第八十一話「夜明け」
あたしが仮眠から目を覚ますと、まだ陽は昇らず、虫の声すらない静寂が辺りを満たしていた。
暗く重みのありそうな夜を胸いっぱいに吸い込み深呼吸をする。あたしは少し肌寒い空気に身震いした。
もうすぐ、《箱庭》に着く。
そこに行けば何か分かるかも知れないし、何も進展がないかも知れない。
まだウィンドとしか再会できていない事実が、あたしを不安と焦燥に駆り立てる。
「……こんな時だからこそ……」
あたしはもう一度深呼吸して、寝起きの頭をクリアにした。
「まひるさん、おはようございます」
後ろからシルフィの声がかかる。あたしはすぐに彼女に振り返り、小声で謝った。
「ごめんシルフィ、起こしちゃった?」
「いえ、大丈夫です。起きてましたので」
シルフィは柔らかい笑顔で返してくれた。
そう。まだ出会って数日なのに、最近のシルフィはとても表情豊かになったと思う。
今では、ふとした拍子に目を細めて、柔らかく笑う。
その笑顔を見ていると、最初に抱いていた“無表情な人”という印象が、まるで別の誰かの記憶のように遠く感じられた。
あたしはそんな表情豊かで優しいシルフィに親しみを覚えてきていた。
「ねえシルフィ、大体あとどのくらいで夜が明けるか分かる?」
あたしの問いにシルフィは空を仰ぎ見ながら答えてくれる。
「そうですね……東の空にプロトン――地球で言う“明けの明星”みたいな星です。プロトンが顔を出し始めたので、夜明けまで一時間といったところでしょうか」
「そっか。ありがと。ふぅん……」
あたしはシルフィの分かりやすい説明を聴いて、こちらの夜空の星々に想いを巡らせる。
「どうかしました?」
急に黙りだしたあたしを不思議に思ったのか、シルフィが声をかけてきた。
「シルフィはさ、ダイタニアの星座、知ってていいなーって思って。あ、いや! あたしなんて地球の星座もろくに知らないんだけどね!?」
「はあ……?」
シルフィの顔に“ハテナ”を浮かばせてしまった……。
「星の光って……すごく昔の光なんだよね?」
どれくらい昔なのかは、正直よく分からない。
でも、人の一生なんて軽く飛び越えるくらいの時間だってことだけは、なんとなく、胸で分かる。
「遠いのに、今ここにあるのって、不思議じゃない? 遅れて届くのに、ちゃんと綺麗なのってさ」
シルフィは静かに、あたしの下手な日本語を聴いてくれていた。
「あはは、何言ってるかよく分かんないね――」
あたしが笑って誤魔化そうとするとシルフィがその言葉を追って言う。
「いえ、分かります……」
シルフィの神妙な声に顔を見返すと、彼女は瞳に星空を溜めて宙を見つめていた。
「……星空を観るのが好きでした。よく、彼と星座の話もしました」
シルフィが今言ってることって、もしかして――
「でも、今の私の心はここに在って、それでも星が好きだと、言っているのです。地球の星座も、ダイタニアの星々も、偏に、尊い輝きです……」
それはきっと、陽子さんの記憶じゃない。そう思った。
――今のシルフィの声は、確かに“彼女自身”のものだったから。
「だから、分かります。私は今、この星の輝きを、あなたと一緒に観られることができて、とても嬉しい」
あたしも同じように再び星空を見上げて、今この時の空の瞬きを胸に刻もうと、心に誓う。
そしてあたしは空を見上げたまま、気付くとシルフィにお礼を言っていた。
「ありがとう、シルフィ」
今思えば自然と口をついて出た言葉だったが、何に対しての“ありがとう”だったのだろう。
でもシルフィは同じように――
「ありがとう御座います、まひるさん」
と、返してくれたのだった。
『超次元電神ダイタニア』
第八十一話「夜明け」
その内、もぞもぞしながらウィンドが、まだ眠たそうに目をこすりながら起きてきた。
もう一つの仮設テントからも身支度を既に済ませた風待さんが出てきた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
シルフィとあたしの挨拶が重なった。二人して顔を見合わせ、くすっと笑い合う。
「おはよ〜……」
「おはよ、ウィンド。体調はどう?」
「うん。悪くないよ〜……」
そう言いながら大きな欠伸をしている。
再顕現してからまだ二日、健康面もしっかり見ておかないと。あたしは一人心の中でそう呟く。
「相変わらず俺の電神は喚べないが、シルフィもまだ喚べないのか?」
風待さんがシルフィに問う。
「はい。私の電神――アルコルは、精霊である《電脳守護騎士》との結びつきで召喚出来ていたところが大きいので……。彼女たちが消えてしまった今となっては……」
シルフィは少し気落ちしたように答える。
「そうか……」
風待さんが彼女が沈む様子を見て、申し訳なさそうに短くそう答えた。
「でも、《箱庭》はもう目と鼻の先なんですよね? あたしのダイタニアでひとっ飛びで行きましょう!」
出来るだけ明るいテンションで声をかける。
「もうすぐ夜が明けるみたいです。朝ごはんの支度しますね!」
あたしはそう言って服の袖を腕まくりして笑顔を作った。
朝食を終えて、みんながそれぞれの身支度を整えている。
あたしはもう支度が済んでいそうなウィンドに声を掛けた。
「ウィンド、ちょっといい? お願いがあるの」
「なあに、まひるちゃん?」
ウィンドがとてとてと、可愛らしい足取りでやって来る。
「このリボンで、髪を結って欲しいんだ」
あたしは一本のリボンをウィンドに差し出した。
「……うん。いいよ。ポニテでいーい?」
そのリボンを見たウィンドは一瞬、言葉を詰まらせたが、笑顔で受け取りあたしの髪をいじり出す。
「……まひるちゃんの髪、ちょっと傷んでるね」
「……そうねえ。ここんところ、しっかりお風呂で綺麗にできてないしね」
「“髪は女の命”なんでしょ? ちゃんとしなきゃね?」
「そうよお? 髪は女の命なんだから、ウィンドもいつも可愛くしててね?」
「…………」
あたしの髪を梳くウィンドの手が一瞬止まる。
「……風子は、また会えたから……ほむほむも、万理りんも、きっとまた――」
ウィンドの細い指がまたあたしの髪を頭の上で纏めて、優しく結いだす。
その、蒼いリボンで――
「できた。球ちゃんと、同じ髪型だよ……」
ウィンドの声には先ほどから少し、湿度が混じっていた。
「……ありがと、ウィンド」
あたしはそっと目を開いて、ウィンドが結ってくれた髪を風に任せて流す。
すると、目の前の地平が赤く染まり、この世界とあたしたちを照らし始めた。
目を細め、その日の出をみんな無言で見つめていた。
願い。決意。感謝。
色々な想いがあたしの中に駆け巡る。
そして、あたしはその生まれたばかりの陽に向かって、そっと呟いた。
“いくね”と――
髪と揺れる蒼いリボンがはためき、静かに背中を押してくれているようだった。
「見えました。以前と随分景観が変わってしまってますが、間違いありません。あの広大な白い敷地が《箱庭》です」
電神ダイタニアのコクピットで魔力を送りながらシルフィが眼下のフィールドを指差す。
白く広い敷地の先に、ぽつんと小さな建物が見えた。
あれが風待さんの言っていた“白い神殿”なのだろう。
けれど、その先には――
何も、無かった。
地平線が、途中で途切れている。
あるはずの空も、大地も、そこには続いていなかった。
「……世界が、欠けてる……」
思わず零れた声が、やけに軽く聞こえた。
「……上から見ると、よく分かるな。あそこから先、フィールドが……生成されていない」
風待さんが、まるでブルースクリーンのような“青”を背景としてそびえる白い神殿を眺めて呟く。
ゲームで画面がバグった時に見たことがある。ポリゴンフレームの世界に背景テクスチャが貼り付けられてない世界――
あたしたちが目指した《箱庭》は、まさにそんな“異界の中の異界”だった。
「降ります。シルフィ、降りるのはあの敷地の手前でいいかな?」
「そうですね……何か様子がおかしい気がします。いきなり箱庭――白い神殿に近づかない方がいいかも知れません……」
ここまで来て、みんな慎重だ。
シルフィのその意見に風待さんもウィンドも口を開かず、ただ真下に迫る無垢のフィールドを見つめ固唾を呑んでいた。
「ッ!?」
地面に、黒い塊が転がっていた。
いや――塊じゃない。
歪んだ装甲、折れた角、千切れた腕。
それが、かつて動いていた“もの”だと気づいた瞬間、胸の奥が、きゅっと縮んだ。
「……リーオベルグ……」
友の電神が無惨な姿で地面に伏していた。あたしは汗ばむ操縦桿を更に下げ、機体を降ろしていく。
自ずと心臓が速くなる。
「……ベルファーレまで……」
「……テンマオーもやられていた。どおりで喚んでも来ないはずだ……」
あの握りしめた拳を見るに、風待さんも眼下の光景に動揺しているのだろう……
そこに倒れているのは、“敗走”ではなく“全滅”の痕だったから――
逸る気持ちを抑えながら、ダイタニアの脚が地面に着くのをまだかまだかと待ちわびる。
嫌な汗が頬を伝う。
そして、ダイタニアがその地を踏みしめた。あたしはダイタニアを光に戻し、その場にみんなで飛び出した。
「みんなあッ!! 大丈夫ーーーッ!?」
返事は、無かった。
風が、装甲の破片を転がす音だけがした。
「……誰か……返事をして……」
あたしはその場で叫ぶだけで、脚が前に動かない。
両足を失い、胴体を両断され、黒煙を今も上げる仲間たちの電神――
どう見たって……
行かなきゃ、と思った。
みんなのところへ。
声をかけて、触れて、確かめなきゃ。
なのに――
足が、前に出なかった。
膝が、笑っているみたいに震えている。
ウィンドとシルフィが周囲に気を配りながら一番近くに倒れているベルファーレまで近づいて行った。
「……気配を感じます」
シルフィは横たわるベルファーレの胴体を観ながら隣を歩くウィンドに何か呟いている。
「うん。それに、この大気中の火の精霊の濃度……いったい何が……」
宙空を訝しげに睨みながらウィンドがベルファーレに視線を戻した。
あたしはまだ、震える足を前に出せずにいる。
すると、あたしの脇に風待さんがやって来て、こう言った。
「何か見つけたようだ。一緒に行ってみよう」
気を遣ってか、その笑顔はいつもより柔らかい気がした。声も穏やかで、あたしを落ち着かせようとしてくれている。
だけど、目の前の惨状を見返した時の彼の顔は、あたしの顔と変わらなかった。
「…………すぅ」
あたしは目を瞑り息を大きく吸って――
バチンっ!
両手で頬を張った。
痛みで涙が滲み、両頬は紅く染まる。
「ふぁい。いきまひょう!」
そう言いながら足を上げ一歩を踏み出す。一歩踏み出してしまえば後はもう止まることはなかった。
後ろで風待さんの“やれやれ”といった顔が見て取れるようだ。恥ずかしいけど、ありがとう御座います!
「ウィンド! シルフィっ!」
「あ、まひるちゃん!」
先行していた二人に追いつき、すぐに風待さんも来て四人がベルファーレの前に揃う。
「あの電神の胴部から、複数の気配を感じます」
シルフィが指さした方を観ると、装甲の継ぎ目がガタガタと揺れている。
「確かに……動いてる……」
あたしはゴクリと唾を飲み込むと、ゆっくりとベルファーレに近づいて行った。
「……誰か、いるの?」
近づくほどに、電神からの異音は大きくなり、建て付けの悪いドアのように装甲の一部が更に大きく音を立てた。
『……〜〜〜ッ』
「え?」
電神の中からくぐもった音、声? が聴こえる。ゆっくり近づき、手を伸ばせば触れられる距離まで来た。
『なんで開かないのよこのドアっ!』
『流那が下手に気密性や防音性に拘るからでしょ?』
『だって休むなら少しでも落ち着ける場所の方がいいでしょ!?』
『……あたしがぶっ壊してやろうか?』
『やめてくださいまし! こんな狭い所であなたの技ぶっ放したら、こっちが堪ったもんじゃありませんわ!』
『……そよ、少し離れてろ』
『う、うん』
『まひるさんがそこまで来てくれてるってのに、様無いわね……』
あたしは気付くとベルファーレの装甲に耳を当てていた。
中から聴こえてくる愛しい者たちの声を確かに聴いた。
生きていてくれた――
やっっったぁ……ッ!!
「……《物理力増強》、《筋力増強》……」
あたしは一旦ベルファーレから離れ、静かに自身にバフを掛けていく。
そして――
「みんな聴こえるッ!? 下がって!!」
『ッ!!?』
ガタつく装甲に指を入れ、力任せに引っ張った。震える腕に全力を込める。
「ぐぬぬぬぬ……ッ! せいやぁッ!!」
腕を勢いよく振り抜くと装甲板が剥がれ飛び、中から目を点にした面々が転がり出て来た。
「はあッ! はぁーッ……ふぅ」
息を大きく吐いて、呼吸を整える。するとみんながあたしに駆け寄って来て――
「まひるさん!」
「……まひるん」
誰も言葉を返さなかった。
代わりに、強く、強く、抱きしめ返された。
もう離さないように、もう離れないように。
そして、みんなの顔を見渡して、あたしは言った。
「……遅くなって、ごめん。ただいま!」
ベルファーレの中からぞろぞろとみんなが出てきてくれた。それも元気な姿で。
そこにはダイタニアに先行して向かった全員が揃っていた。
「……来たのね、まひるん」
流那ちゃんが呆れながらも笑顔で話しかけてきた。
「……うん」
流那ちゃんだ。元気そう。
あたしは何か口を開こうとすれば泣いちゃいそうだったので、短くそれだけ返した。
「流那さんが《物質変換》で自分の電神をコテージにしてくれて、そこで私たち夜を明かしたんです」
飛鳥ちゃんが潤んだ瞳で、でもハッキリと状況を説明してくれる。
「うん、うん……ッ」
「俺たちは皆、《天照》に負けた……」
「でも、進一くん! 気持ちは負けてませんでしたよー!?」
ザコタ君とそよちゃん――ちゃんとまた会えたんだね……。
あたしは目の前で変わらぬやりとりをする二人を見て、自然と目尻が下がり、何度も頷いた。
「……相川さん、私は……」
この大っきな鎧姿のナイスミドルな男性は、もしかして、飛鳥ちゃんの――
あたしはレオンさんに向き直り、正面から彼を見据える。
「シルフィから経緯は聴きました」
彼は真っ直ぐあたしを見られないのか、視線を落としたままだ。
「辛かった、ですね」
その言葉が意外だったのか、レオンさんは驚いた顔であたしの顔を見る。
彼は早まったことをしてしまったかも知れない。けど、事情を知れば赦せないことじゃないと、あたしは考えていた。
「まだ、もう一山残ってます。よろしくお願いします!」
あたしはレオンさんを真っ直ぐ見つめ、笑顔でそう言った。
「……飛鳥の守護精霊として、二度と虚言や脅威に屈しないことを誓おう……ッ!」
彼はそう言って、拳を強く握る。
「……今度は……」
彼は一瞬、言葉を詰まらせた。
「“護れなかった言い訳”を、しないために……」
そう言うと彼はあたしに片膝をつき深々と頭を下げてくれた。
「ええ〜ッ!? いいですよッ! 頭上げてくださいッ」
あたしは焦りながら、飛鳥ちゃんに助けを求める視線を送る。
飛鳥ちゃんはただ嬉しそうに笑っていた。
「まひるん、紹介するわ」
流那ちゃんが二人の女の子を連れてあたしの前にやって来る。
一人は銀髪に誓い青いサラサラロングヘアの子。
もう一人は淡いブロンドのウェーブがかったツインテールの子だった。どちらも整った顔をしていらっしゃる。
「ディーネ! ノーミーっ!」
そこへシルフィの声が割って入ってきた。こんなに大きな声を出す彼女を、あたしは知らない。
「そ。元々あんたの友達よね。偶然会ってね、さっきも一緒になって天照と戦ってくれたのよ」
シルフィが小走りに駆け寄り、二人の少女の手を取る。
「……よく、無事で……」
シルフィが今にも泣き出しそうな顔と声で二人の顔を交互に見つめる。
「そんな無事でもないんだけどさ。まあ、こっちは何とかダイジョーブ」
「シルフィさん? なんだか柔らかくなった気がしますわ」
ディーネとノーミーが本気で心配しているシルフィを見て怪訝そうな顔をする。
「あなたたちこそ……」
シルフィは二人の手に額を着け、祈るように頭を下げた。
シルフィの声は震えていた。
その姿を見て、あたしは胸の奥が、少しだけ痛んだ。
――彼女も、ずっと一人で戦ってきたんだ。
「「…………」」
何故か二人の子は頬を紅くし、無言でシルフィから目を逸らしていた。
温かい朝陽が射す中、シルフィたちの再会に立ち会い、感極まっていると――
「で、あと一人。ほら、いつまで隠れてるの? 出てきなさい!」
流那ちゃんがベルファーレの中に向け声を掛ける。
「…………」
何かが動く気配はあるけど、出てきてくれない。
「……まひるちゃん……!」
ウィンドがあたしの横に来て、手を握った。力強く握られた手に、あたしはウィンドの異変を感じ、再びベルファーレの中を覗き込んだ。
そうしたら――
「…………え……マリ、ン……?」
電神の開けた装甲の陰に隠れるように、マリンは口を開いたまま、何も言えずにいた。
喉が震え、言葉がうまく形にならない。
「ごめん、まひる、風子……どんな顔して会ったらいいか、分からなくて……」
マリンのその顔は既に涙で濡れていた。今もポロポロと止まらない涙を抑えようともせず、あたしとウィンドを真っ直ぐ見ていた。
「……まひるぅ、風子ぉ……」
マリンはそう言って、一歩、こちらに来かけて――止まった。
その足が、迷うように床を擦る。
「……ごめん。ほんと、ごめんなさい」
その謝罪が、あまりにも弱くて、壊れそうで。
「万理ッ!!」
ウィンドが真っ先に動き、マリンに抱きついた。ウィンドのその目からも水の精霊に魅せられたかのような大粒の雫が滴っていた。
「バカだな万理りんは! どんな顔してって、笑えばいいに決まってるじゃん!」
「は、はは……! 相変わらずだね風子は……ふふ、ふっ、うぅッ」
その光景を夢か幻かといった面持ちで眺めていたあたしに、流那ちゃんから声が掛かる。
「何してんのよ? ほら、まひるんも!」
そう言ってあたしの背中を押し、マリンに抱きついていたウィンドが、そっと離れてくれた。
あたしは無言で震える両腕をゆっくりとマリンの背中に回すと、あたしの背中にも彼女の細い腕が回された。
流那ちゃんから聞かされた、マリンの勇姿と、優しさ――
何一つ立ち合えなかった不甲斐なさ。それ以上にまた会えた嬉しさがあたしの心を満たしていく。
言葉は、どこにも見つからなかった。
代わりに、腕に伝わる体温だけが、確かだった。
マリンが、生きてる……
……よかった……ッ――
言葉が出ない代わりに、あたしはマリンを抱く力を強めると、お互いに涙と嗚咽だけが漏れた。
「流那がね、すごかったんだ。話したいことが、いっぱいあるよ……」
マリンがそう言うと、流那ちゃんは一瞬、口を開きかけて――何も言わず、肩を竦めた。
「……その話は、あと。今は再会の時間でしょ?」
「うん。うん……。あとでゆっくり聴かせてね?」
あたしはそっと、マリンを抱く腕を緩めた。
「うん。また会えて、嬉しい……まひる……」
「あたしもよ、マリン……」
マリンも腕を緩め、静かに見つめ合った。
「万理りん、おかえり」
ウィンドが満面の笑みを向け、マリンも目を細めて愛おしい笑顔を咲かせた。
「うん。ただいま、風子、まひる……!」
あたしもウィンドも、マリンのその笑顔につられて笑う。
そして、あたしたちの後ろにはみんなの見守る熱い視線があった。
「よかったわね……!」
流那ちゃんがいつものキリっとした笑顔で迎えてくれる。
あたしは流那ちゃんの目の端に光るものを見て見ぬふりをした。触れたら、壊しちゃうような気がして。
みんながこうしてまた会えたことに、心から感謝した。
みんなの輪から、ほんの少しだけ離れて。
シルフィは白い神殿の向こう――“世界が欠けている場所”を、じっと見つめていた。
「……天照、見えていますか? これが――これこそが、“人間”なのです」
それは、静かな確信の声だった。
【次回予告】
[まひる]
空から見た時、
みんなの電神がやられちゃってて……
……ぐすっ
本当に、肝が冷えたんだからぁ
次回!『超次元電神ダイタニア』!
第八十ニ話「魂に誓って」
まだ、終わってない……!
――――achievement[合流]
※まひるが先行した仲間たちと合流を果たした。




