第十一話「夕食」
夕飯に呼ばれるまで、俺はフォーラムを漁っていた。雑談板ではそろそろデスゲームの話題に飽きてきたのか、本来の雑談板らしく雑多な話題をする板に戻りつつあった。
まずは最強職と地雷職討論か。ソルディアではパーティを組んで狩りに出かける、なんて奴を俺はまだ見かけたことはないが、アークティア全体ではそうやって行動する戦闘職の連中が増えてきたことによるものらしいな。まだ弱いモンスターしか出ないので、あまり強い弱いは参考にならないだろうなーと思いつつ眺める。とりあえず今はこのゲームでは回復職は地雷だ、という流れみたいだ。ヒールでは肉体的な傷しか癒せないことによるものだろうな。MPの回復するスキルがあれば立場も変わってくるのだろうが、今のところみんな低レベルなのでスキルツリーも見えている範囲が限られている。さらに奥の方まで見るためにはレベルを上げてスキルツリーを進めていかなければならないのだ。
そして最強職扱いをされているのが魔法使い。MPも高く、攻撃力も高い。防御力が余り気にならない今の段階では、まさに敵なしとのことだ。・・・やっぱり参考にならないな。こんなの7日目でモンスターが強くなったらまたすぐに入れ替わりそうじゃないか。まあ殆どの人間はそんなこと知らないんだろうし、所詮雑談だからいちいち突っ込んでても仕方ないんだろうけど。
それよりもPKか。正直俺もデスゲームの可能性さえなけりゃ気に入らないやつガンガンPKして行くつもりだった。そういうプレイもありだったのがこのシリーズの魅力だったからな。だがそれが殺人に結びつく可能性があるとなるとやはり躊躇してしまう。実際デスゲームである可能性なんてかなり低いんだろうが、可能性があるだけで踏ん切りがつかなくなる。まあ、深く考えれば考えるほど難しい問題だな、これは。
俺はフォーラムを閉じた。隣ではリーンも俺の部屋で同じように自分のブレイドを弄っていた。彼女はフォーラムに書かれた英語や日本語やその他の言語は読めないみたいだが、ブレイドは使えるみたいだ。どうやら彼女のブレイドはゴブリン族の言語設定になっているようで。ブレイドとは本当に一体なんなのだろう。不思議なデバイスだ。
彼女はスキルツリーを自分で振りたいと言いだしたので、任せることにした。元々ある程度は自分で振っていたみたいだしな。
「結局、何にスキルを振ったんだ?」
「えとねー、『愛』に全部振ってみたの!」
おい。よりによってそんな意味のわからないスキルツリーに振るなよ。
彼女に任せたのは失敗だったか。ステータスを確認する。愛の戦士というパッシブスキルが追加されていた。効果は自分の能力の上昇。ステータスを確認するとMP以外のステータスが軒並み上がっている。
まあ強くなったなら別にいいか。
セラが晩飯を呼びに来た。腹も減ったしちょうどいいタイミングだ。
食堂に向かうと、既にジードがいた。水で汗を流してきたのか、髪が濡れている。ちなみに俺とリーンも狩りのあと交互に川の水を浴びた。しかし風呂入りてーなー。どうにか作ってもらえないものか。
「お疲れ」
「おう、待たせたのう」
セラが俺たちの飯を運んでくる。忙しそうだ。20人ほどの男女がこの食堂にはいる。昼間見かけた木こりや大工、店の連中はいるが、門番役のへらへら男達はいない。なぜだろう。まあ居られても嬉しくないんだが。
料理は鳥肉、人参、ジャガイモ、玉ねぎがごろごろ入ったシチューのようだ。この村には牛も居たのか。森の近くにでも生息していたのかな。俺はまだ遭遇したことがない。今度マシューにでも聞いてみるか。
シチューはうまかった。うますぎて俺とリーンは二杯、ジードはなんと四杯もおかわりした。セラはおいしそうに食べる俺たちを見ながら嬉しそうに微笑み、おかわりを持ってきてくれた。
「昼も思ったが広い食堂だよな。もしかして村中の人間がこの食堂で飯を食べるのか?」
「いや、村長連中は別じゃ。この村にはセラの他にもう一人料理人がいるのだがそいつに飯を作らせている。」
「身分にふさわしい高級なものを、というわけか」
ちょっと皮肉りすぎたかもな。だが、ジードは否定しなかった。
「まあそういうことじゃな。彼らは昼に森で狩りや釣りをする。それを料理してもらっているようじゃ」
「村長の仕事はしないのか」
「30人程度の小さい村だ。仕事なんて村民会議の司会を務めるくらいだ。村長というのも、やりたがっているからやらせているに過ぎない」
ジードの言葉に棘がある。どうやら彼はあまり「村長連中」を歓迎していないようだな。なぜだかはわからんが。
「そうじゃ酒だ。セラ、酒を二人分頼む」
「私も飲みたいの!」
「リーンにはまだ早いじゃろ。」
リーンはおそらくまだ中学生くらいだ。だが水浴びの時に鎧を外したリーンのスタイルはなかなかだった。遠目に見ただけだけど。
「二人だけなんて、ずるいの!」
「そうだぜ、酒を飲むなら俺も混ぜろよな」
いつの間にかマシューがいた。ジードの隣の椅子に腰掛ける。
「マシューか。いいじゃろう。すまんセラ、やはり三人分で」
はーい、とセラの返事が聞こえる。大変だな、彼女も。
「おっ、話がわかるじゃねえかジード」
「みんなひどいの…」
「リーンちゃんは牛乳でも貰って来なよ。セラに頼めばくれるはずさ」
マシューがフォローする。やはりマシューは牛も飼っているみたいだな。
「わかったの!」
「しかしジード、本当にマシューも一緒でいいのか?」
リーンのことじゃない、飲みながら話す内容をマシューに聞かれてもいいかということだ。
「ああ、構わん。というより隠す無駄なのだ。昼の話もこいつは聞いてたんじゃからな。」
「なんだと」
「まあ、そういうわけだ。夕方会った時には言わなかったが、俺のサブクラスは密偵。それでお前を見張ってたのさ」
俺はカードを取り出し構える。こいつ・・・俺を尾行していたのか。迂闊だった。
「おいおい、別にアンタとやりあおうってわけじゃねえんだよ。ただうさんくさいピンクのローブのアンタが門番に嘘を吐いて村に入るのが見えたもんでな、そのまま追わせてもらったのさ。」
「・・・レベルのことか。なぜ俺が嘘をついたと分かった」
「密偵には見破りってスキルがあるんだ。他のクラスでも取得できる鑑定よりも強力なスキルで、相手のより詳細な情報をブレイドを使って得ることができるのさ。」
「そんなスキルがあったのか。」
「ま、そういうこった。ちなみに尾行はインビジブルとサイレントウォークを使った。こっちはアクティブスキルだからアンタがカードにしたいなら手伝ってやるぜ。」
「なぜそこまで」
「ま、アンタに手伝って欲しいことがあってな。」
「昼にアンタとパイプを繋ぎたいって言ったじゃろう。マシューが言っているのはその話に関連することだ。しかし今日この場で話をすることではないな。」
「そうか、じゃあここではンデ・ギオガの話だけを?」
「そういうことになる。」
「・・・おいおい、お前ら、そんな話をする前にすることがあるだろ。ビールが来たぜビール!ありがとよセラ、さあ乾杯しなくっちゃな!」
「皆さん、ほどほどにしてくださいね」
いつの間にか、セラがビールを持ってきてくれていた。
俺達は乾杯をして、酒を呷る。うまい。バ○ワイザーに似ていて、軽くてマイルドだな。何杯でも行けそうだ。
「こんなうまいビールを開始一週間も経たずに作り出すとはな」
「材料はワシが揃えたが、これはロッチの働きあってこそじゃ。ロッチと出会ってなかったら、こんなに楽しい思いはできんかったな」
「まだロッチに会った事はないんだ。今度挨拶も合わせて礼にいこう」
「くぁ-っ、本当にビールは最高だぜ!昨日から俺達も飲ませてもらえるようになったんだが、現実のビールに負けず劣らずだもんな!すげえぜ」
現実、か。俺達は帰れるんだろうか。その現実に。まあ俺はそんなに帰りたい訳でもないけど。
「で、ンデ・ギオガってのはなんなんだ?ゲームの開発主任だった男で今はこの世界の神、だったか」
「ンデ・ギオガは創造神だ。だがこの世界を創造したわけではなく、我々を創造した神であるという設定だ。ンデ・ギオガが来る前より、世界はあり、アークティアはここに存在していたのだ。彼はこの世界における『人』を創造した。全ての種族は皆、ンデ・ギオガと彼の作り出した女神との間に生まれた子どもなのだ。そして奴は我々に『ブレイド』を与えた。マナの力を制御する力だ。この世界での我々の力の根源は、これだ」
俺達は神の子どもね。まあ実感はないが、こういうのゲームってそういう設定があるもんだよな。
しかしブレイド、そんな設定だったのか。思っていた以上に凄いものなんだな。ジードがプレイヤーでもないのにブレイドを持っていたリーンに驚いた気持ちも少しわかる。
「だから父なる神といったのか。」
「そうだ。」
「女神様ねえ。きっとおっぱいのでかい姉ちゃんなんだろうなあ、羨ましいぜ。」
「マシュー。」
俺とジードが睨む。一応真面目な話をしているつもりなんだ。茶々を入れるなよ、と。
「・・・すんません」
「・・・まあいい。次にンデ・ギオガの中身である男の話だ。奴はFOの開発主任としてこの世界を作った。そして彼はゲームから一足先にこのゲームに降り立ち、ゲーム開始までに色々調整をする仕事を負っていた。アークティアは1000年ほど彼の監視によるシミュレートを行ってからゲームをスタートさせたのじゃ。ゴブリン族のように、ゲームの開始前から色々用意する予定のあった種族もいたからのう。しかし奴はその立場を利用し、先に世界を自分の都合の良いように作り替えたようだ。ゴブリン族に対する呪いというのも、おそらくはその一つなのだろう。」
「それで色々あんた達の考えた設定と食い違っていると。」
ゴブリン族の設定を変え、美しく賢い種族にしたのはンデ・ギオガ。そして彼らに呪いを与えたのもンデ・ギオガ。なるほどな。
だが、そうすると矛盾しないだろうか。呪いを受けたゴブリン達の状況はリーンを除いてしまえば殆ど変わっていない。一体なぜ奴はこんなことをしたのだろう。俺が悩んで黙っていても、ジードとマシューで会話は進んでいく。
「おそらくはそういうことだ。だが、あれから考えたのだがログアウト不可能な件といい、単に奴の仕業と考えるには問題が大きすぎる気もする。ゲームマスターとしての権限しか与えられていないンデ・ギオガにそこまでのことができるのか疑問だ。」
「そういやデスゲームってのはどうなんだ?アレはフォーラムでも散々騒ぎになってたよな。」
「それも真偽はわからん。一体このゲームの中で本当は何が起きているのか、ワシにもさっぱりだ。」
「なんだよ。結局ジードにもわからないことばかりなんじゃないか。聞いて損したぜ」
「すまん。ワシは所詮ライターじゃ。開発部ではないし、正直システム関連のことはさっぱりなのだ。全ての設定が前史に書いた通りなら、もう少しうまく話せるんだろうが・・・」
会話が止まる。どうせなら、ここで聞いてみるか。
「・・・そういや、元々の設定が変わることによって、何かが大きく変わるのかな。俺にはあまり変化が無いように見えるのだが」
「どういうことだ。」
「ゴブリン族のことだ。元々の設定でも、今の状態でも、ゴブリン族が醜く愚かな種族として存在していることには変わらない。リーンを除いてな。そうすると、ンデ・ギオガしたことには一体何の意味があるのだろうと思ってな。」
そう、何の意味もない。どちらにしてもゴブリン族は醜く愚かなままなのだ。リーンの話では、彼らは神への恨みすら抱いていない。そこまで愚かなのだろう。それにリーンがその呪いに打ち勝たなかったら、その設定の変更に気付くこともなかった。
「確かにそうだ。奴が設定を弄ったにしてもそれによって今のところ何かが変わっているわけではない、ということか。リーンを除いて」
「そうだ。リーンを除いて」
やはりリーンには何かがあるのかもしれない。というよりは、ユニークモンスターに。ユニークには滅多に遭遇できるものではないらしいが、俺は既にリーンというユニークに出会った。他のユニークモンスターを探してみるのもいいかもしれないな。配下にするにもユニークの方が心強いしな。
「・・・やはりよくわからんのう。ンデ・ギオガは一体なにを何を考えてるんじゃろうか」
「元は人間でも、今は神様なんだろ?深く考えたって無駄だろ。・・・それより、さっきからお前ら酒を飲む手が止まってるな。お前らもう限界かよ。俺はもう一杯飲むぜ。セラ、おかわり!」
「いや、俺もまだ飲むぞ」
セラを呼び、ビールのお代わりを頼むマシュー。俺もジョッキに残ったビールを呷り、セラにジョッキを渡す。話と考えごとに夢中になっていただけで、まだ全然余裕だ。そもそもまだ一杯しか飲んでいないのに限界も何も無い。
俺はリーンの姿がないことに気付いた。
「あれ、リーンは?」
「リーンさんなら、大分前に部屋に先に戻られましたよ。」
セラが答える。
「そうか」
寝てしまったのかな。まあ、まだ幼いとは言っても中学生くらいの少女だ。一人でなんとかなるだろう。
ビールを待っている間、周囲を見渡すと、俺達以外に既にもう客はいなかった。先ほどまで同じように飲んでいた大工や木こり連中はもう帰ったらしい。ブレイドを見ると、時間はまだ夜9時だ。
「皆寝るのが早いんだな」
「ああ、あいつらは朝からずっと仕事してくれてるからな。村がこんなに早く形になったのは彼らのおかげだ」
セラが持ってきたジョッキでビールを飲みながら、マシューが答える。
「そうだ、ジード。人もいないし、あの話もしておこうぜ。」
「そうじゃのう。ンデ・ギオガについてワシの知る話はしてしまったしな。今度はこっちの話も聞いてもらおうかのう。」
「一体何の話なんだ?」
「その前に」と言ってマシューはセラを呼ぶ。
「セラ、食堂のドアを閉めてくれ。外に声が漏れないようにな。そしてお前も会話に参加してくれ」
「もう!人使いが荒いんだから。」
マシューやジードとは親しいのか敬語じゃない。まあ宿泊する客が俺とリーンだけってのもあるか。ちょっと新鮮だった。
「なんだ、セラもあんたらの企みに参加しているのか?一体何をするつもりなんだ」
「それはな・・・」
マシューがにやける。こいつは悪い顔だ。
「害虫掃除さ。」
リーン
アーマードナイト
ゴブリン
レベル10
MP450
ATK130
DEF156
SPD105
スキル:バッシュLv2、アーススキンLv1
パッシブ:愛の戦士Lv1、片手剣熟練度Lv7、シールドブロックLv5、指揮Lv8、カリスマLv5、毒耐性4
愛の戦士Lv1はATK、DEF、SPDそれぞれ+30
つよい




