る人が居るだけありがたいと思い直そう。


「……ではまず当面はそれをやってもらうとして。モモと平成はそれ終わるまで何人かに文字教えてくれ。今後考えたらどの部族にも数人は最低でも読み書き出来る奴居ないと困るわ。で、根回しとか目途がついたらもう一度ぐらいは州都へ来て打ち合わせな」


「心得た。忙しくなりそうだが、悪くない忙しさだ」


「僕は程々でいいんですけどねぇ。というか教師役専念じゃ駄目ですか」


「駄目だ。お前はゲンブ族のお抱え魔術師という立場である以上、族長の娘である私の傍で護衛や助言する役目がある」


「んー?それって僕も戦場に同行するんですかね?」


「当たり前だろう。万が一乱戦になった際に目印は多い方が節令使殿も助かるだろうが」


「……僕はモモさんにスキルが効かない事を今ほど残念に思ったことはないです」


 刑罰喰らう直前の囚人みたいな嘆きの声を出しつつ平成は両手で顔を覆う。そんな平成に気の毒そうな顔を浮かべつつ俺は安堵の溜息を吐いた。


 まぁ今のとこはこんなとこだろうな。戦の打ち合わせもひとまず部族の人らの動き次第で。


 トントン拍子に事が運んだのはいいけど、まさか一日で終わるとは。つーか移動時間のが長いよねこれ。


 とにかく帰還してどんな事態にでも対応出来るように準備進めとかないといけないな。


 とか考えてると。


「よーし、話はついたことだし話し合い上手くいったのと今後の成功を祈願して宴じゃあー!」


「おぉええじゃないか。なんか良さそうな方になっとるし盛り上がろうじゃないか」


「話抜きにしても節令使とかいう偉い客人来た記念になるからな!飲もう飲もう!」


 族長の一人がそう言いだすと周りがすぐさま反応して騒ぎ出した。突然の事に俺が周囲を見ると、ゲンブ族の長一家も相変わらず厳めしい顔しつつも反対することなく席を立って部下に指示を出し始めた。


 おいまだ昼間だぞ。昼間から宴会って全部終わってからにしろよ。なんでこのタイミングでやるんだよ!?


 今すぐやることあるでしょうが。なんで始める前にそっちやるわけよあんたら。


 辺境部族にありがちな何かめでたい事があればとりあえず宴開く。というのを自分が体験する羽目になるとは。


「いぇーい、何か分からないけど何かめでたいパーティーということで肉喰うぞー」


「くくく、ハッピーラッキーパーティー。鯨飲馬食のブラックホールプリズンブレイク!」」


「お前らまで乗るなよ!?あっ、くそ人の腕を掴んで引きずるな!俺は宇宙人じゃねぇからそういう運び方するなぁ!?」


 マシロとクロエに引きずられつつ俺は抗議の声を上げるも無駄な抵抗。一時間もせずうちにまた広場へUターンする羽目となった。


 それから今日の残りは延々と宴が開かれ、ゲンブ族の集落を俺とマシロとクロエが後にしたのは翌日の昼過ぎであった。

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