第四十九話 エリス将軍からの緊急指名依頼
「これ以上は無理だ。俺は帰る。トランスポート!」
ゴウは瞬間転移魔法を発動し、この場からいなくなった。
「俺も……トランスポート!」
続いてシンヤも瞬間転移魔法でこの場からいなくなる。
「今のは瞬間転移魔法か!」
「はい。行ったことがある場所に転移する魔法です。私も使えます」
瞬間転移魔法を初めて見て驚いているギルドマスターの言葉にエリが答える。
「凄いな、お前達。瞬間転移魔法なんて高位の魔法使いじゃないと使えない高等魔法だぞ」
「でも私達は彼には足元にも及ばないみたいです」
そう言ってエリは京也の方を見る。
「あいつはまだ可愛いほうだぞ。うちのギルドのナンバーワンは、かつて侵攻してきた魔族国アスラの三万のモンスターを一瞬で焼き尽くした魔法使いだからな」
「三万?!」
「ああ、その時から彼女は業火のエルフと呼ばれている」
エリは桁違いのカーナの強さを聞いて驚く。彼女達はこの街に入る前に魔法を使うテストをしていたが、その時使った広範囲魔法でも百体くらい巻き込むのが限界だった。
「私達は少し思い上がってたようです。上には上がいるんですね」
「それがわかったんなら、お前達はもっと強くなれるだろう」
「いえ、私達はもう帰ります。最後にひとつだけ質問します」
そう言ってエリは京也の方を見る。
「ん、俺にか?」
「はい。もしこの世界を滅ぼす敵が目の前に現れたらどうしますか?」
「そんなの決まってるだろ。俺達の平穏な生活を脅かす奴は、俺が全力で倒す」
「おお、当たり前だ。そんな奴が現れたら、うちのギルドメンバー全員で協力して戦うだろう」
京也とギルドマスターは力強くそう答える。エリは邪神が現れたらどうするかを聞いたのだが、まさかその邪神の力を持っているのが京也だとは思わなかった。
「それとカーナ……さっき言ってた業火のエルフも必ず手伝ってくれるはずだ」
「なるほど。わかりました。それなら私達がここで戦う理由はないようですね。では帰ります」
「あっ、ちょっと待って。俺も質問がある。帰るってどこに帰るんだ」
「それは内緒です。口止めされてるので。それでは……トランスポート!」
エリは瞬間転移魔法でこの場からいなくなった。
(帰るって日本にだよな。いや、日本じゃない可能性もあるか。レジェンドワールドは世界中で発売されてるし)
京也は日本に帰る方法を念のために知っておきたいと思ったが、それはかなわなかった。
(瞬間転移魔法を習得すれば日本に帰れるのか、それとも日本に帰ることができる場所に転移したのか。まあ、俺は帰る気はないからどっちでもいいか)
場面は英雄達が呼び出された白い壁と白い床の部屋に変わる。そこに赤い髪の女神とシンヤとゴウがいて会話している。
「そうですか。残念です」
瞬間転移魔法でここにに帰ってきたシンヤとゴウは、日本に帰らせて欲しいと赤い髪の女神に頼んでいた。
「わかりました。約束通り、二人を元の世界の元の時間に戻しましょう」
「すみません。力になれなくて」
「いえ、皆さんに無理強いはさせられません。それで帰りたいと思った理由を聞いていいですか?」
「ゲームと現実では違うということです。ゲームには怪我をした時の痛みまではないので」
「なるほど。なら皆さんに痛覚無効のスキルを……」
その時、この場にエリが瞬間転移魔法で現れた。
「あなたもですか」
「はい。私も日本に帰ります。この世界には私達は必要ないようなので」
「えっ? それはどういう意味ですか?」
「この世界には、すでに私達より強い人が何人もいるみたいです。彼等なら邪神が現れても倒してくれますよ」
「そうです。そいつは俺達が足元にも及ばない強さでした。確かにアイツなら邪神でも倒せそうでした」
「……」
(この者達より強い人物……まさか、そんなはずは……)
赤い髪の女神はこの世界の管理者なので、この世界の住人の強さは把握していた。それでこの三人より強い者がいるはずがないと考えていた。
「女神様。そろそろ帰して欲しいんですが」
「は、はい。わかりました。では皆さんを元の世界に帰します」
そう言って赤い髪の女神は三人の足元に帰還の魔法陣を作り出す。
「では転送を始めます。皆さん、お元気で」
赤い髪の女神が帰還の魔法陣を発動し、三人は元の世界に帰って行った。
「ホントに帰しちゃったの?」
三人が帰った後、青い髪の女神がそう言いながらこの部屋に入って来る。
「そういう約束でしたからね」
「それでこれからどうするの? また英雄を呼び出す? それなら彼等よりもっと強い英雄を厳選して呼んだらどう?」
「いえ、その前に確かめなければならならことができました。どうやら私の管理する世界に、私の知らない強い人物がいるようです」
「管理者が知らない強さの人物って、もしかして」
「はい。別の世界から来たのかもしれません」
「なるほどねー。たまに次元の裂け目から迷い人が来ることがあるから、それかもしれないわね」
「はい。私が地上に降りて、それを確かめに行きます」
「あなた、地上に行くの?」
女神が地上に直接行くことは滅多にないことなので、青い髪の女神は驚く。
「止めときなよ。地上の者達は野蛮だし、もし復活した邪神に遭遇したら命がないわよ」
「そうですね。なら宝物庫から神の装備を持って行くことにしましょう」
「それがいいわ。うーん。私も一緒に行ければいいんだけど、私はここから離れられないし……そうだ。万が一の時のために戦神アレスを一緒に連れて行くのはどう?」
「戦神アレスですか。確かに彼は強いですが、地上で神が直接戦うのは禁止されています」
「でもあなたも地上で敵に襲われたら神の装備で戦うつもりでしょ」
「そ、それは身を守るために仕方なく……」
「ならアレスも身を守るため、仕方なく戦えば問題ないのよね」
「それは……」
「だいたい異世界から英雄を呼び出さなくても、最初から戦神に頼めばよかったのよ」
「ですが、古来から地上の危機の時は、異世界から英雄を呼ぶというのが女神の役割で……」
「そんなの古いしきたりでしょ。若い私達が守る必要ないわ。ああ、もしかしてあなたは古い神なのかしら。そうよね。私より先に生まれてるし」
「そ、そんなことありません。私は若い神です! ニュージェネレーションです!」
(これはちょろい)
「確かに今は古いしきたりに縛られる必要はないですね。では戦神アレスと共に地上に行って来ます」
そう言って赤い髪の女神は戦神アレスに会いに行った。
場面はフルーレ国の水の街セレスの冒険者ギルド内に変わる。三人の英雄の最後のひとりを見送った京也とアンナとギルドマスターは、冒険者ギルド内に戻ってきた。
「さっきの娘が言ってた、世界を滅ぼす敵っていうの、ちょっと気にならない?」
アンナはエリが帰る前に話した言葉が気になっていた。
(たぶんその敵を倒すために、あの三人はこの世界に来たんだろう)
「まあ、どんな敵が現れてもカーナがいれば問題ないだろ」
「確かにな。それにお前もいるし」
京也とギルドマスターがそんな会話をしていると、受付嬢のひとりが慌てて走ってくる。
「ギルドマスター! 大変です! 王都ヴェスタにモンスターの大軍が向かってるらしいです」
「何っ! モンスターの大軍だと!」
「そしてキョウヤさん! 王都のエリス将軍から緊急の指名依頼が来ました! 王都防衛を手伝って欲しいそうです」
「わかった。ハクレイに乗ってすぐに向かおう」
京也とアンナは冒険者ギルドの外で待ってるハクレイとニャオウと合流し、急いで水の街セレスの城門へ向かって走って行った。
次回 王都ヴェスタの二将軍 に続く




