8話 スキャンダルですよ!⑤
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「いや、俺も平和が一番だと思っていましたよ……」
のんびりと廊下を歩いていた。
今日は特にテストも行事もない。ただの日常。
……のはずだったのだが。
「なにこれ、人だかり?」
前方の掲示板に、妙に人が集まっていた。
笑い声、ざわめき、「マジで!?」「ウソでしょ!?」みたいな反応。
だいたいこういうときはろくな内容じゃない。
「多分またゴシップだろ。『〇〇と△△が付き合ってた!』とか、『購買のパン争奪戦に敗れた悲劇』とかさ」
そう言いながらも、気になって覗いてしまうのが人の性だ。
そして次の瞬間――俺の動きは完全に止まった。
『正体不明の“魔法少女”出現!? 夜の路地裏で目撃者が激写!!』
掲示板の真ん中に貼られた紙。
見出しがバカみたいにでかく、インパクト抜群。
そして下にはスマホで撮ったらしい写真――光の尾を引く人影。
だが俺にはわかった。背景の建物、看板の位置。
……昨日、田中さん――いや、“エヴァンジェ・ソト”さんが戦ってた、あの路地裏だ。
「……タクロー、これって」
「見なかったことにしよう」
「いやでも、これ……けっこう大ごとだよね?」
ミアが真顔で言った。冷静に見えて、少し声が震えていた。
そして、こういう時に限って一番うるさい奴が現れる。
「きたああああぁぁっ!!」
ショージ。テンションMAX。
彼は勢いよく人混みをかき分け、掲示板を指差した。
「見たかタクロー! やっぱり魔法少女は実在したんだよ!!」
「……お前、昨日『いねぇ!』ってキレてただろ」
「昨夜はたまたま出なかっただけだ! こういうのは運なんだよ、運!」
無駄にキラキラした目で語るショージ。
その熱量の分だけ、俺の背中には冷や汗が流れていく。
これ、やばい。
この写真、変に鮮明じゃないのが逆にリアルだ。
もしSNSに拡散でもされたら――彼女たちがどう出るか。
下手したら、俺がこの情報を流したとされて消されるパターンもある。
いや、マジで。魔法とかで。
「ショージ、落ち着け。こういうのはどうせ誰かの悪ふざけだ」
「ふっ……まだ現実を認められないんだな?」
「認めるも何も、俺は生きたいんだよ」
ため息混じりに言う俺の視界に、ふと――見覚えのある金髪が目に映った。
……田中さんだ。
彼女はゆっくりと人混みをかき分け、掲示板に目を向ける。
その横顔は穏やかそうで、それでいて……どこか緊張していた。
やばい。やばいやばいやばい。
これ、本人が見るパターンだ。ニュースで自分の顔映るくらい気まずいやつ。
「田中さん! 見た!? 魔法少女だって! これ絶対本物だよな!」
――死亡フラグ、建設完了。
俺は心の中で合掌した。
「そうですね……本物かもしれませんね」
田中さんは柔らかく微笑んだ。
だが、俺にはその笑顔の奥に“圧”を感じた。
笑顔なのに、どこか冷たい。目が笑っていない。
「やっぱり! よし、俺も今日から魔法少女ハンターになる!」
「ショージ、やめとけ。ほんとにやめとけ。命が惜しければ」
田中さんはゆっくりと俺の方に向き直った。
そして、まっすぐに俺の目を見据える。
「――タクローくん、放課後……お時間、ありますか?」
「は、はいっ」
反射的に背筋が伸びた。
まるで警官に「ちょっとお話いいですか?」と声をかけられた一般市民のそれ。
周囲がざわめく中、田中さんは静かに微笑んで――教室へと去っていった。
その背中を見送りながら、俺は思う。
あの笑顔、絶対優しく微笑んだとかじゃない。
あれは『お前、覚悟できてんだろうな?』と悪意のある微笑みだ。
「……なぁタクロー。お前、田中さんに何言われた?」
「放課後話があるってさ」
「でも放課後って……告白ってことだよな!? やるなぁ〜!」
「たぶん違う。俺に明日はないのかもしれん」
だって、田中さん――いやエヴァさんの本業は、コスプレイヤーではなく魔法少女。
その正体を知ったからには消されるかもしれない。
放課後。
俺は、人生で一番気が重い約束に向かうことになるのだった。




