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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
モードリン・レプセント
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離れていても消えぬ想い

時間軸が少し戻り、ガイザーン帝国になります。

ガイザーン帝国では、アンセルムがイグデニエルに忍ばせた者からの報告を受けていた。

「王太子が親密にしている令嬢がいるだと?」

声が冷静なだけに、怒りの深さが伝わってくる。ファントマはもっていたペンの手を止めて、アンセルムを見た。

この皇太子は、いまだに結婚どころか婚約者を決めていない。それは王族として問題だが、王が認めているので誰も強硬に話を持っていけない。

初恋の令嬢を国益の為に政略結婚させて、自身も政略結婚をした王は、アンセルムに望まない相手との政略結婚をさせようとはしていない。

モードリンが結婚すれば、アンセルムも諦めて結婚をするだろうと、周りは思ている。


「モードリンは知っているのか?」

報告者は、アンセルムの問いかけに頷いて答える。

「一ヵ月ほど前から、レプセント侯爵令嬢が出席しない宴には、王太子は男爵令嬢をエスコートし親密な様子を隠す事もなかったようです。王太子の執務室にも出入りさせており、貴族の間では知らない者はいない状態です。

王太子は王から注意されたと情報を得てますので、王太子妃の公務をしているレプセント侯爵令嬢が情報がないというのはありえないと考えられます」

そしてこれが男爵令嬢の資料です、とアンセルムに手渡す。


「ご苦労だった。すぐに戻ってもらうことになる。今日はゆっくり休んでくれ」

アンセルムは部下を(ねぎら)うと、資料に目を通した。

モードリンの幸せを願い、想いを口にすることもできなかった。

「くそっ!」

アンセルムが資料を床に叩きつけた。

こんな女に引っかかった王太子のせいで、モードリンが苦しんでいると思うと、やるせなかった。

モードリンを手に入れたのに、どうして大事にしないのだ。


「ファントマ、イグデニエルに行くぞ。調整してくれ。私は陛下に報告をしてくる」

すぐにでも部屋を出ようとするアンセルムをファントマが止める。

「待てよ! 結婚式に出席の予定にはなっている。それ以前に行くというのは、まさか、モードリン嬢を(さら)いに行くというのか!?」


「結婚前から愛人をつくるような男が、モードリンを幸せにできるはずなかろう!」

「戦争になるぞ!」

ファントマの言葉に、アンセルムの足が止まる。


「あの時、モードリンを攫わなかった事を何度も後悔している。

今度は、不幸になるモードリンを見捨てる事はできない。

モードリンのイグデニエル王国に身を捧げる覚悟を踏みにじったのは、イグデニエルだ!」

振り向くこともなく言い放ったアンセルムは、ファントマを残して部屋を出て行った。


忍び興行が多い皇太子であっても、他国で1週間以上隠密行動するのは簡単にはいかない、相応の準備が必要である。


その準備中に、さらに報告を受け取ることになる。

『イグデニエル王太子エルモンドが、メイリーン・マークス男爵令嬢を正妃にして、モードリン・レプセント侯爵令嬢を側妃にすると公言』


これには、ガイザーン皇帝も激怒し、アンセルムは皇宮を飛び出した。

その後をファントマをはじめ、皇太子の側近達が後を追う。

馬で駆けても、イグデニエル王国に入るまでは数日かかる。ましてや、国境付近では目立つわけにいかない。

ガイザーン帝国皇太子が、イグデニエル王国に入国したと知れてはならないのだ。


戦争になる可能性を分かっていても、モードリンを攫いたかった。

私だったら、大事に、大事にする。

一目でも、モードリンに会いたい。

アンセルムの抑えていた想いが、あふれて止めようがなかった。


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