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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
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『エピローグ』


その日、私は本国の王城に赴いていた。


テーブルに座って茶を楽しんでいる老齢の女性に、私は緊張を隠しつつ声をかける。


「ご無沙汰しております、おばあ様」

「あら、アリスちゃん。どうしたの急に? 国中を巡って勇者業に励んでいるのではなくて?」


王城内にいくつもある中庭のうちの一つ。もっとも奥まった場所のこの中庭はおばあ様のお気に入りの場所だ。


実の祖母であり、私が心より尊敬する数少ない方。


足元まで伸びる髪はかつて金髪だった面影もなく、老齢により真っ白になっている。


「近くまで参りましたのでご挨拶と……ご報告を一つ」

「あら? 何かしら? それよりおかけなさい。いい茶葉なのよ、これ」

「はい、失礼いたします」


おばあ様が一切の合図をすることもなく控えていたメイドが私の為にイスを引き、私が座ると同時に別のメイドがカップを目の前に置く。


一切無駄な動きのないメイドたちに、私は相変わらずだと感嘆する。


「てばお話を聞かせてもらえるかしら」

「はい。それは……おや?」


私がどう切り出そうかと言葉を選んでいると、テーブルの上に置かれた招待状が目に入る。


「ああ、それ。また劇場の方から送って頂いたのだけれどもね」

「公演『己をも燃やし尽くした烈火の魔女』ですか?」


最高峰の国営劇場で定期的に行われる人気公演の一つ。


十数年前から公演され続けている題目であり、この国では老人から子供まで知らぬ者はないとまで言われる物語。


世代を超えて語られるのは、役者を代えて十数年もの間、演じ綴られているからだ。


役者にとってもこの演目は特別で、主だった役者は王との謁見が許され、手ずから褒美を下賜される。


貴族といえど簡単には席もとれない、そんな特別な公演として有名だ。


しかも目の前の招待状は貴賓席のものである。その席はただ地位が高いだけでは決して座る事のできないもの。


だというのに。


「何度も何度も同じ劇を観て、皆、飽きないのかしらね?」


老いた顔のシワをさらに深めて苦笑する。


私はその言いように、つい声を潜める。


「おばあ様、不敬ですよ。先々代の王から当代まで国の文化財としても扱われているのですから」

「でも、アリスちゃん。実際の所、世間知らずの伯爵娘が国を巻き込んで身勝手した話でしょう? それを綺麗ごとにして持ち上げているだけのお話よ。田舎娘に業火の魔女だなんて大仰な名前までつけて」

「おばあ様! それ以上は本当に……」


"業火の魔女"。


劇中で語られる彼女の半生は激動の一言だ。


田舎伯爵の娘として生まれた一人娘、その名をマリアーノ。


公爵家から政略結婚をもちかけられ、彼女は自分を道具のように扱う両親や公爵家に復讐する事を誓って生家を出た。


自身の魔術の腕であれば、精鋭たる公爵家の騎士や魔術師にも対抗しうる、と。


だがマリアーノが嫁ぎ先で見たものは、混乱する公爵家領内だった。


当時の公爵家領地には神出鬼没の盗賊団がはびこっていた。


公爵配下の騎士や魔術師が討伐に向かうと、まるで事前に知っていたかのように逃げてしまい苦慮していた。


後からわかった事だが、汚職役人が当時戦争中だった隣国から賄賂を受け取り、盗賊団を招き入れて国力を削ろうとしていた。


しかも、事もあろうに隣国で捕えた魔獣や魔物を領内に放つという事までしていた。


国王も何かしら薄々と感じていたものの、証拠もなく貴族位の者たちを問い詰めるわけにもいかない。


好き勝手をする汚職役人たちは、さらに調子に乗ってある計画を立ち上げた。


公爵の息子に目を付けたのだ。


公爵子息は愚鈍で遊び惚けてばかり。貴族としての義務も果たさない。


汚職役人たちはどうにかしてこの息子に早々に跡を継がせ、公爵家を傀儡として手中にしたいと考え公爵子息を享楽漬けにした。


公爵子息も汚職役人たちと友誼を深めていく。


しかし実の所、公爵令息は愚鈍を演じていただけだった。


領地にはびこっていた汚職役人を一掃するため、そして売国の黒幕である実の父たる公爵を騙す為、彼らにとって担ぎやすい御輿になると思わせていたのだ。


大方の証拠もおさえ、あとは捕縛の機会を見定めて……という所で、父が勝手に決めた婚約者の伯爵令嬢が嫁いできたため事態は一変。


領地を荒らされ、盗賊相手に後手に回り続ける公爵家に憤り、全てを己の魔力(暴力)で解決し始めた。


盗賊団の話を聞いては"単身"で討伐。


森に巣食う魔狼の群れを"単身"で討伐。


最悪の魔物のスライムすら"単身"で討伐。


全てを炎の魔術で燃やし尽くした


日々、早馬で出かけては行く先々で業火による問題解決を為していく婚約者。


家人も総出で力づくで止めようとするが、振り切られてしまう。


洋々と帰宅するマリアーノへ外出を控えるように告げた侯爵令息だったが、帰ってきたのはこんな言葉だった。


『旦那様を影に日向に支えるのが奥の務め。公爵様は私に魔術の才能があると知り、旦那様に嫁がせたのでしょう? ですから多忙な旦那様の代わりに問題を解決しておりますの。そのようなわけで、私、少々疲れてしまいました。今夜も妻としてのお務めはご遠慮いたします。では別室にて先に休ませていただきますので』


と、凍り付くような笑顔で言われてしまった。


要するに、腑抜けのお前の代わりをしてやっている。


そして、そんな男の子を産むつもりはないと露骨に伝えていた。


子息は勝手気ままに振舞うマリアーノに困惑しつつも、ここで愚鈍を演じる事をやめるわけにもいかない。


自分が汚職や裏切りの証拠を掴んで動こうとしていると気取られてしまう可能性がある。


当然、公爵をはじめとする汚職役人たちも、そんな邪魔な女を放置するわけもない。


ついには裏で始末しようという動きを知り、公爵子息は妻のマリアーノに自分の真意を伝えた。


マリアーノが目立つと、隣国と戦争の火種になりかねない状況にある事。


公爵領地と敵国、さらには王室にも裏切り者がいる可能性があり、自分が派手に動けない事。


黒幕は実の父である公爵本人。息子の自分が気づいていると知られれば、証拠を隠滅するだろうとも。


それを聞き"業火の魔女"は怒った。


目に見える敵も倒せない男が何を言うのか、と。


激情的な妻に対して公爵子息は、国を巡る戦いは単純に目の前の敵を倒せばよいというものではない諭す。


それがさらにマリアーノを激怒させ、劇で最も盛り上がるシーンへと続く。


マリアーノが手袋を夫である公爵子息に叩きつけるのだ。


『決闘を申し込みます、旦那様! 貴方が勝てば大人しくしますし、魔力の才ある子供を何人でも産みましょう!』


と高らかに叫び、続けざまにこう吐き捨てる。


『ただし私が勝ったら女のように伸ばしたその長ーい髪を切ってさしあげます! もっとも決闘の後に無事でしたらのお話ですけれど? 決闘には不慮の事故がつきものですからね!』


と不敵に笑い、命の保証もしないと脅しにかかった。


だが公爵子息はそんなマリアーノの笑顔に釘付けとなった。


自分と違い、心のままにまっすぐに生き、それでいて悪を断じる正義の心を持つ女性に惚れてしまったのだ。


紳士として振舞う事も忘れ、一人の男となった子息はこう返した。


『ならば条件を追加しよう。ボクが勝ったら肩でそろえている君の美しい髪を伸ばす事。ああ、安心して欲しい。決して君の美しい肌には傷一つつけない。不慮の事故など起きないように気を付けるからね』


マリアーノの挑発に乗るどころか、まるで自分が上だと言い放つ子息。


その一言に"業火の魔女"は烈火のごとく怒り狂い、開始の合図も待たずに無詠唱で火球を打ち込んだ。


そして魔女は見る。


真っ二つに切り裂かれた火球の狭間に、いつの間にか抜いた剣を構えて笑う子息を。


まぐれだと思い、さらに加減無しの火球を何度も打ち込む。


だが子息にはまったく通じず、あしらわれ続けた。


剣一本しか持たない相手に向かって、公爵家が誇る華美な中庭を壊滅させるほど魔術を叩きこんだ。


火、水、風、土、持てる限りの魔術を、魔力の続く限り打ち込み続けた。


だが全ての魔術は魔剣でもなんでもない鉄剣一本に、弾かれ、裂かれ、かき消された。


それでも子息が攻撃を仕掛けてくる気配はない。


確かに子息は言ったではないか。傷一つつけない、と。


つまり、子息は剣を自分に振るうつもりはないのだ。


このままマリアーノの魔力が尽きるまで、防戦一方でしのぐつもりなのだと理解した。いや、させられた。


マリアーノは奥歯が砕けんばかりに屈辱で歯を食いしばる。


"業火"と呼ばれた自分が手加減どころか子ども扱いされている。


絶対に認めるものかと、がむしゃらに魔術を放つマリアーノ。


『はあっ、はっ……はぁ、くっ!』


そうして、ついに魔力切れを起こす。


攻撃の手が止み、短い金髪が荒い息で揺れる。


一方で子息は息すら乱れていない。


せいぜいマリアーノの放った風の刃をかわした際に、前髪が乱れた程度だ。


『私より強い……私より……強い……』


うつむいたマリアーノの表情はうかがいしれないが、かぼそい声で何事かを呟き続ける彼女を見て、子息は勝負ありと判断した。


『悪いね。ボクには戦女神の加護が宿っている。もっとも剣しか取り柄がないとも言えるんだが……なっ!?』

『旦那様!』


勝利宣言をする令息にとびかかる"業火の魔女"。


令息もまさか組打ちをしてくるとは予想できず、とっさに剣をつきたてようとしたがケガをさせるわけにもいかないと躊躇した。


その一瞬の隙に子息は、足をひっかけられ地に押し倒された。


『勝利への執念、誠に見事! だが男女で筋力の差は歴然……むぅぅうう!?』


子息は唇を塞がれていた。


"業火の魔女"の初恋は身も心も燃え上がる激しいものだった。


その後"業火の魔女"の助力もあり、盗賊団や魔獣、魔物、全ての脅威は燃やしつくされた。


汚職役人たちと親玉の公爵は証拠とともに本国に突き出され、国を揺るがした罪で処刑された。


後に業火の魔女は己の魔術の才能と、夫の剣の才能を持つ子を多く為した。


その娘のうちの一人が次代の皇子と結婚し、さらに多くの才ある王子、王女に恵まれた。


業火の魔女の子と孫たちが今代の王国の発展に寄与している事は間違いない。彼女が多くの国民に慕われて、今もなお劇の演目として語れる由来である。


王族たる私もその孫の一人として、受け継いだ血統と才能に誇りを持っている。


ゆえにこの演劇の題目は私にとって神聖なものだ。


「何度読んでも実話とは思えません。だからこそ長く語られるのでしょうね」


私は招待状に添えられた物語の概要を読みながらつぶやく。


「そんなことより。何か私に伝えたい事があったのよね? なにかしら?」


劇の話は飽きたとばかりに、おばあ様が私を促す。


「あ、はい。実は……」


飛竜の目撃情報を得て確認した先が"業火の魔女"の生家であった事。


遠目の確認で済ますつもりが、魔族が居ついていた為、戦闘となった事。


その際、王室より立ち入り禁止とされていた敷地内に入り込んでしまった事。


それらを告げて、私は頭を下げる。


「ああ。そんな事があったのね。けれど魔族?」

「はい。私と少し因縁のあるサキュバスです」

「へぇ?」


おばあ様の目が少し細まった。


「ところでアリスちゃん。あの屋敷には少しだけ危ない物があって立ち入り禁止になっていたのだけど、その魔族はケガとかしていなかった?」

「あ、はい。特にそういった事はなかったと思います」

「そう……考えてみれば、立ち入り禁止にするほどでもなかったかしら? よく考えたら複写人格が覚醒するには相当量の魔力が必要なのよねぇ。当時は頭に血が上っていて覚醒条件を満たすことまで考えていなかったけれど完全な不良品ね。まぁ二十歳そこそこの未熟な小娘が作った玩具なんてそんなものね」

「……ええと?」


何かを考え込むおばあ様。


「なんでもないわ。それでアリスちゃん。それでそのサキュバスは退治したの?」

「……恥ずかしながら、私の未熟さゆえ、逃げられてしまいました」


剣を奪われた上、こちらから撤退したなどと口が裂けても言えない。


私はかつて死ぬ寸前まで追い込まれた、おばあ様との修行の日々を思い出す。


「貴方の落ち度ではないわ。きっと魔術の師として、私の教え方が悪かったのよ。ごめんなさいね」

「そ、そのような事は決して! 私の不徳です! これよりなお精進いたします!」


私はあわてて取り繕う。実際、私の実力不足だ。


「そう? だったら師として改めてアリスちゃんに"お稽古"をつけてあげるわ。今から」

「い、今から?」

「あら、ダメかしら?」


師のいう事は絶対だ。


それが世界最高の魔術師と謳われるおばあ様の言葉であればなおさらに。


「い、いえ。誠にありがたく……」

「ではさっそく始めましょう」


足が震えてきた。過去の"お稽古"の記憶が体にもしみついているせいだ。


どうして私はあの時、淫魔リーデル相手に退いたのだ。


確かにヤツは圧倒的な魔術使いだった。


やられるかもしれない、何度もそう思った。


ジャックとダニエルもスケルトン相手に押されていた。


吸魔の剣を犠牲にしてなんとか逃れる事ができた。


生きていれば再戦の日も来るだろうと、己のふがいなさに打ちのめされながらも、なんとか退いた。


いや……これで三度、見逃されたのだ。


その結果、私は今ここで死ぬかもしれない。


おばあさまの手によって。


「先に邪魔な物を片づけるわね」


イスから立ち上がったおばあさまが、パチンと指をはじく。


テーブル、椅子、そういったものが全て蒼い粒となって消えた。


控えていたメイドたちも蒼い粒となって消えた。


それらがあった場所には小さな魔石の欠片が転がっている。


テーブルもイスもメイドですら、おばあ様の魔術によるものだ。


「さあ、アリスちゃん。どこからでもいいわよ? 大丈夫。手加減してあげるから不慮の事故なんて起きないわ」


おばあ様が笑う。


手の平をくるくる回すたび、その掌の上には、火、氷、風、がめまぐるしく入れかわる。


おばあ様は今こう言った。不慮の事故は起きない、と。


それが私とおばあさまとの力の差。


この年の差で、なおそう言い放たれる。


修業時代、私は必死に真剣に修行に取り組んでいた。


けれどおばあ様からは最後まで、棒振り遊び、詠唱ごっこ、と可愛がられ続けた。


だが、今は違う。


私は何度も実戦を経験したし、死にそうな目に遭ったこともある。


強くなったという自負と自信がある。


それでもなお"お稽古"と言われるのであれば、実力をもって見返すしかない。


震える足に少しだけ悔しさが宿り、力がわいた。


「よろしくお願いいたします、マリアーノおばあ様! 私もあの頃のままではありません!」


弟子は師を越えてこそ。


そう。


我が祖母であり"業火の魔女"と呼ばれたこの方こそが、我が魔術の師匠……ひっ!?


燃え上がる戦意とともに剣を抜こうとした時、私の視界には燃え盛る赤い炎が迫っていた!


かろうじてかがみこみ、髪の毛を焦がしながら回避する。


「お、おばあ様!? まだ始めの合図は……ッ」


開始の挨拶もなく火球を飛ばしてきたおばあ様に抗議する。


だが逆に呆れられてしまった。


「口を動かす暇があったら不意打ちの一つでもしなさい。いつまで棒振り遊びをしている気でいるの? まさかアリスちゃん。魔族相手に名乗り合いなんてしてないわよね?

「……ッ」

「……あら、本当にしたの?」


否定する間もなく、私は表情を読み取られた。


「あの! 実はもう一つ、お伝えしたい事が!」

「あら、なぁに?」

「おばあ様の実家に住み着いていた魔族は、自らを四天王と名乗って……」

「あら、懐かしい。私も若いころ()()()はヒネった覚えがあるわ。まだいるのね、アレ。お稽古が終わったら続きを聞かせて頂戴?」


そう言いながらおばあ様が火球と氷矢を打ち込んできた。


"お稽古"は始まったばかりだ。


「う、うぉぉおおお!」


私は絶望とともに剣を振りあげた。






***






「またか」


オレはポリポリと頭をかく。


あの騒動から数日。


深夜作業の合間にトイレに立つと、時折、廊下のすみにフランソワ人形が座っている時がある。


最初に深夜の廊下で見つけた時は腰が抜けそうになるほど驚いた。


そのたびに棒でつっついて動かないか確かめたが、もう慣れた。


というか。オレはようやく理解した。


「お前、まだ中にいるんだろ」

「……」


オレは人形を抱き上げ、瞳にはめこまれた魔石の上に手を掲げて魔力を補充する。


確実に魔力が伝達した感覚があった。


だが人形は人形の姿のまま、くてん、と力なくオレに抱かれている。


「だんまりか?」


少し乱暴に揺すってみると。


「……坊主。お前は淑女の扱い方を学んだ方が良いぞ?」


魔石の瞳が蒼く輝きオレを見返した。やっぱりな。


「なんで黙ってたんだ?」

「思い出してみろ。去り際に湿っぽい事を言った手前、私だけ意識が残ったというのは恰好がつかん。黙ったままお別れを決め込むつもりだったが、まさかこの人形を持ち帰るとは思わなかったぞ」


別れの挨拶とばかりに自分語りをしていたからな。


確かに格好がつかん。


「その気恥ずかしさ、わからん事もないけどな。お前がいる事はリーデルにも教えてやれよ。お前との別れがツラかったらしくて、まだ落ち込んでるんだ」

「それは私との別れではなく、幼いマリアーノとの事だろう? 私はリーデル嬢の心の中で良い事を言って去っていった悲劇の女フワンソワという記憶を維持したい」


どっちもマリアーノなんだが、こっちのマリアーノはフランソワと名乗るらしい。


「ただの見栄っ張りじゃねーか。ならせめて夜中に屋敷内を徘徊するのはやめろ。ウロウロと何をやってんだ、お前。最初にお前を深夜の廊下で拾った時、本当にビビったんだぞ?」

「魔力補充のための魔石でもないかと思ってな。溜めていた魔力が心もとなくなっていたのだが、この屋敷には金目のものが無くて困っていた」


余計なお世話だ。金がないからお前みたいな呪いの生き人形と仲良くするハメになったんだぞ。


「だが、坊主だけに露見したのはちょうどいい。これからはちょくちょく坊主に魔力を補充してもらおう。さっきのようにな」

「……面倒くさいし、オレにメリットなくない?」


魔力を補充しても、どうせこいつは退屈しのぎにウロウロして消費するだろう。


「魔力があれば私は一流の魔術師だぞ? いざという時に役に立つ。男は好きだろう? 切り札とか、奥の手、とか。私はそういった存在になれるぞ?」

「む……」


切り札。奥の手。男の子で嫌いなヤツはいないだろう、魔法の言葉。


実際、フランソワが仲間になって協力してくれれば色々と心強いのは確かだ。


だがコイツの燃費が最悪ということも知っている。


いざ戦闘となれば魔石や魔晶石をバンバン砕くようなフランソワをアテにできるほど、ウチに金銭的余裕はない。


それに世の中は広い。フランソワよりも恐ろしい人間だっている。


「はいはい。確かにお前さんの魔法はたいしたもんだ。けど慢心するなよ? 人間界にはもっと怖いお姫様とかいるんだ。オレなんて殺されかけた事がある」


生身に見せかける魔法や無詠唱の風魔法が使えても、剣を振り上げながら火の玉や氷の矢を飛ばしてくる残虐なお姫様には歯が立たないだろう。


「ほう。それは興味深い」

「なら、お前さんを送りがてら話してやる。応接室に戻すぞ?」


オレはフランソワを肩に担ぎあげる。


オレの顔の横にフランソワの人形の顔が来るなり、蒼いジト目で文句を垂れてくる。


「レディを運ぶ持ち方ではないな」

「あにいくオレは紳士に程遠いし、お前さんは淑女じゃないからな」

「いずれ教育してやろう。それで怖いお姫様とは?」

「ああ。その姫さんは剣も魔法も使えるおっかない美人でな? 最初に会ったのは初めて人間界に行った時で……」


その後、オレの話を聞き終えたフランソワが、うーん、とうなった後、またも謝ってきた。


なぜと謝るんだ聞いても答えてくれなかったが、もし次にその姫騎士に会ったら怒り狂って襲い掛かって来るだろうから全力で逃げろと忠告された。


言われるまでもない。だが広い人間界で二度も三度もパッタリなんてありえないさ。


そう言うとフランソワは『私が人形に残った理由は罪悪感という名の未練だったか』と言ったきり黙り込んでしまった。


フランソワは確かこう言っていた。自分や幼いマリアーノちゃんは、理由は違えど未練によって人形に宿っていたと。


だがフランソワの未練もすでに晴れたと言っていたが、今も人形に残っているのは新しい未練ができたという事だろうか?


「……ま、それならそれでいいか」


オレとリーデル。二人だけで過ごすには、この屋敷は広すぎる。


深夜にウロウロする生き人形がいても悪くないさ。

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