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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
29/65

しばらく慌ただしい日々が続きそうだ。


「くっ……」


朝日の光で目覚めた姫騎士は、己がベッドに寝かされている事に気付く。


「ここは……?」


目覚めたと同時に、ベッドの横で控えていたメイドが慌てて声をかける。


「姫様、お気づきですか! 騎士様! 姫様が!」


そう声を張り上げると、部屋の外で待機していたのか、見慣れた二人の側近が入室する。


「姫、ご無事でなによりでした」

「我らが未熟なばかりにこのような失態を演じ……」


ヒザを着き、深い謝罪をあらわす騎士達に姫騎士は問いかける。


「どうなった? 説明しろ!」


騎士達は自分たちも爆発で気絶していた事。


戻ってきた仲間たちによって、拘束されていた自分たちが回収された事。


姫騎士の剣は周囲を探したが見つからなかった事。


それらを伝えた。


「姫の剣はいまもあの近辺を探させておりますが……」

「いや、いい。無駄な事をさせるな。持ち去られたのだろう、あの魔族に……」


騎士達もそうだとは見当をつけていたが、あえて肯定も否定もせず沈黙した。


「少し、一人にしてくれ。なに、体に痛みはほとんどない。少し休むだけだ」

「はっ」


二人の騎士、そしてメイドも退室する。


一人になって、姫騎士は猛る。


「情けをかけられ、挙句、剣を奪われたか……なんたる屈辱!」


ぎりぎりとかみしめた歯がきしみ、唇の端から血がにじむ。


奪われた愛剣で、誰かの命が奪われるのかと考えるだけで、頭が沸騰しそうになる。


「あの淫魔め……次に会った時は、即座に斬る!」


あの狡猾な淫魔にはしてやられた。


最初から最後まで、幻惑と魅了の二つだけでいいように転がされたのだ。


幼い姉弟、その姉の方を魅了で操っての不意打ちは防げた。


しかし最後の場面で温存していただろう幻惑魔法を弟に使い、白髪のオーガの幻惑をこちらに見せて隙を作らされた。


本物でない理由? 簡単だ。あれがもし本物のオーガであれば、自分をあの巨躯で打ち据えてきたはずだ。


だが自分は思うつぼにはまり、ものの見事に隙をさらした。


その決定的な機を逃す事なく、淫魔は自分の背後を取り……大爆発を起こした。


相打ち狙いの自爆と思ったが、自分たちが縛られて放置されていたという事はあの淫魔は死んでいない。


やぶれかぶれの自爆攻撃ではなく、思い通りの展開で勝利をおさめたというわけだ。


「……若い女の姿だったが、見た目通りではないわけだな。老獪な性悪女め」


姫騎士は最後に見た、微笑む淫魔の顔を脳裏に焼き付けると、再びきしむ体をヘッドに横たえた。




***




「まさかすぐまた人間界に来るとは……」


海の見える丘の上で、オレはうなだれていた。


「坊ちゃん、またがんばっていきましょう」

「そうだなぁ……それしかないなぁ」


オレの後ろにはリーデル。


シャーリーは現在、師匠の所で水上仕様に換装中で、それが終わり次第、飛竜便で届け貰う手はずになっている。


『栄光の架け橋号』は生還記念でリーデルに『栄光の凱旋号』と改められているが、アレもメーカー送りで調整中だ。


オレたちは二人だけで、先行してダンジョンコアの設置にやってきている。


「また三十日もあれば必要なマナは貯められます。今度は慎重にいきましょう」

「そうだな。あんなトラブル続きはもうゴメンだ。目立たず、ゆっくりやっていこう。今回は期限もキツくないし、人間の街に行くのも控えるぞ」


なぜこんな事になっているかというと、オークのブタ野郎に利息分の支払いを無事済ませた後の話だ。


『ご令息であれば、元金の返済をおまかせしても大丈夫そうですな』


期限の三十日間より、余裕をもって帰ってきたオレたちを見て、借金取りのブタがとんでもない事を言い出した。


大丈夫なわけないだろうが!


けれど、親父がいつ帰ってくるかわからない以上、いつかまた利息が膨らんで家がとられてしまう。


あんな莫大な借金を返すくらいなら、いっそ何もかもくれてやって、どっかで一人暮らしでもした方が楽なんだが……そうなると親父の命もないし、リーデルも家を失う。


いや、リーデルはオレよりはるかにしっかりしてるから、むしろオレという邪魔者がいない方が、ラクに生きていけるだろう。


オレか苦悩していると、ブタ野郎はこんな絶妙な条件を出してきた。


『少額であれ、定期的にご返済いただければ、今後は利子をおつけせず元金を減らしていくという条件でどうでしょう』


今までは利子に利子が重なって、えらい事になっていたが、少しずつでも返せば利子は無し、しかも借金も減る。


悪くない条件だ。いや、なんか裏があるんじゃないと勘繰ってしまうくらいの条件。


オレが借りてもいない金を返す、という前提でなければだが。


結局、オレは色々と考えて、うなずいた。


家賃を払っていると考えれば悪くない……はずだ。


この屋敷を出たらもっと金がかかるだろうし、そう考えるとアリなんじゃないかと思う。


もっとも、リーデルがついてきてくれるっていうのが一番デカいんだが。


ちなみに例のダンジョンコアは無料でオレに譲ってくれるそうだ。ケッ、ありがとよ!


「あのオークの借金取り、そこらの魔人より怖いな。ずっと笑顔なのに、笑ってねーもん」


ぶつくさいいながら、海パンにアロハ姿のオレは隣のリーデルに愚痴をこぼす。


このアロハってのは、最近、大魔王様の地元で流行り出した、涼しくて洒落た服だ。


今回スーツは持ってきてない。カッコいいけど使い道なかったからな。


「そうですね、あの方、迫力がありますよ。でもディナーおいしかったです」


ピンクのアロハ姿のリーデルが同意しつつも、大枚はたいて予約したレストランのディナーを思い出す。


「んー、まぁな」


確かに美味かったけど、満足度的には低かった。具体的には満腹度が低かった。


「おいしくなかったですか?」

「いや、美味かったけどさ。なんか思ってたんと違うなって。ちょこちょこ小出しで出て来て食べるの面倒だったし」

「コースですから」

「お前のメシと同じくらい美味かったけどさ。おかわりとかないし。そう考えると、量的にも値段のワリにあわんというか」

「!」

「まぁ、でも、お前が行きたいなら、また行こうぜ……今回のダンジョンがうまくいったらの話だけどさ」


リーデルに向き直り。


「またよろしくな、リーデル。今回もどうせ色々と面倒かけるから、お礼はまた寝る前のマッサージでいいか?」


オレにできる事ならなんでもいいぞ、とリーデルの希望を聞いてみる。


マッサージもうまくなったはずだし、継続だろうと思っていたらリーデルが変な事を言い出した。


なぜか顔を真っ赤にして。


「……もし。もし、よろしければ。これから坊ちゃんを……お名前でお呼びしてもいいですか?」


決死の覚悟というか、なんか見た事ないくらい真剣な表情でリーデルがそんな事を言ってきたのだ。


オレはなんのこっちゃと思いながら、特に考えもせずうなずく。


「好きにすれば? 別に呼び捨てでもいいぞ?」

「で、では――」


そうしてリーデルはオレの名を呼んだ。


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