第五十〇話 王都ヴェスタの二将軍
「こっちに向かってきているモンスターどもは何匹いるんだ?」
「はい。三千はいるようです」
「三千! それは多いな」
王都ヴェスタの中心にあるヴェスタ城の会議室で、フルーレ国軍の上層部が集まっている。そのなかには、以前京也と一緒に戦ったエリス将軍もいた。彼女が伝令の兵士に質問する。
「それでモンスターの軍団は、どのくらいまで来ているの?」
「はっ、王都から四キロの場所まで来ています」
「四キロか。まずは敵をこの王都の城壁で迎え撃つか、打って出て草原で戦うかだが」
フルーレ国の白髭を生やした宰相が、今回のモンスター軍団との戦い方をこの場にいる将軍達に聞く。
「打って出るべきだろう。城壁を盾に戦えば、王都に被害がでる可能性がある」
アイン将軍がそう提案する。アイン将軍は年齢は三十五で、筋肉質の体をした男性で豪華な鎧を身に着けている。この会議室には第一軍団を率いるアイン将軍と、第二軍団を率いるエリス将軍の二人の将軍がいた。
「だが打って出るとなると兵の被害が心配だ」
「私も打って出るのに賛成です。私に勝算があります」
「ほう、エリス将軍。その勝算とは?」
「セレスの冒険者ギルドに魔法の水晶で緊急指名依頼を出しました。まもなく援軍が来るはずです」
エリス将軍が言った魔法の水晶とは、冒険者ギルドや城など、重要な拠点に設置させている長距離通信が可能な魔法具のことである。魔法の水晶には、冒険者ギルドの受付カウンターにあるギルドカードの情報を表示する小さな魔法の水晶や、長距離通信用の巨大な魔法の水晶など、色々な種類があった。
「なるほど、確かに業火のエルフが来てくれれば心強いな」
「いえ、依頼を出したのは銀の竜殺しです。業火のエルフは出かけていて連絡が取れないそうです」
「何っ? 業火のエルフではないのか」
アイン将軍と宰相はカーナが来ないことを知り落胆する。二人ともカーナの強さはよく知っていた。
「銀の竜殺し……前にエリス将軍から報告があった奴か。ゼウス共和国軍との戦いで大きな戦果をあげた冒険者だったな」
「俺もうわさで聞いたことがある。ラージ帝国軍をひとりで追い払い、ゼウス共和国軍の主力をひとりで倒したとか」
「彼の強さは本物ですよ。彼は単独でオーガキングを倒していますし」
「何っ! オーガキングを単独で?」
「それも無傷で倒してました」
「そんな奴、王都の冒険者ギルドにもいないぞ。それに俺でも無理だ」
「だから彼がいれば勝算があると言ったんです」
「うむ。エリス将軍が認めるならそうなのだろう。だがセレスからこの王都まですぐには来れないだろ? 業火のエルフなら飛行魔法で来てくれるだろうが」
「心配ないです。彼はエアリアルユニコーンを従魔にしています。すぐに来てくれるはずです」
「エアリアルユニコーン!? あの空を駆けるという伝説の?」
「なるほど、銀の竜殺しは只者じゃないというわけか。ゼウス共和国軍との戦いの実積もあるし問題ないだろう。では打って出て戦う方向でいく。二人はすぐに出陣の準備を」
「はっ」
「はっ」
アイン将軍とエリス将軍は部下の兵士達を連れて会議室を出ていく。残った宰相は疑問がひとつ頭の中に浮かんだ。
「しかし、業火のエルフといい、銀の竜殺しといい、なんで水の街セレスにばかり強者が集まるんだろうか」
場面は王都ヴェスタから一キロ離れた草原に変わる。ここにフルーレ国の第一軍団と第二軍団が布陣していた。その最前列にアイン将軍とエリス将軍が馬に乗って並んで待機している。
「エリス将軍! 来ました! ゴブリン、オーク、コボルト、バトルボアが確認できました!」
「ランクが低いモンスターばかりね。そのくらいなら私達だけでも十分戦えるわ」
「アイン将軍! バトルボアが突撃してきます!」
「では魔法と弓で先制攻撃、その後、歩兵部隊で迎え撃つ」
「第二軍団も同じように戦いましょう」
アイン将軍は第一軍団の最前列の中央に移動し、エリス将軍も第二軍団の最前列の中央に移動する。そして作戦通り、長距離攻撃でバトルボアの数を減らした後、猛スピードで突撃してくる残ったバトルボアを歩兵部隊が迎え撃つ。
「猛火紅蓮剣!」
第一軍団の最前列にいるアイン将軍が、持っている剣の刃に火をまとわせ火の斬撃を広範囲に複数飛ばす。するとバトルボアは火の斬撃に斬られつつ火に焼かれ、次々と倒れていく。
「風塵乱舞斬!」
一方のエリス将軍も、最前列で剣の刃に風をまとわせ広範囲に風の斬撃を複数放つ。飛び交う複数の風の斬撃によってバトルボアが切り裂かれ倒れていく。
「俺達も続くぞ!」
「おお!」
第一軍団と第二軍団の歩兵部隊がバトルボアと戦いを開始した。組織的に戦う兵士達は、一直線に突撃してくるバトルボアの足を狙って攻撃し、動きが止まったバトルボアに止めを刺して倒していく。そうしているうちにバトルボアの群れは全滅した。
「次は奴等か」
「ギャオオオオー!」
「グオオオオ!」
「ガアアアアア!」
続いてゴブリン、オーク、コボルトの部隊が奇声を上げながら突撃してくる。
「次は人型のモンスターだ。お前等! 気合入れろ!」
「おお!」
「うおおおお!」
アイン将軍と第一軍団の兵士達が武器を構え迎撃態勢をとる。その時、
「サンダーストーム!」
空中から大量の雷がモンスター軍団に降り注いだ。
「ギャアアアアア!」
「ガアアアアアア!」
降り注いだ雷で感電したモンスター達が次々と倒れていく。
「来た!」
エリス将軍が空を見上げる。すると空中にハクレイに乗った京也達の姿が見えた。
「コールドストームニャ!」
「サイクロン!」
「いけっ! ホーリーアロー!」
京也に続いてニャオウ、ハクレイ、アンナも広範囲に氷、風、光の魔法を放つ。その魔法によってモンスター軍団の七割程度が倒された。
「あれが銀の竜殺しか! 四つの属性の魔法を連続で使ったのか?」
アイン将軍も空を走っている京也達を見つける。だが距離が離れていたため、誰が魔法を使ったのかまではわからなかった。
「第二軍団! 残敵を掃討します!」
「おお!」
「行くぞ!」
エリス将軍と第二軍団の歩兵と騎馬兵が、残っているモンスター達に向かって突撃する。
「俺達も遅れるな!」
続いてアイン将軍と第一軍団も突撃を開始する。
「これで決まったな」
「うん。これだけ戦力の差があれば人間達が勝つでしょ」
「ニャオウの氷魔法のおかげニャ! ニャオウ頑張ったニャ!」
「ああ、よくやった。あとで美味い物を食わせてやろう」
「やったニャ!」
「私もよ! 私にも美味しい果物、忘れないでよ!」
「はいはい」
そんな会話をしながら、京也達は戦場の上空を駆けている。残っていたモンスター達がほぼ壊滅したその時、
「キョウヤ! 東の方向から何かが来ます!」
「何!」
京也達が今回の戦いの勝利を確信した時、ハクレイが遠くの空に強大な魔力を持つ者がこちらに向かってくるのを察知した。
「望遠眼!」
京也は望遠眼のスキルを発動し、東の空を見る。すると巨大で黒いモンスターが空を飛んで接近してくるのが見えた。
「あれは……ドラゴンか? 結構でかいぞ!」
「キョウヤ、そのドラゴンは何色?」
「黒だ。真っ黒なドラゴンだ」
「それはブラックドラゴンだよ! ドラゴン族のなかでも上位の強さのやつ!」
次回 銀の竜殺し VS ブラックドラゴン に続く




