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【受賞】ノアの学園~国父とよばれた高校生~  作者: 大塚 可修
第1章 ノアの大洪水
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第13限 終末の街

大人だけが消えた世界……

……そしてやがて、学園は国家となる


 プツンッ、とホログラムスクリーンは消滅する。


『方舟のあらんことを』


 アルヒェ創始者ベルンは、それだけ言い残して接続を切った。


 訪れる静寂。

 狭い教室の中で、学生たちの心にふつふつと怒りが湧き上がり、彼らの不安を掻き立て、余裕を奪っていく。

 それを感じ取った僕は、みんなに声をかけた。


「み、みんな落ち着いて。ベルンが言ったことがホントかどうか、まだ分からない。僕たちはまだ生きてる。直ちに危険はないから、大丈夫だ」


 怒りや不安を爆発させ、恐怖が感染することはなかったが、やはり完璧には彼らを落ち着かせることは出来ない。みんな仲間内で集まって、ひそひそと話し始めるが、きっとどれも不安を漏らし、悪態を吐くものだろう。


「……早く何かしら手を打たないとまずいですね」


 甲斐が僕の耳元に顔を寄せ、そう耳打ちする。


「ああ。集団でパニックなったらまずい」


 生徒たちを落ち着かせるには、これからの具体的な対応と正確な情報が必要だ。何も分からない状況では、すべきことを見失ってしまう。

 この意味不明な状況下で、僕らが統率を失うことだけは避けねばならない。


 僕は頭を傾けて、甲斐に耳打ちを返す。


「いつもの生徒評議会のメンバーと、各学年代表を招集してくれるか?」

「生徒評議会を開くのですか」


 生徒評議会というのは、生徒会と各種委員会の委員長が列席して行う大きな会議のことだ。文化祭や体育祭、選挙前・選挙後などの大きなイベントのあるとき、目的の共有と達成のための協力をするために招集されている。


「ああ。さすがに事態を共有しないとね。みんなの協力も得たいし、ひとまず少数で落ち着いて話し合いたいんだ」

「わかりました。直ちに」

「……僕はちょっと行きたいところがあるから、頼むね」


 僕は和泉、日向、壱岐さんら生徒会メンバーに、生徒たちを各自の教室で待機させるように、と伝え、甲斐には評議会のメンバー集めを任せた。


 そして僕はというと、廊下へ出て、メイン階段をそのまま登り……屋上へ向かった。四階からさらに上へ登る階段を行くと、重い鉄の扉が見える。埃っぽくて、暗い、屋上へ通じる扉のある踊り場スペースだ。


 その冷たいドアノブを握り、ぐっと力を入れて、押し込む。

 少し扉が開くと、風の音がした。冬の凍てつく風。吸い込むと肺が縮むようだ。


 屋上はがらんとしている。特に生徒たちに開放されているわけでもなく、夏は暑く、冬は寒い屋上に、生徒たちも馴染みはない。屋外スペースというのなら、ウッドデッキがあることだし。


 僕は冬の冷気を叩きつけられながら、扉を出て真っすぐに進む。広い空間。まだ地平線は屋上のコンクリート製の床に阻まれて覗えない。だが、濃い灰色の煙が、いくつも上がっているのが見えた。


 異常事態が起こっているのは学園だけで、実は街の方はいつも通りの日常が広がっている。

 ベルンの言ったことなんて、実は嘘っぱちで、世界は何の変哲もない日々を繰り返している。


 そんな期待を微かに抱いていた。だが、どんよりとした灰色の空を塗り替えるような、煙の柱たちが、そんな淡い希望を打ち砕いていく。


「……桐可の……街が……」


 屋上の縁に立つ。金網を握る。世界を、見渡す。


 あちこちで大火災が起こっていた。警報、アラームがそこらじゅうで鳴り響いて、耳を澄ませば人々の悲鳴も木霊している。美しかった街を、火炎と、煙と、悲鳴と……死が、包んでいた。


「ベルンの言っていたことは、本当なんだ……」


 大人たちのマイクロチップに実施された、アップデート。それによって大人たちは理性を失い、脳を破壊され、体をマイクロチップに乗っ取られた。僕らが死闘を繰り広げた先生たちのように、突如としてゾンビのような化け物になった大人たち。そのために彼らが運転していた車の全てが事故を起こしているはずだ。


 史上、類を見ない多重事故が日本各地で、世界で、起こっている。

 運転されていた車両がことごとく衝突し合い、建物に激突して、爆発を起こし、火災を発生させているのだ。


「大人が、消えた」


 そうなれば、社会は崩壊する。大人の代わりに産み落とされた化け物たちが残された子供たちを襲うなら尚更だ。水、電気、ガス。あらゆるインフラの供給がなくなり、全ての生産活動が停止した。

 警察も、自衛隊も、もちろん役所も、国も、僕らを助けてはくれない。全て大人たちの手に委ねられたものだからだ。


 事故によって発生した火災を止める消防隊員も来ない。

 暴れる化け物に対処する警察も、自衛隊もない。


 街を覆う火の手はまるで意思を持っているかのように畝って、蜷局とぐろを巻く。その様子はまるで、火炎の龍に襲われているようだった。


「……ノアの……大洪水……」


 目の当たりにした、世界の終わり。

 炎は肌を焦がすほどの熱を持っているはずなのに、それはあまりにも無感情で、容赦なく……

 ……その炎はまるで、海の底のような冷たさを持っていた。


【次回予告】

学園の進む道とは


【用語解説】


【あとがき】

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時間を定めず投稿しているので、本作を少しでも気に入って頂けた方は[ブックマーク]をお願いいたします! 読んでくれてありがとうございます!

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