6.覚醒ー5
埃が立ち、少女の体が転がって止まった。その腹部辺りに白い何かがいる。
ラミエルか。少年は白けた様子でそう思った。そしてシェムハザを見上げる。
こいつらは普通のネフィルではない。あの兎もこの龍もネフィルの卵を守るために発生する、防御機構のようなものだ。
こいつらが他のネフィルみたく消滅したり、爆裂するところは見たことがない。少年は、卵がある限り消滅することもないのではないか、と勘ぐっている。だからただ守る。俺やあの薄鈍の中に卵があるから、それを守る。
けれど過去に死んだ召喚者もいたらしい。その卵がどうなったのかは知らないが、殺せないわけではないということだ。あの薄鈍も。
少女が呻きながらもぞもぞと動く。あんたが、と性懲りも無く呟いている。それが少年の心を逆撫でしてくる。
「頭イカれてんのか」そう口走り少年は思い至る。そういや、こいつは最初からイカれてたか。
召喚者の癖してネフィルを作ることに消極的な変わり者。ネフィルを生み出せと命じられても体をふるふると震わせて抵抗し、泣き喚く。コンドウの愚図に殴られようが蹴られようが、ごめんなさいとしか言わず、自分の力を碌に使おうともしない出来損ない。
そんな奴がこの俺に歯向かってくる。その事が少年には許せなかった。
蹴り飛ばすのが駄目なら殴り飛ばすのも駄目だろう。シェムハザの突風でも死んでないし、出来たことといえば髪を引っ張ることくらいか。
そこで少年は自分を使役していた男のことを思い出し、吐き気を催した。そして振り返るとササキが引っくり返っている所まで飛んで戻り、思い切り蹴り飛ばした。
丸い肉塊が、血飛沫を撒き散らしながら流星のように飛ぶ。そのまま灰色の縦に細長い建造物に激突して、ビタンッと気色悪い音を立てた。そしてそのまま弾けて奥の方へ飛んで行き、視界から消える。
「クソッ、クソッ!何で俺があんな愚図野郎と同じ事を!」
足先に肉塊の感覚がこびり付いて離れない。それを、瓦礫を矢鱈と蹴り飛ばし引き剥がそうとする。
「あんたが…来る、から」
187番の声が脳を刺してくる。少年は苛つきで頭がおかしくなりそうだった。どいつもこいつも鬱陶しい。いっそのこと全員──。
─ああ、そうか。不意に落ちてきたアイデアに少年は口を吊り上げた。頭に浮かんだ考えが、胸の中を満たしてくれる。
「ああそうだ…。いっそのことこの国にいる奴全員、ネフィルに変えちまえばいいんだ」
すると遠くに転がっている少女が、ぴくりと反応した。




