8話 スキャンダルですよ!⑥
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学園の片隅、誰も寄りつかない旧クラブ棟の一室。
そこに、三人の少女が集まっていた。
時刻は昼休みのみんなが騒いでいる時間。
机の上には一枚のプリント。
あの“魔法少女出現”の記事だ。
「……ねぇ、これ、完全にエヴァのことだよね?」
陽菜が額を押さえてうなだれる。
制服の袖をまくり上げ、机に突っ伏した姿はまるでテスト勉強に敗北した人間である。
「夜の路地裏で謎の光って……これ、昨日の現場そのまんまだもんね」
月菜が苦笑いしながら肩をすくめた。
彼女の声は穏やかだけれど、どこか焦りが滲んでいる。
田中さん――いや、“エヴァンジェ・ソト”は、そんな二人を前に腕を組み、静かに記事を見つめていた。
「最近のスマートフォン、妙に性能が良すぎるのが問題ですね。誰が撮影したのか分からないけど……」
エヴァはため息をついた。
まるで「テクノロジーの進歩が魔法より厄介」だと言いたげだ。
「……ていうか、よりにもよって学内新聞に貼られるとか運悪すぎる」
「うん、それだね」
月菜が頷く。
「やはり撮影した可能性があるのは月菜さんのお兄様、タクローさんが濃厚ですね」
エヴァが小さく呟いた。
陽菜と月菜が、ほぼ同時に顔を見合わせる。
「……え? 何でお兄ちゃんの名前が出てくるの?」
「実は昨日の夜にタクローさんと会ってしまったのですーー魔装姿を」
魔装とは彼女らの魔法少女の衣装の事らしい。
陽菜が肩をすくめた。
「何でそんな大事な事を話さなかったの?」
「えーと……2人の師匠的なポジションにいる私が身バレしてしまうなんてドジをするのは恥ずかしいなぁーっと思いまして」
どうやらエヴァはドジっ子魔法少女らしい。
「でもどうするの? 月菜のお兄さんが私たちの正体に気づいてしまってたら」
「……厳密にはこの件を知ってしまったら記憶の消去。または存在の消去となりますね」
エヴァは淡々とそう言ったが、その瞳の奥にはわずかな焦りがある。
「そんなのダメェえええっ!!!!」
「勿論、タクローさんを消去するつもりはありません。今のところは。一応、あの時は他人の空似だと言いましたので私の正体は知らないはずです」
勿論、タクローは田中さんが魔法少女エヴァンジェ・ソトである事に気づいている。
もれなく月菜と陽菜が魔法少女である事も。
「でも、確定ではないはず」
「だから、放課後にタクローさんに話があるとアポを取りました。そこで話をしてみようと思います」
月菜、陽菜はお互い頷く。
「くれぐれもお兄ちゃんを口説かないでくださいね!」
「え? 何でそのような事を?」
「放課後、話しがしたい、2人きりで……」
「ーーーーっ!!!!」
まさにベストな告白シチュエーションである。
陽菜の言葉にエヴァは顔を真っ赤にした。
「そ、そそんな、確かにタクローさんはとても良い人で優しそうな方ですが……こ、告白だなんて……」
「そうだよ陽菜!! お兄ちゃんにエヴァさんは勿体無い。お兄ちゃんには一回り年下の妹系で身長148センチぐらいの少し痩せ型の長髪で元気が取り柄の女の子がお似合いだよ!!」
因みにその容姿は全て月菜に該当する項目である。
「……まぁ、とりあえず、今は“沈静化”が先。学内ではただの合成写真って情報を流す」
「陽菜さん、それ、いい案ですね!」
「じゃあ、月菜のお兄さんはどうする?」
室内の空気が、一瞬だけ張り詰める。
エヴァは目を閉じ、考え込んだ。
数秒の沈黙ののち、静かに口を開く。
「……もし――本当に核心に触れそうになったら、その時は……」
彼女の言葉が、わずかに濁る。
「“記憶の改善”も、やむを得ませんね」
月菜が少し眉を寄せた。
「うぅ、出来れば使って欲しくないけど……」
「でも、仕方がない。むしろ知っていたら月菜のお兄さんは大変な目に遭う」
「そうですね……ニブラとの戦闘に巻き込んでしまうかもしれません。これは最終手段としましょうか」
3人は頷き、意思を再確認した。




