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ダナの鎖

フォックス達『竜山の頂』と別れた後、ダナは『アマリリス』の王都の拠点へ向かっていた。


『アマリリス』は回復魔法に長けているメンバーだけで構成された派遣専門のパーティだ。

リーダーのメアリーはダナの姉で、現在の所属メンバーは14人。

拠点は王都のみだけど、メンバーは仕事でタマス国中に散っているので、大抵の場合その時近くにいる者が依頼を受ける。


今回のアクログレモス領ケントロンのクレイロックドラゴン討伐依頼も、別の依頼が終わったダナがたまたま近くにいたから派遣された。



ダナは、回復魔法が使えるようになった12才から22才の今まで、10年間ずっと働き詰めだった。


ダナの派遣料は、1回の依頼で金貨1枚。移動日以外は大体どこかのパーティに派遣されているので、月で金貨20枚以上は稼ぐ。

でも、ダナの手元に残るのは月給金貨3枚。旅費は別に支給されるので生活に余裕はあるが、それだけだ。

この仕事をしている唯一の救いは、結構な額の貯金が貯まった事くらいだけど、それはこの10年ほぼ移動と仕事しかしていないから貯まっただけだ。

沢山稼いでるから貯金が多いのではなくて、使う暇がないから貯金が多い。それは幸せな事だろうか?


この仕事は、出会いだけは山ほどあるが、友達はできない。

たまたま近くにいるだけで派遣された1回こっきりの回復役で、翌日にはどこかへ行ってしまうダナと縁を結ぼうとする人はいなかった。

「今日はおつかれさん。助かったよ。依頼料は送金する」それで終わりだ。

運よく派遣先のパーティと仲良くなっても、たまたま近くにいたタイミングでしか派遣されないから、再会は無いに等しい。だから大抵はそこで関係は終わりだ。



移動と仕事ばかりで、お金は貯まるけど、友達ができない。自由が全くない。

パーティリーダーの姉は、王都の拠点だけで活動しているせいか、いくら不満を訴えてもダナの気持を全く理解しない。


「毎日新しい出会いがあるんだから、それを生かしたらいいのに」と姉に悪気無く言われたときは、正直殺意が湧いた。



今回、クレイロックドラゴン討伐依頼で危ない目にあって、『竜山の頂』のフォックスさんと2人で崖裏で過ごした。

丸3日以上も仕事以外で(厳密には仕事中だったけど)誰かと一緒に過ごしたのは本当に久しぶりで、あんな場所で命の危険が迫っていたのに、実は割と楽しかった。

最初は恐ろしかったし体はボロボロだったけれど、2日目くらいから「このまま助けが来なくて死んでしまっても後悔しないかもしれない」と思うくらいには、心は充実していた。


ダナは、行方不明者になってから4日目に救助されて、『竜山の頂』のパーティメンバーと再会した。皆涙を流してダナとフォックスさんの無事を喜んでくれた。

王都の姉からは安否確認を装った現場復帰の催促が来たけれど、ダナは体が癒えていないという理由でズルズルと5日ほど休んだ。

休んでる間は遭難仲間のフォックスさんと過ごし、10年ぶりに町でも遊んだ。オシャレなカフェでお茶をしながら、助けてくれた『67』の人達と再会の約束もした。


ダナは『アマリリス』を脱退して、フォックスさんのいる『竜山の頂』に加入する事を決めた。


姉には脱退の意思を伝えたが、王都に戻れと指示があっただけで辞意に対する反応はなかった。

王都の拠点に戻ると、姉に「急に辞めるとか、一体何を考えてるの?」と1回問われただけで、ダナの辞意はなかった事のように次の派遣先の話をされた。


「姉さん、私はもう決めたの。脱退を許可してくれないなら、理由を添えてギルドで勝手に手続きをするわ」

ダナがそう言うと、姉は「それはダメよ。アマリリスの経歴に傷がつくじゃない」と言った。


ダナはその言葉で、姉はダナの現状を誰かに知られたら『アマリリスの経歴に傷がつく』ような酷い状態だと分かっていたのだと理解した。

姉は理不尽だと分かった上で、素知らぬ顔でダナに無理をさせていたのだと。


「パーティの脱退は自由でしょう?私はもう辞めると決めたの。今日までの給料を清算してください」


「そんな勝手な事を許してたら秩序が保てないじゃない。それに勝手に辞める人に給料なんて出せないわ」


「姉さんが心配しているのは、秩序じゃないでしょう?子供の頃から私みたいに働いているメンバーが、疑問を持つのが怖いんでしょう?皆お金だけは持ってるもの。いつでも辞められるわ」


「ダナ、私達家族じゃないの。なんでこんな仕打ちをするの?」


「それを姉さんが言うの?もういいわ、給料の件も自分でギルドを通して請求する」


「わかったわよ!アダム、この不義理な妹の給料を清算してやって!」


姉は、秘書に書類を投げて渡すと、部屋を出て行ってしまった。



姉の秘書と手続きを終わらせ、マリンナ行の乗合馬車の切符を買う。


ダナは浮き立つ気持ちを抑えつつ、信頼できる仲間の待つ町へと向かい、初めて出来た友達に会いに行く。




▽△▽△▽△▽△▽△




その日ナナは、カフェ『スノウホワイト』のテラス席でダナさんと待ち合わせをしていた。


「ナナさーん!」


「ダナさん!」


「ここ、すごく素敵なカフェね!お茶とスコーンのセットがあったの!ジャムが3種類から選べるなんてっ!」

ダナさん、心配になるくらい幸福の沸点が低い。


「ダナさん、喜んでくれてうれしいけど、それって普通」


「はー、私に足りなかったのは、こういう普通の時間だったの、感慨深いわー」


「そんなに喜んでくれるなら良かった。次はギルドの近くのハニーティーが美味しいカフェに行こうね!」


「次の約束っ・・・!」


「ダナさん?」


「行く!行くわ、絶対行く!」


「ふふふ、行こうね。絶対ね。私、ナッツの入ったスコーンにしようかな。あ、せっかくだから半分こする?」


「はんぶんこ・・・!するっ、します!」


「ダナさん、王都が拠点だったよね?王都のカフェってどんな感じなの?」


「うーん、聞いた話だと、カフェは沢山あるらしいんだけど、私行った事無いのよね」


「そうなの?もしかしてカフェ苦手だった?」


「違う!違うのよナナさん!私、カフェ好きよ。ケントロンのカフェも素敵だったけど、ここも感動したわ」


「そう、よかった!」


「それでね、ナナさん、この辺で服を買うならお勧めはどこかしら?」


「メリーローズっていうお店がお勧めです!私でよければ案内しますよ?」


「うれしいわ、ありがとう!私『アマリリス』抜けて『竜山の頂』に加入したでしょ?パーティ支給のこのローブも返さなきゃいけなくて、困ってたのよ」


「アマリリスって、衣装指定があるんですか?」


「そうなのよ、白にアマリリスの刺繍、12才から今日まで、毎日コレよ」


「毎日?!それは、だいぶキツイですね。普段着もダメなんですか?」


「最初は仕事の時だけ着てたのだけど、服を買う時間もなかったし、10年間ほぼ支給のローブで過ごしてたわ」


「服を買う、時間がなかった・・・回復専門の魔法使いって、大変なんですね」


「そうなのよ、もー、聞いてくれる?」



---ダナさんの話は、それはもう強烈だった。



「ダナさん、大変でしたね・・・」


「そうね、本当に大変だったけど、こうして、ナナさんと出会えているわけだしね」


「そうだ、ダナさん、お願いがあるんです」


「まあ、お願い!なにかしら?」


「回復魔法の先生やってくれませんか?」


「先生?」


「うちのコウ、回復魔法が使えるんですが、周りに回復魔法を使う魔法使いが居なくて」


「私でいいの?」


「ダナさんさえ良ければ、謝礼はお支払いしますので」


「お金なんていらないわ、先生やりたい!」


「本当ですか?でも、何かお礼はしたいです」


「それなら」


「それなら?」


「たまに、こうして、一緒にお茶を・・・」


「それ、別にお礼じゃなくたってしますよ!」


「それなら、お礼はいらないわ。ずっとお友達でいて」


「もちろん!」


「私が、先生、うれしいわ!そういうの、ずっとやってみたかったの!」


「ダナさん、ありがとう、コウも喜びます!」


「私、コウ君を喜ばせるのね、素敵だわ」



ダナは、お金の為ではなく友達のために回復魔法を役立てるのは初めてだった。

小さな子供に自分の知識を教える。そんな素敵な事に時間を使えるなんて!



「ナナさん、ありがとう。あの時助けてくれて」



あの日、たまたま近くにいたおかげでダナが『竜山の頂』の元に派遣された。

クレイロックドラゴンに追い詰められた時は酷い有様ありさまだったけど、フォックスさんと2人で乗り切った。

そして、『67』に助けられて、『竜山の頂』の一員になり、ナナさんと友達になり、コウ君の先生になる。


今まで決して繋がらずに途切れてた縁の鎖が、あの日から繋がり始めた。


ダナの縁の鎖は、これからどんどん繋がって、長く長く伸びてゆく。

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