14 迎えの到着
香を焚いて数分、フェリーはすぐに飛んで来た。
それはもう、酷く不快そうな顔で。鼻は外敵から身を守るイソギンチャクみたいに萎んでいる。この香は余程効き目が良いらしい。
ポケットの時計を見ると時刻は丁度昼になる頃だった。上流に着いた時刻が七時くらいだったことを考えると、もう既に五時間は経過している。
フェリー曰く、自分は目の前で突然消えたらしい。
消えたボクを捜索する為に集落の人をほぼ全員を動員し、探していたのだとか。これといって怪我や危険に遭ってないからか、感謝と同時に申し訳なさで変な汗が背中に滲む。
「全く、急にいなくなるんだから驚いたぜ」
「すまん。ちなみに消えたってどんな風に?」
「いや、もう、目の前からパッとだ。ビビったよ、漫画を一巻をすっ飛ばしたみたいに脈絡なく消えちまうんだから」
「それは神隠しという奴ですね」
フェリーの後ろから見覚えのない男が出てくる。
つばが大きい緑色の帽子を被り、明るい茶髪が出ている。灰色のコートのような服を羽織り、大きなリュックを背負っている。
イメージは詩人に近いか。男の顔は整っていて華があり、親しみを持てるような雰囲気があった。
「神隠し?」
「ええ。おっと、失礼。私はリヒト・ステッレ。商人をやっております。今朝丁度集落に着いたら軽い騒ぎになっていたので、捜索のお手伝いを」
「ご迷惑をお掛けして申し訳ない。自分はシスイです。それで神隠しというのは?」
「この辺の言い伝えです。歩いていると突然風景が変わる。知らない場所にいた、という昔話。この土地の神様や妖精がいたずらをしているなんて言われてます」
「妖精ねえ。そんなものがいるんですか、この森に?」
「丁度シスイさんの後ろにいますね」
振り返ると、先程の不思議生物。
風に当てられ、鳴らないまでも揺れる風鈴みたいにふわふわ浮いている。
「君、妖精だったんだね」
「なんかデカくねえか? オレの知ってる妖精はもっと小さいし、光ってる」フェリーもじっと見つめる。
「妖精の発光現象は龍脈エネルギーの消化反応です。物語に現れる妖精とは全く別ですね。昔の人間の想像力の豊かさかが伺える」
「でも龍脈からエネルギーを取れるのって龍だけなんだろう? セシアが言ってた」
「彼等は現存する龍のプロトタイプですから。ほら、証拠にここに角みたいな部分があるでしょう? この大きい妖精も一般的な妖精と同様の構造をしているように見えます」
「ムウ」
自慢げに背中を見せる妖精はボクの周りをぐるぐると回る。
「やけに懐かれてるな、おっさん」
「確かに。妖精がここまで友好的なのは珍しい。普段はただ宙を浮いている、微生物と変わりないような生態のはずなのに」興味深そうに見るリヒトさん。
「リヒトさんは学者も兼任してるのかい?」
「いえ、ただ知る機会というのが多いだけです。ギルドからの依頼というものまあまあありまして、それで」
趣味とも言えないですね、と帽子を直すリヒト。
いそいそとフェリーの背中に跨る。
「さて、ここは自然豊かで居心地が良いですが、できるだけ急いで戻った方が良い。可愛らしいお嬢さんが心配そうに探し回っているので」
「シルワアか。確かに心配させるのは悪い、というか、少し怖い」
「鋭角な蹴りが飛んできそうだもんな」
しかし、居心地が良い、か。
リヒトの言葉を聞いて、遺跡があった方向を振り返る。
木々が生い茂り、地形の凹凸が激しい地形のせいで石造りの入り口は見えない。でも、あの中の空気は今もボクの周囲に漂っている。
居心地が良いとは個人的には思えない。なんせ、ここは緑が強すぎる。人が立ち入って良い場所ではない。
遺跡から出て多少はマシになっているが、植物以外の生物が見られないここは不気味に思える。けれど、もしかしたら、ボクの感性の問題かもしれない。
「そういえば、ここはどの辺りなんだ?」
「ガルダリル原生林の端っこ」
ふうん、と答えてフェリーの背中に跨った。




