再会
アンセルムは鳩の足に付けられた手紙に、怒りが爆発した。
『モードリン・レプセント辺境侯爵令嬢が、王太子暗殺未遂犯として拘束されている。
王国軍がレプセント辺境侯爵邸を急襲するも、家人は逃走済であった』
「こんなことの為に、送り出したのではない」
2年以上経っても忘れえぬ令嬢。
幸せになると言ったではないか。
今夜にでも密かに処刑されるのでは、という不安にかられる。
優秀な軍人を忍ばせているのだ、モードリンを助けるために動くだろう。
レプセント邸をイグデニエル軍が急襲するも逃げられたのなら、威信にかけて逃走者捕獲網をしいてくるだろう。
アンセルムは、モードリンを助けて直接ガイザーン帝国に向かわず、隣国を経由するように手紙を書いて鳩に付けた。
この鳩は、魔核の粉末を混ぜた餌で育てた結果、どんなに広範囲でも、同じ餌がある所を見つけれるようになった。
アンセルムとシャードが魔核を混ぜた餌を持っていれば、どんなに遠く場所が分からなくとも、アンセルムとシャードの間を飛ぶのだ。
魔核を粉末にして利用しているガイザーン帝国で、薬効を高める以外にも様々な実験をした結果の一つである。
そして、何度目かの手紙のやり取りで、モードリンを助け出し、隣国に向かっているシャード達と落ち合ったのは、モードリンを助けてから二日後、隣国との国境の町であった。
「よくやった。モードリンは馬車の中なのだな」
アンセルムは、シャードとゲーリックを労い、馬車の扉をノックする。
ノックはシャードかゲーリックだと思っているモードリンは、開いた扉から入ってきた人物に驚く。
「アンセルム殿下? どうして、ここに?」
アンセルムはモードリンの痛々しい姿を見て、怒りをあらたにした。
投薬をしていたが、腫れも引いておらず、傷も完治していない。
アンセルムは、モードリンを抱きしめた。
二年前には、触れる事も許されなかった二人である。
「会えて嬉しい。よく頑張ったな」
アンセルムに抱きしめられ、声を聞くと、モードリンの緊張も解けてくる。
ゆっくり伝わる体温に、モードリンは生きていると実感する。
アンセルムにしがみつくと涙が止まらない。
「お父様が!」
アンセルムは自分にしがみついて泣くモードリンに、愛しさが込み上げてくる。
痛々しい身体は、モードリンの抵抗の証。
早くガイザーン帝国に連れ帰り、治療に専念させたい。
だが、今はモードリンが気の済むまで泣かせたい。
「モードリン、もう大丈夫だ。私がずっと側にいる」
「あぁぁ・・・
私を逃がすためにお父様が!」
モードリンが、ずっと言えなかった言葉。
苦しくって、心が痛くって、悲しくって。
「絶対にイグデニエル王家を許さない」
アンセルムは、モードリンが泣きつかれて眠るまで抱きしめていたが、モードリンが眠ると膝に乗せて横抱きにした。
そして、腫れている頬にそっと触れる。
「痛かったろう、怖かったろう、だが、生きていてくれてありがとう」
これからは絶対に守る、と心の中で誓う。




