第三十九話 暗殺者
京也は闇の炎をまとわせたラグナヴァリスで斬撃を放つ。
「ビャアアアアアアアア!」
京也はデスフラワーの茎を真っ二つに切り裂き、斬られた部分から闇の炎が広り、茎や葉や根の部分が解けるように消滅していく。
「今のは火の魔法剣?」
「いや、闇の魔法剣だよ」
「へー、キョウヤは闇系のスキルも使えるの」
「まあな、このことは内緒にしてくれ。俺の奥の手なんだ」
「わかった」
京也は人前では闇の技や魔法を使わないようにしていたが、カーナなら信頼できると考え、黒炎剣を使ったのである。
「さて、スキルは……」
京也はスキル画面を確認する。
変装
使用者と同じ種族、同じ性別の全く違う人物の姿に変化する
消費MP 一時間 50
「ほー、変装か。色々使えそうだな」
「キョウヤ、いいの?」
アンナはカーナにスキルドロップシステムがばれてしまうかもしれないと心配する。
(そ、そうだった。まずかったか!)
「もしかしてスキルドロップ?」
「ん? スキルドロップシステムを知ってるのか?」
「まあね、珍しい能力だけど、たまに使える人がいるみたいよ」
「そうなのか。このことも内緒で頼むよ」
「わかってる」
「もうキョウヤの秘密を色々知っちゃったわけだし、カーナも私達の仲間になったらどう?」
アンナがカーナを仲間に勧誘する。
「そうね、それも楽しそうだけど、もうちょっと考えさせて」
カーナから見て京也の強さは、まだ自分と同レベルの強さには見えなかった。だが近い将来、もっと京也は強くなるだろうという予感はしていた。
「そうだな。カーナが全力で戦う時、今の俺の力では、一緒に戦えないだろう。だが俺はもっと強くなる予定だからな」
「その時は私の方から仲間にしてって言わせてもらうわ」
そんな話をしながら京也達はフェンリルを探すため森の道を歩いて行く。
場面は白狼神山のふもとの山道に変わる。
「ほんとにこんな所にいるのか? 業火のエルフはフルーレ国にいるんじゃないのか?」
「なぜここなのかわからんが、この辺りにターゲットがいるのは間違いない。俺のスキル『人物探知』が、そう言っている」
二人の男が森の道を歩いている。一人は二本の短剣を腰に携えている軽装の男で、もう一人はローブを着て杖を持った魔法使いのような男だった。
「だが、お前のスキルは大体の場所しかわからないだろ。もしターゲットが街の中にいたら、とても探し出せないし」
「今回はこんなへんぴな山なんだから、見つけるのは簡単だろう」
ローブの男のスキル「人物探知」は、ターゲットがこの時間にこの場所にいるということを知ることができるスキルである。ただその時間を指定することはできず、場所の特定の精度も低い不安定なスキルだった。
「業火のエルフは人の限界を超えた魔力を持ってるはず。この山のなかで一番強い魔力を持つ奴がターゲットだ」
「わかってる。モンスターがいるこの山なら戦闘した時の魔力を察知できるはずだ」
この二人はカーナの命を狙う暗殺者だった。
「ターゲットを見つけさえすれば、確実に仕留めてやる。俺のスキルでな」
軽装の男は「結界斬」というスキルを持っていた。それは堅牢な物理障壁でも切り裂く特殊な剣の技である。
「油断は禁物だ。うちの組織が業火のエルフに送り出した暗殺者は、全員帰ってこなかった。彼女は暗殺難易度SSSのターゲットだ」
「なら、ターゲットを見つけてもすぐには襲わず、少し様子を見るか」
「ああ。確実に、慎重に、ことを進めるぞ」
二人の暗殺者は周囲を警戒しながら山の道を進んで行く。
「なかなか見つからないですね。フェンリル」
「もう飽きてきたニャ」
京也達はこの山を一時間以上歩いていたが、フェンリルを見つけられなかった。
「ほんとにここで合ってるのか?」
(レジェンドワールドには白狼神山なんて山のダンジョンはなかった。フェンリルは魔王城にいる中ボスだったからな)
この世界とゲームであるレジェンドワールドでは色々な部分が違っていた。
「間違いなくこの山が白狼神山だよ。ただ私が聞いたのはもう何百年も前だからねー」
「何百年?」
「うん。でもフェンリルも何百年も生きる魔獣だから、寿命で死んだとは思えない」
「そうなのか。ならもっと違う場所を探してみる……」
「キョウヤも気付いた?」
「ああ、何者かが隠れてこっちをうかがってるな」
京也は離れた場所にいる二人の敵意を持つ者の存在を感知した。カーナもその二人の存在に気付いていたようだ。
「気付かれたのか?」
「ちっ、暗殺者のくせに何やってるんだ」
「俺のせいじゃねーよ! ちゃんと気配抹消使ってたって」
「俺だって使ってた。お前の気配抹消がおそまつなんだろ」
「なんだと!」
木の陰に隠れていた暗殺者の二人が、言い争いながら京也達の前に出てくる。
「俺は敵意察知で気付いたんだが、カーナも敵意察知を持ってるのか?」
「違うわよ、私は精霊の加護のスキルを持ってるから、私だけが見える精霊が危険を教えてくれたの」
「そんなスキルがあるのか。それで奴等をどうする?」
「二人いるから、キョウヤと私で一人ずつ倒しましょうか」
「そうするか。ハクレイ達は少し離れててくれ」
「了解」
アンナとニャオウを背に乗せたハクレイは、京也とカーナから離れる。京也は腰のラグナヴァリスを抜いて正面にいた軽装の男の前に立ち、カーナはローブの男の前に立って全身に魔力をまとう。
「キョウヤは相手を倒していいわよ。私は相手を拘束して尋問するから」
「わかった」
「ちっ、俺の相手は野郎の方かよ」
軽装の男は腰の二本の短剣を抜いて体を斜めにして構える。
「女のほうは俺にまかせろ」
(魔法使いなど魔法を発動する前にやればいいだけだ)
ローブの男は低い姿勢になって全身に魔力をまとい杖を構える。
「うりゃあ!」
軽装の男が大声をあげながら京也に向かってくる。それと同時にローブの男が何も言わず静かにカーナに高速で接近する。
「無駄よ」
軽装の男より速くカーナに接近したローブの男は、杖に仕込まれていた鋭い刃を出現させ、それでカーナを刺そうとする。だが彼女は一瞬で物理障壁を展開して、その攻撃を難なく防いだ。
「ふぉう!」
続いて軽装の男が京也に接近し、右手で握っていた短剣を突き出す。その短剣を京也はラグナヴァリスで切り払う。さらに京也の分身が出現し、もう片方の短剣も切り払う。
「ぐっ!」
軽装の男は短剣を切り払われた衝撃で両手がしびれ、二本の短剣が吹き飛ぶ。武器を失った軽装の男は、後方にステップして京也と距離をとった。
次回 フェンリル発見 に続く




