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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
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『四日目、庭園散策』


この屋敷に滞在して四日目の朝がきた。


ちょっと形の崩れた肉入りサンドイッチをほおばる。


それをジッと見てくるマリアーノちゃんに「おいしいよ」と言うと、跳ね上がって喜んだ。


「さて、今日はどっちを狙うかなんだが……」


残りは虎と猫。大きさは違うが似たような動物だ。


リーデルが用意してくれた二つの首輪が、すでにコアテーブルに置かれている。


その一つを手に取ったオレは、改めてため息をつく。


「この大きさの首輪をはめる猛獣を相手にするとか、今さらながら正気じゃないな」


お嬢様が乗ってもビクともしない大きさだったし、納得の大きさの首輪だ。


対して小さな首輪は本当に小さい。リーデルの手首より細いかもしれん。


ただし。


「色々と文字が刻んであるな」


黒猫の首輪だけ、なにやら物騒な雰囲気がある。


「首輪はどれも魔道具です。ビーストテイマーの髪や血液などを触媒にして、従順や束縛、自制などの効果が付与されているのですが……」

「ですが?」

「そちらの首輪だけは魔力抑制の機能があるようです」

「……ゴーレムで言う所の安全弁か」


似たようなモノはゴーレムマスターも使うから、すぐにピンときた。


フェレットのグロリアが風魔法を使うんだ。ボス猫がさらに強力な魔法を使っても不思議じゃない。


そんな魔力が暴走しないよう、普段はこれをつけているという事だろう。


今まさらに安全装置が必要なのだが、今、それがついていない理由は明白だ。


危険な人間界に来れば、ペットの能力をセーブするものは取るに決まってる。


それに備える用心深さがあるのに、どうして人間界へバカンスに来たのかと疑問も浮かぶ。金持ちの考えは理解できん。


「猫と虎。どっちも厄介そうだが、どう思う?」

「この二頭を無視するという選択肢もありますが」

「それはダメだろ? あっ、いや、それもアリなのか」


オレは目の前のテーブルにはまっているダンジョンコアを見る。


依頼達成の最低条件であるコアの回収は済んだ。


ペットを回収すれば追加報酬という話であって、そちらは必須条件じゃない。


フランソワからもペットの全回収は頼まれているが、話が通じないヤツでもない。後から依頼人がやってきて回収すると言えば納得しくれそうだ。


追加報酬を諦めれば、安全な帰宅が約束される。


「けど、惜しいよなぁ」


追加報酬を得られれば、通常のダンジョン経営四回分となる。


性格の悪そうな飼い猫と、ちょっと大きな猫を捕まえれば、過酷なダンジョン経営が三回分も浮く。


「んんんー……」


明らかにヤバいのは虎の方だが、資料を見る限り方法もある。


攻略ポイントは逃げれば追ってくる、追えば逃げるという所だ。


ヘビやネズミのように姿をくらまされる心配もない。


それを踏まえて作戦はこうだ。


グロリアの時と同じく、鬼ごっこをして相手の体力を削る。


頃合いを見てエサをやり、それを食べているスキに首輪をつける。


完ぺきだ。


単純すぎる? 作戦はシンプルな方がいいんだよ。


「よし、捕まえよう。虎なんぞ少しデカいだけの猫だ。資料には人懐っこいってあったし、それを信じる」

「そうですね。私も賛成です。これまで依頼人の方から頂いた情報に嘘はありません。私は……その、怖いですけれど」


そりゃ怖いわな。


そんな細い体で襲われたらイチコロだ。


こんなデカい図体のオレだって怖いんだから。


一方。


「虎さんって大きい猫さんなの? 足が六本あるよ?」


オレがデカい猫といった途端、目をキラキラさせるマリアーノちゃん。


虎という生物を知らないマリアーノちゃんは、興奮気味に資料のイラストを見ている。


……クリスティーナよ。名前負けしない淑女である事を祈ってるからな?


「よし、決めた。まずは虎のクリスティーナを捕まえる。おびきよせるエサの用意を頼む」

「はい」

「虎さん!」


オレはデカい首輪を肩に通し立ち上がった。




***




準備を整えたオレたちは、玄関ロビーで待機中の二体のゴーレムをチェックする。


今回は屋外戦だ。


そうであればオレたちだけで勝負する必要はない。頼りになる二体の相棒がいるんだからな。


とはいえ重量があり足の遅いシャーリーンに追いかけっこは不向きだ。


「シャーリーンは留守番な。せっかくいい天気だし玄関先で待機しててくれ。室内ばかりだとカビとかコケとか出るしな」


ボディには高価な魔石をふんだんに使っているが、自然石の弱点はコレだ。


たまに日を当てたり洗い流したりしないと、カビや小さな虫がすみ着いたりする。


最悪、鳥の巣ができたりするから大変だ。


対策はマメな日干しと水洗い。虫が湧いたのに気づかず家に入れるとリーデルが本気でキレる。


「というわけで今回は……栄光号、頼むぞ」


オレが声をかけると、栄光号が進みでる。


「あっ、ママそっくりのお人形さんだ! こんにちは!」


マリアーノちゃんが興味津々とばかりに栄光号に話しかけている。


栄光号の性能は素晴らしいが、さすがにコミュニケーションは取れない。


「お人形さん、お話できないの?」

「ああ。だけど、いざとなったらマリアーノちゃんを守ってくれる。とっても頼りになるゴーレムだぞ」

「ふうん?」


玄関を出ると雲一つない快晴だった。


虎との鬼ごっこ日和とでも言うんだろうか。


「シャーリーンはここで日向ぼっこな」


ォォオオと稼働音で返答するようにした後、出入りの邪魔にならないようドアの横でヒザをついて安置状態となるシャーリーン。


ゴメンよと言い残しつつ、栄光号を連れ添ってオレたちは歩き始める。


「屋敷の裏だっけ?」

「はい」


オレは首輪を肩にかけ、背中にはリュックを背負っている。


リュックはそこそこの重さがあるが、全てが乾燥肉の塊だ。


荷物なんかはゴーレムに持たせるべき、という意見もあるがそれは素人考え。


オレ達の中で最大火力となるのは栄光号。そこにムダなウエイトや動きを阻害するものを積むというのは悪手以外の何物でもない。


栄光号は今も最後尾で周囲を警戒しつつ、オレたちをガードしている。


クリスティーナの反応があった場所に到着すると、予想外の景色が広がっていた。


「リーデル、こんなもんがあったのか?」

「見取り図にはローズガーデンとしか書かれていなかったので、こちらにもマナをまわして噴水と一緒に修繕したつもりでした。見取り図を見ていた時も広いと思っていましたがこれほどとは……」

「裏庭で趣味のお花植えてますってレベルじゃないぞ」


広がっていたのは植物迷路だった。


オレの頭より高い木の柵に色とりどりのバラが絡まり、壁となって迷路を作っている。


その入口の前で、オレたちは立ち止まった。


「で。虎公はこの中に?」

「はい。マーキングは確かにこの付近のさらに奥手、迷路の中を示していました」


身を隠すにはうってつけだし、わからんこともないが面倒な所に棲みついたもんだ。


「ここで考えてても仕方ない。行くか」

「はい」

「ちなみに迷路の地図とかは?」

「残念ながら……」


それもそうか。


もし地図なんてものがあれば、ここがただのローズガーデンとは思わなかっただろう。


「マリアーノちゃん、ここに入った事ある?」

「ない! 面白そう!」

「そっかー」


この子が亡くなってからできた場所かもしれないし、深くは聞かないでおこう。


それにこの楽しそうな顔。


未練を少しでも削れるなら、迷路で迷う事にも意味がある。むしろ、それなりに難しい方が楽しめるかもしれない。


リーデルに目配せすると、がんばって虎さんを探しましょうねと場を盛り上げてくれた。


「よし、行こうか」

「パパ、手をつないで! ママも!」

「はいよ」

「はい」


こうしてオレたちは、三人並んでもなお余裕のある道幅の巨大迷路へと足を踏み入れた。


わけだが。


「見事に迷ったな」

「迷いましたね……」


三十分後、オレとリーデルは途方に暮れていた。


迷路とは迷うために作られた場所だが、予想よりもさらに広い。


お庭の迷路というには明らかに難易度が高い。遊びの域とは思えない。


「広いし複雑だし。庭にこんなガチな迷路を庭に作るなんて、金持ちの考える事はわからん」

「確かに遊びの域を超えているとは感じますね」


ちなみに歩き疲れたマリアーノちゃんは、すでにオレの肩の上で眠っている。


最初はテンションも高く、角を曲がるたびに『虎さんいるかな、いるかな!』とはしゃいでいた。


しかしお目当ての虎さんがなかなか出てこず、飽きと疲れが重なって座り込んでしまった。


肩車を提案した所、喜んでオレの角に捕まりキャーキャー言っていたが、その声も次第に途切れ途切れとなり、やがて眠ってしまったのだ。


今はオレの頭の角と角の間で、やわらかい右のほっぺたを潰すようにして眠っている。


「とりあえず進もう。同じところをぐるぐる、というわけでもないみたいだし」

「はい」


自然迷路の特徴かもしれないが、あちらこちらには行き止まりがある。


行き止まりには何かしらの像が置かれていた。


「今度は七、八歳くらいか」

「そうですね。だいぶ身長が伸びてきました」


次の行き止まりで見た石像は、元気に駆ける少女像だった。


最初の像は、生まれたばかりの赤子を抱く夫婦。


次の像はヨチヨチ歩きの幼児の像。


両親の間で手をつないで歩く五歳ぐらいの少女の像。


そして今、目の前には元気に走る少女像。


オレたちはこの少女が屋敷の家人だと見当をつけている。これが誰かと言えば。


「おい、これはフランソワか? マリアーノちゃんが生まれる前に出来た像か?」


オレの頭の上でヨダレを垂らして眠っているマリアーノちゃんに声をかける。


しかしマリアーノちゃんがフランソワとして目を覚ます様子はない。


「アイツも寝てんのかな……いや、話したくない事もあるか」


両親の愛を知らないマリアーノちゃんと、それを不憫と思って未練を晴らしたいと願う姉のフランソワ。


「お家の事情かもしれませんし……」


リーデルも気を遣うように言葉をすぼめる。


なんというかアレだ。


うすうす感じていたが、ここにある像を見ているうちにマリアーノちゃんはお妾さんの子ではないか? という推理が浮かんできた。


今のマリアーノちゃんの姿が生前のものと過程すれば、それよりも年上だろう像が目の前にある。


この像がマリアーノちゃんの成長した姿かもしれない。


だが、そうであればフランソワと一緒にいる像があっても良いのではないか?


しかしこれまで子供の像は一人だけだった。


まるでこの屋敷に姉妹などはいない、娘は一人だけしかないのだと言わんばかりに。


もし、そこまでマリアーノちゃんは家族扱いされていないとすれば、理由として思いつくのは……といった所だ。


フランソワから無理に聞きだしたところで、愉快な話というわけでもない。


「……行くか」

「はい」


オレたちは元気な少女像に背を向け、再び迷路へと挑み始めた。


そうしてようやくそれを見つけた。


これまでの行き止まりとは違い、円形に切り開かれた空間が広がっている場所。


ゴールといわんばかりに小さな噴水があり、十歳ほど……今のマリアーノちゃんほどの背丈になった少女像が、噴水に立っており手に持ったカメから水を落としていた。


「ここが最終地点か」

「そのようですね」

「……お目当ての奴もいるな」

「……そうですね」


オレたちに気付いたのか、噴水の中からザバと大きなしぶきをあげ、白い巨体が六本の足で立ち上がった。


今日はいい天気だからな。水浴びをしていたのか、水分補給をしていたのかはわからないが。


「グルルル……」


少なくとも機嫌は良くなさそうだ。

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