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第九十話「願いの統合」

【登場キャラクター紹介】


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

【What do you want to do, Mahiru?】


“あなたはどうしたいの、まひる?”


 その言葉に、あたしと四精霊は暫し言葉を失った。

 そこに在ったのは、《ダイタニア》からの、問い。


 あたしは目を点にし、みんなの顔を見渡した。

 ウィンドとファイアは驚いた顔をしていて、アースはモニターを凝視し、マリンは何か深く考え込んでいるようだった。

 モニターを指差し、あたしはようやく言葉を発した。

「……あの、これって……?」


 マリンが一度深く息を吐き、返してくれる。

「正直、解らない……。これがこの電神(デンジン)からの言葉なのか、それとも――この世界からのメッセージなのか……」

 精霊の中でも博識なマリンをもってしても、解らない、か……。でも――


「これって、多分だけど、この子の言葉だと思う……」

 あたしは自然と口にしていた。そこに、アースが真顔で問いかけてくる。

「それは、どうしてです?」

「うーん……なんかその方が、嬉しいじゃない? 心が通じ合えたみたいでさ」

 あたしは上手く言えず、苦笑して返す。その応えにまた辺りが静まり返ってしまった。


「……ぷっ」


 誰かが噴き出した。

「ふふふ、まひるらしいですね」

「相変わらず、能天気だなあまひるは」

「でも、そういう所が、まひるちゃんだよな!」

「ぷふっ! ほんと、変わらないよね」

「も、もう! これでも真剣なんだからねッ!」

 意に反して起こった笑いに、あたしは少し恥ずかしくなり、頬を膨らませた。


「で? まひるちゃんは何を望む?」

「え?」

 ファイアが改めて訊いてきた。

 あたしが、望むもの……。

「ここまで来たら、私たちと同じ気持ちでしょうけどね」

 アースが珍しく自己主張してくる。

 変なプレッシャーを与えないでよ、もう。

「そうだね。僕たちは、これからも……」

「うん。さあ、まひるちゃん、ダイタニアに聴かせてあげて? まひるちゃんの、これからを!」

 マリンとウィンドも背中を押してくる。

 これは、ダイタニアだけじゃない。みんなにも伝えたい、あたしの“願い”――


 目を瞑り、考えてみる。

 あたしの望み。これからの、未来……。


「…………」

 喉が、動かない。

 本当は、怖い。

 もう、終わりにしてしまいたいと、ほんの少しだけ思ってしまった自分がいる。


「……あたしは――」


 それは、今まで当たり前に在ったもの。

 当たり前に、続くと思っていたもので、何も特別じゃなかった。

 でも、みんなと出逢って、初めて、失って……。


 たくさん間違えてきた。

 怖くて逃げ出したこともある。

 だから、それはものすごく、“特別”なことだったと、知ったんだ……。


 そして、この子は応えてくれた。

 もう、迷わない。


 世界を救いたいわけじゃない。

 誰かに勝ちたいわけでもない。


 ただ――


 それは、永遠のような一瞬の熟考だった。

 あたしは、まっすぐモニターを見て言った。


「――あたしは、みんなと平和に暮らしたい」


 狭いコクピットにやたらと声は響き、言葉は静かに消えた。


 返事はない。

 世界は、変わらない。

 間違っていたのだろうか。

 届かなかったのだろうか。


 ――その時、足元で微かな振動が生まれた。

 それに合わせるように、まず中央のコア出力表示に微かな光が戻った。続いて消えていたコンソールパネルに次々と火が点っていく。

 コクピット全体にエネルギーが行き渡り、元の明るさと音を取り戻した。

 光があたしの顔にも笑顔を灯してくれる。みんなの顔を見ると、やはり笑顔だった。


「……ダイタニア、聴いてくれたかな? あたしの気持ち……ううん、みんなの気持ち」


 そして更にメインモニターにメッセージが表示された。


【Final sequence confirmation ...】


 何かを確認中なのか、メッセージの末尾のピリオドが数秒毎に増えていく。

 ダイタニアは、まだ諦めていない!

 握った操縦桿は遊びの少なくなった手応えで程よく反発してくれる。

 まるで、あたしの手と戯れるかのように……。


 そして、魔力炉が一度だけ鼓動し、モニターの数値が微増した。

「……ダイタニア?」


挿絵(By みてみん)

『超次元電神ダイタニア』

 第九十話「願いの統合」



「そんなッ! わたくしの《金剛石化(アダマント)》がッ!?」

 ノーミーの、いや――この世界で最上位の防御魔法《金剛石化(アダマント)》を纏ったアルコルでさえ、ツクヨミの前では劣勢を強いられていた。

 超硬度に変質させられたアルコルの装甲が、ツクヨミのただ触れただけのような攻撃で、いとも簡単に剥がされていく。


「やっぱり……ッ! 普通じゃないねえ、この電神ッ!」

 ディーネも八重歯が欠けんばかりに歯を食いしばり、機体の魔力制御に集中する。

「戦おうと思わないでください! 飽くまで防御と回避に専念をッ!」

「防御と言ってもねえッ!」

 シルフィの言葉にディーネが愚痴をこぼす。

「護っても、その上から持ってかれちまう……ッ! こんなの、避けるしかないじゃんッ!」


 アルコルは両肩の大型バインダー内のブースターを全開で蒸しながら、仲間たちから遠ざかるように紙一重でツクヨミの攻撃を躱していく。

『……あまり遠くまで行くと、まひるたちの所に戻るわよ?』

「ッ!」

 天照(アマテラス)の脅迫めいた忠告に、シルフィはハッとして、アルコルの動きを止めた。

 その様子を観て、天照は尚も冷ややかな声で言った。


『やっぱりね……。あなたは元々わたしに近い立場の存在よね? それなのに、あの人間たちと同じ様な思考をする……。不思議だわ』

 “不思議”と言う割りには、天照の声はやけにハッキリとしていた。


(……感情を、殺したか)

 苦い顔でツクヨミを睨み返すシルフィと三人。誰からも言葉が出てこないコクピットに、一時の静寂が降りた。



 天照のツクヨミがアルコルを見下ろすように機体の向きを変えながら、片手を上げる。

 ディーネが気配を察知し(かわ)そうとするも、アルコルの肩装甲の先が切断された。

『時間稼ぎをしてるようだけど、まだ何か、あのまひるに期待しているわけ? 魔力も尽き、電神も大破。ここからまだ何かあるなら見てみたいものね!?』

 嘲笑ではない。天照は本気でそう思っている――シルフィは彼女の声の温度で感じ取った。


「……そう。あなたはまだ見たことが無いのですね。人が起こす、演算じゃない選択を……」

『演算じゃない、選択?』

 シルフィの言葉に、珍しく天照が素直に食い付いた。

「そうです。私は、まひるさんや多くの人たちに触れ合うことで、変われた気がしています……」


 ツクヨミの指先が、わずかに震えた。

『それって……』

 ツクヨミから淡い赤い演算光が空間を走る。

『“変化”という概念を再定義……。誤差は……範囲内。演算、不要ね』

 それでもシルフィは一歩も退かない。

「触れ合うことで、その存在は形を変えることができる」

 次の瞬間、ツクヨミの刃が閃き、アルコルの胸を浅く裂いた。

『不要な感情出力ね。依然、修正及び排除対象よ。あなた、故障してるわ?』

 血の気が引く。それでもシルフィは目を逸らさなかった。


「天照、私はッ――」

『何をヒトみたいなこと言ってるの? そんな出来損ないだから、わたしがこうして代理なんてしてるんじゃないッ。ふふッ――』


 天照の笑い声が響こうとした白い大地に、悲痛な声が一閃した。


「笑うんじゃありませんッ!!」


 震える声だった。

 けれど、その目は逸れていない。


「……シルフィさんは、出来損ないなんかじゃありません……」

 少女の瞳から涙が零れた。

挿絵(By みてみん)

「……わたくしは、ずっと“優れた存在”になりたかった……。誰よりも、強く、正しく……」

 唇を噛む。

「でも……名前を、呼ばれたんです」

 ゆっくりと、顔を上げた。

「敵だと思っていた相手に――名前を……」

 ひとつ息を吸う。

「それだけで……変われた気がしたのですわ」


 ノーミーは、まっすぐ天照を見た。


「あなたも、怖がっていないでおいでなさいな」

 その瞳には、少女がかつて憧れた綺羅びやかさが在った。

「きっと、誰かが、あなたの名前を呼びますわ」


『……地の精霊までも、《不確定因子》を――』

「“地の精霊”ではございません! わたくしの名は――」


 ノーミーがシルフィの手に自分の手を置き、一緒に操縦桿を倒した。


「《金剛石のノーミー》ですわッ!!」

 ノーミーの凝縮された魔力が操縦桿に伝わり、アルコルの胸部へと集中していく。

 シルフィは瞬時に理解した。この魔力の爆発的な純度は――

 その技の恐ろしさを知るディーネとサラもそれぞれノーミーの肩に手を置き、魔力を供給する。


 警告灯が赤く明滅した。

【魔力圧限界値突破】と、メインモニターに表示される。


「ノーミー、出力を上げすぎだぞ!?」

 サラの声が掠れる。

 ノーミーの視界が白く霞んだ。

 それでも、彼女は笑う。

「構いませんわ……ッ!」

 シルフィが息を呑む。

「これでは……あなたの体が保ちません!」

「構いませんッ!」

 涙が一滴、操縦桿に落ちた。

「名を呼ばれた者は――応える責任が、ありますものッ!!」

 その一言は、ここにいる皆を黙らせるには十分だった。


「天照、あなたは、理解できないものを“無い”と決めつける!」

 胸に魔力が集約していく。

「だったら――これはどうかしらッ!」

 アルコルは集めた力を解放させるように、その両腕を開いた。


 次の瞬間、視えない咆哮が世界を穿った。


「《双発の巨咆哮(アトムデリンジャー)》ッ!!」


 ノーミーが吠えた。

 その顔には普段から気に掛けていた優雅さなど、一欠片も無かった。

 涙で濡れた睫毛の奥で、光だけが揺れていた。


 その透明のレーザーはツクヨミの直ぐ足元に撃ち込まれた。


 ――世界に、穴が空いた。


 音は、ない。

 光も、ない。

 ただ、そこに在った“地面”だけが、消えていた。


『え……?』

 天照が気づいた時には、底が見えないほど深く空けられた穴にツクヨミが落ちていくところだった。

 穴の底から即座に赤い演算光が走る。


「斬り刻め! 《千本鋸刃鳴(サウザンドサウンド)》っ!!」

 無数の刃が大地を裂く。

「ちッ……反動、でけぇな……!」

 ディーネの視界が一瞬暗転する。それでも歯を剥き出しにして笑う。

 彼女は自身の《最終攻撃(ダイナミックコード)》で周囲の大地を崩落させ、その穴を塞いだ。


 ディーネは肩で息をしながら、同じく床に膝を折って座り込んでしまったノーミーの頭をポンと軽く叩く。

「はぁッ! はぁッ! ……まあ? 時間稼ぎ、ならッ、こんなもん、だろッ!?」

 ノーミーも目を細めながら、頭を撫でられる心地よさと極度の疲労感に襲われながら答えた。

「はッ……! はッ……! そう、ですわね……ッ、久々の、コンビ、復活ですわね……ッ」

 二人してモニター越しに外を眺めながら、懐かしい気持ちにまだ息の荒い口元を緩める。

「あはッ……! 調子、出てきたじゃねーの……ッ!?」


 シルフィとサラもお互い顔を見合わせ、二人の連携に驚きながらも、その笑顔につられ、また頬を緩めた。





 シルフィが天照をみんなから遠ざけてくれてから、まだ二分と経っていない。

 時間の流れがいやに遅く感じる。

 焦りと疲労が、あたしたちから正確な判断を奪っていく。

 今、あたしの目の前に映し出されているこの英文も、もしかしたら何らかのストレスが見せてる幻影なのではないか?

 そんな風にすら思えてくる。



「……ファイナル、シークエンス?」

 あたしはモニターを見つめ、呟き、四精霊の顔を見回す。

「……この電神が、まひるの声――いや、想いに、反応した?」

 マリンがモニターを睨むようにして考え込む。

「急に魔力炉が動き出したことといい、この文字といい……まひると何かしらの因果があると考えるのが妥当、か……」

 マリンが顎に手を当てて、更にモニターに顔を近づける。


「でも、この“確認中”って文字がまだ何かを待ってるのかな?」

 ウィンドも首を傾げる。

「うーん……難しいこと考えるのはあたしにはちょっとなあ……」

 ファイアが困り顔で困惑する。

 それに同調するようにアースが口を開いた。

「……もしかすると、この電神自体が迷っているのではないでしょうか?」

「迷ってる? 何を?」

 あたしが訊き返す。

「分かりませんが、例えば、私たちが“力を貸すに足る存在かどうか”、とか……」

 あたしはその言葉を反芻し考える。そして、アースの言葉から思い浮かんだものをそのまま口にした。


「……この世界、かな……?」

「え……?」

 アースが気になった様であたしの方を向いた。

「……電神って、ゲームの設定だと、元々この世界を守るために生まれたんだよ。その世界が“間違った選択”をしそうになってるから、迷ってるんじゃないのかな……」

 あたしはモニターの英文をもう一度見直す。


「それを、この子が思い出させてくれてるような気がする……」

「《世界》と言えば、やっぱりこの場合、天照のことなんかなあ?」

 ファイアが何気なしに言った言葉にみんなが注目した。

「えッ!? 何?」

「ふふっ、さすがファイアね。天照は基本、間違ったことは言ってない。けど、やっぱり間違っているところもあるよね?」

 あたしはみんなの顔を見ながら言った。

「だからさ、まだ終われないよね! この気持ち、天照に伝えたい!」

 再びメインモニターに向き直り、ハッキリと訊き返した。

「そうだよね!? ダイタニア!」


 モニターの文字は依然“確認中”のままだ。

 違う、のか……。だったら何を待っているの?

 その時だった――


「おい。相川(あいかわ)まひる!」

 外からコクピットハッチを叩く音と共にザコタ君の声が掛かる。

 外の映像をメインモニターに回し、ビデオ通話モードにする。

「おいッ! 大丈夫なのかッ!?」

「あ、大丈夫! みんな無事だよッ」

「………」

 あたしの声が聴こえたのか、ザコタ君は黙ったが、その顔は不機嫌そのものだった。


「だったらいつまでそこで寝ている? 次の順番が控えてるんだ。あんたの電神を貸せッ!」

「へッ!?」

 見ると横たわるダイタニアの前にみんなが集まって来ていた。

「脚が無いなら新しく作れないか試してみるまでよ! 生憎、使えそうな部品はその辺にゴロゴロしてるしね?」

 流那(るな)ちゃんが自分たちの大破した電神を片目で見やりニカッと笑う。


「私も、今は魔力切れで“勇者の力”は使えませんけど、この大剣とレオンがいます。電神が無くったって……!」

 飛鳥(あすか)ちゃんも、まだ……。


「そう言うことだ相川さん。シルフィたちが時間稼ぎをしてくれてる今こそ、俺たちの出来ることをしないとな? 君ならそう言うだろ?」

 こんな時だと言うのに、風待(かざまち)さんが普段の軽い口調で言ってくる。

 爽やかな笑顔が、少し眩しい……。


「……みんな……」


 誰一人として、諦めてはいなかった。

 世界の壁は大きく、聴き入れてもくれないと言うのに、まだ「やってやろう」と言ってくれる。

 あたしは込み上げてくる熱い想いに、モニターの文字のことなど忘れ、気づくとみんなに声を掛けていた。


「いこう! みんなで!」


 その言葉が引き金になったのかは分からない。

 突如メインモニターが光だし、コクピット内の計器が稼働し始めた。あたしはすぐにコクピットへと戻る。

 モニターの光が収まると、そこには【Integration】と書かれたデジタルボタンが表示されていた。

 いつの間にか“確認中”のローディングも消えている。


「いんてぐれいしょん……“統合”?」

 続いてまた文字が表示されていく。


【Optimize your language ... 言語を最適化。】


【あなた達からは人と精霊の強い結びつきを感じます。】


【それは、本来のこの世界の在り方であり、希望。】


 モニターの文字が、ゆっくりと滲むように浮かび上がる。


【人も精霊も否定することなく、想いの上に成り立ち、豊かな願いとともに生きていく。】


【それが、このダイタニアという世界の、願い。】


 ――願い。


 あたしの指先が、わずかに震えた。

 これは命令じゃない。

 選択を、委ねている。


 ……だったら――


 あたしは、ゆっくりと息を吸った。





「…………」

 シルフィは天照が落ちて塞いだ穴を静かに見つめていた。

(これで終わりなはずは、ない……!)

 コクピット内の三人も、魔力尽き、満身創痍でありながら、誰一人として臨戦態勢を解いていない。


『まひるの電神から異質な反応……これは、システムログ?』

「ッ!」


 天照の声が徐々に足下に近づいてくる。

『……おかしいわね。わたし以外にシステムが介入するなんて……やっぱり、あなたなのね……』

 ほんの一瞬だけ、ツクヨミの演算光が乱れた。

『まひる……今、何を消費したの?』

 穴を塞いでいた瓦礫が紅く光り、物理法則が書き換えられていく。

 だが――一瞬だけ、空間が“歪んだ”。

 ノイズのような亀裂が走り、ツクヨミの足元の再構成がコンマ数秒遅れる。

『……?』

 天照の声に生じる僅かな“間”。

 それもすぐに修復される。

 そして、何事も無かったかのように再びツクヨミがシルフィたちの眼前に姿を現した。



「……無傷……ッ!?」

 サラがつい驚愕の声を上げる。

『あら? そんなことないわよ』

 攻撃がかすったツクヨミの脚部装甲が再構成される。

『物質を再定義するには、“願い”を消費するもの』

 淡々とした声だった。

『この世界の残量は、そう多くないのにね』

 天照は何やら一人ぶつぶつと零している。それを聴いたシルフィは確信する。


「……この世界が崩壊しだしたのは、あなたが人々をデータ化したから、なのですね」

『だって、ヒトがそのまま生きてたら“死の危険”があるでしょ? それは良くないわ』

「…………」

 天照の悪気なく答えるその声に、シルフィは改めて世界の歪みを覚えた。


『そんなことより、今はまひるよ。あの子また何か変なことになってる。早くデータ化してあげないと!』

「……させません」

『え? 何か言った?』

 シルフィの低い呟きに、天照が訊き返す。

「あなたの思い通りにだけは、させません! 今のあなたは、やはり少しおかしいッ!」

 アルコルはブーストを蒸し、ツクヨミの脚に組み付こうと突進した。

 だが――


 激しい衝撃がシルフィたちを襲う。

「ッ!?」

 アルコルはボールのように蹴り上げられ、全身の装甲を撒き散らしながら、まひるのいるダイタニアの側へと落ちていった。

『あら? 思ったよりよく飛んだわね。まひるに当たっちゃうところだったわ。危ない危ない』

 ツクヨミがまひるに向け、まっすぐに歩み始めた。





 耳を(つんざ)く衝撃音が響き渡り、あたしは一瞬目を瞑る。そして、モニターには無惨にも装甲が(ひしゃ)げたシルフィの電神アルコルの姿があった。

「シルフィっ!!」


 アルコルが鈍い音を上げながら膝を曲げ、立とうとする。漏れる魔力オイルが血のように白い大地を赤黒く染めていく。

「……大丈夫、です。まだ……やれます……ッ」

「どう見ても大丈夫じゃないよッ! 早く《回復》を――」

 あたしの言葉に被せるようにシルフィが訊いてきた。

「そんなことより、天照を止めますよ……! 彼女は、見失ってしまっている」

 シルフィのその言葉にハッとして口を噤む。

 そして、あたしは今までの天照とのやりとりで、ずっと感じていた違和感を口にした。


「……彼女自身が、“悲しみ”から抜け出せてないこと、だよね?」

 あたしの言葉を反芻してくれてるような、暫しの沈黙。

「そうです。“悲しみのない世界”の実現と言いながら、彼女自身が、“世界の悲しみ”になってしまっている……」

 シルフィも、あたしと同じ気持ちだった……。だから、話したいよね……!


「まひるさん……天照を、ひとりにしたくない……ッ!」

 シルフィの悲痛な声だけがその場に響いた。恐らく、そこにいたみんなの心にも――

「……うん。あたしも、同じ気持ちだよ」

 あたしの言葉に薄く笑みを返すと、シルフィは意識を絶った。隣りにいたサラさんが彼女を支え、「征け!」と頷き返してくれた。


 あたしはシートに勢いよく深く座り込み、操縦桿の感触を確かめる。


 気分は、悪くない。

 心は、多分曇ってない。

 まだ、話せそう。


 あたしは外のみんなに向かって声を掛けた。

「みんなッ! 一緒に天照を迎えに行こうッ!!」

 あたしは更に輝きを増して光り続けるモニターの【統合】と書かれたデジタルボタンを見る。

 ボタンから「早く押せ!」と言わんばかりの意思を感じる。



 これを押したら戻れないかもしれない。

 どうなるのかも分からない。

 ダイタニアが、今のダイタニアでなくなるかもしれない。

 みんなとの“今まで”が、どこかへ行ってしまうかもしれない。

 あたしだけで済むなら、まだいい。

 でも――もし、誰かを巻き込むのだとしたら……。


 指先が、わずかに震える。


 コクピットの外では、傷だらけのアルコルが立っていた。

 みんな、もう限界なのに、それでも諦めていない。


(……あたしだけが、怖がってどうするッ)


 胸の奥で、さっき感じた鼓動が、もう一度だけ強く鳴った。

 これは命令じゃない。

 想いが力になるこの世界で――選択を委ねている。

 だったら――

 あたしは、迷わない!


「願いをッ、ひとつにいッ!!」


 叫びと同時に、拳を振り抜いた。

 叩きつけた瞬間、モニター越しに確かな反発が返ってくる。

 ボタンが赤く脈打ち、モニターからパネルへ、まるで血管のように光が走った。

 地面に横たわったまま、ダイタニアが再び大きな鼓動を始めた。

【次回予告】


[まひる]

ダイタニアが示す、“統合”って……

みんなの願いが、ひつとになって、

……早く、帰りたいね。


次回!『超次元電神ダイタニア』!


 第九十一話「超次元電神」


これが、あたしたちの想いだよッ!

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本作をお楽しみ頂く為にも実績が解除されたタイミングでの閲覧を推奨しております。
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