Episode1:酒が美味い!
作品を目に留めていただきありがとうございます。
タイトル通りのお話になります。お気軽に楽しんでもらえるようなラブコメにしたいと思っています。
よろしくお願いします。
「疲れた……」
私は会社のパソコンをシャットダウンし、椅子の背もたれに体を預けた。
今日も一日、よく働いた。
佐藤里奈。25歳。彼氏なし。というか、今までできたこともない。
「佐藤さん、これ今日中にお願い!」
営業の田中さんがデスクに書類を置いた瞬間、私は心の中で盛大にため息をついた。
「今日中って、もう17時過ぎてますけど?」
「ごめん、本当に悪い! あと追加でこれも!」
「増えるんですか!?」
口では文句を言いながらも、結局私は書類を受け取る。
営業事務歴はもう3年。こういう無茶振りへの対応にはすっかり慣れてしまった。慣れたくなかったけど。
「助かるよー!」
田中さんは机の上のコートを引っつかみながら、そそくさと帰り支度を始めた。
「え、もう帰るんですか?」
(私に仕事押し付けといて……?)
心の声はぐっとこらえて尋ねる。
「あーごめん、今日オンライン英会話の予約してるから早く帰らなきゃ。ほら、来月海外出張あるし」
「今からやっても無駄じゃないですか?」
我ながら、なかなか失礼なことをさらっと言ったと思う。でも本当にそう思ったのだから仕方ない。
「まあ、英語できる本社の人もいるし、多少はカッコつけたいじゃん?」
「あの、いったい何のためにやってるんですか?」
田中さんは一瞬固まったあと、「念のためね」と誤魔化した。
そういえば、と田中さんが思い出したように言う。
「この前、日本語勉強してる外国人の子に聞かれたんだけどさ。英語を母国語にしてる人からすると、日本語の『おじさん』と『おじいさん』の違いって難しいらしいよ」
「なんでですか?」
「日本語の短い母音と長い母音の区別って、難しいらしいんだって。あー、他には『おばさん』と『おばあさん』とかもかな」
「へえー」
初耳の知識に思わず声が出る。
一瞬感心するも、脈絡のない話に疑問が浮かぶ。
「だから、なんなんですか?」
「いやー、仕事のお礼に、とっておきのウンチクでも」
「いらない!」
「それじゃあねー」
田中さんはひらひらと手を振って、颯爽と帰っていった。残されたのは私と、増えた書類の山。
「……はあ。真面目なんだか、不真面目なんだか」
思わず声に出してツッコんでしまう。誰もいないオフィスに私の声だけが響いた。
結局その日も残業をして、家に着いた頃には22時を回っていた。
「疲れた……。よし、飲もう」
こういう日は、大好きなお酒を飲みながらゲームをするに限る。冷蔵庫からロング缶のチューハイを取り出し、プシュッと開ける。喉を鳴らして一口飲むと、疲れが一気に溶けていくようだった。
「あー、酒が美味い!」
今日のお供は、乙女ゲーム『ロザリアの誓約』。
何周したか分からないほどやり込んだ、お気に入りの1本。
西洋風の学園を舞台とした、恋愛シミュレーションゲーム。
主人公であるサブリナは、王女でありながら王国の学園に通う。
そこには各国から王子様たちが集まり、タイプの異なる四人の王子様との恋を楽しむゲームだ。
そして、主人公の恋路を邪魔してくるライバル令嬢もいる。
選んだ行動によって結末が変わる、マルチエンディング方式。エンディングは二十種類以上も存在する。
どの王子様を攻略するのか。そして、好感度を上げるために、どの選択肢を選ぶのか。その多さが、プレイヤーを惑わせる。
けれど、私にとってはどれも容易いものだった。なぜなら、私はこのゲームをやり尽くしているから。
(というか、周回してたら自然に覚えちゃっただけなんだけどねー)
ゲームの最後には、学園に古くから伝わる一輪の花――真紅の薔薇の前で、選んだ一人の王子様にサブリナから告白する。
意中の王子様と結ばれれば、グッドエンディング。
一方で、恋路を邪魔してきたライバル令嬢は、それまでの行いによって罪を問われ、国外追放される。嘘の情報を流して、王族であるサブリナへの侮辱と取られるような行為をしたことが、最後に明るみになるからだ。
「……まあ、悪いことは悪いんだけど」
ゲームとしては好きだけど、そこだけが少し残念だった。悪役令嬢も含めて、みんながハッピーになるエンディングがあればいいのに。
「国外追放になるほど、悪いことなのかなぁ」
そんなことを考えたことも、一度や二度ではなかった。
(まあ、そういうお話だし、仕方ないか!)
お酒が入っていたからか、あっさり気持ちを切り替えてゲームを楽しむことにした。
「今日は誰にしようかなー」
そう呟きながら、ゲームを起動する。
このゲームはとっくに販売終了していて、今では中古市場でかなりの値段がついている。
そんなプレミア品を、私は大事にしまい込むどころか、遊び倒していた。
セーブデータをロードする。このゲーム唯一の難点は、ロード時間がそこそこかかること。
待っている間に、気まぐれに持っていたタブレット端末でレビューサイトを覗いてみた。
星は5段階の評価で、軒並み5が並ぶ。平均は、なんと4.9という高評価だった。
『とにかく登場人物たちの愛を感じる名作です。それと、キャラデザがとにかく好きです』
『ボイスがみんないいです。乙女ゲー好きなら、一度は絶対プレイして欲しいです』
『ぜひ再販を希望します』
どれも共感するコメントばかりだ。
気まぐれに星一つのレビューが少しあったので、見てみることにした。
『梱包が潰れていて大変残念でした。なので、星一つにします』
「それは配送業者に言えー!」
思わずツッコむ。せめてゲームの評価をして。
しかも、そのレビューには『タメになった』が1人だけついていた。
「タメになるなよ!」
追加でツッコミを入れた直後、自分の指が画面に触れる。
『タメになった』が、2人になる。
我ながら間抜けすぎる。
慌てて取り消そうとするも、うまく操作できずそのままにしてしまった。
(もう誰……これ投稿した人……)
思わず投稿者の名前に目をやる。
『なめろう大好き』
(なめろう……)
「私も大好きだから、今回は特別に許してやろう」
謎の上から目線で許すことにした。そして、私はチューハイの残りを飲み干した。
「よし、もう一本……」
立ち上がった瞬間、足元がふらついた。興奮していたのか、思ったよりお酒が回っていたらしい。
「あ、やば……」
体勢を崩し、床に置いていたゲーム機に足を取られる。
そう思った時にはもう遅かった。
後頭部に鈍い衝撃と激痛が走る。
視界が大きく歪む。
(お酒、飲み過ぎた……ヤバいかも……)
私の意識は、急速に遠のいていった。
* * *
「――大丈夫ですか?」
「……ん」
誰かの声が聞こえる。
私はゆっくりと目を開けた。視界がぼやけている。
見知らぬ天井。大きなベッド。豪華な家具。
ベッドのそばには、黒い服を着た人物が立っていた。
「お身体に異常はありませんか?」
頭をさする。あまり痛くない。
(ここはどこ? それに、この人は誰?)
様々な疑問が浮かんでは消えるが、頭をぶつけたせいか考えがまとまらない。
「ところで――あなたのお名前は?」
目の前の人物が、静かに問いかけた。
頭への衝撃のせいか、私の視界はまだはっきりとしていなかった。
だけど悩んでいても仕方ない。
「私の名前は――」
私は、意を決して答えた。
お読みいただきましてありがとうございました。
この作品は不定期更新になります。
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それと、同姓同名の方が読者様にいらっしゃいましたらすみません!
ハッピーな話にしますのでどうかお許しください!
どうぞよろしくお願いします!!




