5.強襲―13
黒いもやもやが白く光り形を成していく。長い耳。丸い頭。細い胴体に、似つかわしくない大きな手。腰の辺りには丸い尻尾。その姿は目の前の怪物に似ていたが、何から何まで小さかった。その立った耳はエミの腰のあたりまでしかない。
「出たなチビ助」少年は、何が面白いのか小さく笑い声を上げた。
「エミ…それは…ネフィルか?」リュウの声が上擦った。
するとエミが凄い勢いで振り返った。その顔は驚きを隠そうともしない。「…リュウ、居たんだ」
その隣の小動物のようなものも一緒になって振り返った。その顔に息を飲む。丸い顔に、その両端に寄るようなつぶらな瞳。酷く大きな、吊り上がった口。その中にギザギザとした牙が覗いている。
まるで空に浮かぶ異形にそっくりな、面妖な顔をした兎。その異様なものとエミとの繋がりが信じられず、リュウは恐怖を覚えた。
「…あ、何だお前」少年の目がリュウに向いた。リュウの背筋が凍る。「…えみ?何だそりゃ。そこの薄鈍に言ったのか?頭打って誰かと間違えてんのか。そんなことで見境いを無くすなんて、ホントに人間てのはか弱いよなぁ」少年の顔が見下すように歪む。
リュウは少年の冷たい視線に慄いた。まるで本当に、下等生物を見るような目だった。
「─違う」そこにエミの声が割り込んできた。射竦められたリュウを庇うように、エミが一歩前に踏み出す。
「エミはあたしの名前。リュウとノジマさんがくれた、大切な名前だよ」
エミはそう言い切った。その後ろ姿は赤い、リュウの選んだ浴衣が覆っていた。けれどその隣には小さな異形がいる。嬉しいような、信じたくないような、リュウの頭の中が混乱する。
突然、少年が噴き出した。「おいマジかよ」捩れる腹を押さえている。
「名前?お前の?おっかしい。そんなもんが欲しいってか。まるで人間みたいだな」
少年は尚も笑いながらエミを指差した。「お前はだだの187番だ。人間じゃねぇ。俺と同じただの卵の入れ物で、だだの召喚者…」
少年がこちらに目を向ける。そこにもう感情は無く、その目は凍り付いたように冷たかった。「…もういいや。何かムカつくし、お前も死ね」
少年が腕を振った。するとそれに呼応するように目の前の怪物達が動き出した。まっすぐこっちに向かってくる。
リュウは恐怖に支配される。未知の存在が、光の巨人が自分を殺すために突進してくる。左肩の痛みも忘れて後退ろうと懸命に体を動かす。
その時、ちらりとこちらを振り向いたエミと目が合った。
「─大丈夫。あたしが守るから」




