第三十八話 白狼神山へ
「フェンリルってあのSランクモンスターの?」
アンナの思いつきの話にカーナが興味を示す。フェンリルは大型の狼のモンスターで、神話にも出てくる伝説の魔獣である。
「そうよ。今のキョウヤならSランクでも負けないでしょ」
「なるほど。フェンリルが番犬なら、この家も安全ね」
「ああ、確かにフェンリルは強かったな」
京也はゲームの中でフェンリルと戦ったことを思い出していた。その言葉を聞いたカーナが京也に質問する。
「ん? 強かった? キョウヤはフェンリルと戦ったことあるの?」
「い、いや。まあ、その……フェンリルが強いのは知っているという話だ」
「今の言い方は、そう言う意味には聞こえなかったけど」
京也は苦しい言い訳をして焦っている。
「それでそのフェンリルとやらは、どこにいるのか判明してるんですか?」
京也が困ってる顔をしてるので、セレナ王女が話題を変える。彼女は京也の素性は知らないが、ここは助けたほうが好感度が上がると考えて助け船を出したのである。
「フェンリルは白狼神山にいるって言われてるよ。白狼神山は北のハイン王国にあるわ」
「アンナはよく知ってるわね」
「これでも私、あなた達よりずーっと長く生きてるもの。あっ、女の子に年齢を聞くのは駄目よ」
「……」
この場にいる全員が、アンナの年齢にはまったく興味がなかったので沈黙が流れる。
「ハイン王国か。なら明日行ってみるか」
「ほんとに行くの? その行動力は凄いわね」
「確かにフェンリルが仲間になってくれたら心強いからな」
「なら明日は私も同行するわ。伝説のフェンリル、見てみたいし」
京也達と共にカーナも明日、白狼神山に行くことになった。
「それじゃあ、指名依頼の話はここまでにして、家の見学していいかな」
「ああ、俺の自慢の錬金術を見てくれ」
カーナとセレナ王女は、キッチンや風呂場などを見学して、驚いたり感心したりしている。そうしているうちに夕方になった。
「いつの間にか日が暮れてきたわね」
「それじゃ、私達は帰りましょうか」
「うーん、私は泊っていこうかな」
「えっ?」
「えっ?」
カーナが意外なことを言ったので、京也とセレナ王女が驚く。
「私、この家、気に入っちゃったのよね。かなり快適だし」
「それはわかるけど、女性が男性の家に泊まるって……」
「大丈夫でしょ、アンナやニャオウもいるし、私は襲われても返り討ちにできるし」
「いや、俺は襲ったりしないぞ」
「ふふふ、冗談よ。それに京也達と一緒にいるほうが安全でしょ」
「それなら私も……」
「セレナは王女なんだから、男の家に泊まったことが知られたら大変なことになるわよ」
「ぐぬぬ」
「大丈夫よ。セレナのことは領主の館までちゃんと送ってくから。その後、家に寄ってお泊りセットを持ってくるから泊っていいわよね」
「カーナが泊まりたいなら俺は別に構わないが」
京也はカーナが泊まることになってドキドキしている。
約一時間後、カーナはセレナ王女を領主の館に送っていき、泊まる準備をして戻ってきた。
「二階に開いてる部屋がいっぱいあるから好きな部屋を使ってくれ」
「悪いわね。急に泊まるなんて言って」
「まあ、いいさ。暗殺者に狙われてるなら、一人でいるのは心細いだろうし」
「ふーん。意外と優しいのね。その若さで人の気持ちを考えられるなんて。そう言えばキョウヤって、若い割に落ち着いてるよね」
京也は見た目は十六歳だが、日本にいた時は三十を超えた大人なので、カーナはそう感じたのである。
「カーナはエルフなんだろ。なら見た目通りの年齢じゃな……あっ、年齢を聞いてるわけじゃないぞ」
「そうそう。長生きしたいなら女性に年齢を聞いちゃ駄目……と言いたいところだけど、私は見た目通りの十七歳だから、別に気にしなくていいわよ」
(十七歳……女子高生くらいか)
京也は、実年齢三十歳の男のところに女子高生が泊まりに来たと考えてしまい、さらにドキドキしている。
「ん? どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。そうだ。風呂が沸いてるから入るか?」
「いいの? 私、ここのお風呂に入りたかったのよ。この世界のお風呂と全然違うんだもの」
カーナは一階にある風呂場に小走りで向かう。京也は自宅の風呂場を、日本の住宅の風呂場のような近代的なものに改造していた。
「さて、俺は夕飯の準備でもするか」
その日の夕ご飯はカーナが加わり、賑やかなものになった。そして楽しい時間が過ぎて、京也がドキドキするようなハプニングもなく、その日は終わる。
そして次の日の朝、京也の家の庭に、京也、ニャオウ、アンナ、ハクレイ、カーナが、ハイン王国の白狼神山に行くために集まっている。
「よし、そろそろ行くか」
「場所は私が知ってるから案内するよ」
「ではみなさん。私に乗ってください」
ハクレイの背中に京也、ニャオウ、アンナ、カーナが乗る。
「では出発します」
「ハクレイ、加速スキルは使わなくていいぞ」
「そ、そうですか」
(止めなかったら加速スキルを使うつもりだったな)
ハクレイが加速スキルを使うと、あまりの速さにアンナが案内できないだろうと京也は考えた。
「じゃあ、行こうか」
「了解」
ハクレイは皆を乗せてハイン王国の白狼神山に向かって空を駆けていく。
「んー、いい気分ね」
「だろ」
「私もペガサスとか探してみようかしら」
「カーナは魔物使いの称号を持ってるのか?」
「あっ、そうか。私は称号持ってないから無理か」
カーナは京也の後ろで残念そうな顔をしている。
「まあ、ハクレイにならいつでも乗れるんだから、それでいいじゃないか」
「確かにそうね。今はこの空の旅を楽しみましょう」
京也達を乗せたハクレイは、順調に空中を駆けていく。
「あれよ、あの山が白狼神山よ」
「ハクレイ、あの山の適当な場所に着陸してくれ」
「了解」
ハクレイはアンナの示した山の中腹当たりの開けた場所に着地する。
「普通の山だな」
「そうね」
ハクレイから降りた京也とカーナが周囲を見渡している。白狼神山は普通の緑の木が生い茂るどこにでもあるような山だった。
「辺りに強い魔力は感じないな」
「ニャオウも感じないニャ」
「伝説ではここにフェンリルがいるはずだけど、とてもそんな雰囲気はないわね」
「とりあえず歩いて探してみるか」
京也達は周囲を警戒しながら山の道を進んでいく。
「むっ、あれは……」
「モンスターか?」
カーナと京也は、前方に不気味な巨大な花を見つける。その花からは強い魔力を感じ取れた。さらにその巨大な花が、京也達に向かって移動してくる。
「あの花、こっちに向かって来ます」
「あれはデスフラワーね。人を食べる食人花って呼ばれてるモンスターよ」
長い間生きてるアンナが、現れたモンスターの解説をする。
「私がやろうか? 火でよく燃えそうだし」
「いや、俺がやろう」
京也は腰のラグナヴァリスを抜いて構える。デスフラワーは根の部分が地面に出ていて、その根を動かして移動している。
「ヒシャーーーーッ!」
デスフラワーは、花のつぼみが人の口のような形をしていて、よだれのような液体がそこから漏れている。そのつぼみが開き、京也を飲み込もうと襲い掛かってきた。
(まだ使ってない技を試してみるか)
「黒炎剣!」
京也はラグナヴァリスの剣身に紫色の火をまとわせた。
次回 暗殺者 に続く




