4.城下町の祭り―7
「奴隷って…」
「ミナミノクニじゃそういうことがあるって聞いたことがあるんだ。エミが追われてたのは北の連中だったらしいけど、キタノクニも得体が知れない分、同じようなことがあるのかもしれない。それがエミが言ってた“召喚者”ってやつじゃないのか?」ノジマは声を潜めて言った。
リュウは老婆を気にしたが、馬車の発するがたがたとした走行音でこちらの会話には気付いていないようだった。
ノジマはなおも続ける。
「あのオオトカゲにしたって、あの膂力にしたって、尋常じゃないだろう。それでも北の連中から逃げていたんだ。それこそあり得ないだろう。そこら辺の人間が束になってもエミには多分敵わない。そんな力を持っているのに俺達のところに逃げてきた。つまり」
「…つまり?」リュウは先を促す。
「北の連中はエミを無力化できるってことだ。それがどういうことか」
そこでノジマが言葉を切った。言うべきか逡巡している風でもある。だけどここまで言ってそりゃあない。
「どういうことだよ」もったいぶるなよ、とリュウは付け加える。
それでもノジマは迷っていたが、やがて意を決したのか口を開いた。
「エミは、あの子は…兵器みたいなものじゃないか」
「兵器って…ノジマさんっ!」リュウは声のボリュームを間違えそうになったが、ノジマがすかさず口に人差し指を当て、静かにするように促してきた。
「…ノジマさん、そりゃねぇよ。エミのことを兵器だなんて…。そりゃあ、化け物みたいな芸当は出来るようだけど、でもエミは人間だぜ」
するとノジマさんは少し嬉しそうに口角を上げた。
「そうだ。エミは人間だ。俺達と何も変わらないな。だがエミを追っていた北の連中はきっとそうは思っていない。だからだ」そして眦を決して続けた。
「俺達が守らないといけない。名前をあげたんだ、その名前を守る責任がある。せめてエミが普通に生きられるように、今度こそ」
「…今度こそ?」
するとノジマは目をぱちくりとし、今度こそ…何でそんなこと、と半笑いを浮かべた。「…とにかくだ。深く詮索しないこと。あの子にはあの子の事情があるんだ」
「わ、分かったよ」リュウはノジマに気圧されて渋々承諾した。
「でもなんか、ノジマさん怖ぇよ」
「怖い?何が」
「何というか、勢いが」
「なんだそりゃ」そう言ってノジマは破顔した。その様子はいつもと変わらない気がした。




