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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
モードリン・レプセント
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ユージェニーの哀しみ

ユージェニーはモードリンを連れ帰ると、領地にいる両親に手紙を書いた。

このまま婚約を続けるわけにはいかない。だが、それは現辺境侯爵である父でないと決断できない。


結婚式まで2カ月と迫っており、事態は緊急を要している。


妹は王妃となり、この国の安寧(あんねい)を願っていた。

その為に努力をしていたし、王太子に寄り添おうとしていた。政略だからこそ、お互いを尊重し合う必要があるのだ。

妹を側妃になど、バカにしているにもほどがある。

ユージェニーは国軍の将校であるが、即座に国を見限った。あの王太子が王になる国に未練はない。

だが、王太子はともかく、王と王妃はモードリンを逃すまいと圧力をかけてくるだろう。

モードリンの執務室で、モードリンだけでなく事務官や侍女が王太子の言葉を聞いていたが、王はすでに箝口令(かんこうれい)を敷いているだろう。


モードリンが王太子と婚約解消するには、王家側の大きな過失が必要だ。

元々が好き嫌いでの婚約ではない、嫌いになったから止めるという事はできない。

大事な家族だから、レプセント辺境侯爵家はモードリンの婚約が決まると、イグデニエル王家へ魔核の優遇をした。毎年の納付量に上乗せをしたのだ。

ガイザーン帝国は魔核を粉末にし多くの薬の効力を高めて、多くの病人に配布しているが、イグデニエル王国では治療薬として魔核そのものを王族と限られた貴族に投与して、強い効力の恩恵を受けている


「モードリン」

ユージェニーはモードリンの部屋の扉をノックする前に声をかけた。


「はい、起きてます」

中から聞こえる声に精気はない。

「少しでも食べれるか?」

ユージェニーは、スープとサンドウィッチ、キッシュ、フルーツの乗ったワゴンを押して部屋に入る。


ユージェニーは侍女を下げて、部屋に二人きりになると、サロンのテーブルに料理を並べた。

モードリンは、ユージェニーの向かいに座り、スープを手に取った。ユージェニーはモードリンの様子を見ながら、サンドウィッチに手を延ばす。

「私も、これを夕食にするよ」


「ダメよ、お兄様は身体を使うのですから、キチンとした食事が必要ですわ」

笑顔を浮かべようとしても、モードリンの顔は強ばっている。スープを数口飲んで、口元を手で押さえた。

グゥ!

吐き気が込み上げて、モードリンの身体が震える。

ユージェニーは、机を回るとモードリンを抱きしめた。

「いいんだ、吐いていいんだ。ここには私達だけだ。吐いていい、泣いていい」


「うわぁあ!」

モードリンは両手をユージェニーの背中に回し、しがみ付いて泣いた。

「何がいけなかったの!?私は何が足りなかったの!?

エルモンド様と生涯を共にする気でいた!エルモンド様の役に立てるように、頑張った!」


ユージェニーは妹の背中を、優しくさする事しかできなかった。

ガイザーン帝国から戻って来てから、妹が王宮に通い詰めて勉強しているのを見ていた。

妹が王太子に恋していたかはわからないが、愛情があったからこそ王太子の為に頑張ったのだろう。


「もういいんだよ、休んでいいんだよ。

側妃などと、レプセント家をバカにしている。そんな王家に嫁ぐ必要はない」


モードリンがゆっくりユージェニーを見た。

「いいの? 嫁がなくっていいの? 側妃にならなくっていいの?」


「ああ、もちろんだよ。もし、父上が婚約を継続すると言われても、私が必ず説得するから」

父は婚約を解消するだろう、と思いながらユージェニーは妹を(なぐさ)める。


泣きつかれて眠ってしまったモードリンを、ユージェニーはベッドに運んだ。

モードリンのベッドには、枕の横に銀狐の襟巻が置かれていた。

その襟巻を抱きしめて毎晩眠っているのだろう、とすぐに分かる。


ガイザーン帝国から贈ってきた銀狐の襟巻。


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