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小さき蹄、大きな約束  作者: sakura540
第5章 番外編など
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番外編 華麗なる馬主生活(前編) 

ホワイトデー投稿です。

よろしくお願いします。

かつてプロ野球選手として日米を騒がせ、引退後は日本を離れていたがプロ野球の監督として復帰し、ボロボロのチームを再建した。その人物が監督辞任後、球団付きアドバイザーの傍ら再び地方競馬の馬主へ。


その人物の名は「宇宙人」の異名を持つ新城高志。

この人物がとある馬と出会う事からはじまり日本を超え世界の競馬界の勢力に変化を与えたとはこの時は誰も予見できなかった。


・・・


「…お、監督。チーム調子は良さそうだけど顔色悪いな、どしたの?」


「これは新城さん、今日もかっこいいですね。…開幕スタートはまずまずで今は首位と2ゲーム差の2位とまずまずなのですが1軍、2軍と怪我人が多くて…」


「大体の怪我人は夏前に戻って来るだろ?なら大丈夫。それに活きのいい若手も奮闘してるしさ。監督がそんな暗い顔してたらダメだぞ?今日の試合は解説するからいい所見せてよ?」


「はは。今日もいい試合、見せますよ。…ところで新城さんはまた地方馬主になられた、とか?」


「ああ、俺も年取ったからか何かやり残しはないかっと思ったときがあって。野球は監督として日本一になったから当面は次に向けて一休みってところかなぁと思ってさ。そこでふと昔に馬主やってた事を思い出してさ。色々あって馬主ができなくなったけど今の俺は出来るようになったから、昔にできなかった事が悔いとして残りそうだと思ったからまた馬主になったんだ。」


「そうでしたか。中央の馬主にはならなかったのですか。」


「中央は審査が厳しくて今は地方の馬主。ゆくゆくは中央でも馬主やろうと思ってる。まだ所有馬は持ってないけど明日は知り合いの牧場に行って仔馬を見に行こうと思ってる。」


「なるほど、そうでしたか。」


「おっと、オーナーから電話きたからこれで失礼するね。」


「はい、ではまた試合後に。」


・・・


「これは新城様、お久しぶりでございます。」


「これは牧場長、いや、先代でしたか。お久しぶりです。」


「お電話で馬主として再起したので馬の購入をっと連絡は頂いたのですが…」


「うん、一時は馬どころじゃなかったからね。今は馬主として活動できそうだから復帰はしたんだけど、ここに寄る前に購入したあの馬のお墓参りを済ませて来た。」


「そうでしたか。…ここで長話でもあれですから馬を見てみますか?牧場長もそちらにいますし。」


・・・


新城は大声で馬達に挨拶したことを牧場長に叱られながら、とある一頭の仔馬に目を向けた。


他の仔馬はびびっている、それが当然の反応であったがあの馬は新城を睨み、近づいてきた新城に噛んできた。スタッフ達は慌てたが新城は笑顔のままその馬を見ていた。


「この仔、俺が買うわ。」


この言葉と共にあの仔馬は新城に買われるのであった。


・・・


「よーし、お前の名前はな……リトルボスだ!」


「ビッグボスは俺だからな? お前はリトルボス。俺たち、最高のコンビになるぜ!」


「え、もう名前も決めたのですか?」


「うん、もう契約もしたし名前を決めてもいいでしょ?」


「新城様がそれでよろしければいいのですが。…とりあえず、今後の予定もありますので具体的な日程が決まり次第、再度連絡しますね。」


・・・


新城は次のステップとして調教師探しに着手した。

かつてお世話になった船橋の先生に連絡したが定年間近で受け入れは出来ないと言われた。

どうしたものかと考えた末に、馬主仲間の笹木に連絡したが、笹木は中央の資格がないといわれたので笹木からかつての選手時代の先輩の亀田を紹介してもらった。


亀田とは同じチームでいたときはそこそこ交流はあったが新城が移籍してから全く連絡を取ってなかった。そんな二人は甲子園の近くの飲み屋で再会、現役時代の話や監督時代の裏話、そして馬の話で盛り上がった。


亀田の紹介で調教師の鈴木を紹介してもらった。亀田もリトルボスと同期の馬にあたる馬を持っていたがそれなりの素質はありそうで付き合いのある河東先生の所に預ける事になりそうだとか言ってたか。その馬が当面のライバルってところか。


さて、時は過ぎ鈴木調教師との挨拶も済ませ、トントン拍子で話は進みリトルボスを見てもらうことに。

気付けばリトルボスは園田入りし、デビュー戦が目前に迫っていた。


・・・


「あ、もしもし、新城です。この前のボスのデビュー戦、ありがとうございました。…いきなり勝てるほど甘くなかって事でしょう。ボスの走りだともっと距離が長くてもいいですが、なかなか長い距離のレースはないのですよね?…はい、次戦はそれでいきましょう。え?騎手ですか?引き続き伊藤騎手でお願いします。では失礼します。」


仕事柄、北海道や関東も多くこのときは関西から離れていたので電話でミーティングをした。

新城はリトルボスのデビュー戦を観戦した際に改めてリトルボスの非凡さを感じていた。

今はまだ園田で未勝利の2歳馬だがこれから地方にとどまらず、中央、そして世界へ。


それはまるでプロ野球で高校生、大学生時代は目立った活躍はせず何とか下位指名または育成契約でプロ野球選手になり、気付けば日本プロ野球でトップ選手になり、メジャー移籍したのちもMVP級の活躍をする選手達のような、そんな雰囲気をあのデビュー戦で感じていた。



リトルボスの調子はいい状態が続いていたので8月初旬に2戦目を走らせることにした。

アタマ差の1着で新城にとっては久方ぶり、リトルボスにとっては初勝利となった。


このまま3戦目も、勢いの乗ろうとしたがその勢いを削ぐ要素が出てきた。

3戦目はJRA認定アッパード、なんとここに亀田のエネルタイガーと初対戦となった事。

新城はエネルタイガーのデビュー戦の勝利を知り動画で確認した。もしボスをあのレースで走らせたとすると…あの走りはボスにとっては不利になるかも、そんな予感を感じていた。


不安要素がそれだけならむしろ良かったのであったが新城が頭を悩ませているのは伊藤騎手に対する河東調教師の態度であった。河東調教師はエネルタイガーの調教師でもあり次戦に備えボスの様子を見に来たらしいがついでといわんばかりに伊藤騎手にあまりにひどいセクハラをしていた。それもそれが初ではなく今まで何度も…。


そういえばボスのデビュー前の激励会で伊藤騎手はいずれは中央の騎手になりたいと言っていたが、その要因の1つがこれなのではと新城は思っていた。


レースの結果は2着、エネルタイガーに負けた、亀田に負けたのはまだいいがあの河東の笑顔を許したのはすごく悔しかった。


とはいっても馬主としては所有馬の勝利が第一、リトルボスのためにも次は9月の1400mのレースで走らせることに。結果は勝利。そして次戦は10月の初重賞ネクストスター園田。

新城はここでエネルタイガーにリベンジできると思ったがエネルタイガーはこのレースを回避したらしい。亀田によるとどうやら兵庫ジュベナイルカップでかなりの疲労が出たらしい。リベンジマッチの機会は次のオタノシミとしておいて、所有馬の初重賞を出走の喜びと期待を胸の内に秘め、このレースの勝利を鈴木調教師と伊藤騎手に託すのみであった。


10月のネクストスター園田は見事勝利、しかし新城は仕事のため北海道へ。この時の無念はあの時の出来事以来であった。


そして年末最後の日曜のレース、園田ジュニアカップへ。

このレースではあの鈴木調教師と河東調教師との一悶着があったみたいで、ボスは虎には負けられないレースとなったようだ。虎、エネルタイガーは交流重賞の兵庫ジュニアグランプリを同着ながら制した傑物。相当苦戦するがここはボスの真価が問われるレースになる、その予感がした。


レース当日、伊藤騎手は最はガチガチになっててまずいと思ったが逆にリトルボスの静かなる気迫、それを見た伊藤騎手が平成になったのを見て新城はこれならレースになると感じた。距離は1,700、この距離ならあの虎を捉えるのも可能だろうという打算もあった。


このレースをハナ差勝利で制したリトルボス。これにより鈴木調教師と伊藤騎手が救われた。


後の新城はこう振り返る。リトルボスの2歳の園田ジュニアカップ、あの勝利があったからここまでこれた。このレースの1勝はただの1勝ではない。おそらくはリトルボスや我々の中でも一番重要な1勝であったっと。


リトルボスが3歳になり、狙うは園田三冠。

ただし、この年だけは菊水賞、西日本クラシック、兵庫優駿が兵庫三冠であり3歳春シーズンに集中していた。


3月某日、新城は鈴木調教師の元を訪れた。


「お久しぶりです、先生。」


「新城さん、ご無沙汰しております。」


「ボスの様子を見に来ましたが…やはり伊藤騎手が調教してますね。」


「ええ、電話した通り、3歳になってから調教助手を病院送りにする程度に暴れるようになって…伊藤騎手に対しては落ち着いているので当面は伊藤騎手が調教担当することになりました。」


「そうでしたか。あとで挨拶と謝罪しておきます。…ところであのメンコは前走の敗戦からの対策ですね。」


「はい、前走はふがいないレースをして申し訳ございませんでした。」


「あの大逃げをした馬が良かっただけでしょう。…で、次戦、いや、兵庫三冠についてですが…申し訳ないけどどのレースも観戦はできそうになくて…ボスの事お願いします。」


・・・


それから数ヶ月が経ち、リトルボスは見事兵庫三冠(菊水賞、西日本クラシック、兵庫優駿)に勝利した。


「お久しぶりです、先生。」


「これは新城さん、お久しぶりです。」


「ボスの三冠ありがとうございました。…北海道に行ったときにボスに会いに行きました。ボスは相変わらず元気で良かったです。意外だったのはボスの妹とも仲良さげでした。ボスが他の馬と関わろうとするのは無かったので、驚きました。…今後のレースについてですが、時間があるときにじっくり、で伊藤騎手も交えてどうかなぁっと。…では明後日の晩で俺の知ってる店で。…今日はこれで失礼します。」


三人での飲み会でリトルボスの次戦は白山大賞典に決まった。

後日、鈴木調教師は白山大賞典後は園田金盃を予定ですと言ってたが新城は全く別のレースを考えていた。勿論、白山大賞典の結果とリトルボスの状態を考慮して。


・・・


「…以上が来年から騎手になる予定の競馬学校生となります。」


「来年は4人ですか。それも全員男性。…近年、とあるベテラン騎手は60歳になっても現役でG1勝利したり、40代あたりの騎手の台頭も目立つようになってますが、新人騎手が0人になったり、女性騎手の伸び悩みがひどいですね。」


「特に女性騎手は近年減少傾向にあり、重賞レースでも見なくなりました。これによりかつての女性騎手ブームが見る影もなく、このままではただでさえ村社会の競馬会がまた男性社会になり果てる懸念が…。」


「しかし現状では新人にも期待できない以上どうにもならないでしょ?」


「いっそのこと卒業しやすくなるよう学校の卒業ルールを改正するとか?」


「そんなことしたら未熟なまま騎手になって騎乗機会が得られなかったり、最悪事故が頻発するようになるぞ?」


「では、地方の女性騎手を中央に移籍させるのを促進するのは?」


「露骨にやればNARの反発もあるし、地方は我ら中央より劣るからなぁ。」


「それならば、地方で実績のある、できれば若手の女性騎手をピックアップして水面下で打診してみますか?」


「確かにその案はまずまずといったところか。…よし確か地方に顔が利く者がいたな。そいつに特命としてやってもらうか。」


・・・


「お、新城さん。こちらです。お久しぶりです。」


「お、笹木。ヴィルグレイスは元気にしてる?…で、そちらの方はなぜここに?ここは甲子園球場の控室で俺たちは解説に来てるんだけど?」


「お久しぶりです、新城様。私はJRA特命戦略部の杉上です。」


「言っておくけど、伊藤騎手に関しては俺が思った通りに言っただけだよ?これからの事は伊藤騎手次第だよ?」


「それがですね…先日の白山大賞典、惜しい2着でしたね。…そういう意味ではないのですが、その、交流重賞の実績はほぼない女性騎手の移籍に難色を示す委員の方がいましてね…協議の結果、南関東の交流重賞で実績があればということで…おっしゃることはもっともですが、やはり南関東は地方競馬の最高峰ですので。…何もJBCのようなJpnⅠの結果とは申しておりません。来年まで期間を考えると、例えば浦和記念とか…。」


「ふ~ん、そうか。要はボスと伊藤騎手に浦和記念に出せ、と?」


「それを決定できるのは新城様だけでして…」


「ちょっといいか?なんか変な話になってるんだけど、それって事実上の拒否じゃない?」


「いえいえそのような…」 「それってどういう意味?」


「浦和記念は交流重賞、JpnⅡで中央馬も地方の有力馬も古馬も走るレベルの高いレースだ。さらに浦和競馬場は左回り。つまり右回りしか走ったことのない園田の田舎者はお呼びじゃないって事。それはつまり遠回しのお断りって事だろ?」


「ふ~ん…」


「実績も経験もない地方の女性騎手に対して誰でもとはいかないものでして…」


「分かった。ボスを浦和記念、走らせる。勿論、伊藤騎手でいく。それでいいんだろ?ただし、ボスが勝ったらあんたの全てをかけて伊藤騎手を中央に移籍させろ。そしてボスも園田の所属のまま中央で走らせることもあるからその時は伊藤騎手を乗せる。」



こうして新城はリトルボスの次走を浦和記念とし、鈴木調教師に伝えた。

そしてリトルボスにも伝えたが前蹴りを食らい悶絶する新城、そんな新城を心底呆れたような目で見降ろす構図は後に関係者の語り草になったとか。

次回投稿はGWあたり?

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