3.西の邦の王―4
御輿に揺られながら、天子は暖簾の向こうの景色を眺めた。きらきらとした緑色の光が見える。西の国の西都、京都を出て西に向かう道中。左隣ではネネがうたた寝をしていた。
「ねぇ、南の国って出雲の方だっけ?」天子は外に向かって声を掛けた。すると御輿の隣を歩いている宮司が答えた。
「イヅモ、というのが何かは分かりかねますが、確か西の方向です。ミナミノクニと言うのに西とは、随分可笑しい気もいたしますが」
確かに、あまり南の国という感じはしない。南国となれば沖縄だろうか。ただちょっと遠すぎる気もする。御輿で行くのも辛そうだ。
そんな、あり得ないことを心配してみながら天子は身体を崩して横になった。そのまま目を閉じる。すると身体から意識が遠退いていった。
「─何事か」
軽い衝撃を感じて身体に感覚が戻る。頭の裏がふかふかとした、暖かいものに包まれていた。柔らかいなぁ、と感慨深くなりながら目を開ける。するとネネが見下ろしていた。その光景に既視感を覚えつつ、思い至る。
ネネの膝枕か、これ。
天子は慌てて起き上がった。そして誠意を込めて頭を下げる。
「申し訳、ございませんでした」
そしてちらと盗み見る。するとネネが不貞腐れた様子でそっぽを向いた。「もう知りませんっ!」
遅かったか。今度から不用意に眠るのは止めておこう。天子がそう決意していると、外から宮司の声が飛んできた。
「な、何をなされているのですか!」
「い、いや、誤解だよ。事故だよ事故」天子は弁解を口にしたが、宮司には伝わらなかったらしい。
「何を仰られているのですが!?早くお逃げなさいませ!」
は?逃げる?
よく見ると外の景色の流れが止まっていた。
「何かあったの?」言いながら考える。例えば山賊に囲まれているとか、あるいは目の前で地盤沈下が起きたとか。
外から騒がしい声がしている。だけどこれは、御輿の担ぎ手の分だ。他は静かなもの。
その時、微かにパチパチと音がした。
「天子様、ネフィルでございます!」宮司が泡を食ったように言った。




