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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
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『猫と魔剣とフランソワ』


タマを捕獲したオレとリーデルが屋根裏から応接室に戻ると、フランソワがいつもの定位置でくつろいでいた。


一目でフランソワとわかったのは、その短い脚を組んでふんぞり返っていたからだ。


「フランソワか。戻ったぞ」

「ただいま戻りました」

「坊主、リーデル嬢。ご苦労だったな。成果は上々のようだな」

「ああ……って、おい、なんだそれ?」


オレの視線は組まれた短い脚の先に釘付けとなった。


コアテーブルの上には、抜身の剣が無造作に置かれていた。


離れていても魔力を感じるこの感覚。魔剣の類だ。


「庭で拾ったのさ。ところで坊主、一つ聞きたい事がある」

「あん?」


そんなもんが落ちてるはずないだろうが。そう突っ込むより早くフランソワがこんな事を聞いてくる。


「魔族にとって人族に名が知られるというのは良いものか?」

「なんだよ急に? 名が売れるって事か?」

「そうだ。人族同士でも"業火の魔女"なんぞと勇ましい名で呼ばれた女もいた。魔族もそういった習慣はないのか?」


そんな名前で呼ばれるなんて、どんなおっかねぇ女だ。絶対に会いたくない。


「魔界でも二つ名で呼ばれる人はいるぞ。わりとあちこちに」


師匠が『無法者』。エリー先生が『火薬庫』。その名に恥じない無法者と火薬庫だ。


オレは身近な二つの顔を思い浮かべながら説明する。


「血の気の多い連中は名が売れると喜ぶぞ。中にはあえて名乗りをあげるヤツもいる。売名の為にわざわざ目立つところにダンジョンを構えたりしてな。そうやっておびき寄せた人間を返り討ちにして、装備や魔力を回収するのさ」


いわゆる脳みそ筋肉スタイルのダンジョン経営だ。


そしてこの手のダンジョンのマスターには共通点がある。


「ほう?」


戦いの話になるとそうやって笑うヤツだ。素質あるぞ、フランソワ?


「だがオレ達のように平和を愛し、ひっそりとダンジョンを営む魔族は名と顔が売れる事は遠慮したい。そうだよな、リーデル?」

「そうですね。短期的には大きな収入を見込めるかもしれませんが、リスクも高く、損耗した際の被害額などを考えると私たちには向いていません」


オレは怖いからやりたくないだけだが、リーデルは色々と考えているらしい。


もちろんリスクとリターンが見合ったとしても、オレは絶対にそんなダンジョンはやりたくない。


「ふうむ。では……例えば、お前たちが大魔王の四天王などと名が売れた場合はどうなる?」


オレは、お? と思いつつフランソワを見る。


「フランソワ、お前、四天王なんて知ってんのか? ずいぶん昔の話だぞ?」

「ん? 魔族には本当に四天王なんぞと名乗る輩がいるのか?」

「いるぞ、っていうか、いたぞ。今の大魔王様こそ、先代大魔王様の四天王の一人だ。先代様が異界から召喚した最強の四人の一人だよ。んで、先代様がお隠れになった時、後を継がれたんだ」

「ほう。興味深い。他の三人は?」

「他の四天王たちは行方知れずだ。ま、オレの親父が生まれるよりも昔の話だからな。よくは知らん」


歴史書なんかもあるが、書によって内容がマチマチだったりするんだよな。


偉い人たちの都合で誇張や隠蔽されてたりする気配もあるし、歴史なんてお国にいいように修正されるもんだ。


あんなもんよりゴーレム雑誌を読んでいた方がためになる。


「では、現大魔王にも新しい四天王がいるのか?」

「公式にはいないが偽物は時々出てくる。さっきも言ったが、腕に覚えのあるお調子者が人間界でダンジョンをやる時に四天王を名乗る事があるからな。けどそいつら自称四天王の運命はどいつも同じだ。一流冒険者、もしくは勇者の位を持つバケモンが兵隊を引き連れて来て――コレだ」


オレは自分の首をきゅっと絞める仕草をする。


いくら腕に覚えがある魔族でも、穴倉やら塔やらにこしらえたダンジョンでこもっているところに、多勢に無勢でこられたらどうしようもない。


そもそも人間が魔族相手に律儀に一対一で挑む理由もない。


冒険者が少人数でダンジョンに潜るのは採算の為だ。戦利品の分配は人数が少ないほど多くなるし、仲間が増えれば分け前も減る。


けれど騎士団であれば国家予算を背景に、頭数をそろえて大火力ですりつぶしに来る。


オレの時もそうだった。


初めてのダンジョン経営時に殴りこんできた姫騎士などは報酬で動いているわけではないから、大人数かつ精鋭でこちらを殲滅に来る。アレは本当にヤバかった。


「かつての四天王たちが人間界で無双しすぎたからな。人間(そっち)のお国も神経質なんだよ。四天王なんて名乗ったら速攻で最大戦力をぶち込んでくる」


オレがそう説明するとフランソワが立ち上がり、目の前に来るとオレに頭を下げた。


「な、なんだ、どうした?」

「親孝行を気取って良かれと思ってやったことだが……慣れない事はするものではないと痛感した。詫びにコレをやろう」


そういって、テーブルに置かれていた魔剣を指さす。


「……いいのか? 正直、金に困ってるからありがたいが」


入手経路も定かではないうさんくさい魔剣だが、すぐに売っぱらってしまえば問題ないだろう。


「それより、マリアーノちゃんはまだおねむか?」

「ああ。お前の肩に乗っている黒猫が催眠を解術すればすぐに起きると思うが」

「そうか。ならタマ、後で術を解いてくれ」

「ふむ? 今すぐではなく?」

「フランソワ、話がある」


オレは首をかしげるフランソワの対面に座り、リーデルも後ろに控える。


「単刀直入に。マリアーノちゃんはどうなんだ? あとどれくらいで……その……」

「九割という所だ。ほぼ満足しているよ」


消えてしまうんだ? と言葉を濁した問いにフランソワは躊躇なく答えた。


「……そうか。もう一つ聞きたい」


オレはずっと疑問に思っていた事を口にする。


「この屋敷の肖像画。それに庭の彫像。どうして姉妹そろったものがないんだ?」


オレが思うにマリアーノちゃんは、養女かお妾さんの子だろう。


姉のフランソワの成長記録だけが残されているのは、マリアーノちゃんがご両親に疎まれていたからではないだろうか?


だからフランソワはマリアーノちゃんの為、オレたちに親子の真似ごとをしろと頼んだ。


マリアーノちゃんもまた親の愛を知らなかったからこそ、オレたちに懐いた。


オレの冴えた脳みそは、悲しい真実を導き出してしまった。


だが、フランソワは想像もしない答えを返してきた。


「そうさ。坊主の思った通り。私がマリアーノだからだ」


……ん?


んんん?


「は? どういう事?」

「……おや。案外カンのいい奴だと感心したが、看破していたわけではなかったのか。これは口を滑らせてしまったな?」


クスクスと笑うフランソワ。


その笑い方は今まで斜に構えたものではなく……マリアーノちゃんのように無邪気な笑顔だった。


「オレはてっきりマリアーノちゃんが養女かお妾さんの子だと思ってたんだ。それであまり構ってもらえなくて、親の愛を望んだのかなって」

「なるほど。平和的で筋の通る話だ。その温かい思考は嫌いじゃない。だがそうではないよ。私はマリアーノ。正確には二十歳の記憶のマリアーノ。今眠っている方のマリアーノは五歳の記憶だな」

「わけがわからん」

「退屈で長い話だ、話すにも値しない。要するに、この人形には二十歳の私と五歳の私が、それぞれ異なる未練を残して同居しているのさ」


フランソワ、いや、マリアーノか? が立ち上がる。


「そもそも私たちは死人でもなんでもない。今から四十年ほど昔、当時二十歳だったマリアーノがこの人形にかけた魔術だ。とある事を成すための記憶。作り物の人格。それが私だ」

「そ、そうだったのか。なるほどな……」


などと、物知り顔でうなずいてみたものの、さっぱりわからん。


細かく解説されたっぽいのに、わかりませんでしたというのは空気が悪くなってしまうので知ったかぶりをしておく。オレは空気の読める男だ。


隣のリーデルを見ると、なるほど、という顔をしていた。


オレと同じく演技……ではなさそうだ。


「つまりフランソワ様とマリアーノちゃんは死人の魂ではなく、何かの目的を果たすため、記憶と経験を写したご自身というわけですね」

「リーデル嬢はそちらの方面にも明るい才女か。その認識でほぼ間違いない」


頭のいい女の人同士で話を進めてくれるようで助かる。


オレは腕組みをして、わかっているフリを継続だ。


「だが目覚めたのは二十歳の私だけではなく、幼いマリアーノも発現した上、主人格になってしまったのは予想外だった。アレを排除しなければ私は十全に身動きが取れず、本来の目的を達せないと思っていたのだが……やるべき事は本人の手によって全て終わっていたよ」


本人というのは、この人形を作った本物? のマリアーノの事か。


「ええと、つまり。マリアーノ。お前さんの目的は達成されたのか?」

「出番すらなかった。だが、それこそ私が望むもっとも良い結末だ」


よくわからんが、マリアーノがそういうのであればそうなのだろう。


「あとは幼いマリアーノが満足してくれればそれで終わりだ。おそらくそれで私も一緒に消える事ができる」

「……そうか」


マリアーノは口を閉ざしたオレからリーデルに視線を移す。


「リーデル嬢にも世話をかけた。そして謝罪を」


マリアーノがパチンと指を鳴らすと、リーデルの手の甲にあった蒼い紋が霧散した。


「もとより呪のかかった紋ではなかったが、気分は良くなかっただろう。どうか許してほしい」

「そうでしたか。いえ、結果として私どもも依頼人の望みを全て果たせました。気にしておりません」

「リーデル嬢は本当にいい女だな。美しく、才能もあり、少しだけ不器用だが……そこもまた魅力的だ。君になびかぬ男なぞおらんだろう。よほど鈍い男でなければな」

「あ、あの、ここでそういうお話は……」

「失礼した。改めて礼を言う、ありがとう、リーデル嬢」

「いえ。私こそ勇気づけられるお言葉、ありがとうございました」


リーデルが頭を下げる。マリアーノもドレスのすそをつまみ、礼を返していた。


「と、いうわけだ。坊主たちにはもう少しだけ幼い私の相手を頼む。なに、あと数日も遊んでやれば永い眠りにつくだろう」

「わかった。まかせとけ」


マリアーノが、うーん、と背伸びをする。


「色々と面倒をかけた礼もしたい。事を終えて屋敷を出る時、ここにあるものであれば何でも持って行ってかまわん。長らく立ち入りが禁じられていたらしくてな。どこも荒らされていないはずだ。地下の酒なんかは金になるだろう?」

「いいのか?」

「どのみち酒も金も、今の私が有効活用できるものでもない。好きにするといいさ」

「だってよ。リーデル。地下のお酒もらっていく?」

「……よろしいのであれば、ぜひ」


お、遠慮するかと思ったらちょっと喜んでるぞ。ワイン好きだからね、この人。


「リーデル嬢はいける口か。終わった後でなくとも今夜から飲むといい。では後は頼む。坊主、猫に命じて幼い私を起してくれ」


そうしてマリアーノはソファに腰かけ、目を閉じた。


「ああ。タマ。催眠を解いてくれ」


タマがかじっていたカツ=ブシから顔をあげ、にゃあ、と鳴いた。


「……ん。んんー……あ、パパ、ママ?」


毅然としていた表情のマリアーノの口から、柔らかい言葉が飛び出す。


マリアーノちゃんが目を覚ましたようだ。


「あれ? マリア、寝ちゃってたの?」


屋根裏に向かい、タマと目があったところで記憶が飛んでいるはずだ。


「マリアーノちゃん、ほら」


オレは床のタマをカツ=ブシごと拾い上げ、マリアーノちゃんに見せる。


すると。


「あ、猫さん!」


笑顔になって駆け寄ってきた。


オレはタマの耳元に口を寄せる。


「すまんが相手してやってくれ」


そう頼むとタマは小さく、にゃあ、と鳴いてマリアーノちゃんの足元にすり寄っていった。


なんて素直で頼りになるヤツだろう。


今も部屋のすみっこでエサをむさぼり、ふくれた腹を見せて寝ている奴らも見習ってほしい。




***




それから数日の間。


マリアーノちゃんを中心にして、オレとリーデル、たまにシャーリーンや栄光号、さらにはペットたちも交えて、かくれんぼやら鬼ごっこやらをして屋敷の内外で遊び倒した。


日を追うごとにマリアーノちゃんの眠る時間が長くなっていった。


やがて。


「パパ、ママ、おやすみなさい! 明日もたくさん遊ぼうね!」


昨晩そう言って笑顔で眠ったマリアーノちゃんは、その翌朝、目覚める事はなかった。


「――フランソワも一緒に眠ったのかな」


ベッドに横たわった人形。


生身のように見せていた外装の魔法も解け、寝間着の袖からは木製の手足があらわになっている。


「もとのドレスに着替えさせましょうか?」


リーデルが寂しそうにそう言った。


「そうだな。頼む。オレはコアトークで飛竜便の手続きをしてくるよ」


やるべき事はすべて終えた。


あとはペットたちを連れ帰り、依頼人のお嬢様に引き渡して完了だ。


寝室から出る前、オレの背中にリーデルの声がかかる。


「坊ちゃん」

「ん?」

「フランソワ様は報酬に屋敷にある物を、何でも持ち帰って良いとおっしゃいましたね」

「ああ、そうだな」


リーデルが何を言いたいのか、なんとなくわかる。


「この人形を持ち帰る事は、つまらない感傷でしょうか?」

「……そんな事はないさ。フランソワは自分を作られた道具のように言っていたが、幼いマリアーノちゃんは予想外の存在と言った。ならあの子は道具ではなく、確かに生きて笑っていたと思うぞ。短い間の親子ごっこだが無理に忘れる事もないし、割り切る必要もないさ」


フランソワの口ぶりから、本物のマリアーノの人生はあまり幸せなものではなかったのだろう。


だからせめて。


「マリアーノちゃんの事、オレとリーデルだけでも覚えておこうな。あのひねくれたフランソワもついでに」

「坊っちゃん……」


リーデルのオレを見る目が、どうにもボーっとしている。


悪かったな、ガラにもない事を言って。そんなに呆れるなよ。


オレは誤魔化すように言葉を続ける。


「だが、それはそれとして、ワインやら金目のものはもらっていく」

「もう! せっかくいい事を言っていたのに」

「お前だって今、呆れた顔してたじゃねーか、どうせオレには似合わんセリフだよ。人形は着替えさせたら飛竜便が来るまで応接室に座らせておこう。昨日までのようにな」

「……はい。今日も三人で過ごしましょう」


リーデルもマリアーノちゃんと過ごした数日が楽しかったのだろう。寂しそうにうなずいた。


そうしてオレたちは、二日後にやってきた飛竜便で魔界へと帰った。


オレたちの帰還を今か今かと待っていた依頼人のお嬢様は、オレたちがペットを連れ帰ったという報告を受け、すぐに屋敷にやって来た。


離れ離れになっていたペットたちと再会するなり、互いに抱き合い、絡まり、そのまま転げ回っていた。髪もドレスも滅茶苦茶になっていたがずっと戯れていた。


「この度は誠にありがとうございました! またの機会がありましたら、ぜひよろしくお願いいたします! もちろん貴方がお困りの時にはお声がけください、お力添えいたします!」


髪もドレスもぐちゃぐちゃのまま笑顔で去っていったお嬢様を見送り、オレとリーデルは互いに顔を見合わせた。


「報酬は確かに破格だったが、あのお嬢様からの依頼は面倒くさい。二度は御免だ」

「ですが、強力な魔獣を率いるビーストマスターとご縁ができた事は大きいかと」


確かに何かあった時や、何かデカい仕事をするという時、強力なツテやコネやアテがあるのは大きい。


だが。


「悪い人じゃないが一緒に仕事をするのは難しいと思うぞ。本人はいい人だが、ペットたちの性根が悪い」


リーデルも同意する部分が多いのか、なんとも言えない顔をして小さくうなずいた。


こうしてオレたちは、後日やってきた借金取りのブタ野郎にダンジョン経営四回分にあたる額の返済と、フランソワにもらったうさんくさい剣を売り払った。


吸魔の剣、というものでなかなか良い値段で売れた。


こちらは返済にあてず、次回の仕事の為の準備金に回す事にして現金で受け取った。


クリスティーナにボロボロされたリーデルのジャージとメイド服も新調しないといけないしな。


「リーデル、今回もお疲れさん。しばらくはお休みといこう」

「はい、坊ちゃんもお疲れ様でした」

「今晩の晩飯は肉大盛で頼む!」

「ふふ。久しぶりの我が家のキッチンです。豪勢に参りましょうか? お酒も良いものをたくさん頂きましたし」


ワインが楽しみなのか、リーデルもご機嫌だ。今夜のメシはかなり期待できそうだな。

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