↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/164

035 側にいる理由

(およそ3,500文字)

「ねえ、この格好、ヘンじゃないかな?」


「昨日と同じですね」


「もう! そういうことじゃなくてさぁ……」


 サニードは鏡の前で何度も髪を整え直していた。


「オクルスの先生に会うんだから、おかしな娘だと思われないように……あ、でも、オクルスもウチも外に行くなら“留守番”をまた置いて行くの?」


「いいえ。昨日の夜のうちに結界を張っておきましたから。よほど入念に準備しない限り、侵入は難しいでしょう」


 オクルスが窓辺に触れようとすると、半透明の障壁が水面のように揺れる。


「オクルスって何でもできるね。無敵じゃん」


「無敵ではありません。私の知恵や手段はすべて人間から学んだもの。これらを考えついた人間こそが、もっとも恐ろしい存在だと思いますね」


「へ? オクルスの先生って人間なの? 魔物じゃなくて?」


「会えば分かります」

 

 オクルスはすでに準備を終えており、サニードが終わるのを佇んで待っていた。


「……オクルスだってさ」


「私がなんですか?」


「一昨日も昨日も、今日も同じ格好。お金あるのに、なんか少しオシャレしないの?」


「私のこの格好は、商売の交渉をするためだけのものです」


 サニードはわざわざ椅子の上に飛び乗り、オクルスから帽子を取る。

 そして自分のカチューシャと入れ替え、代わりにとばかりにオクルスの頭にカチューシャを乗せた。


「アハハ、変なの!」


「……その帽子もスライムです。同化されますよ」


「えっ!?」


 サニードは被っていた帽子を慌てて外す。


「冗談です」


「……は? え? オクルスも冗談を……?」


「貴女とシャルレドから学びました。……さあ、気が済んだのなら出発しましょう」


「ちょっと、待ってってば!」

 

 サニードはもう一度鏡を見て、ニッと笑って見せてからオクルスを追いかける。


「あれ? 忘れ物?」


 リビングの壁の前に立ったオクルスを見やり、空のリュックを背負ったサニードが問う。


「ここならばいいでしょう」


「えっと、なにやってんの? 行くんでしょ?」


 何もない壁を押したり引いたりしているオクルスを見て、サニードは怪訝そうにした。


「“ゲートロード”を使います」


「は?」


「本来は【トランジション・ゲート】という高位移動魔法です。その代用となる魔法道具なのですが、1つにつき1箇所限りの使い捨てなので、使い勝手もコスパも悪い代物です」


 オクルスは壁の四隅に、チェスの駒の様なものを貼り付ける。

 すると、その駒同士から黒い紐状の帯が延び出て、それが徐々に激しさを増して渦を生み出す。


「す、スッゲェー!!」


「貴女の魔眼なら、この先が道になっているのが視えるかも知れませんね」


「え? オクルスには視えないの?」


「ええ。私はこの先がどこに繋がっているのか知ってはいます。しかし、見えるのは渦巻く魔力の動きだけですね」


「……道が視えるよ。見たこともない森が、空が、大きな水? あれはヴァロン大河?」


「海ですね」


「うそ! 初めて見た! 海……それが視えるよ」


 サニードの白銀の瞳に、蒼い風景が映り込む。


「そうですか。それは貴女だけに見える世界なのでしょう」


「え?」


 思いがけない台詞をかけられたことに、サニードは驚く。


「それはウチが特別って……」


「行きましょう」


「あ! もう! 待ってってば! 腕! 腕を組も!」


「なぜ?」


「は!? それ聞くの!? これは許容範囲でしょ!!」


「いえ、そうではなく……」


 オクルスを追いかけ、サニードは黒い渦の中にそのまま飛び込む。


「へ?」


「もう、着きましたので」


 薄暗い景色から一転、そこはサニードの視ていた先の森や空や海が辺りに拡がっていた。


「い、一瞬で着くの? さっきの道は?」


 自分たちが入ったところを振り返って見ると、そこには入口と同じ渦が、崩れかけた建物の大きな柱に生じていた。


「“道”と言っても時間や空間を隔てていますから。通るのに時間は掛かりません」


「信じられない……。ここはどこなの?」


「我々の住む中央大陸リヴァンティズより、遥か南東にある名もなき島です」


「ええ? ちょっと待って。ここはサルダンでもなく、ガッドランドでもないってこと!?」 


「そう言っています」


「いや、冷静に言わないでよ! 馬にも船にも乗らずに、こんな遠くに一瞬で移動できるなんて!」


「陸路や海路を使ったならば、数年はかかる道程ですね」


「それに、海! こんなに大きいの!? 目の前、いっぱいの青じゃん!!」


 森の端から見える海を見て、サニードは飛び上がってはしゃぐ。


「ねえ! もっと側で見たい!」


「後にして下さい。待たせています」


「あ。そうか。先生が待ってるんだよね」


 オクルスは不可解そうな目でサニードを見る。


「なに?」


「……いえ、もっと抵抗されるかと思いましたので」


「抵抗? もしかして、ワガママ言うってこと?」


「ええ。そうとも言いますかね」


「う、ウチだって時と場合を選べるから! 先生! 先生が優先でしょ!! 行こう! 行くよ!! もちろん!!」


「……そうですか」




□■□




 名もなき島は、半日ほど歩けば1周できてしまうほどの小さな島であった。


 中央部分が森林地帯となり、その外周はほとんどが切り立った崖で、船などが接岸しにくく、まるで他者を拒むような形をしていた。


 オクルスは深い森の中を迷うこともなく、島の中央を目指してひたすら歩き続ける。


「なんで転移アイテムで移動できるのに、もっとその先生の家の近くにしなかったのさ?」


 汗を拭いながら、サニードは疲れ切った顔で問う。

 サルダンと比べて気温や湿度が高いせいで、森の中で生活していた彼女も環境に慣れずに消耗していた。


「外敵の侵入を警戒してのことです。それと、先ほどの遺跡の一部が目印となる“魔痕”をつけるのに適していたからですね」


「マコン?」


「簡単に言うと目印です。大型魔力船などを誘導する浮標にも使われますね」


「つまり、どこでも好きには出入口にはできないってこと?」


「そうです。家などの人工物。人間種や魔物の生活空間には魔力による痕が残りやすい。それは多少の年月の経過があったとしても残ります。……それを追跡(トレース)することで、ゲートロードを使う条件が初めて成立するのです」


「ふーん。よく分かんないけどそうなんだ」 


「使い勝手が悪いと言ったのもこの部分です」


「あ。待てよ。いま、すごーくイヤなこと思いついたんだけど……」


「そうですか」


「いや、聞いてよ。あのさ、このゲートロードっての使えばさ。ウチをこの島みたいな無人島に……」


「ここは無人島ではありません」


「それは知ってるよ! そうじゃなくて、ウチをどこか遠くの無人島へ連れてって、ペルシェに帰れなくすることもできるんじゃ……ないの?」


 サニードは、オクルスの反応を見つつ尋ねる。


「そうですね」


「……なんでそうしなかったの?」


「殺すのも、遠くへ追いやるも、監禁してしまうこともすべて同じことです。いずれにせよ、メディーナは私に反発するでしょう」


「やっぱメディーナか……」


 サニードは苦々しそうな顔をした。


「でも、メディーナはどうしてウチをそんなに気にしてくれるの?」


 オクルスの内側にいるであろうメディーナにと向かって、サニードは問いかける。


「貴女に感化されたからでしょう。スライム種は順応しやすい」


「オクルスも?」


「否定はしません。私もメディーナも自我は持っていますが、これを決定づけたものは、先生もしくは貴女たち人間の影響によるものです」


「なら、オクルスもウチに……」


「それに貴女を側に置く理由は他にもあります。なにか問題があった場合に、即応するためにも手の届く範囲にいてくれた方が都合がいい」


「……それはオクルスの考え?」


「メディーナの意見に聞こえましたか?」


「ううん。そんなことない。……なんか木の根っこ多いから歩きづらいよ。手を握ってくれる?」


 オクルスは振り返って手を伸ばす。サニードは少し嬉しそうにその手を握った。


(やっぱりそうだ。そこに“ちゃんとした理由”があればオクルスは応えてくれる……)


 その関係性は希薄であやふや危険なものかも知れない。しかし、その冷徹で徹底的なまでの合理主義が、今の自分を守ってくれているような気がサニードはしていた。


(ウチは…オクルスの側にいたい。彼の側にいる“理由”を見つけ……)


「見えてきましたね。あれが“魔商(ましょう)の館”です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。