1︰思いもしないお別れ宣言
「最後のスタミナポーションが……何をするんだよ、ゼルコバ!」
いきなり僕にぶつかってきたし、ホント何するんだよ!
僕がいつものように大量の荷物を持ち、いつものように倒したモンスターからドロップアイテムをかき集めていただろ。
汗だくでヘトヘトだから、スタミナポーションを飲もうとしていたのを見てたはずだろ!
でも、パーティーリーダーの【ゼルコバ】は僕のスタミナポーションを壊した。
普通の人ならここで謝るところなんだけど、幼なじみのゼルコバは違う。
「悪いなレオス。壊しちまったぜ」
「壊したって、あれが最後のスタミナポーションだったんだぞ。どうしてくれるんだよ!」
「知らないな。動けないなら置いていくだけだ」
「置いていくって、そうならないためにスタミナポーションを――」
「まどろっこしいな。わからないのか? ここでお前とはお別れだって言ってるんだよ!」
「なっ!?」
突然、何を言ってるんだ……?
ゼルコバは固まっている僕を見て、ケラケラと笑う。
だから僕は思わず反論した。
「なんでそんなことを。僕、頑張ってきたよゼルコバ!」
「何もできない荷物運びなんていらないんだよ、レオス!」
何もできないって……確かに荷物運びだけど、すごく頑張ってたんだよ!
そう思っていると、ゼルコバはフンと鼻を鳴らし僕を追放する理由を並べ始めた。
「お前の魔力のせいで強いモンスターしか寄ってこないんだよッ。それに、有望な精霊だって寄ってこない。つまりマジで邪魔なんだよ!」
う、確かに痛いところだ。
でも、だからこそ雑務でみんなを支えてきたんだけど……
反論ができず、僕は困る。
だから助けを求めるように仲間達へ僕は目を向けた。
でも、僕達を見守る三人のうち二人は冷めた視線を僕に突き刺していた。
「当然じゃない? だってアンタ、精霊に嫌われてずっと契約できていないでしょ? だから精霊がいなくてスキルが使えない。正直いらないのよ。ねぇ、ガンガ。アンタも言ってやりな」
「戦えない、支援もそんなにできない。荷物運びも満足にできない。お前、役立たず。いないほうがマシ」
「そうそう。ルナが肩を持ってくれなきゃとっくにおさらばしているんだから。というかアンタ何? まだFランク冒険者じゃない。とっととやめたほうがいいわよ?」
長い黒髪をポニーテールにし、銀の胸当てを装備した少女に衝撃的な言葉をぶつけられる。
隣に立つ体格がいい重戦士はウンウンと頷き、僕がいかに役立たずなのかを強調してきた。
確かに僕は魔力を持っているにも関わらず、みんなが持っている精霊がいない。
だから精霊の力を借りれずに、みんなのように活躍することができないでいた。
少しでも役に立ちたくて荷物運びをしていたけど、それでも足手まといとしか見られていなかったんだろう。
言い返すことができない。
そう思っていると、少し遅れて緑髪にメガネをかけ、ローブに身を包んだ少女が声を上げた。
「ちょっ、ちょっと三人とも! いきなり何を……」
「そのままの意味よ、ルナ。私達はこいつのお守りに限界なの。というかこいつずっと【精霊なし】じゃない。バカにされちゃうのよね、一緒にいると。それにこいつ、身の丈の合わない夢を持ってるし。なぁに、SSSランク冒険者になるって。いくらなんでもバカすぎない?」
「バルミ、あなたなんてことを! それにお守りって……レオスがいなかったらこのパーティーは崩壊してるわよ!」
「いないほうがマシ。オレ、そう感じてる」
ルナは懸命に僕を庇おうとする。
それを見ていたゼルコバがうんざりとしたため息をつき、ある言葉を口にした。
「ルナ、お前の親がした借金はいつ返してくれるんだ?」
ゼルコバから放たれた思いもしない言葉。
それをぶつけられたルナは、言葉を飲み込み黙り込んでしまった。
そんなルナを見て、ゼルコバは口角を上げる。
そしてルナに、こう忠告した。
「もう少しで返済できたんだったな。そうだな、このまま黙っててくれたら利子はそのままにしておいてやるよ」
ゼルコバの言葉にルナは唇を噛んだ。
そんなルナからゼルコバは視線を外し、僕に向ける。
ゆっくりと近づき、目の前に立つとゼルコバは唐突に僕の右頬をぶん殴った。
「おっと悪い。役立たずを殴っちまった」
殴られ、倒れた僕は頬を抑えながら起き上がろうとする。
ゼルコバはそんな僕に容赦ない蹴りを入れてきた。
見事に腹部に深く突き刺さり、今度はお腹を抑えて僕は悶える。
そんな姿に気を良くしたのか、ゼルコバは楽しげに笑った。
「ハハハッ! おい、こいつ虫みたいに転げ回ってるよ! これが本当の虫けらってか!」
「あら、ホント。これがザコの姿なのね!」
「オレも蹴りたい。蹴っていい?」
「やれやれ。痛いぐらいが気持ちいいってよ!」
また思いっきり蹴り飛ばされ、僕は転がる。
そんな僕を見て、ルナ以外の幼なじみは笑っていた。
みんなのために頑張っていたのに、なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。
そもそも、どうしてこんな目に僕は合っている。
くそ、なんでこんな痛い思いをしているんだ。
「あー、スッキリした。おいルナ、転移の羽を用意しろ」
「……そんなものを用意してどうするのよ?」
ボコボコにされ、動けなくなった僕に飽きたのかゼルコバはルナに声をかけた。
ルナは強く睨みつけながら問いかけると、ゼルコバはこう答える。
「わからないのか? こいつを置いて、俺達は帰るんだよ」
「なっ。そんなことをしたらレオスがモンスターに――」
「食われるだろうな。なんせこいつには精霊がいない。だからスキルも使えない。もっと簡単に言えば、戦う力がないからなぁ」
「わかってるなら、なんでそんなことを!」
「こいつは俺の本当の顔を知っている。だからだよ」
その言葉を聞いたルナは、強く奥歯を噛んでいた。
でも、反発したくても反発ができない様子だ。
だからゼルコバの言う通りに転移の羽を道具袋から取り出し、準備し始める。
ゼルコバは素直に従うルナを見て、満足げな笑顔を浮かべる。
そして、まだ起き上がれない僕へ近づき、こんな言葉を囁いた。
「お前、さっきアイテムを拾ってたよな。それ俺のものだから、返してもらうぜ」
僕が持っていたアイテム袋が奪い取られる。
中身を見るゼルコバは、笑いながら「シケてるなぁ」と言い放ち、空っぽになったアイテム袋を投げ捨てた。
「じゃあなレオス。お前を食べたモンスターが腹を壊さないことを祈ってるぜ」
ゼルコバ達、いやかつての仲間達が僕をダンジョンに置いて脱出していく。
一瞬だけルナが振り返ったけど、すぐにゼルコバ達を追いかけて消えてしまった。
「うっ、くそ……」
何もできなかった。
殴り返すことすらできなかった。
僕が弱いから、できなかったんだ。
精霊さえいえば、こんなことにはならなかったかもしれない。
でも、いないものはいない。弱い事実も変わらない。
悔しいけど、認めるしかないのが現状だ。
「ああ、くそ。なんで、こんな痛い思いをしてるんだ」
身体中が痛い。とても情けない思いが心を支配する。
でも、まだ生きている。
生き延びるためにも、今はこのダンジョンから生きて脱出しなきゃ。
だけどどうやって?
ここは強いモンスターが闊歩しているダンジョンの深部十階層だ。
精霊なしじゃ鉢合わせた途端に食べられて終わりだよ。
「このまま終わりたくないっ」
こんなところで、こんな終わり方はしたくない。
どうにかしてダンジョン脱出をして、生還しなきゃ。
こうして僕は心を奮い立たせ、生還するための手段を探し始めるのだった。