家族で遠征(1)
毎日のように家事や討伐で魔法を使っているおかげなのか、春を迎える頃には、ナナは雷魔法を使えるようになっていた。
ナナは、上位魔法を炎・氷・雷と3種類使える上に、武器に付与もできる魔法使いだ。
マリンナでは、ナナを勧誘する輩はもうほとんど居ないが、他所に行けばまた同じ事が起きる。
ロックは、今まで何度かあった遠征の打診を、全て断っていた。
苦虫を嚙み潰したような顔でロックが告げる。
「ノトスナポス領への遠征を打診された。以前トッタラッタ領でポイズンローカストが大発生した時に、一番に駆けつけてくれた所だ」
「助けてもらったのなら、助けないとね」ロックは頷く。
「ナナならそう言うと思った。大発生したのは、ミドルヘルバード。鳥の魔物だ。昼は畑を食い荒らし、夜は森で眠るらしい」
「畑での討伐だと、畑がダメになっちゃわない?」
「ああ、だが、どの道ミドルヘルバードに荒らされるんだ。人間も集団で襲うから畑仕事もできないようだし、畑がある周辺での討伐になるだろうな」
「そんなに危険なら、モモとコウは連れていけないよね?」
「一応役所とギルドに確認はする。モモはナナの従魔だから問題ない。いい経験だし連れて行きたいが、コウは難しいだろうな」
「コウが行くならジルだって行きたいだろうし、どう考えても許可出ないよね・・・」
「ノトスナポス領のグロッサはここから南に180ケメス(Km)くらいあるから、ギルドが手配してくれた馬車を使っても、行くだけで片道4日くらいかかる。子供には辛いだろうしな」
「そっか、それなら、コウは孤児院に一時預かりをお願いするしかないかもね」
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おそらく無理だと思っていたけれど、ロックとナナは、ダメ元でギルドと役所に確認する事にした。
ギルドは、遠征は家族で行く場合もあるから、コウが同行するのは問題ないと言った。家族で1台馬車を用意するから、どうしても『67』に行って欲しいと。
ギルド内で、過去の一斉討伐の時のナナの魔法とロックの連携が、かなり高く評価されているそうだ。
なんと無人になる自宅には、ギルドから警備が来てくれるらしい。すごい好待遇だ。
役所のノットさんは、コウとジルがロックの弟子見習なのも知っていて、意外にもコウとジルが修行を望めば同行させてもいいと言ってくれた。
不思議に思ってナナが「うちに外泊するより、他領に行くほうが危険そうなのに、ジルも大丈夫なんですか?」と聞いてみた。
ノットさんは「孤児の就職に関しては10才から補助金が出るので、どこも10才から受け入れます。ロックさんには、補助金が出ない年齢なのに、冒険者を目指すジルとコウに継続して稽古をつけている実績がある。その上、得難い経験を積ませてくれるのなら、おそらく許可は出ます。私が出せるようにします」と説明してくれた。
子供は親の職業を見て育つ。子供に手伝わせるのは手間がかかるが、親は自分の子になら手間を惜しまない。だから、ほとんどの子供は稼業のお手伝いという形で10才未満でも経験を積む。
でも、孤児院の子供は10才にならないと補助金が出ない。10歳未満の手のかかる子供に、稽古をつけてくれたり経験を積ませてくれたりする場所はないのだ。
だから、ロックの稽古は、今までに無い特別な事だった。役所も、ロックの稽古が良い前例になってくれる事を望んでいるのだ。
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まさか許可が出ると思っていなかったので、ナナとロックは大慌てで孤児院に向かう。
「ジル、コウ、俺達は明後日からノトスナポス領へ遠征に行く。修業で同行するか?」
「「いく!」」
「現地は危険だし、馬車の旅で片道4日ほどかかるぞ。弱音を吐かずについてこられるか?」
「ついていけます!」「よわね、いいません!」
「よし、旅の準備をするぞ。ついて来い」
「「はい!」」
コウとジルに必要なものは、ロックが買い物に同行して揃えてくれるようだ。ナナはサコッシュをロックに渡し、自宅で荷物をまとめる。
明後日の早朝出発だから、準備期間は今日と明日の2日しかない。食料の準備も必要だ。
ナナは、道中食べるご飯を作り貯めて、キャリーバッグに詰めていく。野営ではなく宿に泊まるルートで行くので、用意するのはお昼ご飯だけだ。
往復で8日だから念のために10日分。人間だけで40食。面倒だから、全部サンドイッチだ。ナナは、サンドイッチマシーンになった気分で作る。
モモの分は、モモのリクエストを聞きながら、小分けにした生肉と魚を用意する。
遠征中にノトスナポス領のグロッサで泊まる宿は、家族で泊まれるギルド指定のコテージだから無料だ。
道中の宿は、ナナとロックの分だけ食事付きの宿代が出る。同室なら追加料金は1人銅貨2枚なので2人で銅貨4枚。片道3泊予定だから往復で銀貨2枚と銅貨4枚。がっつり稼ぐつもりなので、報酬を考えるとそれほど高くはない。
ナナがお弁当作りに疲れた頃、ロックがコウとジルを連れて帰って来た。2人は、お揃いのリュックを得意顔で背負っていた。やだもう、すごくかわいい。
フライドポテト付きのサンドイッチを16食(店頭にあるだけ全部)買ってきてくれたらしい。さすがロック、気が利く。
ジルは、明日の夜は前泊だから、少しだけ荷作りを手伝ったらひとまず孤児院へ帰った。
ロックに荷物チェックしてもらったら、ナナの荷物で足りないものが結構あったので、明日買い足す事にする。
買い物メモを作り、コウと同じ守り石をジルのために作ってから、ナナはやっとベッドに入った。
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翌日は買い物メモを片手に、小さめのブランケットや腿までの靴下、馬車用クッション、日よけのストール、日焼け止め、手軽に栄養補給できる飴などを買う。現地についてからの食材も少し買い足した。
買い物が終わると、ジルとコウを早めに孤児院へ迎えに行く。明日に備えて今日は早く寝なければいけない。ロックと相談して、夕飯を露店で買って帰る事にした。
夕ご飯とお風呂を済ませて、皆でラグに集合する。
「コウ、ジル、明日から遠征だ。俺が討伐で手が離せなくても、稽古は毎日欠かさずやる事。いいな?」
「「はい!」」
「自分の荷物の管理は自分でやる事。トイレに行けるタイミングでは必ず行っておく事」
「「はい!」」
「体調が悪くなったら、隠さずに俺かナナに必ず言う事。俺とナナの許可なく勝手な行動をしない事」
「「はい!」」
「知らない土地で、食べ慣れないものを勝手に食べない事。食べたいときには俺かナナに言え」
「「はい!」」
「現地に連れていけそうなら連れて行くが、宿で待機してもらう事もある。その時は宿でできるトレーニングをして待っている事」
「「はい!」」
「後は、ケガをしないようにしっかりパーティでの戦いを見学しろ」
「「はい!!」」
「ジル、これあげるね。家族みんなが持ってる守り石。コウとお揃いだよ」
ナナが、ジルの首に守り石をかける。
「・・・ありがとう!ありがとう、ナナちゃん!」ジルは、泣きそうで笑ってるような顔。ほっぺが赤い。
「ジル、おそろい!みて」
コウの守り石をジルに見せてる。2人ともうれしそう!あ、ハグした。くう、なんて可愛いの。ロックもモモも、抱き合う2人をほんわか見てる。
その日は家族みんな、明日からの旅路にちょっとだけ興奮しつつも早めに眠りについた。




