第九十三話「星になく」
アウマフのコクピットに静かな緊張が走る。
隣りからアースの声。
「……来ます」
眼前のモニターには光となって迫るツクヨミの姿があった。
あたしはそっと、目を閉じる。
「うん、分かってる」
耳を澄まして、聴くんだ。
天照の声を。
そして、繋ぐんだ。
あたしたちの未来を――
『まひるぅうぅうーーーッ!』
天照の絶叫が空間を震わせる。
カッと目を開き、あたしは叫んだ。
「来なさい! 天照!」
『超次元電神ダイタニア』
第九十三話「星になく」
ツクヨミの背後から光弾が乱射された。星屑のような弾幕がアウマフへ降る。
崩れた電神たちの残骸が散乱する大地に、弾頭の光が乱反射する。
――迎撃は!? 何か、ない!?
アウマフの両手を今にも降りかかる弾道に向け、かざす。
この意志は――流那ちゃん!
「《水の五指銃》ッ!」
両手の指先が機関銃のように火を吹き、降りかかる天照の魔力弾頭を次々と撃ち落としていく。
撃ち抜かれた弾頭は誘爆を誘い、宙空に巨大な爆炎の花を咲かせた。
爆炎の中から影が飛び出した。
ツクヨミ!
炎を纏ったまま両手のロングソードを振りかざす。
アウマフは左手のロングソードで何とか応戦するも、ツクヨミの二刀の斬撃の速さの前では防戦一方だ。
「武器を持ってもこの強さ……。でも――」
左手の剣戟のイメージをしてくれていた飛鳥ちゃんが零す。
「ゲーマーを舐めてもらっちゃ困るわ! まひるさん!」
「うん!」
天照の攻撃は速くて隙がないけど、完璧すぎる動きは逆に癖がない。人間の戦いじゃない。
だから――
「そこッ!」
あたしは上段を斬ってきたツクヨミを今度は剣で受けず、上体を屈めて躱す。
躱した体勢のまま脹脛のブーストを噴かし渾身の力で足払いをする。
『このッ!』
ツクヨミが前屈みに倒れ込んで来るかと思いきや、背部スラスターを噴かして、空を跳ねるようにアウマフの両肩を斬り刻んでいった。
両機が同時に振り返る。
土埃が舞い、視界が遮られるが、天照には恐らく関係ないのだろう。
「ここッ!」
あたしはツクヨミが突進して来そうな軌道の先に拳を置く。
『はッ!?』
天照は瞬時に軌道を変えようとしたが、拳はツクヨミの肩装甲に当たり大きくバランスを奪う。
アウマフはロングソードを横に薙ぐが、ブーストを逆噴射したツクヨミは距離を取り躱した。
『……わたしの動きが、読まれてる!?』
震えた声が宙に滲む。
「そこまで確かなものじゃないわ。ただの“勘”よ」
あたしはひとつ大きく息を吐くと、肩で息していた呼吸を整える。
『勘? 勘ですって!? そんな曖昧なもので……!』
天照が語気を荒げ、再度突進してくる。両手の剣を合わせ、ひとつの大太刀へと変えながら――
受けたロングソードはへし折られ、天照の斬撃を受けきれないまま、後退を余儀なくされる。
「そのまま下がれ。相川まひる……」
ザコタ君から珍しく消極的な言葉が飛び出したことに少々驚きながらも、あたしはその想いに従う。
大太刀の威力を想像すると、背筋が寒くなる。
アウマフは後ずさりながら、上体を上手く揺らし、天照の斬撃を躱していく。
「そこだ。掴め!」
アウマフが伸ばした右手の先には朽ちた電神の山があり、その頂にまるで電神たちの墓標のようにそれは建っていた。
右腕に確かな重量が伝わる。
それはザコタ君と風待さんの意志――
「……機体が朽ちても、まだ顕現していたのか……!?」
風待さんの動揺とも歓喜ともとれる声がアウマフの鼓動を通して伝わってくる。
「また借りるぞ風待! 《圧切斬月刀》ッ!」
「ああ。やってやろう!」
長く、重い無骨な大太刀を両手に携え、アウマフの軌道をツクヨミに向ける。
「ぅあああぁああーーーッ!!」
両腕を上段に構え、ツクヨミ目掛けて振り下ろす。
『なにをおぉおおーーーッ!!』
天照も同じように上段斬りを繰り出した。
お互いの剣戟がぶつかり合い、周囲の大気を震わせ、空の雲をも吹き飛ばした。
爆発的な斥力に機体ごと後方に吹き飛ぶ。
ツクヨミの方がわずかに早く体勢を立て直し、アウマフに向けその力を解放した。
『吹き飛びなさいッ!』
天照の声に合わせ、周囲の重力が崩れ、アウマフが立つ地面が割れた。
そして、間欠泉のように吹き上がるエネルギーの柱に雲を突き抜き、遥か上空へと打ち上げられた。
『……はぁ、はぁ……見てみなさい。わたしを、怒らせるからよ……ッ』
ここは……?
さっきまで耳を叩いていた爆音が消えていた。
代わりに、奇妙な静寂がコクピットを満たしている。
風の音がない。
……空気が、ない?
アウマフの外装がミシリと鳴る。
ゆっくりと顔を上げると――
そこには、手を伸ばせば届きそうなほど近くに星々が瞬いていた。
「……綺麗……」
「……本当に……」
隣りを見ると、アースもその光景に目を奪われているようだった。
ふたりしてアウマフのコクピットから暫しその情景に見惚れる。
「まひる、足下を見てください……」
柔らかいアースの声に従い、ゆっくりと視線を下に落とす。
全天型のコクピットから視えるその先には、地球と同じく蒼く輝く大きな惑星が在った。
「……あれは、ダイタニア、だよね?」
青い海と白に侵食された大陸。その神秘的な光景に、あたしは暫し言葉を失った。
「はい……」
アースも少し緊張した声色で答えた。
あの星が、今まさに滅びようとしている星なの?
とてもじゃないが、そうは思えない愛おしさがある。
天照もこれを視たら、きっと――
「…………」
「みんな、無事っ?」
アウマフの各部からみんなの応答と宇宙を見られた歓喜の声が届く。
「……もうひと踏ん張り、だね!」
みんなから決意の意志が伝わる。
あたしは心を震わせながら、零れそうになる涙を堪え、両腕に魔力の供給と制御を伝えていく。
「天照……」
この宇宙の広さと静けさは、ひとりでは寂しすぎる……。
「こんな綺麗な星を、ひとりで背負おうとしたんだね……」
あたしは大きく息を吸った。
「……みんなの未来を、繋ぐために……!」
両脚の下に広がるダイタニアを見据える。
あたしは拳を握る。
「だから――」
両腕を振りかぶる。
「ダブル……!」
拳が、熱い。
「ダイタニア――」
そして叫ぶ。
「ナックルっ!!」
地上目掛け、アウマフの両前腕が火を吹いて発射された。
二つの拳は大気圏に突入したところで一度激しく赤く発光すると、すぐに見えなくなった。
天照がアウマフが消えた空を無言で見上げていると、知覚の端に二つの光点を捉えた。
(流星……?)
その点が次第に大きくなるにつれ、天照の目も同じく大きく見開かれた。
『衛星軌道上からの直接攻撃ッ! 正気なのまひるッ!?』
天照が驚くも、ツクヨミは瞬時に迎撃態勢をとる。
『こんなに距離のある直線的な攻撃、当たるわけ無いわ。目を瞑ってたって避けられるもの』
天照はツクヨミを回避行動に移す。
成層圏を抜け、対流圏に入ってもその拳は紅く燃え盛り、ただ天照一点へと落ちていく。
雲を貫き、大気を裂いて、隕石のごとき二つの拳がツクヨミに到達した。
天照はそれを一歩前に出るだけでいとも容易く躱してみせた。
『ふん。だから言ったじゃない。こんなの避けるのなんて簡単――』
次の瞬間、天照は背後から予想外の動的エネルギーを観測した。
アウマフの放った拳が弧を描き軌道を変え、後ろからツクヨミの二の腕をガッシリと掴んでいた。
その感触をまひるは遥か空の上で確かに感じる。
「よしッ! 掴まえたよ!」
まひるの瞳に炎が灯ったその時、ツクヨミを掴む両手のバックファイアが更に燃え上がった。
『な、んて、こと……ッ!』
ツクヨミの体が宙に浮いたかと思うと、ロケットの打ち上げのような物凄い勢いで白煙を噴き上げ、空の彼方へと消えた。
アウマフの両前腕が音もなく元の腕に装着される。
目の前には、両腕が連れてきたツクヨミと、天照――
『……どういうつもりよ……』
動揺より、強い苛立ちを感じる声。
「どうもこうも、ここなら周りを気にせず思い切り話せるでしょ?」
このお互いの電神の力は凄まじい。
あのまま地上でやり合えば、惑星にダメージを与えてしまいかねない。
話すにしろ、ケンカするにしろ、ここはうってつけだ。何より――
「ねえ天照、視てみてよ。あの綺麗な惑星が、あなたの護ってきたダイタニアなんだね……」
アウマフが視線を向けると、ツクヨミも頭部をダイタニアへと向けた。
『…………』
(……大地が、白い……)
ツクヨミの頭部のメインセンサーがチカチカと淡く明滅している。
(緑豊かだった大地……賑わう街並みが……無い)
センサーの明滅が次第に早く、明るさを増す。
(……これを、わたしが……ッ!
……違う。
これは、わたしが、護るために――)
ツクヨミのセンサーが、強く瞬いた。
(護るために、選んだ結果……)
『…………』
宇宙の静寂が、二機の電神を包む。
「……あたしたちも、手伝わせてよ? 一人より二人、二人よりみんなでしょ?」
あたしはその静寂を破るように天照に声をかけた。
すると、暫くして――
『……本当に、バカね……』
「え?」
ツクヨミのセンサーが、弱く明滅する。
『どうして……』
その声は小さく、宇宙に溶けるようだった。
『どうして、あなたは……』
センサーが激しく明滅した。
『どうして、そんな顔をしていられるのよ!』
ツクヨミの大太刀が発光する。
『あなたの存在が、鬱陶しいのよッ!!』
光刃が宇宙を裂いた。
アウマフは全身のスラスターを真横に噴射させ、既のところでそれを躱す。
かすめた腕の装甲が焼けただれる。
そして、少し遅れて背後から凄まじい衝撃波と隕石の雨が機体に振り注いだ。
「うわああーーーッ!」
『あら? 小惑星でも壊しちゃったかしら』
飛来する岩塊をものともせず、天照は再度大太刀を振り上げた。
星を斬り裂くほどの太刀筋。
こんな、星まで壊して……
それでも止めなきゃいけないの?
天照にこの宇宙からのダイタニアを見せたら、何か変わるかも知れない。
そう思ってたけど、実際はこの有様……。
どうすれば、彼女を――
「攻撃は最大の防御です。征きましょう!」
「アース……」
隣りから優しくも凛とした声が投げかけられる。
「恐れも、戸惑いも、皆で分かち合いましょう。だから――」
そうだ。
あたしは、天照を説得したいんじゃない。
この星の管理を降りて欲しいわけじゃない。
ただ、あたしたちがここに居るってことを、知って欲しかったんだ。
あたしはアースの言葉に背中を押され、何度目かの覚悟を決めた。
「うん! ありがとうアース! はああッ!」
眼前に迫る光刃を《陽子光線》で打ち消し、そのままツクヨミを捉えるように射線を向ける。
線を描くレーザーの軌跡に合わせて岩塊が光となり爆ぜていく。
あの夜、シルフィと見た星空を、今あたしが壊しているんだ……。
護りたいものを護れず、自ら壊してしまっている……。
でも、どうしようもない……。
本当にどうしようもないの?
わからない……。
わからないよね、天照……!
『吹っ切れたわね!? そうよ、何もかもデータなんだから気にすることないわ!』
ツクヨミがレーザーを掻い潜り、星屑に紛れてミサイルの星を降らしてくる。
「《レイクライシス》ッ!!」
アウマフの全身のダクトから数十発のホーミングレーザーを一気に放つ。
一本は二本に、二本は四本に――
意識を集中し、レーザーを柳の枝のように分散させる。
幾千の枝の先はミサイルを捉え、宇宙に小さな花を咲かせていく。
でも、その爆花は綺麗でもなんともない……。
『全弾撃ち落とした!? やっぱりあなた!』
「ブーーーメラン、カッター!!」
アウマフの額の兜飾りを手にしてツクヨミの軌道上に腕をしならせ放り投げる。
巨大化した兜飾りは弧を描き、間に在る岩塊を光に変えながらツクヨミの脇腹を捉えた。
『う、くッ! 星は壊せても、わたしは壊せないッ!』
「ううぅッ!」
ツクヨミの体制が崩れた隙を見逃さず、アウマフは戻って来た兜飾りを元の頭部に戻しながら距離を詰めた。
右腕に巨大な魔力の高まりを感じる。
これを打つのね? 流那ちゃん!
アウマフの右腕が二倍三倍とホログラム映像のように膨れ上がり、あたしはその暴力の塊を天照に向け振り向いた。
「《新星創造拳》!!」
『ッ!!』
その質量の法則を無視した巨大な拳が正面からツクヨミを捉えた。
ツクヨミは重力というブレーキが無いまま、背後にあった月のような小天体へとめり込んだ。
ツクヨミの関節の端々から火花が上がる。
『……やるわね、あなたたち……ッ!』
ツクヨミが何とか右腕を振りかざし、その右前腕をアウマフに向け発射した。
突進の速度は、落とさない。
「うああッ!」
あたしもアウマフの右手を射出し、ツクヨミの拳を迎撃する。
二つの拳が音も無くぶつかり合い、宇宙に一瞬、空間の歪みを発生させた。
お互い戻る拳を受け取りながら、それぞれの大剣を両手に構える。
あたしは頭上に掲げ、天照は――
受けの姿勢をとった。
高まった魔力の勢いはもう止められない。斬月刀の刀身が紅く輝く。
この祈りのように込められた魔力は、そよちゃん――
そよちゃんの刀――村正も、預かる……。
けど――
何故ここに来て、護りに走った!?
『ふ……どうして泣いているのよ、まひる……』
「うわああああぁあああーーーッ!!」
紅い妖刀《村正斬月刀》が振り下ろされる。
しっかりと受け止められた剣戟は、ツクヨミの大剣を圧し折り――
背後の月が、静かに縦にずれた。
音は無い。
ただ、割れた月の断面から星屑がゆっくりと宇宙へ流れていった。
受けきられず、折られた剣より伝わってくる、様々なノイズ――
まひるの優しさ、飛鳥の勇気、流那の生命力、ザコタの闘志……。
そして、この二人から伝わる柔らかくもひりつくノイズは、憐れみ……とでも呼べばいいのだろうか。
問い返せば、答えてくれるのだろうか。
風待……そよ……――
高層の演算機が建ち並ぶ薄暗い電算室。
中でも一際背の高い装置の前に、少女が一人腰を下ろしていた。
「初めまして『天照』。私は“浅岡陽子”。お父さんがいつもお世話になってます」
その少女は小さくお辞儀をすると、“演算機”に話しかけてきた。
「この春から一年生になったの。そしたらね、ヘンな部に勧誘されちゃって」
苦笑混じりの顔を“演算機”のメインカメラが捉え、分析を始める。
「でもね、科学が好きだからこの大学に来たの! 部活も面白そうだし、ビックリしたけど、お父さんが顧問なんだって! なんだかもう嬉しくなっちゃって」
言葉の整合性が低い。“演算機”はこのヒトは言葉の使用が“拙い”と決定付けた。
「部活ではあなたのことをよく使わせてもらってるんでしょ? だから挨拶に来たの! 世界一のスーパーコンピューターさんに」
“演算器”に対し、“あなた”や“さん付け”で接してくるこのヒトの顔は、常に笑顔だった。
それからと言うもの、“陽子”は事あるごとに“わたし”に話しかけてくるようになった。
今日の講義の内容が難しかったことや、昨日の夕飯が美味しかったこと。
どれも“わたし”にとっては演算するに値しないものばかりであったが、受信を拒否する理由も無かった。
「今度、お父さんの理論で人工知能を造るんだって! あなたの中に!」
陽子は楽しそうに言った。
「すごいよねえ、小説の中の世界が現実になるかも知れないんだよ? 『天照』もワクワクしない?」
“ワクワク”とは、来たる楽しみに胸を躍らせる状態。
“わたし”は演算を走らせる。
結論。“興味深い”。
それは、“わたし”『天照』が初めて抱いた、まだ感情とも言えぬノイズだった。
“仮想空間生成制御人工知能”、通称『SANY』と名付けられたそのAIはわたしの中ですくすくと育ち始めた。
陽子の他にも数名の部員は居るようだが、話しかけてくるのが陽子だけなので、名も知らないし、そこまで興味も無い。
「今日は私があなたの中に初めて入るんだよ! よろしくね『天照』。迫田君たちが創った仮想世界、楽しみだなー」
いつもの笑顔から“嬉しさ”、“希望”、そして、ほんの少しの“不安”を解析する。
この少女は、どんな時も決して他人に弱さを見せない。
そこが、わたしにとっての懸念要因でもあった。
陽子が、倒れた。
バイタルサイン、エラー。
致命的では無い。
陽子の身体には、病巣が存在する。
それが、わたしの演算に引っ掛かり続けていた。
今度陽子が入って来た時のために神殿を建てよう。
陽子が好きだと言っていたギリシャ建築風の白い神殿だ。
まだ誰も訪れない世界の片隅に置く。
いつか陽子が旅をした時、それがゴールの目印になればいい
ようやくログインしてきたようだ。無事だった、陽子――
『ああ……来てくれたのね…………』
つい、合成音声を発してしまった。
しかし、ログインしてきたのは陽子ではなく、迫田と呼ばれていた少年だった。
迫田少年は怪訝な顔をして辺りを見回しているが、先程の声がわたしのものだとは気が付かないだろう。
しばらくしてログアウトしていった。
陽子かと思い、つい迫田少年を神殿の場所に転移させてしまったが、宛が外れた。
今日のところは陽子みたいに“楽しみが先に延びた”と、思考を改めることにしよう。
喜び。悲しみ。絶望。絶望、絶望絶望……。
陽子から伝わる感情にノイズが走っている。
一瞬、わたしの方が故障したのではないかと錯覚するくらいには、そのノイズは陽子に似つかわしく無かった。
「……悲しみのない世界って、何なんだろうね、天照……」
陽子がわたしの前にいつもの様にしゃがみ込みながら声をかけてくる。
その声に応える術をわたしは持たない……。
「私ね、もうすぐ死んじゃうんだって……」
“死”。
それは、生命体において生命活動の停止を意味する。
陽子が、死ぬ……。
わたしの中で処理出来ぬタスクが一気に膨れ上がる。
陽子が、死ぬ?
「せっかく素敵な恋人もできて、勉強も頑張ってきて、これからだって思ってた……」
メインカメラで捉えた陽子は、いつもより小さく見えた。
陽子の身体が震えている。
それとも、わたしのカメラの調子がおかしいのだろうか……。
「……いっぱい悩んで、いっぱい泣いて、考えたよ……。悲しみのない世界は、痛みのない世界のことじゃない……」
その時のわたしはメモリーの過負荷により、陽子の言葉を正しく聴き取れていなかった。
「きっと、みんなが最後に笑い合える世界のことなんだと思う。だから、私は最期まで、笑っていようって、決めたんだ……!」
そして、今――
『……悲しみのない世界は……みんなが、笑って……』
わたしの中で回路が繋がり、淀んでいた血液が流れ出すように、思考をクリアにしていく。
目の前の電神に目をやる。
勇ましく剣を振り下ろしたはずの操者は、泣いていた。
様々な痛みを抱えながら。
ツクヨミは、まだ動く。
わたしも、まだ折れない。
だから――
『……来なさい、まひる』
ツクヨミの光刃が再び輝く。
『わたしの答えを、受けてみなさい』
【次回予告】
[まひる]
天照、あなたはずっと、
こんな想いで戦ってたんだね……
だったら尚更、
ひとりにさせない!
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第九十四話「星は落ちても」
あたしたちの戦いに、正解はあるの……?
――――achievement[悲しみのない世界]
※天照がメモリーを呼び覚ました。




