第69話 王女様と古都の夜 Ⅰ Ver.1.00
大分遅れました。
ごめんなさい。
§1
「……確かこの辺りだよね?」
私は、ベッドの上で地図を広げながら騎士のお姉さんと出会った場所を探し出す。
そして、ここ“メルオルシィ”までの道順を、記憶を頼りに辿ってみる。
……騎士さん達の前だと、この地図は出せなかったんだよね。
かなり精度の高い地図なので、持っているのがばれると不味いらしい。
…………ミィルさんも考えて渡して欲しいよ。
取り敢えずミィルさんのギルドと公爵さんのお家の位置を確認すると、一旦、地図を片付けて横になる。
「……ふぅう。」
そして、ベッドに転がりながら、息を吐く。
私とエルは、旧市街の入り口にある関所を抜けた後、この“ホテル” メルオルシィまでお姉さんに連れてこられた。
結構、大きな建物でびっくりしたけど、“元”貴族の館で、今はホテルとして使われているらしい。
少し、ぼーっとしながら天井に目を向けていると、扉の外からどたばたと足音が聞こえてくる。
「……しかし、シエルの所ほどでは無いが、この部屋は広いのう。」
顔を上げて声がする方を見ると、エルが扉を開けて部屋に入って来る。
じっと見ていると、エルは私が寝っ転がっているベッドに登ってきて、私の横にばたんと倒れる。
「……わしは腹減ったぞ。」
「あっ、……そうだね。」
私は体を持ち上げると、エルにこくりと頷く。
……そう言えば、今日の食事は、朝のスープとお姉さんの所で飲んだ物だけだった。
ここに着いた時もすぐに部屋に入ったのでご飯は食べてない。
確かに言われてみるとお腹が空いてきたかも。
私はエルと目を合わせて言葉を続ける。
「……えっと、何か注文する?」
この部屋の外ではホテルの人が控えているので、言えば持って来てくれる。
でも、寝っ転がったままのエルはすぐに首を横に振る。
「いや、アルフェは情報が欲しいのじゃろ? ならば、食堂に行くべきではないかのう?」
「それもそうだね。……よし、食堂に行こう!」
「うむ。……! 引っ張るのは止めるのじゃ!!」
立ち上がってベッドから降りた私が引きずり下ろそうとすると、エルは私の手を振り払って私を睨んでくる。
……うーん。
私はエルに目を向ける。
「食堂に行くなら早く行かないと。」
ここに来たのが結構遅かったので、余り余裕はないと思う。
エルは寝そべったまま私の事をじっと見ていたけど、はぁーっと息を吐いて自分でベッドから降りてくる。
「……早う行くのじゃ。」
「うん。」
私は頷いてエルの手を取ると、食堂を目指して寝室の扉を抜け部屋の外に続く扉に手を掛けた。
……
部屋の外に出ると、メイドさんのような恰好をしたお姉さんが私達の方に駆けてくる。
「……お嬢様方。如何なさいましたか?」
名前はルイお姉さん。
ここに泊まっている間、私達をお世話してくれるみたい。
私はお姉さんと目を合わす。
「えっと、食堂に行きたいんだけど、大丈夫かな?」
「はい。……食堂は“本館”の一階にございますが、よろしいでしょうか?」
私とエルは目を見合わせるとお姉さんに頷く。
「うん。」
「構わん。」
「……では、案内いたします。」
それを見たお姉さんも私達に頷き返すと、先導して歩き始める。
……
私達が泊っている部屋は本館と渡り廊下で繋がっている別館の三階にある。
騎士のお姉さん、リラさんが言うにはこのホテルで一番いい部屋の一つらしい。
シエルさんのお家程じゃないけど広いお庭が、部屋の窓からは一望出来る。
日が暮れていたけど、所々、外灯が灯っていて淡く照らされた庭園は綺麗見えた。
その庭が映る窓を横目に薄暗い渡り廊下を抜け本館に入る。
たまに人とすれ違うと全員こちらに頭を下げてくる。
……ふぅ。
確かに、“問題”は起こらなそうだね。
このホテルは少し安めのお部屋も有って、貴族以外の人も結構人気らしい。
なので、“普通の人”と一緒なのが気に入らない貴族さん達は余り泊まらないみたい。
ただ、全く居ない訳では無いので、注意しろとは言われたけど。
暫くして階段に突き当たると、下から何かの楽器の音が聞こえてくる。
……何だろう?
首を捻っていると、ルイお姉さんの声が聞こえてくる。
「食堂での演奏でございます。……足元にご注意ください。」
エルと手を繋いでゆっくりと階段を降りると、音楽の音が響いてくる扉が目に映る。
ルイお姉さんは扉に手を掛けて、ぎーと押し開いて扉を支えると私達に顔を向ける。
私はこくりと頷くと、エルの手を引いて扉を潜る。
……
「……結構、広いね。」
「じゃな。」
食堂の天井は二階くらいまであって、ガラス細工の照明が幾つも吊り下げられている。
目線を下ろすと、ずらっとテーブルが並んでいるけど殆ど人が居ない。
……?
一瞬、何かが引っ掛かる。
3人組の家族。
少し白髪交じりの恰幅の良いおじさんに、綺麗なドレスを着たお姉さん。
そして、顔を綻ばせながらカトラリーを動かしている小さな女の子。
…………!!
そして、気付く。
「……もしかして、サミュア?」
その小さな女の子は“悪役令嬢”の豪商の娘、サミュアによく似た顔立ちをしていた。
§2 騎士達の詰め所
街より帰って来た騎士の娘、リラはため息を吐きながらスープに口を付ける。
「……で、どうだったんだ? 姫様?」
薄着の男が額に皺を寄せながら、どす黒い液体を煽りながら、リラに声を掛ける。
リラは一旦、男に目を向けるもため息を吐きながら、また、カップに口を付ける。
それを横目に、眉を顰めるのは年若い女性の騎士。
「……隊長。魔力補給剤に頼るのは余り良くはないのでは?」
貌は殆ど少女と言って良く。リラよりも二回り程も小さい。
そして、その少女はリラにも声を掛ける。
「リラさんも、そろそろ何故、私達を起こしたのか教えて欲しいです。」
今、関所の詰め所の中にはリラと男、そして、この少女の3人が集まり、外ではもう一人の騎士が、リラ達の代わりに外で見張りをしている。
リラは少女に目を向けると口を開く。
「……ユリアの言う通りね。カイン隊長は見たと思うけど、“あの子達”の事よ。」
「ああ、あの子供か。」
「子供って何でしょうか?」
男は軽く頷くも少女は首を捻る。
リラは少女に顔を向けると言葉を重ねる。
「この関所に身なりの良い女の子が二人現れたのよ。」
「……それは。」
少女は言葉を詰まらせる。
しかし、リラは軽く首を横に振る。
「別に何かあった訳じゃないみたいよ。……ただ、少しね。」
リラは一旦、口を閉じる。
そして、言葉を続ける。
「……王妃様の顔に良く似ていらっしゃったのよ。」
次の瞬間、残りの二人が息を飲む。
「……まじか。」
「……本当ですか。」
リラはそんな二人に頷き返す。
「……私の家って“海軍卿”を引き継いでいるでしょう? 一度、お会いした事があるのよ。」
少女は固まったままだったが、男はすぐに額に皺を寄せる。
「……まぁ、陛下とどういう関係かは分からないが、無視は出来ないな。……しかし、どうする? 国の騎士だとこの街では余り活動は出来ないんだよな。」
その言葉に、固まっていた少女も口を開く。
「そうですよ。……今のオーベリィはただでさえ危ないのに。」
その言葉に、男は頷き同意する。
確かに“致命的”な事は起きていない。
しかし、平民上がりで幾つも戦場を経験してる男は、何か“嫌な”空気を感じていた。
リラは、二人に言葉を返す。
「当然、度々、見に行くわよ? それに早い内に、何人かの騎士……女性が良いかしらね。引き合わせようと思うわ。結構警戒心が強い方だったから顔を知らせておいた方が良い。」
その言葉を聞いて、少女はリラに声を掛ける。
「……リラさん。私もお会いしても良いですか?」
「構わないわよ? 明日辺りでも良いかしら?」
「はい。」
リラは少女から顔を離すと男に目を向ける。
「……と言う事なのだけど。良いかしら?」
「ああ、好きにしろ。……しかし、後で他の連中にも召集を掛けておくか。休暇中の連中には文句を言われそうだが。」
男はぶつぶつと言葉を呟きながら、スープに口を付ける。
そして、少女もスープに口を付ける。
……
「……リラさん。」
「何かしら?」
「このスープ。流石に飽きませんか?」
「そうね。」
「だな。」
リラと男が頷くと少女はつい口を綻ばす。
それに釣られて、リラと男も笑い出すと外から大声が聞こえてくる。
「おい!! お前ら、わしをほっぽいて何笑っとるんじゃ!!」
すると、男が肩を竦めて玄関に目を向ける。
「あいつの事すっかり忘れてたな。……ガルフ!! 少し待ってろ!!」
「おう!! 隊長! 了解した!!」
男は身支度をすると玄関に向かう。
「……ユリアは明日に備えろ。今日の所は俺が出る。」
「!! 分かりました!」
「ごめんなさい。カイン隊長。」
「これ位は構わないよ。姫様。」
……
こうして小屋に残された二人の騎士は、残ったスープに口を付けた。
P.S.
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