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小さき蹄、大きな約束  作者: sakura540
第5章 番外編など
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番外編 リトルボス産駒その1 スタントボス(前編)

GW休暇に合わせて投稿してみました。

俺の名はスタントボス、馬である。母はクラウディースカイ、生まれは野村牧場。名付け親はウマヌシ?の新城という人間。この人間は俺の父も所有しているらしく、俺の母をアメリカから野村牧場に委託した張本人。どうやら俺はこいつに所有される運命だったらしい。


そう、察しのいい人間なら分かると思うが俺はキョーソーバとしてデビューを控えている。俺の父は園田という地方馬として走っていたらしいが俺は中央で走れるようだ。


俺の母からは日本の馬には負けるなと言われてるが俺も日本の馬ではないのかなぁ?母には言えないが。

そんな母からの言葉はデビュー控えた俺にとっては重くのしかかる。

だって負けたら母に〆られそうだがレースで俺の上に乗る荷物が若手の、しかも女だぞ?たしか伊藤って奴。

外国人とか日本のトップジョッキーという名の荷物なら勝率高そうなのに…馬の俺でも知っている事なのにレースと荷物を決めた大塚っていうチョーキョーシは一体何考えてるんだろうか。


結局、10月に行われた2歳新馬戦は3着でした。晴れてて10月にしては異様に暑かったし芝1600はどうやら距離的に短いらしい。

競馬を知っている者なら分かると思うが、同じ厩舎に所属する馬たちが俺以外にも当然いる。その中で俺の同期の奴らが2頭いる。1頭は俺と同じ野村牧場出身で牝馬、名はヴァレサ。あとは育成牧場からの因縁の相手、俺と同じ牡馬のエネルティガ。


ヴァレサは9月の新馬戦で1着、そのまま調教を続行して次走はアルテミスっていうレースらしい。エネルティガは7月の新馬戦こそ2着だったが9月の未勝利戦で1着、短期放牧を経て次走は11月のデイリー杯というレースらしい。あれれ、俺以外勝ってるし、どんどん次に行こうとしてる?


さすがにまずいと思ったので邪魔なお荷物をどうやって振り落とすかを試みるのはやめてレースに勝つことに集中することにした。でも、あの荷物がなければ楽勝だと思うんだがなぁ。


11月の未勝利戦、雨降ってたがあまり気にはならなかった。むしろ周りの野郎どもは嫌そうに見えたのが滑稽だった。芝1800と前回より長かったので差し切り勝利ができた。これで俺も未勝利から脱出したぜ。しかし、次のレースまで期間を開ける事になったらしく、俺の2歳のレースはこれで終わった。


3歳になった。早速レース。

俺のダートでの走りを一度見たいというウマヌシの要望から休み明けのタタキとして3歳1勝クラスのダート1400に。中京競馬場だったため輸送がだるかったし雪降ってて少し寒かった。で、俺の上の荷物は変わらずあの女。結果は7着と大惨敗、これは寒さとあの荷物のせいだ、仕方ないよな?


この結果からウマヌシとチョーキョーシは話し合いの結果、芝路線へ復帰、そしてエネルティガと同じクラシック路線を目標にするらしい。これであのエネルティガとレースで一緒に走る日が来る。それは嬉しかったが荷物を変えるともっといいんじゃないの?と思ってる。エネルティガはいいよな、荷物はドイルと名乗る上手そうな外国人で。


クラシック戦線、まずは皐月賞に出るため次走の白梅賞は全力で走った。

この日も雪が降ってたが俺のやる気の前では問題にはならんわ!

中団から抜け出して差し切ってやったぜ。


エネルティガのやつはきさらぎ杯を1着になったらしいので次走は皐月賞に決まったみたいだ。

よし、これで俺の次走の弥生賞、これを3着以内ならエネルティガと走れるって事か。

いいだろう、次走もサクサクっと勝ってやるぜ。


・・・


『おい、スタン。大丈夫か?』


『あ゙、うるぜー、もうちょっとだっだんだぞ。』


『弥生賞、惜しかったな。ハナ差で4着とは。だが安心しろ。』


『何を安心しろと?』


『俺が皐月賞勝ってやるからな。』


『フザケルナァ~!』


『俺は反対側のレッサーを慰めるからあとは自力で切り替えろよ。』


『…ちっ、あいつらいちゃちゃしやがって。もういい、寝るわ。』


・・・


『おい、ティガ。大丈夫か?』


『あ゙、うるぜー、もうちょっとだっだんだぞ。』


『皐月賞、惜しかったな。一度も追いつけずに3着とは。だが安心しろ。』


『何を安心しろと?』


『次の日本ダービー、俺が勝ってやるからな。』


『ハァ?フザケルナァ~!ダイタイオマエ、シュッソウケンガナイダロガ!』


『フフフ、俺様は青葉賞というレースを2着になったからな。お前と一緒の日本ダービー走れるんだぞ?』


『え、そうなの?やっと俺様のステージに来れたのか。さすがは俺の引き立て役。』


『オマエケリトバスゾゴラァ!』


『…あんたらさっきからうるさいんだけど。あんたらのダービーより私のオークスが先なんだから静かにしてよね!』


・・・


ヴァレサのオークス、俺たちのダービーが近づくある日、俺たちの厩舎にインタビュアーが来た。

ヴァレサの母はオークスに勝った馬なので母子制覇を目指してるという感じでチョーキョーシは答えてた。そういえば俺たちの中で重賞レースを制してないのは俺だけか。そんなものはダービーを制すれば問題ないだろう。


まずはオークスの日がやってきた。


「第4コーナーを回り最終直線へ。先頭は6番カーネルビギナー、2番手は15番ショウトウナデシコ、3番手に、おっと、外から7番アラブレディーが一気に先頭へ並、一気に追い抜いた~!このまま決まってし、いやさらに大外から2番ヴァレサが追い上げる~!…残り200、先頭は7番アラブレディー、その横に2番ヴァレサ、この2頭が並んで、いやヴァレサがここでさらにギアを上げて一気に前へ、そのままゴーーール!…1着は2番ヴァレサ、2着は人気7番アラブレディー!…ヴァレサの母ヴィルグレイスと同じくオークスを制覇、オークスで母娘(おやこ)制覇達成しました~!」


小さいが五月蠅い物体の言う通りだとすればどうやらヴァレサはオークス馬になったようだ。

へぇ~、大舞台で勝つと厩舎全体がこうなるのか。なるほどな。

俺が勝てばこんな感じになるのならやる気になるな。


そういうわけだから俺の荷物変えてほしいのだが、その願いは通じすダービーへ。

俺たちは関東のトレセンで調整してたから青葉賞の時みたいな長距離輸送はなかったから楽なんだが。


・・・


俺は今、野村牧場に帰省している。競走馬になってから初の実家。しかし東京優駿は12着でまさかのエネルティガの引き立て役になり下がってしまったので帰りたくない気持ちもあった。だってゲート出遅れ、後方で囲まれ何もできず、前残りで末脚届かず、だぜ?うーん、多分あの荷物が重かったのが悪いんだろう、そう思うことにした。


実家に帰っても母には怒られなかったのは良かったが、俺の走ってる姿を見たいと言ってきたので走っている時間が多かった。あれ?俺の休暇は自主練なの?母は走ってるフォームが悪いとか坂は歩幅を調整しろとかうるさかった。なんでも俺の父のフォームは凄く美しかったらしく、俺にもそのフォームで走って欲しいんだってさ。シランガナ。


・・・


北海道も涼しくなってきたと思ったらチョーキョーシの元へ帰厩することになった。

長い移送に残暑が残る栗東トレセン。次走はどうやら神戸新聞杯らしい。

ヴァレサはローズステークスから秋華賞、エネルティガは天皇賞秋を目標にしてるらしい。

いいなあいつらは。方やオークス馬、方やダービー馬だぜ?同期たちに敬語を使ってる俺の身にもなれよと言いたい。そこのチョーキョーシ。この際、俺たちの荷物を交換しようぜ?そうすれば解決するだろ?


「…先生。次のスタンの神戸新聞杯の鞍上ですが、伊藤騎手でよろしいのですか?」


「伊藤騎手に問題ないならそれしかないだろ?デビュー前からすでにスタッフや他の騎手を振り落とし、あの気性難御用達騎手でさえ病院送りにしてNG喰らったんだぞ?噂が噂を呼び乗りたがる騎手もいないからオーナーにキョセイを進めたが、それなら伊藤騎手はどう、て言われて今があるんだ。調教でも伊藤騎手は乗ってくれてるしこうなったらあいつらに任せるしかないだろ?」


「金色の獅子舞と呼ばれるだけありますね。」


「そういうことだ。不思議と伊藤騎手だけは振り落とさないから、それが救いだよ。あとは騎手との折り合いがなぁ…。」


・・・


俺は今、栗東トレセンで有馬記念に向けて調整をしている。

神戸新聞杯3着、菊花賞2着と微妙な成績、有馬記念は出走ボーダーぎりぎりだったらしいが有力古馬の出走回避が出たため俺は出走できるようだ。


俺の同期のエネルティガはダービー、天皇賞秋のG1を2勝、そしてヴァレサはオークス、秋華賞、JCのG1を3勝。競馬会を賑やかす2頭が同期で同厩にいるんだぜ?ヤバイダロ?


神戸新聞杯は余力残しで3着。G1レースじゃないし、チョーキョーシは3着以内とか菊花賞が本番だとか言ってたからこれでよかったのだろう。だが俺だってG1を勝ちたかったからあの菊花賞は中団から捲ろうと向こう正面から仕掛けた。俺の荷物は抑えようとしたがそんなことは気にしない。一時は先頭だったが最終直線で伸びず差し返されて2着。あれだ、今回はやたら距離が長かったのが原因だろ。はぁ…次走の有馬記念だけど、一緒に走った事ない強い馬達や次走が同じエネルティガ、あいつのような怪物だらけなんだろうなぁ。せめて荷物を変えてほしいなぁ。


それで今に至る。

負けたのは悔しいが勝つためにもお荷物変えてくれないかなぁっと思いながら有馬記念に向け調教という名の調整をしていたある日、あの馬に会った。


『おい、そこの。…名はスタントボスか。菊花賞2着、惜しかったな。』


『あ?お前は…誰?かなり年上そうだが見ない顔だな。名は…リトルボス?見覚えは無いな。オープンでも勝ててないロートルか?そんなガラクタが俺を呼び捨てで呼ぶとは…喧嘩売ってる?』


『ははは、若いなぁ。』


『あんたがおっさんなだけだろ?…ん?そういえばあんたはさっき俺の荷物とじゃれ合ってた馬か。…言っておくが、俺と同じボスの名を持つ馬だからって馴れ馴れしくするなよ!…で、なんであんたみたいなおっさんがここに?ここはキョーソーバのレース前に調整する場だぞ?…さてはレースになかなか勝てないからそんな年寄りでもレース出なきゃいけないのか?』


『ははは、なかなか勝ててなかったのは半分正解だが俺はもう引退したよ。園田っていうところにイベントで駆り出されたから少しの間ここでお世話になってる。』


『ふーん、それはご苦労なことで。…園田ってどこ?』


『園田というのは阪神競馬場の近くだ。…それより気になったのだがお荷物ってどういう事だ?まさかひろみの事を言ってるんじゃないだろな?』


『ゔ、そ、それがどうしたっていうんだ?』


『はぁ…お前が勝ててないのはそれが原因だろ?』


『はぁ?どういう事?』


『上に乗っている人間を舐めてたり軽視してるその姿勢が最大の敗因だろ?だからレースでも思うように勝ててないんじゃないのかな?』


『…知ったようなこと言いやがって。だいたいあんただって勝ててないんだろ?それを偉そうに言いやがって。』


『…そうか。それなら教えてやるか。ついてこい。』


『ついてこいって今日はもう終わりだろ?それに扉があるからここから出られ…え?出られるの?』


『ここを引っ張れば扉は空くぞ?人間が開けてるの見てるだろ?なら出来るだろ?』


『…よし、出れた。で、ここから出てどうする…て柵を飛び越えた!?何だあの飛翔は!?待てよ、…よし、俺だって!』


『ふーん、そこそこのバネは持ってるんだな?では競走と行くか。』


・・・


「…以上、現役種牡馬と現役競走馬の脱走とコースに侵入し競走していた事件の報告です。」


「幸い、双方とも怪我などはなかったのですが、これは由々しき事態です。」


「自力でカギを開けたようなので錠付きで対応する予定です。」


「しかし、親子そろって問題を起こすとは…オーナーの新城氏は何と?」


「むしろリトルボスのストレス解消と親子のコミュニケーションが取れていいんじゃない、むしろこれからあの2頭をのびのび走らせてもいいんじゃない?という事です。」


「…ぇ、何を呑気な…そういう問題ではないのですがね。」


・・・


『おい、おっさん。おっさんのせいで怒られたじゃないか!』


『すまんって。そう怒るなよ。それに短い間だが俺とお前とでこうやって併走できるチャンスができたんだし、良かったじゃないかな?』


『それはそうかもだが。あ、そうそう。やはりさ、俺の上のにも、いや、俺の上はひろみ様じゃなくてもいいんじゃ?』


『はぁ…とりあえず騎手と競走馬、心を一つにする練習だと思って明日も励むんだな。』


・・・


『…はぁはぁ、お、おい、おっさん。あんたホントに引退したのか?現役G1馬の間違いだろ、これ?』


『ははは、俺みたいな年寄りに負けてるようじゃ話にならんぞ。もう一本、いくぞ?』


『く、くっそぉぉぉぉ!』


『だからちゃんと騎手の指示に従えよ!…そうそう、いい感じ。』


・・・


「伊藤さん、お疲れ様。」


「これは大塚先生。お疲れ様です。」


「少し見てましたが、スタントボスの反応が良くなったかんじがしますね。」


「ええ、私の指示をかなり聞いてくれるようになりました。」


「これでようやく有馬記念へ目途がたちましたね。引き続きスタンの事お願いいますね。」


・・・


『ふぅ~、久しぶりに思いっきり走ったから疲れたよ。』


『先輩、あんたどこの現役G1馬だ?ヴァレサやエネルティガだってここまでは走れないぞ?それに先輩のフォーム、凄く奇麗だった。あんなの見たことないよ。』


『しがないご隠居だよ。お前もだいぶ良くなったぞ。…次、有馬記念か。勝てよ。』


『言われなくても勝つさ。…明日、園田に行くの?』


『ああ、そうだ。お前だってもうすぐしたら中山競馬場に行くんだろ?』


『ああ、レースが近いからな。…また会えるよな?』


『お前が怪我せず競走馬を続けていれば会えるさ。』


『ならまた会えるな。…それはそうと、気になることがあるんだけど?』


『ん、どした?』


『いや、俺が知る限り、今日先輩の上に乗ってた外国人、たしかドイルって外国人だけどさ。いつもはエネルティガに乗ってる野郎なのだけど…』


『ああ、あいつか。俺の上に短時間いただけであったが確かに上手い騎乗だったと思うよ。多分名手と呼ばれるレベルじゃない?』


『今日もそうだったけど、なんかこう、エネルティガと併せしてる時もなんか人間同士でこう…』


『…』


『なんかこう雰囲気が…。』


『オイ、オマエダマレ』


『え、ひぃ。ど、どうした先輩、な、何故そう睨む?凄い殺気だぞ?』


『ソレイジョウハイウナ』


『わ、分かった。(一体どうしたというのだ?なんで馬同士の異性間の交友は母子であっても厳しいのに人間はゆるくていいなぁと言おうとしたのに。だが、これ以上は言えそうにないな。)』


『ひろみが呼んでる、いくぞ。』


『い、いえっさー!』


『…(あの野郎、ひろみの見てない所で振り落として一発蹴ったほうがよかったか?)』


・・・


「直線コースに出てきた!先頭は内のアラビアンナイトか外のエネルティガか!外からエネルティガ!先頭はエネルティガで後続を突き放…外からスタントボス!外からスタントボスが追い上げてくる!エネルティガかスタントボスか!先頭はスタントボス、スタントボスが抜け出しだ~!そのままゴールイン!なんと1着は13番人気スタントボスだ~!この中山の地で金色の獅子が舞いました~!伊藤騎手は初の芝G1制覇、女性騎手初の有馬記念制覇となりました!2着はエネルティガ、3歳最強牡馬が同期の思わぬ伏兵に敗れました~!勝ち時計は2分29秒4、20XX年に…が更新して以降破られなかったコースレコードを更新しました~!」

リトルボスのように全盛期は引退後に来たり…するのでしょうか?


なお、作中に触れてませんがリトルボスは芝適正が高く、実は晩成型ステイヤーです。

もし中央で走っていれば…それはそれで名を残す競走馬になっていた、かも?

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