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カイコウ

書けちゃいました…

 暗い部屋の中に男女がいる。男はベットに腰をかけ、女は立って男を真っ直ぐに見ている。




「――ねぇ、今日ね。お家に貴方のことを手助けしてくれる人が家に来るの…貴方に会いたいって言うかもしれないけど無理して部屋から出なくても良いからね」




 女は男に外に出てきて欲しいと思っているが、自分の元から去って欲しくはないと思っている。また、他人にキズつけられるならいっそ……。




「うん、ありがと…でも多分、会うくらいなら大丈夫だと思うよ」




 そして、男はそんな女を少し怖いと感じたがそれでも1番信頼している人物だったので女の言葉を飲み込んだ。




 そして、女は満足そうに頷くと男をぎゅっと抱きしめた。




「大丈夫、大丈夫だからね。今貴方が辛いのは戦ってるからだから。私は貴方の事は責めないし拒まないから」




 甘い甘い蜜の様に男の中を溶かす様に、言葉が毒となって染み込んでいくゆっくりと気づかぬ内にゆっくりと。
















 何処かにある引きこもり支援センターの事務所の中で、今日も忙しなく職員が動き回っている。



「百合ちゃん〜、悪いけど前から言っていた四葉さん家のアポ取れたから今日行ってくれない?」



「藍田さんわかりました!あの、桜の木が綺麗なお家ですよね」



 百合は鮮明に覚えていた、広い庭に大きな桜の木がある家なんてそうそうないからだ。そして、塀の上から見える桜に憧れていたといってもいい。



「そうそう、あそこの家の桜大きくて目立つからね〜。あっ百合ちゃんもようやく1人でお仕事任されたんだっけ… 1人で頑張ってね!言ってもらえば手伝うからね〜」




「藍田さんっ、ありがとうございます!先輩に迷惑かけないように頑張りますね!」




 百合はとても素直だ、典型的な良い子を演じていると言い換えても良い。そうした方が楽だから、みんなに可愛がってもらえるから。





 そして、約束の時間が来た。少し今日は平均よりも肌寒い。昨日はあんなに暖かかったというのに。



 百合は、四葉家の前に立った。




「さっむっ…もう早く終わらせて事務所に戻りたい…」



 そこで普段は言わない独り言が溢れる。それは、初めて1人で任された仕事という緊張を少しでも消すためだろうか。





 ピンポーンと聞き慣れたチャイムの音が鳴る。大きな家でもやっぱり聞き慣れた音なんだ…と、くだらない事を考えている。おっといけないと思い意識を切り替える。



「支援センターの方から参りました、黒田 百合と申します、四葉桜さんはご在宅でしょうか?」




 引きこもりと付けなかったのは百合なりの気遣いでもある。




 今開けますと言った言葉のあとに、扉が開きとても綺麗な女性が現れた。きっとあの人が母の桜さんなのだろう。しかし、少し若すぎる気もするが。





「こんにちは、今日はよろしくお願いします。どうぞ、中へお入りください」




 凛としていて、それでいて温かみのある声だと百合は思った。



「はい、ありがとうございます」



 そうしていつもの明るさを抑え込みマニュアル通りに、冷静な顔でそう返事をした。












 家の中に入り、百合はアセスメントを開始した。

最初は、クライエントとの関係作りから始まる。

少し世間話をして、本題へ入っていく。




「それでは次に、息子さんの状況を教えてもらえますか?」





 今の現状を家族の目線から話してもらう、そうする事で家族の認知の歪みというものを知ることができる。




「ええ、あの子は最近少しは外にも出てきてくれるんですが…外が明るい内は出たからないんです。あと、私は別に行かなくてもいいと思ってるんですが、学校に行かせろと口うるさくなってきました」



「そうなんですね、旦那さんがそのようにおっしゃっているんですね」




 百合は、桜さんと息子さんとの仲は良さそうで、旦那さんと少し話したら意外と直ぐに解決するのではないかという見通しをつけた。




 その後は、順調に先輩に教わった通りに一つ一つ聞くべき事を潰していく。




 百合は、ふぅーっとバレない様に息を吐いた。アセスメントとして必要な事は聞けたと思う。



「あの最後に、息子さんと扉越しでも少しご挨拶したいのですが……」





「ーーえっ?そうですよね、多分大丈夫だと思いますが…」




 桜としては、若い女性をあまり近づけたくはなかったが、そこは息子のためと思い、イヤだという気持ちを飲み込んだ。






 ノックの音が静かな空間に響く。





「こんにちは、急にごめんなさい。お母さんからお話しは聞いていると思いますが黒田 百合と申します。よろしくお願いします」




 扉は開かなかったがそれでも中から小さな声が聞こえてきた。





「あ、えっと……ごめんなさい………あの、よろしくお願いします…」





 百合は返事は返って来ないと思っていたが、小さな声ではあったが返答はあった、コミュニケーションをとる意識があるそれだけで十分だった。






 百合はこれから事務所に戻る前に最後の挨拶を桜にしていた。



「今日はありがとうございました、これからよろしくお願いします」





「いえ、百合さん今日はありがとうございます、こちらこそ」





 そう桜はふわっと少女の様に笑いながら答えた。


 百合の姿が見えなくなった後、桜の眼は瞳孔が開き虚ろな眼をしていた。最後に桜はガチャっと玄関の鍵をかけた。もう誰も入って来れないように。





 瞳孔が開くのは死んだ時とか虚しい時だけではない。愛している人を見ている時や相手への深い執着を示す眼でもある。





ほんとはR18を、ねちねちした文で書くほうが好きです

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