第67話 決着
ジルヴァが二本の短剣の柄を連結させ、凄まじい速度で回転を始める。その回転は周囲の空気を強引に巻き込み、天を衝くような巨大な竜巻へと姿を変えた。
「最大出力だ!こいつを喰らいやがれッ!!」
放たれた竜巻は人工魔族を飲み込み、幾千もの風の刃が異形の鎧を容赦なく刻んでいく。暴風に拘束され、空中で身動きの取れなくなった巨体を見上げ、ジルヴァが喉を枯らして叫ぶ。
「今だ! お前らッ!!」
「合わせるわ! 焼き尽くしなさい、白炎ッ!」
クラリスが掲げた杖から放たれた極大の白炎が、ジルヴァの竜巻に溶け込む。風は酸素を供給し、炎は螺旋を描いて巨大な「灼熱の火柱」へと変貌した。人工魔族の表面がドロドロに溶け始め、異形はもがき苦しみながら、周囲の瓦礫や土を無理やり吸い寄せ、自身を包み込む「石の巨盾」を幾重にも展開して耐えようとする。
「逃しませんわ……ガルドス様、これでお別れです! 光の矢!」
「影の底に沈みなさい。……!」
エレナの放つ無数の光の矢が、石盾の隙間を縫って異形の関節部を射抜き、その動きを完全に封じる。同時にフェリスの影のナイフが、人工魔族が展開しようとした防御術式の回路を次々と断ち切っていった。
四方向からの波状攻撃。もはや人工魔族に逃げ場はない。
剥き出しになった術式の核。石の盾を粉砕し、ルシフェリアの跳躍を借りてレオンがその中心へと飛び込む。
「これで……終わりだ!!」
漆黒の魔力を帯びた左手が、脈動する赤黒い核に深く突き立てられた。
触れた瞬間、レオンの指先から《虚無》が溢れ出し、ガルドスを縛り、異形へと変えていた不純な術式を次々と分解し、無へと帰していく。
ドォォォォォン!!
レオンの左手から溢れ出す《虚無》が、異形の核を侵食していく。暴力的に膨れ上がっていた魔力は急速に霧散し、巨大な人工魔族の巨体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
地面に伏し、光の粒子となって消えゆくその輪郭の中から、掠れた、けれど確かに「彼」のものだと分かる声が漏れ出した。
「ジ……ジルヴァ……フェリス……すまない……」
「ガルドスッ!!」
ジルヴァとフェリスが、弾かれたように駆け寄る。ジルヴァは、もはや実体すら曖昧になり、塵へと変わり始めているガルドスの体を、壊れ物を扱うように必死に抱きしめた。
「俺は……利用された……。気をつけろ……魔族は……人間を……」
ガルドスの瞳に、一瞬だけかつての知性が宿る。だが、その先を紡ぐだけの術式は、もう彼の中には残っていない。
「もう喋るな! ガルドス、分かってる、分かってるからよ! 頼む、消えないでくれ……ッ!」
ジルヴァの叫びが夜の静寂に響き渡る。ガルドスは、泣きじゃくるかつての戦友を眩しそうに見つめ、最期にふっと、穏やかな笑みを浮かべた。
「ジルヴァ……国を……世界を守れ……」
「ああ! 任せろ! 俺が、俺たちが絶対に守ってやるよ! だから……ッ!」
ジルヴァの力強い誓いを聞き、ガルドスは満足げに目を細めた。
「頼んだぞ……友よ……」
その言葉を最後に、ガルドスの姿は静かに、けれど抗いようのない速さで崩れ去った。抱きかかえていたはずの重みは消え、ジルヴァの腕の中には、夜風に舞う微かな光の塵だけが残された。
ジルヴァは、指の間をすり抜けていく友の残滓を、血が滲むほどの強さで掴み取ろうとした。
「…………ッ!!」
声にならない叫び。ジルヴァは膝をついたまま、ガルドスが消えた場所の土を握りしめ、天を仰いだ。その拳は激しく震え、目には、悲しみを超えた苛烈なまでの復讐の炎が宿っている。
「……ああ、守ってやるよ、ガルドス。そして……テメェをこんな目にした連中は、俺が、この手で一人残らず引き裂いてやる。――約束だ」
静まり返った王都。レオンたちは、友の仇を誓うジルヴァの背中を、ただ静かに見守ることしかできなかった。
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