第四十〇話 フェンリル発見
「ちっ、物理障壁か! おい、やはりお前のスキルが必要だ」
黒いローブの男が軽装の男の方を見る。すると軽装の男が武器を持ってないのが見えた。
「素人相手に武器を落とすって何やってるんだ?」
「……」
軽装の男は嫌味を言われても黙っている。彼はあまりに強い京也の斬撃にまだ手がしびれていた。
(あぶねー。もう少しで人を斬るところだった)
京也はまだ人を斬るのに抵抗があるので、軽装の男を魔法で倒そうと考えていたが、いきなり突撃してきたのでとっさに短剣を狙って斬撃を放ったのである。
「おい、聞いてるのか?」
「違う、素人じゃない。この男が本気なら今ので俺は斬られていた」
軽装の男は京也の実力の一端を感じ恐怖する。
「お前がかなわないほどの男……ギャアアアア!」
よそ見をしていた黒いローブの男に、カーナが放ったマジックジャベリンが命中する。
「敵を目の前にして、何を悠長に話してるのかしら」
カーナは魔力を槍のような形にして手加減して放った。その無属性魔法が直撃したローブの男は、後方に吹き飛んで気を失った。
「お、おい!」
「サンダーボルト!」
相棒が吹き飛ばされたを見ていて隙ができた軽装の男に向かって、京也は雷系下級魔法を放つ。
「ギャアアア!」
京也の放った雷が軽装の男に直撃し、その男は全身が感電して即死級のダメージを受けて地面に倒れた。
「よし、うまく倒せた。後は尋問だけど、暗殺者が簡単に依頼者のことを言うかな?」
「そうなのよね。そこが難しいのよね」
京也達は吹き飛んだ黒いローブの男の所へ歩いていく。アンナとニャオウを乗せたハクレイもそれに合流する。
「とりあえず、私の拘束魔法で動けなくするね」
カーナが倒れて気を失ってる黒いローブの男に近づき魔法を発動する。
「マジックバインド!」
黒いローブの男に魔力のロープが巻き付き、男の体の自由を奪う。
「さて、起きてもらおうかしら」
カーナが収納スキルを使って水の入った水筒を取り出し、黒いローブの男の顔にかける。
「ぐっ、ぐはっ!」
水をかぶった黒いローブの男が目を覚ます。
「ぐっ、う、動けん……」
黒いローブの男はこの場から逃げ出すため動こうとするが、カーナの拘束魔法によってまったく動けなかった。
「くっ、相棒はやられたのか……」
黒いローブの男は地面に倒れて動かない軽装の男を見てそれを確認する。
「さて、私を暗殺するように依頼したのは誰かしら?」
「ふん、拷問されようが殺されようが、暗殺者が依頼主の情報を言うわけないだろ」
「そうなのよね。なにかいい方法ないかしら」
京也は何か考えている。
「そうだ! 闇の呪いを試してみるか」
「闇の呪い?」
「!」
呪いという言葉を聞いて、カーナと黒いローブの男が驚く。
「ああ、まだ闇の呪い魔法を使ったことないって言ってたよね」
「そうニャ、呪いの魔法の効果を試すって言ってたのに、まだしてないニャ」
前に京也が呪いの魔法を使えると聞いていたアンナとニャオウが会話に加わる。
「呪いなんて、普通のモンスターに使うのも気が引けるから、まだ一度も使ったことないんだよ」
「なるほどね。暗殺者相手なら遠慮する必要はないわね」
京也とカーナが意地悪そうに微笑む。
「ま、待て。どんな効果があるのかもわからないのを使うのは止めろ。いえ、止めてください……」
「依頼主のことを話せば、呪いの魔法を使わなくて済むんだけどな」
「……だ、駄目だ。依頼主の情報を話したことが組織に知れたら、俺はただでは済まない」
「まあ、そうでしょうね」
「なら仕方ないな」
京也は黒いローブの男に向かって右手をかざし、全身から魔力を放する。するとその魔力が闇に変わり、京也の体がその闇に包まれる。黒いローブの男には、京也のその姿がまるで悪魔のように見えた。そして心から恐怖する。
「ま、待て!」
「カースドソウ…」
「い、依頼主はヘルロードだ」
京也はギリギリのところで魔法発動を止める。黒いローブの男は、汗だくになっておびえている。
「ヘルロードというのは魔王ヘルロードよね。魔族国アスラの」
「そ、そうだ。奴が俺達の組織に依頼したんだ」
「助かりたいために、でたらめを言ってるんじゃないだろうな」
「ほ、本当だ。魔族国アスラの魔王城に俺達の組織のボスや幹部もかくまわれている」
「そいつの言ってることは本当みたいよ」
カーナは異空間収納から真実のオーブを取り出していた。真実のオーブは、うそを言ってるかどうかわかる魔道具である。
「しかし魔族が人間の暗殺組織に依頼するとはな」
「たぶん私が前に魔族の暗殺者を全部返り討ちにしちゃったから、優秀な人材がもういないんでしょうね」
「おい、正直に話したんだし、命だけは助けてくれるんだよな」
「えっ?」
「えっ?」
「……えっ?」
カーナ、京也が驚いた顔をし、それを見た黒いローブの男も驚く。
「自分を殺しに来た相手を助けるわけないでしょ。情報を話したら助けるなんて約束してないし」
「確かにそうだ」
「くっ!」
黒いローブの男は、この場からなんとか逃げ出そうと、体を動かしてもがいている。
「そうだ! ほかにもまだ使ってない魔法があったんだ。ちょっと試していいか?」
「いいわよ」
「ま、待て! 何をする気だ?」
黒いローブの男の言葉を無視して、京也は全身に魔力をまとい右手をかざして魔法を発動する。
「シャドウフォール!」
「うわあああああ!」
黒いローブの男の影が大きくなり、そこから複数の闇の手が出現し、彼を捕まえて影の中に引き込んだ。黒いローブの男は、影の闇に飲み込まれ、この場から消え去った。
「今のは闇系上級魔法ね。それで奴はどうなったの?」
「わからない。シャドウフォールは相手を影の闇に落とす魔法らしいけど、落ちたらどうなるのかまでは、わからないんだ」
「まあ、闇の魔法だし、無事では済まないでしょうね」
魔法で作られた闇は、それに触れると細胞が死滅して大ダメージを受けたり、触れた部分が消滅したりするので、闇に落ちたらただでは済まないだろうとカーナは推測する。
「さて、ヘルロードをどうしようかしら」
「魔王のことは後で考えることにして、まずフェンリル探しを再開しないか?」
「そうね。ヘルロードの居場所は判明してるから、急ぐ必要はないわね」
暗殺者達との戦いが終わり、京也達はさらに山道を進んでいく。そして約二十分後、
「お前達、何しに来た?」
「!」
「!」
いきなり話しかけられ、皆が声が聞こえた方を見る。
「もしかして」
「フェンリルか!」
山道にある大きな岩の上に体長五メートルを超える巨大な狼がいて、京也達を見下ろしている。その狼こそが彼等が探していたフェンリルだった。
フェンリルは神話にも登場する巨大な狼のSランクモンスターで、体は青白いふさふさの体毛でおおわれている。
「カーナ、フェンリルの気配、気付いたか? 俺は気付かなかった」
「私の気配察知でもわからなかった。たぶん気配抹消を持ってるわね」
「なるほどな。あと、俺の敵意察知にも引っかからなかった」
「ということは敵意はないのかな」
「何をひそひそと話している」
カーナと京也が小声で会話しているのを見て、フェンリルが二人をにらむ。
「お前達はここに何しに来たんだと聞いているんだが」
「俺はキョウヤ。魔物使いの称号を持つ冒険者だ。俺達はお前を仲間に誘いに来たんだ」
次回 神狼フェンリル に続く




