表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界は魔術でつくられる 〜術式を消去する左手を持つ少年、最強の師匠に拾われて理を書き換える〜』  作者: 三ノ宮 櫻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/100

第46話 南部隊長ガルドス

 ガルドスは朗らかな声で、鉄を鍛え、兵装を形作る工程を一つ一つ丁寧に説明して回った。

 レオンとルシフェリアは、その説明を聞き流しながら鋭い視線を周囲に走らせる。だが、視界に入るのは規律正しく働く職人たちと、王国の刻印が押された標準的な兵装ばかりだ。不自然な隠し扉も、禍々しい魔力の漏れも見当たらない。


「……徹底してやがるな。表面上は、非の打ち所がない『国営工場』そのものだ」


 レオンが低く呟くと、ルシフェリアも無言で頷いた。


「さて、立ち話もなんです。少しばかり休息を。我がブロンズゲート自慢の茶葉を楽しんでいってください」


 ガルドスに案内されたのは、重厚な革張りのソファが並ぶ、静かな応接室だった。運ばれてきた茶器からは、上品な香りが立ち上る。


「……ふぅ。それで、皆さんは西部へ行っておられたのでしょう? いかがでしたか、あちらの様子は」


 ガルドスが優雅に茶を啜りながら、何気ない調子で問いかけてきた。エレナは背筋を伸ばし、ティーカップを手に取らずに答える。


「ええ。ジルヴァ様の下、隊員の皆様が一丸となって街を守っておられましたわ。とても素晴らしい部隊でした」


「ほう、それは重畳。……ですが、ジルヴァは少々自由が過ぎる男ですからね。能力は認めますが、南部を預かる身としては、もう少し規律というものを重んじていただきたいものですが……。彼が勝手に動くたび、書類の整理に追われる私の身にもなってほしいものです」


 ガルドスは困ったものだと言わんばかりに、苦笑いを浮かべて首を振った。その態度は、どこまでも「生真面目な同僚」そのものに見える。


「あ、あの……カスパールさん……」


 レオンはエレナと視線を交わし、短く頷く。隠し通して探るよりも、相手の懐に直接言葉を叩き込み、その反応から真実を炙り出す道を選んだ。


「単刀直入に聞く。……騎士団の中に、裏切り者がいるという話を知っているか?」


 レオンの冷徹な問いかけに、ガルドスは持っていたティーカップをソーサーに置いた。カチリ、と硬い音が静かな応接室に響く。


「裏切り者……? それはまた、穏やかではないお話ですね」


 ガルドスは眉を寄せ、心底驚いたような、あるいは案じているような表情を浮かべた。その完璧な「真面目な騎士」の仮面は微塵も揺るがない。


「……何かあったのですか?」


「北部に人工魔族が現れた。そいつは、西部隊長ジルヴァの魔術――風の魔術を使っていた」


 レオンの言葉を聞き、ガルドスは眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。レンズが光を反射し、その瞳の表情を隠す。


「ほう。……それはつまり、ジルヴァ殿の魔術式がどこかから漏洩し、悪用されているということですか。……もしそれが事実なら、王国の安全保障を揺るがす大問題だ」


 ガルドスは腕を組み、深く考え込むような仕草を見せた。


「人間の魔術式はその人にしか理解できないものです。……それを解析して魔族に組み込むなど、並大抵の技術では不可能です。……レオン君、君はまさか、このブロンズゲートがその『漏洩』に関わっていると疑っているのですか?」


 ガルドスは悲しげに、しかし鋭い眼光をレオンに向けた。


「……我々は、王国の盾となる兵装を鍛える一族。規律と忠誠こそが我が家の誇り。そんな卑劣な真似をする理由が、私にあるとお思いで?」


 その声はどこまでも理性的で、正論だった。だが、ルシフェリアの指先が、いつでも武器を抜けるよう微かに動いた。


「……ここは騎士団中の魔道具を回収する場所だろ。だったら、預かった武器に刻まれた術式をそのままコピーすることは可能なんじゃないか?」


レオンの鋭い指摘が飛んだ瞬間、応接室の空気は一変する。


 その言葉を聞いたガルドスは、それまでの温和な表情を消し、口の端を歪めて不敵に笑う。

「……ふっ、ですから、魔術式というのはその術師特有の“設計図”だ。他人が中を覗き見たところで、解読も理解もできはしない。そんな無意味なことに心血を注ぐほど、私は暇ではありませんよ」


「理解していなくても関係ない。術式の構造そのものを転写して、魔族という『器』に無理やり流し込むことくらいはできるはずだ。あんたのところの技術ならな」


 レオンが畳みかけると、ガルドスの瞳から光が消え、底冷えするような眼光でレオンを一瞬睨みつけ、 隠しきれない殺気が室内に漏れ出した。


「……学生の妄想もいい加減にしなさい。そもそも、私はあなた方のような子供が、許可なく魔族と戦い、英雄気取りで嗅ぎ回る現状自体、規律に反すると思うのです。」

 ガルドスは立ち上がり、冷徹な声で言い放つ。


「出て行きなさい。これ以上、あなたたちのような部外者に話すことは何もありません」


 直後、合図を待っていたかのように武装した兵士二人が部屋に踏み込み、有無を言わせぬ圧力で、レオンたちは工場から力ずくで追い出されてしまう。

 背後で重い鉄門が「ガシャン!」と閉まる音が響きました。


「……なによあいつ! 図星だからって追い出すなんて、余計に怪しいじゃない!」


 クラリスが門を振り返って憤慨し、地団駄を踏む。


「……ですが、決定的な証拠がありませんわ。あの方は『規律』を盾に、わたくしたちを完全に遮断してしまいました……」


 エレナは悔しそうに拳を握りしめる。


「……いや、収穫はあった。あの睨み……。あいつは間違いなく『何か』を隠している。それに、術式の転写を否定しなかった」


 レオンは左手のグローブを見つめ、工場の奥から感じた微かな違和感を思い出していた。


「……ご主人様、どうなさいますか? このまま引き下がるわけには参りません」


 ルシフェリアの問いに、レオンは王都のさらに中心部へと視線を向ける。


「……次は、エレナの親父だ。アルガスの元へ行くぞ。ガルドスがああまで強気なのは、上層部……あるいは他の隊長との『繋がり』があるからかもしれない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ