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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
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『初日』


「ふぅ。さて、ここからは歩きだな」


飛竜が降り立ったのは深い森の中だった。


オレは防寒着を脱ぎ、黒いジャージ姿になると客車カゴから飛び降りてリーデルに手を貸す。


「ほら、手。気を付けろよ」

「ありがとうございます、坊ちゃん」


降り立ったリーデルも防寒着を脱ぎ、ピンクのジャージ姿になる。


だが下はジャージではなく、淡い水色のジーパンというものをはいている。


ちなみにオレも同様だが、色は濃紺のジーパンだ。


このジーパンとやら。つい最近、大魔王様のお針子部隊が作り出したもので、屋外作業者向けの品らしい。


鉱山や農作業、港湾作業員など、特にハードワークな客層がターゲットだそうだ。


実際にはいてみると、はき心地は良い上、耐久性もありそうな丈夫な生地で出来ている。


これまでにない素朴な色と質感、デザインなどがアウトドア気質な女性に受けているようで、最新のファッションとしても流行の兆しがあるらしい。


確かにいつもメイド服のリーデルのジーパン姿は、新鮮で活動的な雰囲気があるな。


ジャージと違って通気性や伸縮性はさほど無いが、耐久力に関してはこのジーパンが圧倒的だな。


どちらも良い品だから、用途によって使い分けってカンジか。


しかしジャージ同様、リーデルがどこから手に入れたんだか。謎の伝手でもあるんだろうか?


財布を取り出したリーデルに声をかける。


「ちゃんと払った金額覚えておけよ? 後で親父に利子つけて返させるからな? ああ、コートは預かっとく。一緒に荷物に入れておくぞ」

「ふふ、かしこまりました。でも、お利子は結構ですから」


リーデルが防寒着をオレに預け、笑いながら飛竜の頭の方へ向かう。


オレは背中にくくりつけてある三つの木箱下ろし始めた。


シャーリーンと栄光号、それぞれが入った大きめの木箱が二つ。


三つ目の木箱は少し小さく、お嬢様から受け取ったペットたちのエサと首輪と、オレたちの着替えや食料品などが入っている。


「まずはシャーリーンからいくか」


オレはバラして収納してあるシャーリーンの木箱を開け、その場で素早く組み立てていく。


シャーリーンは師匠の違法技術により、ある程度の魔力は自給自足できるため、オレが魔力供給するまでもなく稼働状態となる。


次に栄光号の木箱のフタを開ける。


メイド服を装備し、眠るようにして横たわっているリーデルにそっくりのボディに手をそえて魔力を補給する。


栄光号も無事に起動し、木箱からゆっくりと出てくるとオレの後ろに控えた。


その後、小さな木箱から旅行カバンやバックパックなどを取り出し、二人分のコートもその中にしまいこむ。


空になった大きな木箱二つと、コートの入った小さな木箱をシャーリーンに。カバン類は栄光号に持たせて移動の準備が整う。


それが終わる頃には、リーデルが飛竜の首の下に据えられた魔道具を通して、オーナーの竜騎士に礼をいいつつ料金を支払い終えていた。ちゃんと領収書もらっとけよ?


「さて、行くか」

「はい。ここから徒歩で一時間ほど、との事です」


飛竜が飛び立つのを見ながら、オレたちは地図を片手に目的地へと歩き始めた。




***




「坊ちゃん、このまま真っすぐです」

「おうよー」


地図を持つリーデルの指示に従って、オレはその前方で伸びた枝やら、転がっていた倒木やらをどけていく。


「これ、道なのか?」


オレ達は今、かろうじて山道という程度に土が見えるルートをたどり、屋敷へと向かっている。


「はい。依頼人のお嬢様から頂いた資料によると、向かう先は人間の貴族の古い別荘との事です。この道はふもとの街につながっているそうですが、屋敷には長らく家人が不在で、人の出入りはないそうです。屋敷の方も、何かしらの理由で立ち入りが禁止されていたらしく、道も整備されていなかったのでしょう」

「ふーん。人の街に近いのに、人が寄ってこない。その上、ダンジョン化できる建築物か。確かにうってつけの環境だな」


これだけ聞くとかなりの好立地、好条件だな。


「そうですね。もっとも彼女は旅行目的ですので、私たちの選定基準とは異なるでしょうけれど」


ダンジョンコアを持って人間界へ行く理由が、金を稼ぎに行くのでなく、散財しての遊行目的だもんな。オレたちとは懐事情が違いすぎて参考にならない。


「やっぱりこの世は金が全てか。はぁ」


この世の真理だ。溜息しか出ん。


「……お、お金で幸せは買えませんよ」


お。リーデルさんには異論があるようだ。しかし幸せときたか。


「女はロマンチストだな。金があれば好きなもの食い放題だし、好きな所に旅行だって行けるだろ?」

「女はリアリストですよ。お金があるだけでは、す、好きな人と一緒に食事をしたり、同じ景色や時間を共有したりできませんから」


どこがリアリストだ。完全なロマン思考じゃねーか。


好きな人とメシを食うにも旅行に行くにも金がいるって話だぞ?


頭が良くて何でもできるリーデルだが、やっぱり男とは視点の向きが違うんだろうな。


やれやれと肩をすくめていると、リーデルは恥ずかしそうにこうも付け足した。


「おわかりになっていないのは坊ちゃんの方です。お金がなくても、例えば、その、借金があっても。好きな人といられる時間が多いほど女は……私は幸せだと感じられます」


言い終わり、ますます顔を赤くするリーデル。


そんなに恥ずかしい事を言っている自覚があるなら、最初から言わなきゃいいのに。


そもそも、どんな状況であれ借金なんて無い方がいい。


このメイドさん、オレたちがなんで今日もこんな危ない所(人間界)に来ているのか忘れてない?


「好きな人と一緒にいる時間が幸せってのは否定せんよ? けどその上で、金があればメシも旅先も豪勢になるだろ?」

「食事は豪勢でなくても良い、という話です」

「いや、メシは豪勢な方がいいって話だ」

「むっ。そういうお話ではなくてですね」


ダメだ、話が通じない。


リーデルは果実とワインを晩飯にするようなシャレオツメイド。


皿に乗った肉の重さが幸せの重さと同義のオレとは、最初から価値観が違う。


「坊ちゃん。幸せとは何でお腹を満たすかではなく、愛で胸を満たすという事です」


まだ言うか。


しかも『私、今いいこと言いましたよ!』的なドヤ顔でこちらをチラチラ見ている。めんどくさ。


肉で腹を満たす以上の幸せなど無いと思うが、どうせ話は平行線だ。


オレたちは一生わかりあえない。


というか、幸せの定義を断言するリーデルだが、そもそもの前提条件に疑問がある。


「わかったわかった。けどなぁ、リーデル? わかったような顔して言ってるが、好きな人とメシ食って旅行した事があるのか?」


あるはずがない。


そんなヒマもない。


なぜならリーデルはオレのお守りで日々忙しいからだ。


さっきのトンブモ幸せ理論も、どうせ女性週刊誌とか女性向け小説とかに影響されたに違いない。


などと、オレが完全論破をしてしまったせいか。


「こ……のッ」


リーデルはギリギリと歯ぎしりをして、メイドさんとは思えない表情でオレを睨んできた。怖い。


「こ、この木の枝が邪魔だなー」


オレは三歩前に出て、そそくさと露払いに戻った。


背中に突き刺さる視線を感じる。今日の晩飯のおかわりは無いだろう、ああ、理不尽。


やはりメシが足りない事は不幸だ。オレは我が身をもって証明してしまった。


リーデルとの心の距離と殺気を背中に感じながら、歩くこと一時間。


ようやく目的の屋敷が見えてきた。


「アレだな。なんというか……」

「……雰囲気のあるお屋敷ですね」


長々と歩いてきた森が不意に大きく拓け、奥には静かにたたずむ古い屋敷があった。


広い庭は鉄柵で囲われており、歩いてきた道なき道は、正門らしき鉄柵門へと続いている。


「中庭にもスケルトンがいるって話だが……見当たらないな」


屋敷の近くまできたオレたちは、紋には近寄らず、近くの木の陰に隠れながら屋敷の様子をうかがう。


人っ子ひとり、犬っ子一匹、骨っこ一本、動くものはない。実に静かなもんだ。


「坊ちゃん、どうしましょう?」

「んー……」


いるべきはずの敵、スケルトンの姿が見えない。


不死者は陽光に弱いとも聞く。


朝日を避けて屋内に隠れているのだろうか?


屋敷の中でスケルトンに囲まれてから、答え合わせをするのは喜ばしくない。


だからといって、ここにずっといるわけにもいかない。


オレたちはこの世の摂理(多額の報酬)に従って、困難(多額の借金)を打破しなければならないのだから。


とは言え、悲観する状況でもない。


何が出てくるかわからない屋敷ではなく、スケルトンが出てくるとわかっているのだからな。


そしてオレは、対スケルトンに圧倒的有利なゴーレムマスターである。


もっとも、オレ個人は対スケルトンの実戦経験がないので、あくまで一般論という注意事項がつく。慎重になりすぎて足りないということもない。


怖いとか怖くないとかそういう話じゃないぞ。そもそも普通に怖い。


借金でもない限り、誰が好き好んでこんな所に来るかって話だ。


「シャーリーン、先行してくれ」


オレが命じると、のっそりと後ろに控えていたシャーリーンが前に出る。


「空になった大きい木箱は今は邪魔だし置いていこう。食料とかペット用品が入ってる小さな木箱は栄光号が持ってくれ。シャーリーンの両手はフリーにしておきたい」


ォォオ、と短い呼応のような稼働音とともに、三つの木箱を静かに地に置くシャーリーン。


それも水たまりなどを避け、やや背の高い草の中へ隠すように、だ。


ふ、さすがはオレのシャーリーン。


オレが腕を組みながらシャーリーンの背中を満足げに見ていると。


「坊ちゃん? ゴーレムに異常でもありましたか?」

「いや、何でもない。あとゴーレムじゃなくて、シャーリーンな、シャーリーン」


リーデルが首をかしげながら、声をかけてきたが……ま、素人にはわからんか。


何気ない動作の一つ一つに、ゴーレムの質というものが顕著になる。


大きな木箱は"今は"邪魔というオレの言葉から、後に回収の要ありと判断したシャーリーンは、木箱を損傷しないように優しく、かつ、第三者の目につかない場所に置いた。


細かく命じなくても、オレの意図を読み、対応できるシャーリーン。


もし栄光号に同じ命令を出せば、その場にただ置いただけかもしれないし、既製品やレンタルのゴーレムなら、ポイっと投げ捨てたかもしれない。


マスターから同じ命令を受けても、どのようなアクションになるかは、ゴーレムマスターの腕と経験、そしてそのゴーレムとの付き合いの長さや深さによる。


その点、オレは自己採点ながらもゴーレムマスターとして中の上……いや、上の下くらいには到達していると思っている。


ひきこもっていた期間の個人座学と、師匠に連れられてあちこちで講演のお手伝いをした時の経験の積み重ねが実を結んでいる。


ちなみにゴーレムマスターとしてのランクは、上の上が最高位……ではない。


さらに上の境地には判定不能のイカれたゴーレムマスターが多くいる。


彼ら、彼女らはまとめて、神、と呼ばれる位置にいる。


オレたちのような一般ゴーレムマスターのように、上中下のランク付けにこだわっているうちはまとめて、駆け出し、などと呼ばれる事すらある。


オレの身近にも一人いるからね、神様。


あんな人たちと比べられたら、たまったもんじゃない。


というわけで、駆け出しやや上ランクのオレは、相棒のシャーリーンを先行させて屋敷の中庭へと侵入を試みる事にした。


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