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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
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泣き顔へスマイル、すりきれるイリュージョン、踊るならレイド。


「ふん、やはり淫魔のたぐいか」


コアルームに入り込んできた姫騎士の一団は、白いテーブルで座って待っていたシャーリーンと、その目の前で蒼く明滅しているコアを見てつぶやく。


今のシャーリーンはリーデルのそっくりさんで、かつ、リーデルパパが贈った正装を身に着けているのだが。


その正装というのが、実にきわどい衣装だった。


なんでも夢魔と淫魔は色仕掛けがとても有効な種族らしく、女性であればこういったお色気がこぼれそうなほどに露出の高い服を正装として扱うらしい。


普段からまったく肌を出さないリーデルが、用もなく着るはずがないわけだ。


ただ、一応は初めての実戦というか、そういう場でもあるので持ってきたとかなんとか言っていたが……どうもそれだけでもない気がする。


とは言え、それを聞いても教えてくれはしなかったが。


ともかく姫騎士からすれば。


「なるほど、淫魔や夢魔は、幻惑をまとう魔術を使えると聞く。そこの少女が成長するとそのような容姿になりそうだな?」


直接戦闘という運用では敵わないならば、師匠が言っていたように工夫するしかない。


だから、こうする。


「やはり、そうするか」


姫騎士も予想していのだろう。


シャーリーンは腰に差していたリーデルのレイピアを抜いて、ベッドの上でリーデルとくっついて座っているオレに突きつける。


そしてレイピアを持っていない手で、入口を指さす。


「ここまで来て出ていけというのか。できん話だ」


レイピアの刃先がオレの首筋に近づく。


慎重に、慎重に。


もしあやまってチクっとしたら、幻惑が解けるかもしれないからな。


「姫様……」


金髪の騎士が判断をあおぐ。


「……仕方ない」


姫騎士が剣をおさめ、それを見た二人の騎士も剣をおさめた。


まさか本当に帰ってくれるのか? と期待してしまった次の瞬間。


「風よ! 切り裂け!」


まさかの魔術! 


姫騎士がかざした手から生み出された蒼い風が、レイピアを持つシャーリーンの腕を通り過ぎる。


シャーリーンの手がゆっくりとズレて……レイピアごと転がった。


「抜刀!」


再び剣を抜いた姫騎士と、二人の騎士が剣を抜いた。


このままだと一瞬でシャーリーンはバラバラにされる。


オレは姫騎士の位置と白テーブルの位置、正確にはダンジョンコアの位置を確認する。


コアの明滅は終わっていた。蒼く光るコアはいつでも撤収可能の状態だ。


リーデルを見る。


不安そうに涙をためて、オレを見ていた。


オレはリーデルを見て……思わず笑った。


思わず笑って、ああ、なるほど、と気づいた。


リーデルが危険をかえりみず、姫騎士に不意打ちに向かった時、微笑んだ理由がわかったよ。


大事な人を安心させる為なら、笑顔にもなるってもんだ。


「……よしッ!」


色々と覚悟も決まった。


「ぼ、坊ちゃん……?」


オレはリーデルが握っていた手を振りほどく。


「オォォォオオ!」


そして雄たけびとともに、オレは正体を現した。


「なっ!? なんだとっ!? オーガ!?」


姫騎士が目を見開いてオレを見る。


そりゃあビビるよねぇ!? 子供しかいなかった場所から、巨体のオーガが突然現れればさ!!


狙いは姫騎士のみ!


最後の障害になるかと思った二人の騎士は、オレを見て硬直している。


普通はそういう反応だ!


「チッ!」


姫騎士がシャーリーンからこちらへと身をひるがえす。


オレは姫騎士に殴りかかっていた腕をひっこめ、すぐに白テーブルに伸ばす。


そしてダンジョンコアを取り外し、姫騎士に背を向けてリーデルの元へと戻った。


「な、なに!?」


オレの行動が把握できなかった姫騎士が困惑した瞬間、シャーリーンへと念じる。


姫騎士を捕まえろ、と。


「……しまっ!? ……これは、くそっ! まさか!?」


片手になったとはいえ、背後からゴーレムの剛力で捕らわれ、姫騎士が拘束される。


本当にカンがいい姫様だ。


どうやらこれから何が起こるのか予想がついたらしいが――もう遅い。


「ごめんな、シャーリーン! 絶対に綺麗に直してやるからな!」


オレはシャーリーンを見る。


表情のないゴーレムの顔、彫刻のリーデルの顔。


それが笑ったように見えた。


「リーデルッ! 来いっ!」


オレはコアを抱え、さらにリーデルにおおいかぶさる。


「坊ちゃん!?」

「シャーリーン! 今だ!」


次の瞬間、シャーリーンの体が蒼く輝き、同時に大爆発を起こした。




***




「よいっしょっと!」

「ぼ、坊ちゃん、あんまり無理をしないでください! 荷物なんてどうでもいいですから! 血も……止まったかもしれませんけど、休んだ方がいいですよ!」

「へーきへーき。リーデルこそ休んでろって。自分では気づいてないけど、ケガとかしてるかもしれないしさ」


オレは例の干しマンドラゴラ……おお、甘い、果実かなんかで味付けしたのか? をかじりながら爆発で負った傷を癒しつつ、くずれた洞窟から無事だった荷物を掘り出していく。


元ダンジョンだった洞窟とコアルームは盛大に爆散した。


蒼い光を宿したダンジョンコアは、オレが大事に持っている。


リーデルも、少なくとも見た目からケガは負ったようには見えない。


守るべきものを二つとも守り切った。


オレにしちゃ上出来、自分に花丸満点をあげよう。


だが、さすがにあれだけの爆発の中心地にいたため、軽くない傷を負った。


骨の二、三本は折れているだろうし、五、六本にはヒビも入っていると思う。


背中の皮はズルむけだし、石礫で至る所の肉がえぐられ、血もあっちこっちからピューピューと噴き出たわけだが、命に別状はない。


そして、それらの傷もある程度はふさがりかけている。


マンドラゴラって生食でもこんなに効果抜群なんだな、商人のおっちゃんも目の色変えるわ。


正直、このマンドラゴラがなかったらヤバかったかもしれない。


あの時、もし踏んずけていなかったら? すべて商人に売ってしまっていたら?


そう考えるとゾッとしつつ、リーデルには余計な心配をさせたくないので、こうして大丈夫アピールもふくめて、瓦礫の山から荷物の救出作業を行っている。


「さて、こっちもだ」


街では世話になった二人組の騎士と、しぶとく生きている姫様も掘り出した。


「師匠……どんだけ爆薬を仕込んでたんですかねぇ……」


師匠の仕込んだゴーレム三大浪漫の一つ、自爆装置。


確かに護衛対象を守るための、最後の一手として使えるのは間違いないが……使いたくなかったなぁ。


いや、でもこれがなかったら終わっていたのも間違いない。


普通の騎士が相手なら自爆なんて使わず、うまくやれたと思うが。


「なんつー鎧だよ。反則が過ぎる」


最大の敵だった姫騎士は、砂と土にまみれて気絶したままだが、目立った傷やケガは見当たらない。


当分は目覚めないだろうが、念のため縛っておく。


「全員、生きてますね……あら、意外といいお味」


リーデルにも半分に分けたマンドラゴラをかじらせている。


全部オレに食えと言ってきたが、用心に越したことはない。


そう言っても渋るので、お前だけの体じゃない、オレの為にも食えと言ったら、めっちゃ素直に従ってくれた。


オレにはお前をリーデルパパのもとに返す責任があるし、元気でいてくれないとリーデルパパに顔向けできない。あの人からもらう小遣いは、オレの引きこもり生活の生命線だ。


騎士の二人も、呼吸を確かめながら縛り上げていく。


この二人は爆心地から離れていたというより、姫騎士の鎧に大部分の衝撃が吸収されたのか外見上で目立った傷はなかった。


むしろ姫騎士が生きていた事が驚きだ。


どれだけの強度なのか、この鎧は。相当に値打ちモノなのは間違いない。


「これ、身ぐるみはいで持って帰れば売れるかな?」

「殺さないのですか?」


意外そうに聞いてくるリーデル。


「いやぁ、さすがに気絶した女を手にかけるのは無いかなーって。どうせもうココに来ることもないし。あと、こっちの騎士のにーちゃん達には世話になっただろ?」

「甘い考えです。いつか身を滅ぼしますよ?」

「やっぱ甘いかな?」

「……でも私はそういう坊ちゃんが嫌いじゃありません」

「お? 今、オレ、イケてる?」

「たった今残念なカンジになりました。けれど、鎧を脱がすのは難しそうですから、この女の剣だけでももらっていきましょう。戦利品です」

「剣も相当な値打ちモノっぽいもんな。そうしとくか」


姫騎士の腰の鞘を取り上げ、転がっていた剣をおさめる。


ふと、気づく。


「あ、この前もらいそこねた金貨とか持ってないかな。リーデルが断ったヤツ」

「……剣はともかく。さすがに追いはぎのような真似は気が進みません」

「やめたほうがいい?」

「美意識の問題と言えばそれまでですが……」

「あれだけ金があれば、マンドラゴラを貰った時に断った、お高い店のディナーに行けるかなと思ったけどな。ま、いいか。どうせ行く相手もいないし、やめとこう」

「あ、けっこう持っていますね。おや、こちらは白金貨です。手にする機会が来るとは運がいいです」


リーデルが速攻で姫騎士の鎧の隙間など、いたるところに手を突っ込んであさっていた。


「……いや、リーデルがいいならいいけどさぁ」


オレは掘り出した荷物から、スーツを取り出して着替える。


リーデルはいつものメイド服だ。


やがて、満月を背にして飛竜がやってきた。


よくよく見れば……さきほどシャーリーンを届けてくれたあの飛竜だった。


ツノが一本折れている特徴ですぐにわかった。


「お、あのおじいちゃんか。息つく暇もないだろうから、申し訳ないな」

「坊ちゃんを気に入ってくださった方ですね」


数時間前とは装具が変わっていて、荷物用だけではなく乗員用のカゴも積んである。


『お待たせしましたな、若き戦人殿。得意先より急報を受け取り、舞い戻ってまいりましたが……』


ツノのない飛竜の首がぐるりと見回す。崩れた洞窟と、縛って転がっている騎士達。


『敗走というわけではなさそうですな。目出度き凱旋の誉れ、誠に喜ばしい事です』


そして飛竜が地に腹をつけて、体を沈める


オレは洞窟から掘り出した荷物の中で最も大事な物を最初に乗員用のカゴに積み込む。


シャーリーンのコア、そして『栄光の架け橋号』のコアだ。


そのあとに運よく無事だった果実の袋、その他もろもろの荷物に加えて、送還しそこなったのでしばらくペットとして飼う事になった、二匹のアイちゃんズを荷物用のカゴに放り投げた。


アイちゃんたちはやわらかくて触手もあるので、放り投げても勝手にどこかにくっつく。


最後にオレが乗員用のカゴに飛び乗り、リーデルに手を差し出す。


「さ、帰ろう! お疲れさんだったな!」

「はい、お疲れ様でした! ディナー楽しみですね!」


本当に食いに行く気らしい。ま、慰労会って考えればちょうどいいかもな!


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