46.悪の組織と会食
丁京都フリーヶ丘。
住みたい街ランキング常連・スイーツの聖地として知られるこの街には──
今日も恐ろしい(?)悪の組織が存在していた。
そして、悪の組織間の会食が行われようとしていた。
超悪い子軍団たちは武蔵大杉のタワマンシャンパンタワー同盟から会食の案内を受けていた。
「どういう魂胆か知らないけど、タダ飯食えるって言うなら行くしかないわよね」
「だが、この組織……あまりにもコンセプトが下品だ。悪の美学にもおけない」
「それが残念ながらこういう成金趣味の悪の組織ってまあまあ需要あるのよ、金こそ全て、金こそ力ってね」
「それにバカと煙は高いところが大好きですからね!」
「あんたそれ絶対言うんじゃないわよ」
「たしかここのリーダーは高額投資とかセミナーとかで儲けてるって話を聞いたことがありますね。……ぼったくりの」
「余計に許せん……!」
オティスが持っている刀に力を込めるが、アレプトが阻止する。
「合法の範囲でやってるからしょっぴけないのよ、残念ながら。今回は押さえて頂戴」
「ううむ……承知」
「調べると自己啓発本とかバンバン出しているんですよ、一概に詐欺師とも言えないんですよねえ」
「……アレプト様、やっぱり参加するしかないの?」
ブエルは珍しく尻込みしている。
「まあこういうのって舐められたら終わりだからね。今回もあんたの引き抜きの件がくるかもしれないけどリーダーとしてそれは阻止するから安心なさい」
こうして超悪い子軍団は特急で武蔵大杉に向かうのだった。
武蔵大杉のタワマン最上階へ向かうと、そこには豪勢な中華料理が並んでいた。
「ウッ……」
「アレプト様!」
「なんだ、ガキどもじゃないか。お前たちもアイツに呼ばれたのか」
「え?李さん?!なんでこんなところに?!」
中華料理のトラウマで倒れかけるアレプトを横目に現れたのは美食会の李だった。部下たちに指示を出し中華料理を並べている。
「アイツに呼ばれたからに決まってるだろう。あとついでに私の店のケータリングを頼まれたのでな。美食会として総出で出しているわけだ、まずい料理を出すわけにもいかないからな」
「やあやあ超悪い子軍団の皆さんですね、うちの榛名が大変お世話になっています」
李と話しているとヒョウ柄にファーの付いた豪華なスーツを着た男が近寄ってくる。
「俺がタワマンシャンパンタワー同盟のボス、月見山望だ。今宵は無礼講といこうじゃないか」
そう言いながら名刺を渡してくる。
「あら、あんたが噂の……超悪い子軍団リーダー、アレプトよ、今日は招いてくれてありがとう」
名刺を受け取りながらアレプトは言う。
「ところであんたのところの幹部、教育がなってないわよ。この前なんて可愛いうちの団員に非同意の引き抜きをしようとしたんだから」
「いやあ、うちは金をどのくらい持っているかで地位が決まるからなあ。榛名のことだろう?可愛い可愛い子供の交渉だ。色々教えてやってくれ」
「……やはり気に食わぬ。金など経済が終わったらただの紙切れだろう。何故そこまで金に拘る」
オティスが月見山を睨みつける。月見山は困ったように笑う。
「当たり前だろう、この世の中、金がなければ生きていけない。金を中心に世界は回っているんだ。愛も仲間も拠点も全て金で買える。人間の価値は金に変えた時に決まる。だからこそ金こそ絶対の社会を俺は作りたいんだ」
「お言葉だけどこっちの世界征服の最終到達地点は配給制だから金なんて意味なくなるわよ」
「ああ、だからそこらへんも含めて交渉したいのさ。……金で買えないものなど価値なんてないがね」
ボソリ、と月見山が呟いた言葉は超悪い子軍団には届いてなかった。
「お前たち、料理の準備ができた。冷める前に食え。……まあうちの料理は冷めてもうまいがな」
李が呼びかける。
こうして会食が始まった。
「フカヒレスープうっま!こっちのエビシュウマイもうま!」
「ブエル!はしゃぐのをやめなさい!……それで、私たちに
何を求めるというの?」
「簡単だ。同盟だよ」
「詳しく話を聞こうか」
三人のボスは腰を据えて話し始める。
「きっかけはそうだね……この間うちに加入した幹部の榛名君が超悪い子軍団のブエル君を大層気に入っててね。引き抜きは失敗したがそれなら同盟を組めばいいと。美食会に関しては今後パーティで使うケータリングの用意をしてほしい。勿論代金は相場より高く出す。不可侵条約、とも言えるかな」
「ふむ、魅力的な提案だが──私たち美食会は縦浜中華街の売上を納品してもらっていてね。金には困ってないのだよ。それに武蔵大杉から縦浜までの侵攻など現実的ではない」
「こっちとしても論外よ。可愛い部下を愛玩用に貸すわけないでしょう。心を射止めなさい、心を」
「榛名」
「はい」
すると榛名がジェラルミンケースに入った金を取り出す。ざっと計算しただけでも一千万円は超えているだろう。
「年に一回の支給、どうだね?」
「お断りよ、あんたね、勘違いしてるみたいだから言わせてもらうけど人間に価値なんてつけられないの。価値をつけた瞬間それは物になるのよ」
「物になって何が悪い。そちらのブエル君もうちの榛名に可愛がられて対価が支払われる。いいことじゃないか」
「俺の心情は無視……?」
ブエルがボソリとつぶやく。
「つまんないわね、人間に価値をつけること自体が間違ってるのよ。人間に価値をつけたらあのセラなんて法外的な値段になるわよ」
「あれは特別だ。しかしこの世界の全てのものには値段が付けられる。これがタワマンシャンパンタワー同盟の価値観、だよ」
「そうか、ならば我々美食会の価値観も教えようじゃないか」
李は指を鳴らす。
すると食卓に座っていた李以外の全員が美食会のメンツによって拘束される。
「美食を味わうときは最低限の会話で済ませる──食材、シェフへの敬意だ。全部食べるまで帰さんぞ」
「これデジャヴー!」
「私桃まん食べたいわ!」
「あ、僕は麻婆豆腐をお願いします。山椒を多めにかけてください」
「エビチリ。その後に白米を」
「クッ……食事を好きにすら取らせんとは……なんてタイパが悪いんだ、美食会、お前たちとの同盟は破棄だ!」
「ああ、そうか。それはこちらとしても助かる。それはそうとして食事は取ってもらうぞ」
李は長い黒髪を靡かせながら言う。
(ねえねえオティス、李さんってオティスとキャラ被ってるけどなんでキレないの?)
(彼は私とは格が違う。私には到達できない域だ)
そんなコソコソ話をする。
全ての食事が終わるまで三時間くらいかかった。
前回に比べ点心を中心に食べたアレプトはご機嫌である。
「ま、そういうわけだからこっちも却下よ。もっといい案持ってきなさいな」
そう言って超悪い子軍団と美食会は立ち去っていく。
「金で思い通りにならないだと……?!なぜだ、理解できん……一旦どういうことだ……金額が足りなかったか?」
「……あの計画を見直すか、あれさえ出れば、世界は金という価値しか見なくなる。そうだろう……」
そんな月見山の呟きが、静かな部屋を支配した。
月見山は一体何を企んでいるのか。
美食会の目的とは一体。
謎が深まる回でした。
次回もお楽しみに!




