3.西の邦の王―6
歪みが人の形になっていく。そう見えた。そして次の瞬間には、地面に正座するネネがそこにいた。彼女は崖から落ちる夢から覚めたように、その場で体をびくりと跳ねさせていた。
「怪我はない?」天子は直ぐ様ネネに声を掛けた。
彼女は何が起きたのか分からないのか、放心したように辺りを見渡している。無理もない。急に空間転移させられれば、免疫のない人間ならそうなるだろう。だから、そう見越して天子は静かに、ネネが落ち着くのを待った。
ネネは視線を泳がせた先で御輿がへしゃげているのを見つけ、息を飲んだ。そして天子の方を振り返り、その場で両手をついて頭を下げた。
「お助けいただきありがとうございます」
天子はそのうなじに向かって言葉を落とした。「気にしないで。身内を守るのは君主の仕事だから」
そうして光の塊の方を向いた。巨大な光の、奇形の巨人とも言うべきそれは、地面に落ちている御輿を見つめてじっとしている。そして、その焦点がどうなっているのかいまいち分からない目を天子らの方へ向けた。
カチカチと骨がかち合うような音が響き渡る。その異様な音に顔を上げたネネが、ネフィルを認めて悲鳴を上げた。「な─何ですか、あれはっ!」
「あ、ネネも見えるんだ?山根くん、見えてないのは君だけらしいね」
「天子様!、どうかお助けを!」
宮司が天子の背後で縮こまった。そのまま縋るように天子の半裾を掴んでくる。端から見れば恐怖で腰が抜け、子供に縋る情けない大人に見えただろう。
「さて」
天子は柔らかい子供の頬を吊り上げると、無邪気に微笑んでみせた。「調査に取り掛かろうか」
宮司の手を払って、数歩前に踏み出す。
そして右手を突き出した。手を握手するように開く。するとその空間がぐにゃりと曲がる。
瞬く間に、その手には短剣が握られていた。




